[No.188] 007 スカイフォール(Skyfall) <90点>





キャッチコピー:『007シリーズ 50周年記念 シリーズ第23作 史上最高の007映画がやってくる!』

 酒はマティーニ、仕事は殺し、銃はワルサー、生き様はスパイ。
 彼の名は、“ジェームズ・ボンド”。

三文あらすじ:殺しのライセンスを持つ英国諜報部MI6の“00(ダブル・オー)エージェント”ジェームズ・ボンド(ダニエル・クレイグ)は、テロ組織に潜入するNATO職員の名簿を奪った犯人との格闘の最中、判断を焦ったMI6長官M(ジュディ・デンチ)の指示により諜報部員イヴ(ナオミ・ハリス)が放った銃弾に倒れる。ボンドが長期休養を余儀なくされる中、Mへの復讐を企てるサイバーテロリスト、ラウル・シルヴァ(ハビエル・バルデム)があろことかMI6本部をハッキングの上爆破するという事件が発生。祖国、そして、Mの危機に再び立ち上がった“007(ダブル・オー・セブン)”は、シルヴァお抱えの娼婦セヴリン(ベレニス・マーロウ)の導きにより、遂に最強の敵と対峙する・・・

<本作の主題歌“Skyfall”>



~*~*~*~

 
 007シリーズ通算23作目にして、クレイグ版ボンドとしては3作目にあたる本作『スカイフォール』。007史上最高のオープニング成績で登場し、ジェイソン・ボーンの記録もぶち抜いた本作は、まさに“シークレット・エージェント此処に在り”といった堂々たる貫禄を世界に見せつけた。

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 監督は、サム・メンデス。初監督作『アメリカン・ビューティー』で彗星のごとくアカデミー賞をかっさらった天才。そして、『レボリューショナリー・ロード/燃え尽きるまで』では、自身の妻ケイト・ウィンスレットとレオナルド・ディカプリオを『タイタニック』以来共演させ、我が目の前で両者の濡れ場まで撮ってしまうという変態でもある。

 主演は、もちろんこの人、6代目ジェームズ・ボンド、ダニエル・クレイグ。若すぎる年齢であるとか、ボンド初の金髪とかが敬遠され、就任処女作『カジノロワイヤル』ではファンの不鑑賞運動なども展開されたが、公開されるや否や絶賛の内に迎えられた新生00エージェントである。

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 彼の持ち味は、やはり“痛み”。いぶし銀なショーン・コネリー、スウィートなジョージ・レーゼンビー、華のあるロジャー・ムーア、セクシーなティモシー・ダルトン、ニヤケ親父ピアース・ブロスナン。数々の名優達がジェームズ・ボンドを演じてきたが、6代目を務めるダニエル・クレイグは、徹底的にリアリズム、すなわちボンドが受けるフィジカルな“痛み”、そしてメンタルな“痛み”を体現する。

 さて、そんな新生ボンドにとって3作目となる本作『スカイフォール』が描くのは、ずばり“ジェームズ・ボンドとは何か”という根源的なテーマである。つまり“007のアイデンティティー”こそが本作のテーマであり、それは筆者がシリーズ最高の名作と信じて疑わない『ルパン三世 ルパンvs複製人間』と全く共通するものである。同作は、ルパン三世劇場版第1作として“ルパンのアイデンティティー”に迫ったわけであるが、本作も実質的には新生ボンド第1作。というのも、『カジノロワイヤル』はボンドが如何にして00エージェントになったかを描いたし、シリーズ初の“続編”として語られた『慰めの報酬』はその延長線上にあった。したがって、本作は新生ボンドがいよいよ我々のよく知る“007”として銀幕に登場する初めての作品と言っていい。だからこそ、制作陣が本作で描いたテーマは、説得的で正統派、真っ直ぐで好感が持てるものである。

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 本作は、そんな“ボンドのアイデンティティー”を浮き彫りにするための仕掛けや語り口が非常にスマートで素晴らしい。

 まず、ボンドは、自身のアイデンティティーを喪失する。アヴァンタイトル、お決まりの冒頭アクションが、本作においては少し物足りない。閉鎖空間を出るとそこは異国の喧噪という趣向は前作同様で、かつ素晴らしいものであるが、その後のカーチェイスであったりバイクチェイスはどこか月並みでマンネリ。しかし、このパートは、ボンドのアイデンティティー喪失を演出するための布石に過ぎない。列車上でイヴに撃たれ、橋から川へと落下していくボンド。深手を負って3か月もの間スパイ業から離れることになるボンド。Mに冷たく切られ、少々ふて腐れるボンド。飲んだくれてただの“おっさん”に成り下がってしまうボンド。そんな彼は、もはや我々の知る“007”ではないし、何より“ジェームズ・ボンド”ではない。

