[No.308] トランス・ワールド(Enter Nowhere) <78点>

enter nowhere

【注意】本作を真に楽しみたいという方は、鑑賞前に決して予告編を観てはいけない。


キャッチコピー:『出会うはずのない3人、たどり着いた異次元の世界』

 君が君の××を取り扱うように、やがて君の〇〇は君を取り扱う。

三文あらすじ:とある森を彷徨う女性サマンサ(キャサリン・ウォーターストーン)は、偶然見つけた1軒の小屋で同じように避難していた男性トム(スコット・イーストウッド)に出会う。ほどなくして現れたジョディ(サラ・パクストン)を交えた3人は町への道を探すが、どの方角に進んでも何故か同じ小屋に戻ってしまう。その内、彼らが全員この場所を異なる土地だと認識していた事実が明らかになり・・・

※以下、ネタバレあり。


~*~*~*~


 まず、タイトルに関して。原題は『Enter Nowhere』で、直訳するなら「どこにも行けない」といったニュアンスになるだろうか。本作の舞台となる謎の森と小屋を指し示した単純で分かりやすいタイトルである。一方の邦題は『トランス・ワールド』というものだが、これは中々微妙なラインである。この謎の和製英語自体は、作品の内容と全く関係無く意味不明。しかし、そこはかとない謎を秘めたミステリアスな作品として、そして、いわゆる一種の“ソリッド・シチュエーションもの”として観客にアピールするなら、決して意味のないタイトルという訳ではないだろう。結局、有名監督の作品でもなく、有名俳優の出演もなく、何らの話題性も持ち合わせていない本作を、それでも真摯に売ろうとした日本配給会社の苦慮を評価すべき“雰囲気もんのタイトル”と言っていいと思う。

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 そう、本作には、キャスト面での“華”がない。監督はジャック・ヘラーという人なのだが、それ、誰だ? IMDbによれば、本作を合わせてもこれまでに2作しか監督としてクレジットされていない。プロデューサーとしての活動の方がメインのようだ。

 主要な登場人物たちも非常に地味。まず、3人の中で唯一の男性トムを演じるスコット・イーストウッドは、全く以て見覚えがない(とはいえ、彼はあの名優にして名監督クリント・イーストウッドの息子であるから、実は映画界では超サラブレッドなんだけど。しかし、ジョニー・デップの子供とかならまだしも、イーストウッドの子供というのでは、日本人観客への引きは弱いだろう。)。

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 続いて、冒頭から登場するお嬢様美人妻サマンサを演じるキャサリン・ウォーターストーン。彼女はどっかで見覚えがあるのだが、いくらフィルモグラフィーを検索しても既鑑賞の作品が無い。どういうことなんだろう。筆者も彼らのように死期に近い未来を見てしまったのだろうか。

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 最後に、ツンデレ強盗ジョディを演じるサラ・パクストン

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 こいつも見たことあるぞ、と思いつつ、でもまた見つからなかったら今度こそ筆者の記憶錯乱は決定的になってしまうという不安。コワイコワイ。パクストン恐い。恐る恐る検索して見ると、しかして、彼女は歴とした顔なじみだった。

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 フーッ、セクシー!46種ものサメが狂喜乱舞の饗宴を果たすモンスター・パニック好き感涙必至の傑作のはずが、何故か平々凡々な良作に仕上がってしまったあの『シャーク・ナイト』において、ヒロインである美人女子大生サラを演じていたのが、サラ・パクストンである。
 
 さて、このようにキャストはすこぶる地味なのだが、本作は中々どうしておもしろい。しかし、もし、本作をこれから観るぞ、という人がいるなら、一つだけ決定的に守って欲しいことがある。それは、予告編を事前に観てはいけない、ということ。どういうことかと言うと、冒頭に貼り付けた本作の予告編は、近年希に見る酷いネタばらしなのである。

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 本作の序盤は、まるでキャストの認知度を繁栄したかのような地味で真面目なホラーとして幕を開ける。冒頭からボロボロの美女が森を彷徨っている、だとか、無関係の他人同士が閉鎖空間に集結する、はたまた、真っ直ぐ歩いていたはずなのに元の場所に戻ってきてしまう、などといった趣向は、今となっては目新しくもなんともない。しかし、本作は、このような地味な序盤を非常に丁寧に綴っていくため、大変好印象だ。

