[No.25] 死霊のはらわたⅡ(Evil DeadⅡ) <95点>

Evil Dead Ⅱ



キャッチコピー:『お前の心臓は俺が止めてやる』

 右手に鋸、左手に銃。そして胸には“漢”の魂!
 “グルーヴィー・ヒーロー”アッシュ、堂々見参!

三文あらすじ:ガールフレンドのリンダ(デニス・ビクスラー)と2人きりで休暇を過ごすため、人里離れた山荘を訪れた青年アッシュ(ブルース・キャンベル)。そこに残された死者の書「ネクロノミコン・エクス・モルテス」と死者を復活させる呪文を録音したテープレコーダーを発見した彼らは、興味本位からテープレコーダーを再生してしまう。復活した死霊に乗っ取られたリンダを殺害し悲しみに暮れるアッシュだったが、それはまだ彼と死霊との壮絶な死闘の始まりにすぎなかった・・・

 
~*~*~*~


 80年代の一大スプラッターホラー・ブームの火付け役となった名作『死霊のはらわた』。この大ヒットでより多くの予算を獲得したサム・ライミが、前作のセルフリメイクとして制作したのが本作だ。したがって、プロットは両作でほぼ同じ。どちらも、山小屋を訪れた人々が死霊の恐怖と戦う、という非常にシンプルなものになっている。しかし、ホラー映画の趣が強かった前作とは違い、本作は誰が何と言おうとヒーロー映画である。今や旧『スパイダーマン』3部作の監督として有名なサム・ライミだが、原典は本作にあると言っていいだろう。



 というか、そもそも本作には、ホラー映画の大事なルールが欠如している。およそホラー映画というものは、主人公が何かに命を狙われるという構造になっているもの。『悪魔のいけにえ』ではレザーフェイスが、『ハロウィン』ではブギーマンが、『13日の金曜日』ではジェイソン母子が、『シャイニング』ではジャック・ニコルソンが、『エイリアン』ではエイリアンが、そして『ジョーズ』では巨大鮫が主人公を襲う。そのような”敵”に主人公が襲われる過程がスリリングで、最後に主人公が敵を倒すことでカタルシスが生まれたり、結局殺される主人公に無情を感じたりするのである。



 ここで、何故主人公の襲われる過程がスリリングかというと”敵の行動範囲には制限がある”という重要なルールが存在するからである。殺人鬼は鍵を閉めた扉の向こうには行けないし、巨大鮫は水中でしか行動できない。そのような敵側の制約は、観客が敵の性質から経験則上判断できる場合もあるし、全く新しい敵キャラを登場させるなら、監督はその行動範囲の制限を分かりやすく観客に説明するのが通常だ。そのルールを前提とするからこそ、追われる主人公がどこまで逃げればとりあえず安心なのかが観客にも明らかになり、安全な場所に辿り着くとホッと胸をなで下ろすことができる。そこで殺人鬼の斧が扉をぶち破るという展開を突きつければ、およそホラー映画として過不足の無い恐怖演出の完成だ。前提としている常識が覆される、これは、この上ない恐怖を人に与えるものだが、その恐怖を演出するためには、やはり確固たる前提というものが必要不可欠なのである。



 しかし、本作で復活した死霊の行動範囲は無制限である。まず、奴らは誰にでも自由に乗り移ることができる。ベタなゾンビのように噛まれたら感染するというものではなく、登場人物が突然ランダムに乗っ取られるのである。そこには何の法則性もない。脈絡なく自分の右手だけが乗っ取られたりもする。しかも、人だけではなく、森や小屋内の物品全般が奴らの標的。言い換えれば、椅子もライトも鏡も鹿の剥製も全てが敵なのである。そのため、アッシュが死霊から逃れるために部屋のドアを閉めても、観客は全く安心できない。出るぞ出るぞと思っていると、やっぱり死霊が出てくる。そういう意味で、実は本作はあまり恐くないのである。もちろん死霊が急に飛び出してくるとめちゃくちゃビックリするのだが、そういう驚かし方は上手なホラーのそれではないと思う。



