[No.294] 悪の法則(The Counselor) <70点>





キャッチコピー:『罪を、選んだ。』

 無相なる豹の牙が深く刺さり、善人は透明な血を静かに流す。

三文あらすじ:弁護士(The Counselor)として活躍するある男(マイケル・ファスベンダー)は、美しい恋人ローラ(ペネロペ・クルス)と婚約し、人生の絶頂にいた。軽い気持ちで足を踏み入れた麻薬取引が、自身を思いも寄らぬ残酷な結末へ誘うことなど知る由もなく。ブラックマーケットを暗躍する実業家ライナー(ハビエル・バルデム)、その女マルキナ(キャメロン・ディアス)、麻薬仲介人ウェストリー(ブラッド・ピット)、そして、弁護士とその婚約者 - 本当の“悪”は、一体誰なのか・・・


~*~*~*~

 
 監督にリドリー・スコット、主要キャストにキャメロン・ディアスと来ては、筆者が観ない訳にはいかない。

 とはいえ、鑑賞前の本作に対するイメージは、キャピキャピしたOL向け、といった感じだった。多数の豪華キャストによる犯罪群像劇は『オーシャンズ11』のようなスタイリッシュ・クライム・サスペンスを予感させるし、予告編で用いられるショッキングピンクの文字色や今年流行のヒョウ柄を全面に押し出した宣伝構成は、ちょうどアラサー以上の女性をターゲットにした“大人のちょいワルお洒落ムービー”を期待させる。

c2_201607192206586ab.jpg


 もちろん、方々で「趣味は映画鑑賞です!」なんて堂々と宣っておきながら本作の本質すら知らずに鑑賞した筆者に落ち度はある。しかしながら、そんな愚かな筆者同様、本作に対して“お洒落”なイメージを持ち、“悪”と言ったってそれは“ちょいワル”以上のものではないだろう、という安易なスタンスをとっていた鑑賞者は、結構多いはずだ。また、中には『悪の教典』と間違って観に行ったファンタジスタがいるかもしれない。これだけは言っておくが、本作は、断じてそんなライトな映画ではない!

 説明不足のままどんどん進行していくストーリーにフル回転する脳細胞は、名匠が放ついぶし銀で意味深で含蓄過多な台詞の数々に煮えくり返る。そして、我々が、哀れなるカウンセラーの陥った現状をようやく理解し始めた頃、これまで台詞でしか語られなかった残酷な世界が唐突に、徐(おもむろ)に、しかし、確固たる存在感と圧倒的強靱さを以てその姿を現すのである。

c1_2016071922065638d.jpg


 ヒョウ柄に浮かれ、お洒落な面持ちで劇場にふらっと足を運んだ鑑賞者たちは、カウンセラー最愛の婚約者の見るも無惨な死、という本作のラストをどのように受け止めたのだろう。ただの死ではなく、メキシカン・マフィアに攫われた末、いわゆる“スナッフ・ビデオ”の被写体にされるというおよそ考え得る限り最も残虐な最期。つまり、何の罪もない美女を拘束し、生きたまま徐々に殺していくという“殺人ビデオ”に出演させられる訳である。もちろん、このシーンが直接的に描写されることはない。しかし、映像による伝達はもはや不要。名匠は、それまでの時間をフルに使い、我々愚鈍な善人が十二分な克明さでそのシーンを想像し得るよう、様々な台詞や演出を駆使している。したがって、スナッフ・ビデオの直接的シーンなどなくとも、ゴミ山にゴロンと捨てられた真紅のワンピースの首無し死体を映すだけで、我々は『SAW』シリーズ以上の絶望と嫌悪感をリアルに感じ取ることができる。

c4_201607192207333b6.jpg


 ヒーローは、当然登場しない。それどころか、こともあろうに本作でヒーローになるべきカウンセラーという人物は、最愛の婚約者を恐怖と屈辱のどん底に叩き落とした張本人という見方すらできる。正義は独善的で幼稚な主観的価値観でしかないが、悪は理性的で論理的な確固たる武力である。我々弱者は、自分は善人だ!と言い聞かせながら、じっと目を閉じ、ただひたすらに祈り続けるしかない。目に見えぬ牙にかからないように。

点数:70/100点
 またしても鑑賞日から随分と時間が経ってしまい、作品の細部や鑑賞時に感じた機微の数々をすっかり失念してしまった。後に残っているのは、何やらやりきれぬ思いと、やはり巨匠は巨匠だなぁという愚にも付かぬ曖昧模糊とした感情だけ。明日はクリスマス・イブ。悪はここにある。では、愛はどこにあるのだろう。

(鑑賞日[初]:2013.11.17)

悪の法則

新品価格
¥1,890から
(2013/12/23 21:41時点)


Counselor

新品価格
¥1,163から
(2013/12/23 21:42時点)


善人は、なぜまわりの人を不幸にするのか 救心録 (祥伝社黄金文庫)

新品価格
¥630から
(2013/12/23 21:42時点)


悪について (岩波新書)

新品価格
¥798から
(2013/12/23 21:43時点)


関連記事
スポンサーサイト

Comment

Leave a Reply





管理者にだけ表示を許可する

Trackback