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 しかし、逆に言えば、どん底へと叩き落とされたボンドが如何にして“復活”するか、お膳立ては万全。さらに、ボンドを叩き落とした直接の張本人イヴ。このキャラクターに関する事実が明らかになったとき、我々007ファンは喝采の拍手を以て絶頂に達するのである。

 本作において、ボンドのアイデンティティーを暴きだす上で極めて効果的な仕掛けが、“新旧の対比”である。

 古いタイプのスパイ“ジェームズ・ボンド”と対比される1人目の人物は、ベン・ウィショー演じる3代目Q。細身で色白、メガネで長髪。そんな現代の若者は、ペン型爆弾という007往年の名秘密兵器を“古い”と一蹴し、ボンドに掌紋認証システムのついたワルサーPPKと発信器のみを提供する。

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 ペン型爆弾だけではない。ボンドカーもアタッシュケースも、これまで007を支えてきた奇抜な秘密兵器の数々は、もはや時代遅れ。いつまでファンタジーしてんのよ、おっさん。と、若き兵器開発者は我々に問いかける。さらに彼は「ラップトップ1台あればスパイにも勝てる。」と言ってのけ、肉体派スパイ時代の終焉を高らかに宣言するのである。この“Q交代劇”は本当に天晴れの一言に尽きる。単にQの若返りを図る、というだけではファンの反発も多かっただろうが、“新旧の対比”という本作のテーマ設定により、若いQの登場が必然のものとして受け入れられる仕組みになっている。

 ボンドと対比されるもう1人の人物は、本作のヴィラン、ラウル・シルヴァである。演じるのはハビエル・バルデム。アカデミー賞受賞作品『ノーカントリー』において、空気圧で次々と殺人を繰り返す殺し屋を鮮烈に演じきり、見事アカデミー賞助演男優賞に輝いた怪優。

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 そんな彼が演じるシルヴァは、ボンドとは違う“新しいタイプ”の人間。ハイテク機器を使いこなし、パソコン1つであらゆる悪事を働く天才ハッカーである。その上で、彼は元MI6エージェントという肩書も併せ持つ。しかも、Mの判断によって切り捨てられた過去を持つというボンドとの共通性が存在する。すなわち、ラウル・シルヴァとジェームズ・ボンドという両キャラクターの対峙によって、ハイテク・エージェントvsアナログ・エージェントという対比に加え、同じようにMから裏切りを受け、その上でMに復讐を誓うシルヴァ“女王陛下の007”としてあくまでもMに忠誠を誓うボンドという対比が生まれるわけだ。これは本作のテーマを語る上で極めて端的かつ効果的である。

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 もっとも、このラウル・シルヴァというヴィランは、オリジナリティーという点が少し欠けていなくはない。すなわち、彼は映画史上屈指のヴィランである『バットマン』の“ジョーカー”、特にヒース・レジャー版のそれに多大な影響を受けているように見受けられるのだ。比較的雄弁にも関わらず何を考えているか分からない立ち居振る舞い、過去に負った傷による異形、わざと捕まり自身の計画を完成させるという知性、ひょうひょうとした“静”の空気から一瞬で“動”へと転じる暴力性。両者に共通点は多い。やはり“ジョーカー”は偉大なヴィランであり、『ダークナイト』は現在のヒット作の方向性を決定づけた希代の名作と言っていいだろう。

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 さて、このような状況の中で、ボンドは如何にしてアイデンティティーの回復、すなわち“復活(Resurrection)”を成し遂げるのか。

 ボンドのアイデンティティーを再確認する上での象徴的アイコンは、やはりボンドカー。シリーズ第3作『ゴールドフィンガー』から本格的に導入されたボンドのトレードマークだ。ガキンチョQの登場によって、本作ではMI6からの正式支給こそないものの、そこは“007”50周年記念作品ということで、中盤、Mを匿うための移動手段としてしっかり登場する。しかも、『ゴールドフィンガー』と全く同じアストンマーチンDB5!

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 やはりボンドカーと言えばアストンマーチンである。さらに、『ゴールドフィンガー』で登場した“助手席脱出”のギミック。シフトレバーに施されたその発動ボタンをボンドがMに見せるというシーンが登場する。往年のファンなら思わずクスリとしてしまう最高のオマージュだ。さらにさらに、アストンマーチン登場シーンではしっかり“ジェームズ・ボンドのテーマ”がかかるという最高の演出!酒に溺れても、上司に裏切られても、ハイテク野郎たちにバカにされても、ジェームズ・ボンドはジェームズ・ボンドであるという、魂のこもった趣向である。

 本作のクライマックスは、やはり宿敵シルヴァとの一騎打ち。ここの趣向も明確でストレートで、かつ魂を打ち震わせるものに仕上がっている。

 舞台は、ボンドの旧家“スカイフォール”。イギリスのシステムはよく分からないが、日本風に訳すなら“空落ち荘”といったところなのだろうか。ハイテク王シルヴァと対峙するため、ボンドは完全なる田舎、すなわち電子機器の力が及ばぬ自身のフィールドに彼をおびき出す。まさに肉体と肉体、スパイとスパイの一騎打ち。血湧き、肉躍る。

