[No.175] 遊星からの物体X(The Thing) <92点>

The Thing



キャッチコピー:『南極大陸の氷の下から宇宙最大の恐怖が蘇える!』

 地球を、なめるなよ…!

三文あらすじ:南極、アメリカ観測隊第4基地にノルウェー隊のヘリが1匹の犬を追って現れる。執拗な乱射を続けるノルウェー隊員は、アメリカ隊隊長ギャリー(ドナルド・モファット)に射殺され、犬は基地に保護される。その夜、オリに入れられた犬は、奇怪な“物体(The Thing)”へと変貌、人間に擬態したそれは、ヘリ操縦士R・J・マクレディ(カート・ラッセル)を始めとした基地の隊員たちに牙をむく・・・


~*~*~*~

 
 1982年公開のアメリカン・SFホラー。ジョン・W・キャンベルの小説『影が行く』の映画化であり、1951年の作品『遊星よりの物体X』のリメイクでもある。

thingtitle.jpg


 監督は、ジョン・カーペンター。『ハロウィン』、『ザ・フォッグ』などのホラー作品を手がけ、『ニューヨーク1997』、『エスケープ・フロム L.A.』では、本作の主演カート・ラッセルとタッグを組む名監督である。

 音楽は、エン二オ・モリコーネ。『夕陽のガンマン』、『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・アメリカ』、『アンタッチャブル』などいぶし銀な男たちのドラマを数多く彩ってきた彼の楽曲は、本作にもバッチリとマッチしている。

 本作を鑑賞し、漢たちが熱く語り合うとき、必ず話題の中心となるのが、圧倒的なSFXである。これを担当するのが、ロブ・ボッティン。『ザ・フォッグ』でジョン・カーペンターとタッグを組み、その後本作を経て『ロボコップ』や『トータル・リコール』などの革新的なSFXを数多く担当する巨匠。当ブログで以前紹介した“半魚人強姦譚”『モンスター・パニック』を担当したのも他ならぬ彼である。

 そんな今となっては豪華なスタッフで綴られる本作は、未だに“侵略SFホラー”の頂点に君臨し続けている。まず素晴らしいのは、やはり何と言っても“物体”の造形だろう。非常に月並みな感想になってしまうが、CG全盛の今見ても全く見劣りしない圧倒的なグロさ、リアルさ、不気味さ。むしろ、どこかに必ずある種の“軽さ”が出てしまうCGクリーチャーよりも“恐さ”という点で勝っているように思える。

 では、本作の素晴らしいクリーチャーたちを少しだけ紹介する。まず、始めに登場するクリーチャー。いわゆる“スパイダー・ドッグ”である。

thingspiderdog_20160818011855359.jpg


 これはスゴイ!本作は、モンスターをちょこちょこ小出しにすることで恐怖心を煽るなどといったちょこざいな手法は使わない。このスパイダー・ドッグも序盤でいきなり、そして一気に登場する。個人差があるだろうが、筆者はこの演出が好きだ。

 次に、人類で初めて“物体”となったベニングス

thingbenings_20160818011850225.jpg


 腕だけが“物体”化したところで焼き殺されるのだが、それでもインパクト大。この世のものとは思えぬ咆吼が最高に恐い。

 そして、初鑑賞時、筆者が最も衝撃と感銘を受けたクリーチャー。未だに多くのファンを魅了するノリス・モンスターである。これはびびった。おそらく筆者の短い映画人生の中でも1、2を争うくらいビックリしたのが、ノリス・モンスター登場シーンである。

thingnoris1.jpg


 コレね。見せ方が上手い。主人公マクレディが実は既に“物体”と化しているのではないか、というサスペンスフルな展開の中、医師が心停止したノリスに電気ショックを施す。観客は、この次の展開がどうなるかとハラハラドキドキしているのだが、それはあくまでもマクレディが“物体”なのか?それとも他のメンバーがこの隙に暴れ出すのか?というベクトルに向けられており、まさか心停止状態のノリスが“物体”の本性を露わにするとは夢にも思っていないだろう。いや、もちろんノリスにも“物体”化の兆候はあったのだけれど、まさかあのタイミングで“物体”化するとは思わない。しかも、CG全盛の昨今ならいざ知らず、当時の技術で突然人体の腹が大きな口になるとは。劇場で鑑賞した人々は痛く驚愕したはずだ。

