[No.176] 遊星からの物体X ファーストコンタクト(The Thing) <75点>

The Thing 2011



キャッチコピー:『それは、すでに我々の中にいる・・・』

 またはノルウェー隊は如何にして観測するのをやめてハスキー犬を追うようになったか。

三文あらすじ:1982年、南極、アメリカ隊の惨劇から遡ること3日前、ノルウェー隊の基地で10万年前に墜落した巨大な宇宙船が発見される。古生物学者のケイト・ロイド(メアリー・エリザベス・ウィンステッド)を含めたアメリカ・ノルウェー混成チームは、氷下から凍結された“物体(The Thing)”を発掘、基地に保管する。しかし、その夜目覚めたそれは捕食した人間に擬態し、基地内のメンバーを次々に襲い始める・・・


~*~*~*~

 
 30年の時を経て、遂に語られる空白の3日前。本作は、侵略SFホラーの金字塔『遊星からの物体X』のいわゆる前日譚(プリクエル)である。

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 1本の映画として観るとき、本作は、非常に良くまとまったSFホラーの佳作と位置づけることが出来るだろう。もちろん、前作ほどの衝撃はない(むしろ、我々はそれを期待してすらいない)のだが、前作とほぼ同様のプロットを採用し、その良さを壊すことなく忠実に“再現”出来ていると言っていい。

 本作において我々“『物体』ファン”がもっとも楽しみにしていたのは、前作とのリンクである。前作において、アメリカ隊がノルウェー隊と接する場面は大きく2箇所。冒頭、ヘリでハスキー犬を追う隊員2名と遭遇するシーン、そして、マクレディらがノルウェー隊の基地に赴くシーンである。

 まず、前者については、本作のラストでしっかりその繋がりが明らかになる。まぁ、あの描き方では、事件後帰還した隊員が、何故疑問無くスムーズにハスキー犬狩りを遂行していたのかという点に若干の疑問が残るものの、充分に納得だし、何よりテンションが上がる趣向だ。

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 前作と最も大きくリンクするのは、やはり後者、ノルウェー隊の基地に関するシーンである。というか、本作は、全編ノルウェー隊の基地で展開されるのだから当然と言えば当然だ。前作でノルウェー隊の基地に赴いたマクレディが目撃するポイントは、概ね、壁に刺さった斧、カミソリで首を切り自殺した隊員の死体、“物体”を保管していた氷の棺、そして、屋外で焼却されていた双頭のクリーチャーの死骸である。本作では、全てが全てファンの期待通りとはいかなくても、まぁ概ねその全てが綺麗に説明されており、比較的好印象。

 まず、壁に刺さった斧は、アメリカチームのヘリ操縦士サム・カーター(ジョエル・エドガートン)が、ちょこまか動くアーム・クリーチャーを殺す際に刺したものであると判明。抜こうとするカーターに対し、体液の付着を懸念して“触らないで”とケイトが忠告するあたり、中々のファンサービスである。彼女の一言があったから、マクレディ来訪時、斧は壁に刺さったままだったというわけだ。

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 次に、カミソリ自殺を図った死体。これに関しては、正直きちんと語られたとは言い難い。名も無き隊員(ちゃんと名はあるが、本作の登場人物は個性が希薄で覚えにくい。エドバルド隊長、だったかな。)が既にカミソリ自殺を遂げた姿を描くのみで、彼の最期の瞬間は結局分からずじまいであった。

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 そして、氷の棺。これはまぁそもそも“何故そんな状況になったのか”という類のものではない。そこには“物体”が入っているということは、前作から分かっていた。とはいえ、まさか“物体”自身があんなに勢いよく氷を突き破り、おまけに屋根まで突き破って脱走したという新事実は、中々の衝撃である。

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 最後に、双頭のクリーチャー。2つの顔が融合した状態のこのクリーチャーは、前作を象徴する“物体”としてかなり印象的。前作のみの情報から推測するなら、姿を現した“物体”は頭部が2つに分裂、しかし、その途中で仕留められ、屋外で焼却処分された、となりそうだ。ところが、この合理的な推測が、全くの当て外れだったということが、本作で明らかになる。

