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キャッチコピー
・英語版:hide.
・日本語版:その時、何が起きたのか?

 一本のビデオテープに秘められた新時代の夜明け。

三文あらすじ:米国防総省が保管する記録映像が公開される。”クローバーフィールド(Cloverfield)”というコードネームのそのテープは、ロバート・ホーキンス(マイケル・スタール=デヴィッド)ら一般人が撮影したホームビデオ。そこには、かつてマンハッタンと呼ばれた場所で、あの日何が起こったのかが記録されていた・・・


~*~*~*~

 
 筆者は『グエムル-漢江の怪物-』という映画を観たとき、すさまじい衝撃を受けた。この映画では、モンスターが”背景”として映し出されていたからだ。モンスターパニック映画では、現実には存在しないモンスターが人々の住む日常に侵入し、それを破壊していく。そこがこのジャンルの最も魅力的な点であって、架空の存在と現実の日常とをどのように”リアルにマッチさせるか”が最大の焦点と言ってもいいだろう。もちろん『アナコンダ』や『ジョーズ』の後半パートのように、人間側がモンスターのテリトリーに赴くパターンも非常におもしろい。しかし、『ジョーズ』において最もワクワクするのは、やはり巨大鮫がビーチを血の海に変える前半パートだし、特に『ゴジラ』や『ウルトラマン』などの”超巨大モンスター”が登場する作品は、街を破壊するシーンがモンスターの一番の見せ場である。”日常に対する非日常の侵襲”。これこそが、モンスターパニック映画の醍醐味である。

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 そのために製作者は、これまでモンスター自体のリアルさを追及してきた。古くはストップモーション、『ジュラッシク・パーク』の成功以降はCGである。そして、そのどれもがモンスターを画面にしっかり映していた。モンスターの創作には多大な費用がかかるのだし、だいたいモンスターパニックというジャンルなのだから、モンスターをしっかり映すのは当然と言えば当然のことである。しかし、モンスターを神の視点からしっかり映すということは、どうしても”映画”であることを観客に意識させる。この点で頭打ちになり、CGによるモンスター描写はしばらく飽和状態にあったと言っていいだろう。ところが、『グエムル』では、モンスターがピンぼけしていたのである!画面手前の少女にピントがあっており、背後の遠いところから少女を狙って走ってくるモンスターにはピントがあっていない。これは大変リアルな描写である。あたかもモンスターが背景としてそこにいるかのような斬新な手法。筆者はその点で『グエムル』がモンスターパニックというジャンルに新風を吹き込んだ傑作だと確信している。ストーリーはダメダメだったが。

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 そして本作『クローバーフィールド』は、モンスターパニックムービーにおける”リアルさ”をさらにもう一段階進化させた。本作で導入されたのは、いわゆるPOV(Point Of View)という撮影手法だ。登場人物が撮影しているという”てい”での主観視点。部分的には古くから使われている手法で、比較的新しくしかし本作より前にこの手法を使った映画としては『ブレア・ウィッチ・プロジェクト』が有名だろう。これをモンスターパニックで使用するとどうなったか。まさにリアルの極致である。もはやモンスターがその全貌を現すことはほとんどない。主人公はモンスターと戦う軍人ではなく逃げ惑う一般人であり、彼の視点から描かれるモンスター描写は”映画”であることを微塵も感じさせない。モンスターは”背景”として完璧に街に溶け込んでいるのである。舞台をコンクリートジャングル、マンハッタン島に設定したのも、モンスターが見えそうで見えないというリアルさを演出するのに一役買っている。

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 しかし、本作が本当に良く出来ているのは、主人公たちの行動原理の描写である。まず、一番重要なのは、本作唯一のカメラを撮影するハッド(T・J・ミラー)が何故カメラを手放さないのかという点だろう。自分の命が危険に晒されている非常時なのだから、カメラなど捨てて一目散に避難するのが普通だ。この点を軽視すると説得力の無い駄作になってしまう。しかし、本作はハッドを”ウザキャラ”に設定することで、華麗にこの問題をクリアしている。この点は、ABCアシッド映画館において平野秀明先生も指摘していた。ハッドは、見た目もダサく、なによりKYなので仲間内でも邪険に扱われている。そんな彼が、ロブの兄ジェイソン・ホーキンス(マイク・ヴォーゲル)から託されたのが、パーティで参加者のビデオコメントを撮るという仕事である。ビデオ撮影をする限り、ハッドはロブたちの輪に入れてもらえる。人とのコミュニケーションが苦手な彼にとって、ビデオは他人と自分を繋いでくれる唯一のツールなのである。だから彼は、絶対にカメラを手放さない。カメラはハッドのアイデンティティーなのである。

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 また、ロブがベス(オデット・ユーストマン)を助けに行く理由もベタだがちゃんと設定されている。彼は、大学時代からずっと想いを寄せていたベスとベッドを共にすることに成功するが、自分はすぐ日本に赴任するので距離を置こうと冷たい態度。しかし、そのようなロブの態度にショックを受けたベスは、違う男と不本意ながらもなにやら良い感じになりつつある。ロブは、パーティでベスとその男に嫌みを言ったままベスとは生き別れになってしまうのである。そんなベスが今、電話越しに助けを求めている。行かいでか……助けに行かいでか!

