02
2013

[No.249] 真夏の方程式 <58点>

CATEGORYサスペンス




キャッチコピー:『解いてはいけない。愛が閉じ込めた謎。』

 X=(Y+Y)/2愛 (ただし、Xは娘、Yは父とする。)

三文あらすじ:帝都大学理工学部物理学科第十三研究室に所属する准教授、“変人ガリレオ”こと湯川学(福山雅治)は、海底鉱物資源開発プロジェクトの地元住民向け説明会のアドバイザーとして、自然豊かな港町、玻璃ヶ浦を訪れる。道中出会った少年、柄崎恭平(山﨑光)と交流を深める湯川だったが、彼らが宿泊する旅館“緑岩荘”で元警視庁刑事の塚原正次(塩見三省)が変死する事件が発生。興味を持った湯川は、事件を担当することになった貝塚北署の刑事、岸谷美砂(吉高由里子)の協力を得ながら、過去の事件の謎、そして、“緑岩荘”を経営する川畑重治(前田吟)、節子(風吹ジュン)の夫婦と環境保護活動に熱心な一人娘、成実(杏)らの一家に隠された秘密に迫っていく・・・


~*~*~*~

 
<受像機る(かえりみる)>
 今夏、満を持して公開された人気ドラマシリーズ映画化第二弾『真夏の方程式』。前作『容疑者Xの献身』が好評だったことから、おそらく本作についても制作陣は力を入れていたのだろう。本作を前にした前哨戦というか、単なる広告的な突貫ドラマというか。そういった感じで放映されたのが、ドラマ『ガリレオ』のセカンドシーズンであった。

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 そのような経緯や思惑が実際にあったのかは定かでないが、少なくとも前シーズンと比較した今シーズンの“ドラマとしての出来”は、お世辞にも誉められたものではない。

 テレビドラマ版の『ガリレオ』について、前回筆者は“ヒューマン・ドラマ部分にこそ魅力がある”と述べた。その点が本シリーズは、まずダメダメ。薄っぺらな過去、安直なお涙ちょうだい。力が入っていそうな第八章『演技る』は、なんだか『古畑任三郎』の劣化版みたいな感じだし、最終章前の盛り上がりである第九章『撹乱す』は、どう考えてもファーストシーズン第四章『壊死る』に軍配が上がる。

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 また、脚本の雑さも目に付くところ。ほぼ全章で物語の切り際があっさりし過ぎているし、物理学的事象にしか興味のない湯川先生が何故事件に興味を持つのか、という動機付けが、ファーストシーズンよりも明らかに弱い。何よりも酷かったのは、やはり第七章『偽装う』。鞍馬天狗による住職殺害からスタートした物語は、第2の殺人が無事解決された段階で終結。結局、冒頭で明らかに謎めいた描き方がされた住職殺害については、一切説明されることがなかった(実は本当に天狗の仕業だったのかも…という余韻すらない。)。

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 それから、これは幾分個人的な趣味指向が介在しているとは思うのだが、前シーズンで柴咲コウが演じた内海薫から交代し、本作でガリレオの助手兼ヒロインを務める吉高由里子演じる岸谷美砂というキャラクターがダメダメ。

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 まず、単純に吉高由里子より柴咲コウの方が可愛い!というのは、筆者の個人的好みだから置いておくとして、吉高が演じる岸谷という女性は、なんともやかましすぎるのである。前シリーズの内海刑事は、ときに怒ったり、ときにスネたり、ときにチャーミングな表情を見せたりと、常に理性的なガリレオと対になる存在としての非常にエモーショナルなキャラクターだった。この点は、本シリーズの岸谷刑事と共通している。しかし、両者では、内海が基本的に終始ガリレオの“聞き役”だったのに対し、岸谷は自ら主体的にキャンキャンとガリレオに噛み付いていく、という点が大きく異なっている。

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 別に非論理的で感情的なキャラクターに終始してもいい。本作の性質上、それはむしろ必要な要素だと言うことも出来る。しかし、自らガリレオに過剰な働き掛けをして、彼のペースを食ってしまうのはいけない。湯川学というキャラクター単体の活躍が削がれるというデメリットのみならず、『ガリレオ』というドラマに何やら趣の違うドラマの雰囲気すら送り込むことになってしまった。最終章で岸谷が見せた涙も、先述した脚本の雑さと相まって非常に滑稽なシーンになってしまったし。

