06
2016

[No.366] オデッセイ(The Martian) <93点>

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キャッチコピー:『70億人が彼の還りを待っている。』

 人類みな、“海賊船・地球号”の兄弟。

三文あらすじ:有人火星探査計画“アルス3”のクルー6名は、任務中、超大規模な砂嵐に襲われたため、ミッションを放棄し火星からの離脱を図るが、折れたアンテナが退避途中の宇宙飛行士マーク・ワトニー(マット・デイモン)を直撃。嵐の中に消えたワトニーが死亡したと判断したクルーは地球への帰路に着くが、彼は奇跡的に生存していた。火星にただ一人取り残された男の、壮絶なサバイバルが始まる・・・


~*~*~*~


 監督は、地球が銀河に誇るSF映画界の巨匠リドリー・スコット。本国アメリカでは、興行的に驚異的な大ヒット。アカデミー賞では、作品賞を始め実に7部門にもノミネートされている。矢が降ろうが星が落ちようが、これは何を置いてでもチェックしなければならない作品である。

 そんな過剰な期待を抱いて、筆者は日本での公開初日である本日2016年2月5日にさっそく鑑賞してきたのであるが、結論から言って本作は、期待を上回る大傑作であった。

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 内容について述べる前に、まず、本作のタイトルバックだが、これは既に本作を鑑賞した全てのSFファンが同じ感想を抱いているのではないだろうか。まぁ、タイトルバックというか、本作は冒頭でいきなりタイトルが登場するスタイルなので、オープニングシーンと言ってもいいのだが、ここがあまりにも『エイリアン』なのである。

 リドリー・スコット作品だから、という先入観や、何かマメ知識的なことを無理やり入れ込んでやろうなどという姑息なブログ運営者魂からではなく、ほとんど“モロに『エイリアン』”と言ってもいいくらいに、本作のタイトルバックは、同作のそれと酷似している。まず、音楽がおもいっきり『エイリアン』のものと似ているし、タイトルの出し方もほぼ『エイリアン』。まぁ、タイトルの出し方に関しては、本作の場合、正確には“消し方”だが。これには何かリドリー・スコットによる意図があるのだろうか。知っている方がいれば、ぜひ教えていただきたいところである。

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 さて、本作のような“サバイバルもの”では、極限状態に追い込まれた人間の“性”を通して、人間の脆さや醜さを描きつつ、しかし、決して諦めない心を持つ主人公が最終的には生還する、というパターンがベタだ。そういった展開を通して、“人間”という存在と向き合い、人間賛歌を歌い上げるわけである。

 しかし、巨匠リドリー・スコットが送る本作は、そんな辛気臭いSFではない。主人公マーク・ワトニーは、火星での圧倒的孤独や宇宙レベルでの極限状態にあってなお、大して悲観することなく軽口を飛ばす。その姿はまるで、作中終盤でもその名が登場した鋼鉄のヒーロー“アイアンマン”、すなわち、我らがトニー・スタークのようでもある(そういえば、本作における終幕の仕方も、ある意味で『アイアンマン』と共通している。)。

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 もちろん、ワトニーは、スタークほど終始ふざけているわけではないし、女たらしなキャラでもない(それどころか、彼は、アルス3のクルー中、ハゲの科学屋と並ぶ女っ気の無いキャラクターだ。)。しかし、未開の土地に作物を植えた者はその土地を“植民地化”したことになる、と聞いた際に発した

 「ざまぁみろ、アームストロング!」
 (In your face, Neil Armstrong!)

であったり、火星からの離脱案としてNASAから提示された、窓も屋根も取り払い可能な限りの加速力を得た宇宙船で大気圏外まで脱出する、というプランを実行に移す直前、散々「NASAの奴らは“お前は『歴史上最も速い男』になれる”なんて言って俺を乗せようとしている。だいたい惑星からの脱出速度を“速い”とかそんな表現で片づけるな!あいつらは『最も速い男』なんていう響きに俺が釣られると思っているんだ!」と悪態をついておきながら、

 「…悪くない響きだ。いいね。」
 (I do like the way it sounds... I mean, I like it a lot.)

