[No.184] TEMPBOT <65点>

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キャッチコピー:unknown

 鉄のこの手で、あなたに触れる。
 鉄の心では、あなたに届かないから。

三文あらすじ:ある会社に導入された新型事務用ロボット“TEMPBOT”。他の社員から孤立した孤独な日々の中、彼は淡々と業務をこなす。そんなとき、新しくやってきた女性社員に、彼は恋をしてしまう・・・

<本編(14分55秒)>



~*~*~*~

 
 愛しく切ない近未来ショートフィルム。監督は、ニール・ブロムカンプ。瞬く間に批評家からの高評価を受け、第82回アカデミー賞において作品賞を含む4部門にノミネートされた傑作SF作品『第9地区』の監督である。他ならぬ筆者自身も、同作公開時たった独りで劇場に足を運び、その圧倒的な完成度に深く唸らされた1人である。そんな訳で、同作については、また機会を見て感想を書きたいと思う。

 本作でブロムカンプが扱うのは“ロボット”というSFギミックではあるが“人ならざる者の孤独を描く”という点では『第9地区』と通じている。

 まず、ぱっと見で注目に値するのは、ロボットのデザイン。どこかで見たことがあると思っていたら、押井守の傑作ロボット・ポリス・アクション『機動警察パトレイバー』だと気付いた。特に、劇場版第1作に登場した純警察用試作レイバー“零式(れいしき)”に酷似している。

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 これが零式。“零”を“ゼロ”ではなく“れい”と読ませるところが、エヴァンゲリオン世代には新鮮でカッコイイ。ともかく、ここまで似ていては、もはや言い逃れの余地はないだろう。ブロムカンプは、まず間違いなくジャパニーズ・アニメ・オタクである。きっと『GHOST IN THE SHELL』も大スキに違いない。

 さて。とはいえ、ブロムカンプが本作で描くのは、何もTEMPBOTの手に汗握るアクションではない。もっとも、そういう動画も撮っているようなので気になる人はyoutubeで検索してみてもらいたい。

 本作で彼が描くのは“ロボットの恋”である。まぁ、これ自体は、やや月並みなテーマだ。つまるところ、『美女と野獣』とか『シザーハンズ』とそう相違するものではない。

 しかし、やっぱり彼は描き方が上手い。特に素晴らしいのは『第9地区』でも用いられていたややドキュメンタリー・タッチの手法。SF作品、殊に我々の日常生活にSF的ギミックが侵入するパターンの作品においては、リアルさが最も重要な要素となる。如何にして奇想天外なアイテムを我々の暮らす町に、仕事場に、リビングに、キッチンに忍び込ませるか、という点こそがこのジャンルのほとんど全てと言っても過言ではないだろう。

 そうなってきたときに、本作や『第9地区』のようなドキュメンタリー・タッチの描き方が抜群に生きてくる。これをいち早くSFに取り入れたのが、モンスター・パニック作品『クローバー・フィールド』であり、同作を鑑賞された方ならその効果の程はもはや説明不要であろう。本作においても、やや安っぽい“ありふれた”会社風景とその中で活動するTEMPBOTのシーンが違和感なく実にマッチしている。

 また、本作は、脚本面もきちんと設計されている。鳴り物入りで導入されたものの古株社員からは相手にされないロボット。まぁこれは当然である。孤独の中、健気に働いていると、ある日隣に住むおばさんから思わぬお誘いを受ける。この“ロボットにもちゃんと部屋が割り当てられている”というのもおもしろいアイデア。戸惑いつつもおばさんから初めて優しくされ、彼はこう思っただろう。これが人間の愛情表現か。不幸な勘違いである。おばさんは、孤独の中で愛情が倒錯した昼下がりの団地妻。頭に“淫乱”を付けることもやぶさかではない。初めてまともに人間と接する機会が、そんなおばさんだったということが、彼の不幸である。

 そして、TEMPBOTの相手役。おそらく人事部長として赴任してきた女性社員のキャラクターもきめ細やかに設定されている。彼女は人間であるが、よそ者という点ではTEMPBOTと同じ。古株社員からは人望どころか、ほぼ無視に近い状態で溶け込めずにいる。そんな彼女がTEMPBOTに優しくするのも、また当然の感情。しかし、その“好意”は、TEMPBOTの求めるそれではなく、単なる“興味”に留まるものである。『Air/まごころを、君に』でも言われていた通り、この点のはき違えというのは、日々世界各地で発生している。だから、TEMPBOTは彼女のおっぱいを触る。彼の知る唯一の愛情表現だから。当然の行いである。思いがけない拒絶。これも当然。誰を責めることも出来ない。

 ラスト、所詮は生きる世界が違うとばかりに、同型ロボットだけが働く仕事場に移されているTEMPBOT。呪うなら、決して分かり合えないという“命ある者の性”、あるいは、絶望の原動力たる“孤独”しかない。

点数:65/100点
 なんだか切ない。明日が友人の結婚式というのもなんだか切ない。そのせいで『新劇場版:Q』を初日に鑑賞出来ないという現状は、もっと切ない。

(鑑賞日[初]:2012.11.16)

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