 そんな訳で、“岸谷是か否か論争”に対する筆者の個人的な見解は、当然“否”ということになる。

<電影る(のべる)>
 さて、そんな不満と不安の中鑑賞した本作『真夏の方程式』。前作『容疑者Xの献身』は、前回のレビューで述べたように非常に素晴らしいものであった。しかし、いや、だからこそ、次作にあたる『真夏の~』では、製作者は前作と同じ手を使えない。すなわち、タイトルから“ガリレオ”の文字を排し、お決まりのテーマソングやヒロイックな数式シーンを削除し、あくまでも容疑者を主軸に据えた“ヒューマン・ドラマ”として見せる、という手法である。

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 本作の公開が発表されたとき、そのタイトルを知った筆者は少し不安に思った。前作同様、どこにも“ガリレオ”の文字は見えない。とはいえ、一作目で掲げなかった“ガリレオ”の看板を突然次作から担ぎ出す、というのも変な話と言えば変な話なので、この点は深く憂慮するに値しない。その後、打たれた数パターンの予告編では、本作の詳細は、当然分からない。これはいち早く観るしかない!ということで、6月29日の公開日当日に、筆者は鑑賞してきたのだが・・・。

 結論から言うと、いまいち!と言わざるを得ない。テーマソングなし、数式シーンなし、おまけに前作のような冒頭の実験シーンすら無くすことで前作以上に“ヒューマン・ドラマ”に特化したコンセプトを、あろうことか前作以上にスケールダウンしたトリックとドラマで映画化してしまったのである。

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 川畑重治、節子、そして、仙波英俊(白竜)という顔なじみの3人。重治は節子と結婚するが、実は仙波との間で子供を身ごもっており、重治の子として出産する。それが成美だ。これが川畑家に隠された1つ目の秘密である。成美が思春期になる頃、昔から仙波の恋人だった三宅伸子(西田尚美)が成美一人で留守番中の川畑家に押しかける。伸子はダメ女で、成美が実は仙波の子であるという秘密で以て、節子から金をせびり取ろうという算段である。一人で応対する成美だったが、すったもんだの末、伸子を殺害。ニュースを見て不審に思った仙波は、節子に連絡し、成美が犯人であることを知る。と同時に、自分が愛する“娘”のために身代わりとなることを決意。証拠品を全て譲り受け、警察に捕まり、服役する。これが、川畑家に隠された2つ目の秘密。そして、これら2つの秘密を重治は知らない、と節子&成美は思っている。時は流れて、現在。玻璃ヶ浦に移り住んで十数年を数える川畑家に忌まわしい来客がある。それは、かつて仙波を逮捕した刑事、塚原。事件の真相を調べ上げた彼は、退職後の時間を使って、川畑家が長年隠し通してきた秘密を暴こうとしている。それを察した重治は、業務上過失致死を装って塚原を殺害。重治は、成美が実は仙波の子である、ということも、伸子を殺した犯人が実は成美である、ということも全て知っていたのである。ガリレオに全てを暴かれた川畑一家は、家族の深い愛の中で絆を再度確かめ合い、泣き崩れる・・・。

 いや、これ普通の昼ドラやん!こーゆーのは、火サスとかでやってくれよー、と言いたくなるチープさ。トリックの内容も、特に本作のドラマ部分と連結されているとは思えない。娘の身を案じた仙波が、逮捕後ちゃんと刑期を満了した、という事実もなんだかいただけない。それは、まさに前作で石神がやろうとして失敗したことなのに、仙波はあまりにもさらっと成し遂げている。前作の切なさを返せっ!

