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27
2012

[No.19] 英国王のスピーチ(The King's Speech) <84点>

CATEGORYドラマ
Kings Speech



キャッチコピー:『英国史上、もっとも内気な王。』

 内気な王が挑むのは、史上最も孤独で最も勇敢な“戦争”。

三文あらすじ:幼い頃から吃音(きつおん)に悩んできた英国王ジョージ6世(コリン・ファース)。ジョージの妻エリザベス(ヘレナ・ボナム=カーター)は、スピーチ矯正の専門家ライオネル(ジェフリー・ラッシュ)のもとへ夫を連れていき、彼の話し方(The King's Speech)を直すよう依頼する。風変わりなライオネルに戸惑いながらもジョージが特訓に励む中、第二次世界大戦前夜のイギリスは、“王の演説”(The King's Speech)を必要としていた・・・

 
~*~*~*~

  
 映画には予告編がつきものだ。いつから予告編というものが作られ出したのかは分からないが、少なくとも1939年の映画『風と共に去りぬ』において、短い予告編が制作されている。
 そして、今では映画に欠かせない存在となった予告編。短いものは30秒程度、長いものでは4分程度で本編のあらすじを紹介し、その良さを伝える。もっとも、ときには誇大広告丸出しの予告編もあって、本編には無いシーンや本編には無い音楽を使用し、それを楽しみに本編を観た者をがっかりさせることになる。
 例えば、1998年の米映画『シティ・オブ・エンジェル』の予告編は、映像にマッチした非常にステキなBGMに魅せられた客が大勢映画館に足を運んだのだが、本編ではこの音楽が一切使われず、公開後問い合わせが殺到したらしい。他にも『ワルキューレ』の予告編には『SAW』のメインテーマが使用されていたし、『インデペンデンス・デイ』の予告編冒頭で宇宙船が登場する際には『スピード』のメインテーマの一部が効果音として使用されている。このように、違う映画の音楽を使用するというパターンは予告編制作においては日常茶飯事である。
 以上のようにして、どうしようもない駄作が素晴らしい予告編のおかげで一定の集客を得るという事態が時折発生する(『シティ・オブ・エンジェル』や『ID4』は駄作ではないが。)。まぁ、何本も映画を観ていると予告編に騙されることもしばしばで、そんなときは予告編製作者との騙し合いに負けた自分を少々恥じ、彼らに賛辞を送ることもできる。

 しかし、本作の予告編はこれとは少し事情が違う。
 本作は決して駄作ではない。それどころか、第83回アカデミー賞において作品賞主演男優賞(コリン・ファース)監督賞(トム・フーパー)脚本賞(デヴィッド・サイドラー)という主要5部門中実に4部門を受賞した、大変名誉ある作品である。
 実際の作品内容も大変素晴らしい。まず、ジョージ6世を演じるコリン・ファースの吃音の演技が素晴らしい。ジェフリー・ラッシュ演じる偏屈スピーチ矯正家ライオネルの飄々(ひょうひょう)として、それでいて奥深い演技も素晴らしい。ヘレナ・ボナム=カーター演じるエリザベスの軽快でときにエモーショナルな演技も素晴らしい。そして、第二次世界大戦前夜のイギリスを舞台に当時の風景や町並みを美しく描きながら、その中でこれらのステキな登場人物たちが、開戦スピーチに向けてステキな物語を織りなしていくのである。コメディ部分も品が良く本作にマッチしているし、前振りが効いているから最後のスピーチ部分も盛り上がる。本作は、本当に素晴らしい映画なのだ。

 が、しかし!本作では予告編が良く出来過ぎている。本作の予告編は、本来なら観なかったはずの駄作を観せられた、という意味ではなく、良くできた本編が、より素晴らしい予告編に見劣りしてしまうという点で観客の期待を裏切るものになっているのだ。
 
 本作の予告編は、まず主人公ジョージ6世の王族としての立ち位置を軽く説明する。その際、当時婚約で盛り上がっていたウィリアム王子の直系尊属という点を示すことで、イギリス王室にあまり詳しくない日本人も興味を引かれる。
 前半は、状況説明と雰囲気説明である。吃音に悩む内気な王ジョージ6世、それを真摯に心配しながらも独特の自立性を持つ妻エリザベス、風変わりなスピーチトレーナーライオネルというキャラを端的に紹介していき、彼らが愉快にトレーニングに励む様を示していく。

 そして、第二次世界大戦勃発という史実を提示したところから、感動感動、怒濤の後編に突入する。
 大戦前夜、国民は王の言葉を待っている、対するヒトラーは当時最強の指導者、そして、最高の話術を持っている。戦争がいいか悪いか、戦術や戦力で勝るかどうか、そんなことではなく、内気な自分に打ち勝ち、ヒトラーに打ち勝つスピーチができるか。物語はここに収束していく。たかがスピーチと言ってしまえばそれまでだが、ジョージ6世のスピーチ成功がこれから起こる大戦での戦局の象徴。実際に国民が戦争を行う前に、彼は”王”としての戦争に挑むのである。これは感動する。根底にあるのは、ベタな熱血根性ものの精神である。
 途中にプロペラ機のシーンを差し挟むのも上手い。このシーンは、本編においては後半の盛り上がりで出てくるものではなくて、熟女に入れ込むダメ兄貴エドワード8世が序盤にイキって乗ってきたときのものである。しかし、これを挿入することで、戦争が始まる!というストーリー上の躍動感と、レトロな時代感を表現することに成功している。なんだかんだで観客は“戦争”というアクション要素が好きだし、レトロな雰囲気は客の“引き”がいい。

 そして、なんと言っても、“王の椅子”を前にした2人のやり取り。このシーンは何度観ても泣いてしまう。

 「話を聞け!」
 「なぜあなたの話を?」

 「伝えるべきことがある!(Because, I HAVE A VOICE!)」

 「…その通り。(Yes,You Do.)」

 ここで今までの危機感を煽る音楽から、壮大で感動的な音楽に切り替わる。ベタな演出だが、バッチリきまっている。

 ”英国史上もっとも内気な王が、世紀のスピーチに挑む。”

 ナレーターの声も最高。
 ラスト、果たしてジョージ6世はスピーチを成功させることができるのか!?絶妙のタイミングで予告編終了。正直筆者は、公開前にこの予告編を観て号泣してしまった。これは何としても劇場に足を運ばなければ!!