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 というように、本作は、登場人物の行動原理をきちんと描写することで映像の”リアルさ”を完璧に補完しているのである。と同時に、ちょっと工夫した仕掛けなんかもあって、本作は本当に楽しい。つまり、ロブとベスが1か月前に撮ったテープに重ね撮りしているという設定。冒頭、ロブがマンションで寝ているベスをこっそり撮影するシーンでロブは言う。

 「今日はいい日になりそうだ。」

 それからせんぞ色々あったラストシーン、モンスターに対する爆撃でロブとベスは(おそらく)死亡し、撮影がストップしたことで再び2人のデートの映像が再生される。一日の締めくくりに観覧車に乗る2人。ロブがベスに対して、最後に何か一言と要求する。ハニカミつつも、ベスは口を開く。

 「今日はいい日だったわ。」

 ピリッと皮肉が効いていて、筆者は悪くない仕掛けだと思った。もっとも、こういった技巧というのは”日常”とは距離のある概念であるから、”リアルさ”を阻害する要因になり得る。この最後の演出も少しやり過ぎ感が無いでは無いが、まぁ、それでもビデオテープという設定をこれ以上なく上手に活かした好ましい演出と言えるだろう。ちなみに、作中で度々撮影がストップして映像が乱れる度、『キング・コング』など往年のモンスター映画の画像がサブリミナル的に挿入されているらしい。筆者はまだちゃんと確認していないが、キング・コングを併せてどうやら3匹のモンスター画像が挟みこまれているようである。その他にも”海に何かが落ちるシーン”など、DVD化されてからマニアが細かく検証することを想定した遊びが、本作にはふんだんに盛り込まれている。YouTubeにアップされたタグルアト関連の映像なども、謎を詳細に検討しあれやこれやと議論したいマニア心を良く分かった趣向だ。このような”作品の謎を明らかにせず観る者に考えさせる”という仕掛けは『エヴァンゲリオン』が社会現象となった一因でもあり、DVDによる詳細な検討やネットによる緻密な検証が可能となった現代ならではのエンターテイメント要素である。本作はこの点でも非常に上手い。

点数:92/100点
 確かに、手ぶれの映像が観にくい!とか、モンスターが全然見えなくて欲求不満だ!という人もいるだろう。しかし、筆者は、このようなモンスターパニックの歴史を変えるエポック・メイキングな傑作が生まれ、そして、それに出会うことができる時代に生まれたことを神に感謝したい。今後も詳細な鑑賞を重ね、製作者の遊びを発見し、"クローバー"誕生の謎を解明していくつもりである。本作のキャッチコピーは、スラッシュオ!にならって”6回観ただけじゃ足りない”にすべきだろう。

(鑑賞日:2012.2.10)

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Mr.Alan Smithee
Posted byMr.Alan Smithee

Comments 2

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-  

めちゃくちゃおもしろかった…
行動原理という点では、
am6:00までに戻れば避難ヘリに乗れるってことで、ロバートがベスをアパートまで救出しに行く意味が見出せた。やすっぽい正義感だったら嫌だナーと思っていたから隊長が避難ヘリ・爆撃について教えてくれてよかった。
マンハッタン全爆撃とかも、マリーナの血が噴出すシーンで一応納得できた(ちょっと唐突に感じたけど)。
あと、ベスな。なんて働くやられ役なんだ。「I document」。確かにお前は頑張った。
もっといろいろあるけど、
とりあえず、めっさよかった。

2012/03/14 (Wed) 01:17 | EDIT | REPLY |   
Mr.Alan Smithee  
Re:

やっぱりいいよね、『クローバーフィールド』。
映画館に観に行っといてホンマ良かった。

ただ、モンスターにいまいち”カリスマ性”が無いよなぁ。
リアル過ぎるというか、グロいというか・・・。
この手の映画は”リアル”さが肝やけど、歴史に残る傑作になるためには、やっぱりモンスターの”格好良さ”に起因する求心力も必要なはず。
『スーパー8』でもそうやったけど、エイブラムスはクリーチャーセンスに欠ける気がする。

2012/03/14 (Wed) 02:57 | EDIT | REPLY |   

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