 ノリス・モンスターのステキなところは、1人で非常に多彩な変身を見せてくれるところにもある。

thingnoris2.jpg


 腹から伸びた巨大“物体”。これに皆が気を取られている隙に、千切れた首が動き出す。

thingnoris3.jpg


 そして…

thingnoris4.jpg


 こうなる。いわゆる“スパイダー・ヘッド”というクリーチャー。でも、個人的にスゴイと思うのは、このスパイダー・ヘッドが処置室から脱走する寸前で発見され、そのまま焼き殺されてしまうという点である。普通こういう“ちょこまか系”のクリーチャーは、すぐに姿を消し、どこにいるのか?いつ出てくるのか?という緊迫感の引っ張りに使われるのが常だ。そういう、例えば『エイリアン』的演出というのは、実際に同作のヒットによって企画にGOサインが出た本作でも用いられてしかるべきなのだが、恐怖演出をパクり的な手法に頼らないところに、本作の堂々たる貫禄を感じる。

 他にもオドロオドロしいパーマー・モンスターとか、プリクエルとのリンクがうれしい双頭のクリーチャーとか色々いるのだが、今回は割愛する。是非自分の目でその完成度を、勇ましさを、陰湿さを確認してみてもらいたい。

thingheadsplittwinhead.jpg


 さて、本作が何十年も経った今でもカルト的な人気を博している理由の1つに、本作には様々に解釈出来る描写がある、という点が挙げられる。雪上車は誰が壊したのか、血液金庫室の鍵は誰がどうやって奪ったのか、フュークスの死の真相は、パーマーは何故ノリスの頭部を皆に発見させたのか、などなど何度も観てあれこれ解釈し、がやがやと語り合いたい要素が沢山詰まっている。

 中でも最も物議を醸すのが、本作のラスト。すなわち、マクレディとチャイルズは“物体”なのか否か、である。

thingmacchilds_2016081801185372c.jpg


 この点が盛り上がったのは、2人が酒を飲み交わすラストシーンで、チャイルズの息が白くなっていないからであった。筆者も今回の鑑賞に際して、細心の注意を払い観てみたのだが、確かに喋る度に真っ白になるマクレディの息に対して、チャイルズの息は一向に見えてこない。息が白くならない=チャイルズは既に“物体”である、という公式が成り立ちそうだ。さらに、チャイルズには、クライマックス時のアリバイが無く、その隙に“物体”化していた可能性は充分あるのである。

 が、しかし!筆者は今回見てしまった。チャイルズの息は白くなっている。1シーンだけだが、ちゃんと白くなっているのである。うれしいような残念なような…。まぁ実は、この議論については、確か監督自身が“光の具合で白くなく見えているだけ”と発言しており、一応の決着は付いていたのだった。というか、そもそも物体化したベニングスの息は普通に白くなっていたしな。

 ところが、そうなると今度は、マクレディが“物体”なのではないか、という疑問が浮上してくる。カルトなファンは議論好きだ。この説の根拠は、“物体”は一滴の体液でも感染可能、というフリ。にもかかわらず、マクレディは、冒頭から愛飲していたJ&Bのスコッチウィスキーのビンをどこからか見つけ出し、ラストシーンで飲んでいる。そして、それを渡されたチャイルズがグビッと一口飲んだところで“ベンベン…ベンベン…”と不気味なテーマ音楽が流れ始め、当のマクレディは何やらうっすら笑っているのである。状況証拠だけなら完全に黒!

 まぁ、しかし決定的な証拠があるわけではなく、以上の演出も映画史上屈指の男気溢れるバッドエンドを彩る趣向に過ぎないと考えることは充分可能。謎は依然として雪原に埋まったままである。

thinglast_20160818011851d97.jpg


 筆者が、個人的なエモーションの部分で最も感動するのが、このバッドエンドである。感染していようがそうでなかろうが、基地を爆破したマクレディらはどうせそのうち死んでしまう。つまり、本作のクライマックス・バトルは、登場人物の個人的生存のためのものではなく、人類vs物体の意地と意地、プライドとプライドのぶつかり合い。「どうせ死ぬなら道連れだ。」というマクレディのセリフが最高にカッコイイ。まさに、サイヤ人と戦うピッコロの心境であろう。だからこそ、登場人物が全員死んでしまうという本作のラストは、不思議と“バッド感”が無い。カルトな屁理屈をこねず、目を皿にして重箱の隅をつつかない限り、彼らは“物体”に勝ったのであり、それは紛れもない“ハッピーエンド”だからである。筆者は、ある意味で、本作以上に男気溢れたバッドエンドを他に知らない。