 もっとも、サム・ライミは、そんなことなどもちろん承知の上で死霊の性質を設定しているに違いない。サム・ライミ、ブルース・キャンベル、ロバート・パタートの仲良し映画好き三人が、ストップウォッチ片手にドライブ・イン・シアターに通い詰め、観客がホラー映画のどの部分で、どのくらいの間の演出で恐がるかを詳細に検証した結果一作目が生まれた、という逸話は有名だ。そんな第一作で予想的中の大当たりを叩き出したライミが本作で描きたいのは、アッシュが次から次へとトラブルに巻き込まれる様であり、そして何よりヒーローとしてのアッシュである。すなわち、死霊は理不尽にアッシュに降りかかる苦難であり障害でしかないのであって、観客は、苦悩しながら暴れ回るバカバカしくて格好いいアッシュの姿を楽しめばいいというわけだ。



 まず、アッシュを演じるブルース・キャンベル。彼が本当にいい味を出している。目鼻立ちが非常にハッキリしていて、観ようによっては十分イケメン。しかし、くりーむしちゅーの有田さんをずっと濃くしたような顔面での過剰な演技は、建前上恐怖シーンであってもどこか笑いを誘う。そんなアッシュが七転八倒しながら理不尽な恐怖と戦う様に観客はぐいぐい引き込まれ、バカバカしいと思いながらもどんどん彼に愛しさを感じていく。挙げ句、クライマックスでやり過ぎなくらい格好付ける際には、全力で彼を応援することになる。最高だ。その様は、まさにB級ヒーロー



 筆者は、初見の際、前半でアッシュが右手を失ってしまう展開に衝撃を受けた。特にめずらしい展開という訳ではないのだが、死霊の圧倒的な勢いを見せつけられた後なので、アッシュがその先ずっと片腕のハンデを背負いながら戦わなくてはならないという事実に軽い絶望を感じたのである。まんまとサム・ライミの手中にはまってしまったというわけだ。この展開も含め、アッシュがボロボロになりながら理不尽な恐怖にさらされ続ける姿は、実は全て”あのシーン”への前振りに過ぎない。



 死者の書の残りのページを取り戻すため、死霊がいる地下室へ下りることを決意したアッシュは、まず納屋に向かう。冒頭で死霊に乗っ取られた恋人リンダをチェーンソーで葬り去った、あの納屋である。手際よく日曜大工(?)をこなしていくアッシュ。そして、チェーンソーを失った右腕に装着する!チェーンソーのエンジンを口で引っ張って始動させ、長すぎる猟銃の砲身を切り取る!ウェスタン・ヒーローよろしく猟銃をクルクル回し、背負ったホルスターに収納!カメラが顔に寄っていき、あの名言が飛び出す!

 「Groovy.(イカすぜ。)」

 …圧巻。映画を一人で観ていてスタンディングオベーションをとってしまったのはこれが初めてだ。映画史に残る名シーンを筆者が選ぶなら、このシーンは確実にベスト5以内にランクインするだろう。



 このように、本作は前作のセルフリメイクでありながら、描く上での主眼は明確に異なっている。どちらもホラー映画でありながら大なり小なりコメディタッチという点では共通しているが、本作はアメコミ好きなサム・ライミが生み出した紛れもないヒーロー映画。彼はこの後、『ダークマン』、『スパイダーマン』などのヒーローを描いていくことになるのだが、アッシュこそが彼のヒーローの原典であり、また最高傑作でもあると断言したい。

点数:95/100点
 ベタ褒めしてしまったが、筆者は本作を周囲の人にあまりお勧めしていなかったりする。ヒーロー映画とはいえ、スプラッター映画だから、首は飛ぶ腕は飛ぶ、血しぶきの量も尋常ではない。そんな映画を手放しで勧めてヒンシュクを買っては大変だ。とはいえ、近頃のスプラッターに比べればビジュアルのグロさ自体は大したことないし、やり過ぎのグロシーンは逆に笑いがこみ上げてくるものになっているから、血が大の苦手という人以外は全く問題なく鑑賞できるはず。人体損壊描写に多少でも耐性があり、映画史に残るヒーローの誕生を目撃したい人は是非鑑賞していただきたい筆者にとっての“魂のバイブル”である。

(鑑賞日:2012.2.3)

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