[No.14] 4デイズ(UNTHINKABLE) <84点>





キャッチコピー:『アメリカ史上最大の危機に直面!』

 すべてを善と悟り、すべてを悪と悟る人間を信ずるな。
 しかし、すべてに無関心な人間は、それ以上に信ずるな。

三文あらすじ:4日後に爆発する核爆弾をアメリカの3つの都市に仕掛けたとの犯行声明を録画したテープが、米国政府に届けられる。政府は、テロの犯人であるイスラム系アメリカ人、スティーブン・ヤンガー(マイケル・シーン)の拘束に成功するが、爆弾の設置場所を特定する手がかりが一切無いため、拷問のプロ”H”(サミュエル・L・ジャクソン)を招集する。FBIのヘレン・ブロディ捜査官(キャリー=アン・モス)が反対する中、”H”はヤンガーの拷問を続けるが、決定的な情報を得られないままタイムリミットは迫り、彼は遂に”想像を絶する(Unthinkable)”手段をとる・・・

※筆者は、基本的に事前のネタバレを嫌わないタイプのムービーウォッチャーである。ストーリーを知った上で観ると脚本のわびや演出のさびを体感できることもあるからだ。しかし、本作においては事前知識をあらすじ程度に抑えて鑑賞することをオススメする。そこで、まだ観ていない人へのアナウンス。

 以下、ネタバレあり。

 なんだか、映画のブログっぽくなってきた。

 
~*~*~*~

  
 これはスゴイ映画を観てしまった。拷問のプロ”H”は、俗に言う”ぶっ飛んだキャラ”として登場する。登場時から大物風を吹かせ、拷問のプロとして政府や軍の要人から一目置かれている。そして、拷問部屋に入るやいなや、放水による拷問(後から思えば、これは非常に甘っちょろい拷問だった。)を担当していた軍人をいきなりタコ殴りにし、自分に担当が移った途端に犯人の指を斧で切り落とす。その後は拷問のつるべ打ちだ。

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 これに対して、ヘレン・ブロディは遵法精神に溢れた有能な捜査官として描かれる。拷問によって自白を得ようとするHとは違い、彼女は尋問によって情報を得ようとする。このように、いわばHは”非常識”の象徴、ヘレンは”常識”の象徴として、より煎じ詰めれば前者は”悪”の、後者は”善”の象徴として描かれる。

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 ヘレンがHの拷問に向ける非難は、一般人の感覚に照らして至極まともだ。目の前で人間が指を切断され、電気ショックを幾度となく繰り返され、しかも、それが政府の権力で非合法に行われている様を目の当たりにしたら、誰だって激しい憤りを覚えるだろう。しかし、それは何の意味もない感情論にすぎない。現状、全米の3都市に核爆弾が設置されており、猶予は4日しかない上、唯一爆弾の場所を知る方法は犯人の自白を得ることなのである。では、一秒でも早く自白を得るにはどうするか。理性ではなく、本能に訴えかけるしかない。必然、手段は拷問しかない、ということになる。

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 本作はこの点でのHの合理性を極めて説得的に描き出す。例えば、中盤、憔悴した犯人はヘレンに対し涙ながらに真実を打ち明ける。本当は爆弾は偽物で自分は別れた妻と子供たちに戻ってきて欲しかっただけなんだ、と。そして、犯行声明の撮影場所をヘレンに伝える。なんだ、爆弾は無かったのか。ただの寂しがりのいたずらっ子にあんなに拷問して、どうするつもりだ米国政府!!そして、どうするつもりだサミュエル・L・ジャクソン!そもそも"L"って何なんだ!!

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 しかし、現場に向かったヘレンを待っていたのはブービートラップ。これによってショッピングモールの客53人が爆死する。逆上しナイフを向けるヘレンに、犯人がその本性をむき出しにする。「お前達が俺の愛する祖国と宗教を踏みにじったんだ!お前達は俺を野獣と言うだろうが、お前達は日々何人を殺しているか分かっているのか!!」 絶望するヘレン。観客もショック。犯人の涙はウソで、結局ヘレンや観客は最初から彼の掌で転がされていたのだ。反動で今度はこう思う。よっしゃ、あんな血も涙も無い奴には拷問あるのみだ!!

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 しかし、犯人は元米軍所属の軍人で、拷問されることを知ってあえて捕まった。当然、Hの拷問によっても口を割る気配はない。彼はHや政府の要人ら”抑圧者”の前に出て戦うことを選んだのだ。宗教を盲信するいわゆるクレイジーなタイプの悪役。損得に興味がなく、駆け引きが通用しない。つまり、バットマンを苦しめた最強のヴィラン、ジョーカーと同じタイプだ。これは手強い。

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 これ以降、今まではHのやり方を良く思っていなかった軍人らもHにお任せムード。犯人は多くの一般人を殺したのだから、拷問されて当然だ。しかも、まだ何千万人を殺傷する爆弾の設置場所も隠している。このような状況の中、ヘレン、そして観客は、遂に究極の選択を突きつけられる。いっこうに口を割らない犯人。タイムリミットは3時間を切った。ここでHは、タイトルにもなっている”想像を絶する”手段をとると宣言する。それは…

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 犯人の幼い子供である。Hが子供達を拷問部屋に入れ、犯人に外からその様子を見せる。さすがに結果として子供を拷問することはなかったのだが、観客はHがマジでやるかもしれないと焦ることだろう。ここはその前のくだりが上手く効いている。というのも、Hは、犯人の別れた妻を彼の目の前で殺しているのだ。この殺害シーンはいわば因果律を無視した形で行われるだけに、その衝撃は尋常ではない。元妻が連れて来られた時点では、ヘレンも観客もさすがに一般人である犯人の妻を拷問することはないだろう、と思っている。何より犯人と違い彼女は何ら悪いことはしていないのだから、犯人を脅すための道具にすぎないんだろう、と。しかし、Hは容赦なく彼女の首を切り裂く。激高するヘレン。観客も同様だ。彼女は何にもしてないじゃないか!