 実際には、サンダー・ハルヴォーソン博士(ウルリク・トムセン)の助手アダム・フィンチ(エリック・クリスチャン・オルセン)が既に他の隊員に寄生した“物体”に襲われ、その隊員の顔とアダムの顔がくっつく途中だったという展開だった。これは個人的に小さな衝撃。てっきり分裂途中だとばかり思っていたが、あの造形は確かに融合途中の方がしっくり来る気もする。

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 さらに、てっきり隊員たちによって屋外焼却されたものとばかり思っていたこのクリーチャーは、実は、屋内で燃やされた後、暴れ回って自ら外に飛び出した、ということも明らかに。なるほど、確かに火炎放射以外の方法で“物体”を行動不能にした例が無い以上、この展開の方がより自然である。

 このように、細かな作り込みで往年のファンを満足させる本作であるが、腑に落ちない点もいくつか。その最たるものが、無機物には擬態できないという“物体”の特性である。

 前作では、人間に紛れた“物体”を判別するため、マクレディ考案の“血液に熱を加える”という方法が用いられた。電熱線が血液に触れる瞬間までの“ため”にドキドキし、いざ飛び出したときにはビジュアル的にも恐ろしいこの方法は、演出上も大成功だったと言っていい。

 一方の本作では、ケイトがバスルームに落ちていた“銀歯”を発見し、そのことから“物体”の上記特性を推測、新たに“全員の口の中を調べる”という画期的な方法が実行される。この方法は、その人が“白”かどうかが分かるだけで、その人が“黒”かは分からないという若干非効率的なものなのだが、まぁこれはこれで恐くはある。“物体”かもしれない人物のすぐ近くまで接近するのだし、口を開いた人物がそのままバキバキと“物体”に変貌するビジュアルは、想像に難くない。

 しかし、この特性が、若干の矛盾を生む。つまり、じゃあ一体今までの“物体”たちは隊員の衣服をどうしていたのか、という疑問だ。前作本作を通して観ても“物体”たちには高度なアサシネーション技術がある訳ではない。彼らは、凶暴に人間を襲い、その四肢を、肉体をむちゃくちゃにして食べてしまう。ならば当然人間が着ていた衣服も破けたり汚れたりする道理。誰にも気付かれぬ内にこっそり乗っ取られていた者たちは、どうやって衣服を再生したのだろう。南極観測隊の衣服は全て有機素材で出来ている、となっては、いくらなんでもSFが過ぎる。

 最後に、その他の不満点を2点ほど。まず、先述した双頭のクリーチャー。このビジュアルがいまいち。2つの顔が半ばくっついた顔面のデザインは秀逸なのだが、いざ本作で動き回る彼は、あたかも『サイレント・ヒル』に出てくるクリーチャーのようだ。クリーチャーのオリジナリティが売りの本シリーズだけに、少し残念。

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 また、前作でマクレディがノルウェー隊の基地から持ち帰ったビデオに関しても若干の不満が残る。ダイナマイトを使って巨大宇宙船を掘り起こすという重要なシーンが収録されたそのビデオは、マクレディらがUFOを発見する切っ掛けになった重要なアイテム。それだけに、本作でその撮影風景が描かれるのか、と期待は膨らむ。しかし、本作には、そのようなシーンが一切出てこない。これは残念。それどころか、本作を観る限り、UFOは自ら氷の天井を破壊したのであり、これでは前作を無視したダメ脚本と言わざるを得ない。

点数:75/100点
 いくつか疑問、不満点もあるものの、個人的には非常に満足の秀逸なプリクエル。主人公ケイトを生かしたラストを前作の哀愁漂うラストと比較し非難する声もあるようだが、そもそも女性隊員を参加させた時点で、本作は前作のような男気溢れる物語ではなく、そうである以上、筆者は別に何らダメなラストだとは思わない。まぁ、マクレディたちの男気や覚悟に泥を塗ったような気は確かにするが。

(鑑賞日[初]:2012.11.2)

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