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 また、この舞台設定は、ボンドの幼少のトラウマの克服というアイデンティティー回復への良設定を提供する。そして、この“スカイフォール”を今まで守っていた番人でありボンドと旧知のおじさんキンケイド(アルバート・フィニー)。これがまた良いキャラ。言うなれば、極端なアナログ人間であり、ハイテクと戦うボンドを昔ながらの雰囲気でサポートする。彼が「銃が無くなれば、昔ながらの方法だ。」と言って持ち出したナイフは、ラストへの良い伏線である。

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 そして、シルヴァが攻めてくる。『地獄の黙示録』さながら、爆音で音楽を鳴らしながら戦闘ヘリで舞い降りるシルヴァに対して、ボンドらは僅かな銃器と爆薬を駆使したトラップで『ホームアローン』さながらに応戦。

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 ラストの舞台は教会。Mの贖罪、シルヴァの救済、そしてボンドの復活。あらゆる要素を象徴する最高のステージ。Mもろとも死のうとするシルヴァに、ボンドのナイフが深く静かに刺さる。おそらく人類史上最も長く使用されている戦闘武器が、ハイテク野郎の息の根を止めるのだ。

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 このアナログ感が007。そう、彼は正真正銘、サラリーマンのヒーロー“ジェームズ・ボンド”なのである。

 この戦闘でMは死亡する。『ゴールデンアイ』から7作に渡ってシリーズ初の女性長官を務めてきた名女優ジュディ・デンチをねぎらいたい。

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 新長官は、レイフ・ファインズ演じるギャレス・マロリー。彼が新Mに就任するという伏線も、ベタだがストレートで好感が持てる。

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 しかし、何と言ってもファンが興奮するのは、イヴの正体であろう。まぁこれも分かりやすい伏線だったといえばそうなのだが、きめ細やかなファンサービスには深く感服である。全てが終わり、屋上で風に吹かれるボンド。そこにイヴがやってくる。現場復帰を望んでいた彼女だが、自身の適性の無さ(あるいは、また別の適性)に気付き、事務方に回ることを決意。ふと、彼女の名前を訪ねるボンド。イヴの答えは・・・

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「イヴ・マニーペニーよ。」


 あっと驚き、刹那、自身の不覚を呪った。クレイグ・ボンドになってから未登場だったミス・マニーペニー。現場から事務方に降格し、ボンドにも現場の適性がないと指摘されていたエージェント・イヴ。そして、フェリックス・ライターを黒人俳優ジェフリー・ライトが演じたという新生ボンドの前例。素晴らしいファンサービス!彼女がマニーペニーなら、冒頭の失態も、中盤の髭剃りシーンも、若き日のボンドとのやり取りが全て最高にロマンティックで、しかし極めてアダルトなものとして、全シリーズに遡及される。

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 本当に天晴れである。マニーペニーとボンドとの“腐れ縁”を描くエピソード0として、おそらく本作以上のプロットはない。

 これまで3人(正統シリーズ外作品を含めば5人)の女優が演じてきたミス・マニーペニー(下記画像参照。)。ときにチャーミング、ときにセクシーに00エージェントを支えてきた彼女もまた、ボンドの“復活”と共に再起動する。ミス・マニーペニーとは、単に往年の007ファンに人気のあるキャラクター、というに留まらず、その長年の歴史の中で、既に“ボンドのアイデンティティー”の一部を担っていると言っても過言ではないのである。

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 “ジェームズ・ボンド”というキャラクターのみを掘り下げるのではなく、アストン・マーチンやM、そして、ミス・マニーペニーといった007の外縁をも完璧に補完し、高らかに新生ボンドの再出発を宣言した本作。俳優の一新を始めとして様々な新規性を取り入れながらも、その実、往年の007ファンであるほど深く唸ることができる本作が、興行収入だけでなく、その内容的にも“シリーズ最高傑作”と謳われていることに、筆者は何らの疑問も抱かない。

点数:90/100点
 前2作で“彼が如何にしてジェームズ・ボンドとなったか”を描き、本作で“ジェームズ・ボンドとは何か”を描く。新シリーズの意気込みは素晴らしい。これから鑑賞する人は、是非過去の、出来ればショーン・コネリーやロジャー・ムーア版の作品を観てから臨んでもらいたい。そうすれば、Mの部屋やそこに至るマニーペニーの部屋が登場したときの感動がひとしおになること請け合いである。

(劇場鑑賞日[初]:2012.12.2)
(劇場:ワーナーマイカルりんくう)

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おまえのいうとおり

  • アラン・スミシー
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Re:

ありがとうございます!
是非雇ってください!!

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