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 この凡庸ホラーが我々怠惰な鑑賞者に牙をむくのは、物語中盤。何気ない会話から「ここは“ニューハンプシャー”よ。」と口にするサマンサ。これをジョークと受け取り大きく笑ったジョディの目の色は、ほどなく変わることになる。彼女は、自分たちが足止めを食らっているこの陰鬱な森を“ウィスコンシン”だと信じて疑っていなかったからだ。初邂逅時の悪印象を乗り越えてやや気心を許し始めていた両者の溝は、ここで再び広がる。どちらも“こんなクレイジーな奴の相手はしていられない。”と。

 そして、満を持して小屋に帰ってきた本作で最も頼りになる理性的なナイスガイ、トムに対し、我先にと相手の異常性を訴える麗しき2人の迷い子。彼女らに向かって、彼は、衝撃の一言を浴びせかける。「2人とも何を言っているんだ…。」「ここは“サウスダコタ”だぞ。」

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 ここの展開運びや演出は非常に上手い。序盤での喧々した関係性からやっと打ち解け始めたくらいの絶妙のタイミングで、おもむろに不気味さがぬっと首をもたげてくる。確かに、下記地図を見てもらっても分かる通り、3人が提示した場所は、勘違いですませるにはあまりにも遠い。

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 なんの変哲もない森となんの変哲もない小屋。しかし、“なんの変哲もない”からこそ、全員が違う場所だと信じ込んでいる、という設定が成り立ち、中盤でのこの上ないカンフル剤として物語を加速させる。

 そして、この“各々が全く違うことを思い描いている”という趣向は、本作でもう一度登場する。こちらは、前述の“場所的相違”を前フリにしたより強力かつ物語の核心に迫る本作一の見せ場である。結論から言えば、彼らは全員が“異なる時代の人間”なのである。さらに、全員が“血縁関係”にある。

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 ここが上手い!本作のおもしろさは、この“時間的相違”をバラす瞬間に集約されていると言っていい。喧々したやり取りの中で皮肉混じりに語られたジョディの“最新モデルのベスト”、全員が“ビンテージ”と認識してもおかしくはないワイン(1930年代のものだったか。)。サマンサとジョディはそれぞれ父親を“戦争”で亡くしているのだが、双方が思い描いているのは各々“一世代ずれた戦争”。伏線の張り方が実に見事だ。

 また、3人がそれぞれの過去と自らの肉親の話を交わした中盤がここで効いてくる。トムの母親は、確か犯罪を犯して死刑になった。ナルホド、強盗犯であるジョディのことか。ジョディの母は、出産によって死亡した。ナルホド、サマンサが今身ごもっているのがまさにジョディか。サマンサの父は、大戦で死んだ。ナルホド、では先程から外で銃をぶっ放している“時代錯誤の”ドイツ兵は、サマンサの父親であったか。…というように、それまでのなんでもない会話が、一つのネタばらしによって次々と連鎖的に繋がっていく。

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 正直、全ての謎が明かされた後、時をかける家族が一致団結してサマンサの父を救おうとする終盤は、本作にとって必要なパートとはいえ、重要な要素ではない。全てのおもしろさは、上記ネタばらしに詰まっているのである。

 …まぁ、それ。
 全部予告編に出てくるけどな!

 筆者はこれまでの映画人生で、ここまで作品の興を削ぐ予告編を他にはちょっと思い出せない。

点数:78/100点
 生きていると辛いことがたくさんある。本作の3人もみな悲劇的な過去と絶望的な未来を背負った者たちだ。そんなとき、人はどうしたら立ち直ることができるのだろう。周囲の人間には、何ができるというのだろう。優しきおせっかいか、姑息な不干渉か。本作の彼らは、奇跡によって集い、救われた。けれど、銀幕に生きぬ我々には、奇跡など起こらない。奇跡など、決して起こらないのである。場所はどこでもよく、時間はいつでもいい。我々はもう一度集い、酌み交わす必要があるのかもしれない。

(鑑賞日[初]:2014.8.23)

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Comment

  • yaman
  • URL

そのときには呼んでくれよな。うまい酒があるから。

  • Mr. Alan Smithee
  • URL
Re: タイトルなし

あらゆる迷いや不安を払拭し得るほとんど唯一のものは、旧来の友と飲む酒であろうな。

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