 さて、本編であるが、先ほども述べた通り、本当に素晴らしい。
 しかし、あまりにも完成度の高い予告編に魅せられた観客はこう思うだろう。”なんか予告編と違ってダラダラ長いなぁ。”
 予告編は2分22秒、本編の尺は111分。本編には予告編では描かれないジョージ6世の家族の話、ジョージ6世が王位を継承するまでのいきさつ、ライオネルの家族の話、ライオネルとの特訓の詳細などがきちんと描かれる。当たり前だ。
 しかし、重要な部分は全て予告編に登場していて、その他の状況説明はどうしても全て冗長に感じてしまう。しかも、最も盛り上がる王の椅子を前にしたシーンや開戦スピーチに臨むシーンも、予告編より感動が分散されてしまっているし、そもそも予告編ほどは盛り上がらない。なんだ、がっかりだなぁと感じてしまうのは、まさに本末転倒だが、それだけ本作の予告編が良くできているということでもある。予告編という性質上もちろんラストでジョージ6世の開戦スピーチがどうなったのか、という部分は描かれず、大いに本編を期待することになるのだが、この部分も実際観てみると予想よりは盛り上がらない。

 このように、映画では素晴らしい本編をさらに上回る傑作予告編というものが、希に出現する。近年では、2008年公開、第81回アカデミー賞において作品賞を含む8部門を受賞した傑作『スラムドッグ$ミリオネア』がそうであった。
 そんなことがあるので、筆者はアカデミー賞でも「最優秀予告編部門」を作ればいいのにと常々思っている。予告編業界では毎年最優秀を選出する賞が一応あると聞いたことがあるが、予告編だって著作権法上は立派に映画の著作物なのだから、もっと権威ある賞を与えて制作のイニシアチブを与えるべきではないだろうか。まぁ予告編は、映画配給会社が作る場合と予告編制作会社に外注する場合があって、権利問題の関係から難しいのかもしれないが。
 ちなみに筆者は、勝手に”ヨコデミー賞”と称して毎年その年の最優秀予告編を心の中で決めているのだが、『英国王のスピーチ』は、もちろん2010年の最優秀予告編である。

点数:84/100点
 既に述べた通り、本作は非常に素晴らしい。しかし、それでも映画史に残る大傑作という感じではなく、すごく良くできたステキな映画だなぁ、といった感じ。もちろん、予告編の点数は、文句なしの100点満点だ。

(劇場鑑賞日:2011.3.1)
(劇場:TOHOシネマズ なんば)










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Tag:予告編最強説 劇場鑑賞作品

5 Comments

タムタム  

初めまして。

初めてこのブログに訪問させていただきました。
自分も、予告編フェチで、予告編賞というものがあったらいいのに、と強く思ってました。
おっしゃる通り、この『英国王のスピーチ』の予告編は傑作ですね!
実はこのナレーションの声が好きで、それを調べれている中でここにたどり着きました。ネットで調べてもなかなかナレーターさんの名前にたどり着きません。。本当に、誰なんでしょうか。。

2015/04/30 (Thu) 10:19 | EDIT | REPLY |   

Mr. Alan Smithee  

Re: 初めまして。

初めまして!
拙稿を読んでいただきありがとうございます!

『英国王のスピーチ』予告編のナレーターは確かに調べてもあまり出てこないですね。
俳優の遠藤憲一ではないか?との見解を見ましたが、実は筆者も漠然とそう思っていました。
遠藤さんではないのでしょうか?

ちなみに、筆者の中で印象的な遠藤憲一の予告編ナレーションは『マトリックス・リローデッド』です。
特に「そして、死ぬ意味は?」の部分がなんだか“無駄に”格好良くて、よく弟と真似していました。

2015/05/02 (Sat) 02:26 | EDIT | REPLY |   

タムタム  

ナレーター

あの後、ナレーターについて根気よく調べたら、相澤雅人さんという方だとわかりました!(「マスターカード」や「鹿島建設」などのCMもやられています)
しかも、彼はなんと予告編制作が本業で、「英国王のスピーチ」の制作をされた方でもあるとのことです!
それを知った時ちょっとびっくりしました、予告もナレーターも同じ人があんなに素晴らしいものを造ったなんて。

2015/05/03 (Sun) 15:38 | EDIT | REPLY |   

あ  

一緒だ

私もまったく同じことを思っていました
あの短い予告編に魅せられたのです
ナレーターが誰なのか検索していてここに辿り着きました笑

本編も確かに良い作品です
しかし如何せん長い
私は何度みても途中で寝てしまいました

ナレーターの名前がわかったことに感謝致します
タムタムさんありがとうございます

2015/05/28 (Thu) 06:43 | EDIT | REPLY |   

Mr. Alan Smithee  

Re: 一緒だ

ナレーターを探していてここに辿り着く人が2人もいるということは、まだまだ世間の予告編に対する興味が薄い証拠ですね。
タムタムさんのおかげで無事にナレーターも判明しましたし、大感謝です。
これからも予告編で魂を燃えたぎらせていきましょう。

2015/06/03 (Wed) 22:35 | EDIT | REPLY |   

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