と言ってしまうところなんかは、この上なく粋だ。安直で辛気臭いお涙ちょうだいではなく、粋で熱いセリフ回しや展開運びにこそ涙するというタイプの映画鑑賞者は、大変な満足を得ることができるだろう(ちなみに、筆者は上記2つのシーンにおいて、共に泣いてしまった。)。

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 物語全体としても、冗長で辛気臭い展開は極力カットされている。火星に置き去りにされていながら、ワトニーがクルーのメンバーを恨むような描写はただの一度も登場しない。NASAの上層部(長官)にしても、一応マスコミや世論や組織の立ち位置を気にするキャラではあるものの、この手のサバイバルものでありがちな“どうしようもない石頭”ではない。ワトニーだけでなく、本作は全体として意外とノリノリなのである。

 ベタベタに熱いお約束的展開もいくつかある。中でも、火星探査用の母船“ヘルメス”で地球への帰還途上にあるアルス3のクルー5名が、NASAの決定に背いて火星へのとんぼ返りを決断するシークエンスは必見(この展開では、前提としてNASAが、正確には長官が、ヘルメスでのとんぼ返りプランを却下しているのだが、これも“NASAの体面を守るため”というありきたりな理由のみによるものではない。NASAの決定にも一方では納得できるようなバランスの良い描写がされている。)。

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 このシークエンスの何が熱いかというと、ここでヘルメスの5名は、船長の音頭により火星に戻るか否かの採決を行うのである。つまり、『アルマゲドン』で言うところの「国が俺たちに世界を救ってくれと言っている。ノーと言えるか?」というわけだ。さすがに、本作では、船長に20年間一度もノーと言わなかった殊勝なバツイチはいなかったが、やはり、一人ひとりが粋なセリフとともに決行の意思を表明していき、満場一致で「よし!行こうぜ!」みたになる展開は、本当に熱い。

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 以上のような作品のテイストを完璧に補完しているのが、本作で使用される70年代・80年代の“懐メロ”である。最近死去したデヴィッド・ボウイの『スターマン』やドナ・サマーの『ホット・スタッフ』など、古き良きノリノリな楽曲が、火星でのサバイバルを彩る。確かに、最新作に懐メロを敢えて組み合わせる、という趣向はこれまでも結構あった。筆者の中で遡ることができる最も古い例はクエンティン・タランティーノになるのだが、最近では『ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー』なんかが記憶に新しい。しかし、本作のようないわば“正統派SF作品”と懐メロを融合させるというのは、中々斬新なのではないだろうか。

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 まぁ、タランティーノやジェームズ・ガンの手法をリドリー・スコットがパクったのではないか、という邪推も可能だし、ちぐはぐの組み合わせを敢えて行うという意味では、既にキューブリックが『2001年宇宙の旅』において“正統派SFとクラシック”の融合を成し遂げているではないか、という批判も可能ではあるだろう。しかしながら、本作を観てもらえば分かる。火星と懐メロは、けっこう合う。

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 仮に巨匠が過去の手法をパクっていたとしても、別にいいんだよ。作中でワトニーが言及していたように、我々は海賊なのだから。時代遅れの歌なんか口ずさみながら、未知のロマンも、死地のスリルも、もしかしたら、己の“生存”さえも、全て奪い取っていく。何十億年もの間宇宙という海原を航海してきた地球は、ときとして“宇宙船・地球号”なんて例えられたりするけれど、粋で勇敢な宇宙海賊“金髭のワトニー”が教えてくれたように、本当は、日々戦いながらまだ見ぬ地平を目指す“海賊船”に他ならないのである。

点数:93/100点
 鑑賞直後ということもあり、ちょっと興奮した感想になってしまった。正直、筆者が書いた感想と実際の本作とでは、やや趣が違うかもしれない。要は、ご多分に漏れず“何を期待して観るか”ということなのである。筆者は、相当の緊迫感や閉塞感、それなりの辛気臭さといったものを覚悟して鑑賞に臨んだので、本作が有する予想外のノリノリさに痛く感銘を受けた次第である。本当は、万人に分かりやすく本作を例えるなら、漫画『宇宙兄弟』を引き合いに出すのがいいのだろう。粋な展開やセリフ回しも共通しているし、試行錯誤の末ピンチを切り抜けていく感じも類似している。まぁとにかく、本作は、SF好き、リドリー・スコット好きの筆者が、21世紀におけるSF作品のベスト5以内には入れたい傑作であったということを、第一報としてお伝えしたい。もちろん、"心の映画ノート"にさっそく赤ペンでメモしておいたことは、言うまでもない。

(劇場鑑賞日[初]:2016/2/5)
(劇場:TOHOシネマズ梅田)










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Tag:劇場鑑賞作品 ヘンテコ邦題 天の光はすべて星

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