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 まぁ、成美が結局、血は繋がっているが法的には血縁にない“父”と、血の繋がりはないが法的には直系尊属に当たる“父”、そんな“2人の父”に心から愛され、守られていた、というオチは、若干ではあるが感動的なものであった。しかし、終盤の取調室でのシークエンスは、こちらが受け取る感動の値に比して役者の泣く演技が過剰すぎ、少し興ざめ。とりあえず、杏は鼻水出し過ぎだ。

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 それに“方程式”の持つ意味も定かではない。作中、明示的に方程式が登場するのは、ラストシーン。その論理的な物言いから、子供でありながらにして湯川にじんましんを生じさせないという離れ業で以て、湯川と一夏の交流を体験する少年、柄崎恭平が、帰りの電車内で見るガリレオ直筆の実験データ。そこに書かれた距離か何かを計算した方程式を彼がじっと見つめる、というシーンが多少意味深だ。

 でも、だから何なの?この映画は都会の子供が田舎でのひとときの冒険によって成長する、という『千と千尋の神隠し』的な作品ではないでしょうに。

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 筆者としては、やはり前作で言うところの“四色問題”のような作品のテーマを表象するギミックが欲しかったのである。そういった視点で敢えて好意的に解釈すれば、冒頭とラストの海中シーンで登場したカクレクマノミ(たぶんカクレだったはず。)には、若干の意味を無理矢理見いだすことも出来そうだ。

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 これがカクレクマノミ。『ファインディング・ニモ』のヒットで今や知らぬ人のいない海のアイドルである。しかしまぁ、実際ダイビングをしてみれば立ち所に分かることだが、この魚はどこにでもいるヤツで、ダイバーの間では取り立てて重宝されていない。

 そんなカクレクマノミは、基本的にイソギンチャクの中で生活する生き物。一家で同居していることも多い彼らが何故イソギンチャクの中に住居を構えるかと言うと、それはイソギンチャクには毒がある、からである。つまり、彼らは、毒だらけの環境下を敢えて生活の拠点とすることで、外敵から家族を守っているというわけだ。

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 本作の川畑家は、彼らに似ていなくもない。家族全員が過去の秘密や罪といった“毒”に冒された環境で暮らしながら、互いを心から愛し合い、社会や法律といった“外敵”から愛する者を守ってきた。筆者も経験があるが、カクレクマノミは巣に接近したダイバーを賢明に突っつくという勇敢で健気で無謀な一面を持った魚なのだが、愛する娘を守るため、自身の身を犠牲にする道を選んだ成美の“2人の父”も、そんなカクレクマノミ的な魂を持っていると言えなくはないかもしれない。

 んー、でもまぁ、これもやっぱり“だから何?”という感じだな。映画+海=自慢というのが、ダイバーにとって、いや、筆者にとっての“真夏の方程式”なのかもしれない。

点数:58/100点
 美しい港町を舞台にした極めて普通の探偵ドラマ。鑑賞前から思っていたのだが、映画化第二弾は絶対にドラマ最終章『聖女の救済』にすべきだった。『容疑者X~』同様、ストーリー的に意味を持ったトリック、キリスト教という映画に親和性のあるコンセプト。前作とほぼ同じクリエーターによる本作だっただけに期待を維持して鑑賞したものの、やっぱり前作も原作が良かっただけなのかもしれない。実に、おもしろくない。

 なんて、随分偉そうに批判してしまったが、筆者はまだ本作を一度しか鑑賞していないので、思いも寄らぬ重大な見落としによって本作の真の意味や味わいといったものをスルーしている可能性はある。もしそうであれば、映画感想を公表する者として非常に恥ずべき事態であり、思わず、イソギンチャクがあったらカクレたい、という衝動に駆られることだろう。Q.E.D.

(鑑賞日[初]:2013.6.29)
(劇場:TOHOシネマズ梅田)










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2 Comments

かずみ  

私も先日、観てきました。
管理人さんが指摘されているように、前作からスケールダウンした感は否めませんが、単純なヒューマンドラマとしてみると、なかなか完成度が高かったのではないかと思います。たしかに杏ちゃんの泣き演技はやや過剰だったものの、総じて出演者の演技力が高く、作品に引き込まれました。
カクレクマノミの考察が面白かったです。
次の記事も期待しています。

2013/07/03 (Wed) 13:43 | EDIT | REPLY |   

Mr. Alan Smithee  

Re:

おっしゃる通りだと思います。
筆者は、前作で興奮しすぎ、本作へのハードルがかなり上がってしまっていました。

次は『攻殻機動隊 ARISE』を鑑賞してみようと思っています。
現在期間限定上映中なので、よろしければ、是非。

2013/07/03 (Wed) 17:26 | EDIT | REPLY |   

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