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2013

[No.239] 羊たちの沈黙(The Silence of the Lambs) <93点>

CATEGORYサスペンス




キャッチコピー:『衝撃の超ベストセラー小説完全映画化』

 あらん限りの戦慄と畏怖を以て、黙せよ。

三文あらすじ:殺害した女性の生皮を剥ぐという残忍な連続猟奇殺人事件が発生。“バッファロー・ビル”と呼ばれる犯人(テッド・レヴィン)の手がかりを得るため、FBIの主任捜査官クロフォード(スコット・グレン)は、訓練生中トップの成績を誇るクラリス・スターリング(ジョディ・フォスター)に対し、殺害した自身の患者の肉を食べるという猟奇的な犯罪を犯したため州立精神病院に収監されているかつての天才精神科医ハンニバル・レクター博士(アンソニー・ホプキンス)との面会を命じる。クラリスから犯人像のプロファイリングを依頼されたレクターは、クラリスに“過去のトラウマを話す”という交換条件を提示する・・・


~*~*~*~

 
 もはや映画ファンならずとも知らぬ者のない希代の傑作サイコサスペンス『羊たちの沈黙』。世のあらゆるサスペンスファンを唸らせ、偏屈な批評家たちを沈黙させた本作は、サスペンス、その中でもエンターテイメントに重きを置いた“サイコサスペンス”というジャンルの作品で唯一アカデミー賞作品賞に輝いた匠の一品である。

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 本作が他の名作サスペンスと一線を画しているのは、まさにここ。一般の映画フリークたちからも絶賛を受け、さらに、コチコチの石頭を持ち、壮大で壮麗でかつ実話を元にした作品にしか興味のないアカデミー会員たちをも虜にしたというところがスゴイのである。しかもしかも、本作は、アカデミー賞において、主要5部門を完全制覇した史上3番目の作品でもある。すなわち、作品賞、監督賞、脚本賞、主演男優賞、主演女優賞の5部門を総ナメにした訳であり、そのような快挙を成し遂げた作品は、本作の他には、1934年の『或る夜の出来事』、そして、1975年の『カッコーの巣の上で』しかなかったのである。

 ちなみに、この年のアカデミー賞作品賞のノミネート作は、以下の通り。『美女と野獣』、『バグジー』、『JFK』、『サウスキャロライナ/愛と追憶の彼方』。史実であり、アメリカ人が最も興味を持つ題材の一つを秀逸に映画化した『JFK』を押さえたのがデカい。しかし、個人的には『テルマ&ルイーズ』が何故ノミネートすらされていないのか、全く合点がいかない。

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 さて、本作の内容であるが、その完成度の高さは、もう語る必要も無いくらい語り尽くされてきた。およそサイコサスペンスに必要な全ての要素が、情緒と論理の一分の隙もない連関で紡がれていく様を目の当たりにした我々は、意気揚々と用意したソラマメとキャンティを味わうことも忘れて、心底戦慄し、深く感銘を受け、そして、長く嘆息する。我々映画ファンが映画という救済に渇望した哀れな子羊であるならば、本作のクリエーターという神の御業を前に、ただただ沈黙するしかないであろう。

 本作のテーマを全体として感じ入るためには、この“羊”“沈黙”というキーワードが重要だ。クラリスがレクターに語る幼少期のトラウマ。それは、里親の元で哀れな羊を救えなかった、という事実。そんな過去から、クラリスは、人を救うことの出来る職業、すなわちFBI捜査官になることを決意した。そして、発生する“バッファロー・ビル事件”。絶望の中、悲鳴をあげる囚われの被害者たち。クラリスは、彼女らを救い、今度こそ悲鳴を止めることが出来るのか。

 すなわち、本作において“羊”は“被害者”の象徴、そして“沈黙”は、被害者の救出、ひいては、クラリス自身のトラウマの克服を意味している。

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 また、本作のポスターを見てみると“沈黙”には他の意味も含まれているように思える。ポスターデザインは、クラリスらしき女性の口元に、バッファロー・ビルが飼っていたドクロメンガタスズメ蛾の成虫、というもの。本作において、蛾は“変身”の象徴であり、自身を性同一性障害だと思い込んでいたバッファロー・ビルや、訓練生から正規捜査員へ、さらに、トラウマを抱えた少女から成長した大人の女性へと移り変わるクラリス、また、知的で礼儀正しい紳士から一転して残虐かつ冷酷な殺人鬼へと変貌するレクター博士など、様々な登場人物を象徴するアイテムである。これがクラリスの口元にあしらわれることで“沈黙”を表現した、非常に秀逸なデザインだ。

 さらに、よくよく注目して見てみると、このドクロメンガタスズメ蛾の頭部のドクロ模様が、実は、6人の女体で構成されていることが分かる。

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 元ネタとしては、サルバドール・ダリのこの作品なのだろう。

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 ダリの作品では、7人の女体で構成されているドクロだが、本作ポスターでは、被害者数に対応して6人で構成されている。

 つまり、何が言いたいかと言うと、ドクロメンガタスズメ蛾は“死の象徴”でもある、ということだ。そして、死の象徴たるドクロ蛾がクラリスの口を塞いでいる、というふうに考えると、彼女は、被害者を救うことが出来ず、その努力も“死”という絶望の前では無意味である、とも感じられる。

 ハンニバル・レクターは、独房でのクラリスとの会話の中で、かつての典型的な躁鬱病の患者を“つまらない”と一蹴した。そんなレクターがクラリスに興味を持ったのは、彼女の過去のトラウマが知的好奇心をかき立てたからであろう。レクターにとって、クラリスは、興味深い観察対象であり、もっと言えば、ずっと弄んでいたい“おもちゃ”のようなもの。

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 そんな格好の遊び道具を、あのレクター博士が簡単に手放すとは思えない。作中、レクターは、“悲鳴”が止んだら教えるようクラリスに告げる。しかし、全てが解決した大団円、パーティに掛かってきた電話口で、クラリスは、“沈黙”の訪れをレクターに告げなかった。まぁ、そんな状況ではなかったというだけかもしれないが、その後、電話を切ったレクターは、8年間意地悪をしてきた低俗で退屈な精神病院の長フレデリック・チルトン医師(アンソニー・ヒールド)を次のターゲットと定め、雑踏の中へ消えていく。

 “バッファロー・ビル事件”は終焉した。しかし、クラリスにとっての“事件”は本当に終わったのだろうか。羊たちの悲鳴は、本当に止んだのだろうか。

 なんて、ちょっと妄想めいたことも想像出来る、非常に味わい深い幕引きであった。

点数:93/100点
 やっぱり名作は何度観てもおもしろい。伝記に基づいていなくても、船が沈没しなくても、闘技場を舞台にしていなくても、おもしろいものはおもしろいのだ。アカデミー会員たちは、本作鑑賞時を今一度思い出し、辛気くさい批評を“沈黙”させた上で、もっとエンターテイメントな作品にも賞をあげていってもらいたい。

(鑑賞日:2013.6.18)














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Tag:変態紳士 アカデミー賞

1 Comments

たっちょ  

いつも楽しく評論を見させて頂いてます。

ラストの解釈は、
レクター博士はカウンセラーとして
終始一貫しているように思っています。



2014/10/05 (Sun) 09:44 | EDIT | REPLY |   

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