点数:92/100点
 本作の“売り”の1つである“登場人物たちの疑心暗鬼”について何も触れなかったが、個人的にそんなことはどうでもいいと思っている。本作は、マクレディを始めとする南極観測隊員の男気を、極寒の地にあってなお冷めることを知らぬその熱い魂を心ゆくまで堪能する傑作なのである。

(鑑賞日:2012.11.2)

遊星からの物体X [DVD]

新品価格
¥1,000から
(2013/3/29 19:51時点)


遊星からの物体X [Blu-ray]

新品価格
¥1,373から
(2013/3/29 19:52時点)


遊星よりの物体X [DVD]

新品価格
¥2,986から
(2013/3/29 19:52時点)


ジョン・カーペンター DVDコレクターズBOX

新品価格
¥15,159から
(2013/6/27 16:51時点)


関連記事
スポンサーサイト

Comment

  • Joker
  • URL

記事を面白く読ませていただきました。マクレディと黒人のチャイルズがその後どうなったかは非常に気になる所です。
もっとも、その答えが最近わかりましたけれど。
実は、この作品の続編がゲームで出ていまして、日本ならプレステ2でコナミだったかな?これが映画の公式な続編のストーリーという見解だそうで、軽くネタバレしてしまうと映画中の(ウィンドウズの)sos信号を救援隊(主人公であるプレイヤーはその中の一人)がキャッチして救助しにくるのですが、次から次へと仲間が化け物になって襲いかかってくる。そんな中、凍死した黒人を見つける。しかし、傍らにはマクレディはいない。疑心暗鬼の中、ついに追いつめ巨大化したラスボスを爆破させようとヘリに乗る主人公しかし、操縦しながらでは上手く攻撃できない。どうすればいいか悩んでいる時に颯爽と現れる映画の主人公であるマクレディ。彼の協力を得てなんとか物体xを倒す事に成功する。これで、物語が終わり、めでたしめでたしとなるのですが・・・
ちょっと待て。そもそも映画で片っ端から燃やし尽くして爆殺したはずの物体xが何故、救援隊に同化できたのか。いや、それ以前に黒人と共に凍死するはずのマクレディが何故、彼だけピンピンしているのか。彼は本当に人間なのだろうか、あるいは・・・という感じである種のもやもや感を残して終わるあたり、映画の雰囲気を残しているとは思います。

  • Mr. Alan Smithee
  • URL
Re: タイトルなし

そうだったんですか・・・!

確かに、チャイルズが凍死したのにマクレディだけ生きているというのは、こちらの疑心暗鬼を誘います。
主人公はその他のキャラクターよりも謎に頑丈だ、というホラー作品のお決まりのようにもとれますが、そんな理屈無き定石を想像の種に変換する本作のプロットや設定は、やはり本当に秀逸ですね。

情報ありがとうございます!
すっきりしました!

  • イーマ
  • URL

楽しく読ませていただきました。
物体Xのラストは様々な考察がありますが、私もマクレディたちが勝った説を推したいですね。

大昔に何かで読んだ記憶があるんですが、冒頭のチェスのシーンがラストの伏線だって言う説がありますね。
マクレディは自滅しても負けないって事らしいです。
(チェスに負ける位ならPCぶっ壊す→物体に負ける位なら全部燃やし尽くして死ぬ)

  • Mr. Alan Smithee
  • URL
Re: タイトルなし

極めておもしろい説です。
というか、非常に論理的な解釈と言うべきでしょう。
ありがとうございます。
仰る通り、冒頭のチェスシーンが、
マクレディの勝利を示唆していたのですね。
ご指摘により、本作の完成度の高さを
改めて思い知りました。

Leave a Reply





管理者にだけ表示を許可する

Trackback