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 しかし、Hは、このような一般人の甘い考えを一喝する。

 「これは戦争だ!お前達は自分が関係ないとでも思っているのか!?」

 アメリカが犯人の国を攻撃し、それによって犯人はアメリカに核爆弾を仕掛けた。Hは犯人を拷問し、犯人はモールの人々を爆弾で殺す。これは戦争だ。少数を犠牲にしなければ、何千万人が死ぬ。我々はそんな状況全体に思いを致さず、目の前で行われる行為を“非人道的”だと即断し、その意味と役割を深く考えもせず非難していたのである。そんなことだから、その非難は状況に応じてコロコロ変わる。拷問はダメだと言いながら、犯人がモールを爆破すれば拷問だと言う。要するに、問題を突きつけられてから考え始めているのである。状況ははじめから何も変わってはいない。犯人が今更モールを爆破しようがすまいが、核爆弾を止めるには彼を拷問するしか方法が無いのだ。Hは最初から冷静に全体の状況を把握し、たんたんと自分の仕事をこなしている。

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 もっと言えば、手を汚しているのは我々ではない。Hだ。安穏たる鑑賞者としての我々は、この点にも気付かない。極めて巧妙な本作は、ヘレンや観客が、拷問はHがやっていることで自分たちは関係ない、とどこかで思うようにできている。拷問のプロという肩書き、その横柄な態度、特に欧米では彼が黒人であるということも多少なり影響するだろう。しかし、これは自分たちの問題だ。薄っぺらな正義感とからっぽのモラル。こういった我々の”常識”は、Hの合理的な叱責によってことごとく引き剥がされていく。何が”善”で何が”悪”なのか。

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 そして、犯人の子供が連れてこられるのである。もはや我々は妻のときのように悠長に構えてはいない。Hが何をしでかすか分からない奴だと痛感している。加えて、この映画の作り手側が子供達ですら殺すというシナリオを用意しかねない連中だということも分かっている。よくできた映画だ。本当に先が読めない展開というのは、こういうことを言うのだろう。先ほどHによってハッとさせられたヘレンらも、子供の登場で再び“モラル”を取り戻し、Hを止めようと苦心する。しかし、今までとは違い、観客はヘレンを離れ思考する。本当に子供を守るべきなのか。もはや我々は今までのヘレンのような思考を止めた”常識人”ではなく、究極の難問を与えられた”哲学者”として、あるいは善悪を決める”裁定者”として、そして、答えのない問いに戸惑う”迷える子羊”として、彼らが導き出す答えを見守ることになる。

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 子供を助けるため3か所の位置を教える犯人。しかし、Hは、爆弾は4つあるはずだと言い放つ。再び子供を連れてこいという政府高官。Hは、お前が決めろとヘレンに詰め寄る。パニック状態のヘレンは、叫ぶ。それは、通常の感覚を持つ万人にとって、あまりにも当然の答え。しかし、決して口にしてはならない、禁断の決答だ。

 「私たちは人間よ!爆弾なんて爆発してしまえばいい!!」

 このヘレンの絶叫をどう考えるか。筆者には、気の利いた回答が到底浮かばない。何千万人もの命と2人の子供の命の天秤。もし実際、その現場にいたのなら、筆者は正直、子供を犠牲にするだろうと思う。しかし、果たしてその自分の決断に自信を持ち責任を負えるのか。生きていく上で一番大切なことは、しっかり考え行動し、自分の決断に自信と責任を持つことだ、というのが筆者の持論である。本作が伝えようとしているのも、自分の国がしていることやテロの問題等を”Unthinkable”なこととして放置し、自分には関係のないことと傍観する市井の人々、いわば、悪い意味での”常識人”たちへの非難のメッセージだろう。

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 本作を既に鑑賞した人はどう考えただろうか。自らのまとまった考えを明示しない筆者はこの場で発言する者として十分に無責任だが、ヘレンの言い放った答えを無責任だと断じることは、容易ではないはずである。

点数:84/100点
 このように、本作はいわゆる”究極の選択”を提起するまでの過程を描いている。しかし、本作が素晴らしいのは、単なる問題提起に終始するのではなく、一級のサスペンス映画に仕上げている、という点である。小難しいことは考えなくても、スピーディな演出、行き詰まる展開、そしてサミュエル・L・ジャクソンの好演に十分満足することができる。筆者は政治のことはよく分からないので無視したが、アメリカとイスラム原理主義者というテーマが主軸になっており、その辺を楽しむこともできるだろう。相変わらず"L"はいい映画に出演する。

(鑑賞日[初]:2012.1.22)

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