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2016

[No.387] Mr.タスク(Tusk) <52点>

CATEGORYホラー




キャッチコピー:『【セイウチ人間】にされる恐怖・・・』

 オールがある限り、
 舵の柄と棍棒がある限り、
 俺は最後まで闘ってやるぞ。
  ― アーネスト・ヘミングウェイ(「老人と海」より)

 お前それ
 セイウチにされても
 同じこと言えんの?
  ― Mr. Alan Smithee

三文あらすじ:友人であるテディ・クラフト(ハーレイ・ジョエル・オスメント)とポッドキャストを運営するウォレス・ブライトン(ジャスティン・ロング)は、『キル・ビル』を真似て片足を失った少年を取材するためカナダを訪れるが、少年はその前日に自殺しており、取材は空振りに終わる。落胆するウォレスだったが、過去に遭遇した奇妙な体験を語ってくれる元船乗りの老人がいることを知り、その老人ハワード・ハウ(マイケル・パークス)に会うため人里離れた屋敷へと足を運ぶ。ウォレスは老人への取材を開始するが、睡眠薬入りの紅茶を飲まされ卒倒、目覚めた彼は、老人の手によって自らの左足が切断されていることと、彼が自分を“セイウチ人間”に変身させようとしている狂人であることを知る・・・


~*~*~*~


 アメリカでは2014年9月、日本では2015年の7月に公開された異色の拷問系ホラー。個人的には、ずいぶん前に実弟の家に泊まりに行ったときに、何かビデオでもレンタルするかとTSUTAYAを物色していて発見した作品である。そのときは借りなかったのだが、心の映画ノートにはしっかりと書き記し、最近になってレンタルの上、鑑賞した。見つけた当時は、え?狂人が罪なき青年を“セイウチ”にしようとする話?おいおい、ワクワクすっぞ!と小躍りしていたのだが、今となっては、あのときの自分をぶん殴ってやりたい。こんなにも精神を削られるとは・・・。

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 本作は、エグい。まずは当然、映像的にグロい。主人公であるウォレスは、狂った老人に足を切断され、腕の肘から上を胴体に縫い付けられ、舌を引っこ抜かれ、上顎骨に開けられた穴に自分の脛の骨から作られた牙(Tusk)を埋め込まれる。言ってみれば、セイウチ版『ムカデ人間』みたいな雰囲気だろうか。とはいえ、別に直接的な手術シーンが延々と流れるわけでもなく、ビジュアル的なグロさだけに限れば、その筋の下の中といったところだろう。

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 筆者を心底辟易とさせたのは、本作のストーリー部分である。これがエグいんだ。あらすじ等の周辺情報から予測し、本作をワン・センテンスで言い表すなら、“狂人が青年をセイウチにしようとする話”、となりそうである。しかし、実は、これは正確な表現ではない。厳密を期すならこうだ。“狂人によってセイウチにされてしまった男の悲劇”

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 普通、こういった“狂人に監禁されて拷問される系の話”というのは、“囚われた者の死”をタイムリミットとして展開されることが多い。『羊たちの沈黙』なら、あの市議会議員だったかの娘が死ぬまでにはたしてクラリスは犯人を見つけられるのか、という具合に物語が展開される。もちろん、クラリスのように結局犯人を特定し、被害者を救出する作品がある一方、捜査機関の努力も空しく囚われの被害者が殺されてしまう作品もある。しかし、いずれにせよ、被害者の死をタイムリミットにした作品を鑑賞する我々は、少なくとも終盤までなら、まだ被害者は助かるかもしれない、というある種の“希望”を維持することが可能だ。

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 本作の場合、この“タイムリミット”となる事象が“死”ではなく、主人公の“セイウチ化”という少しトリッキーなものではあるが、大枠では変わらない。主人公からのSOSを受けた恋人及び親友と、彼らに加わって捜査する元警部が、はたして主人公の“セイウチ化”を防ぐことができるのか?そんな縦糸だったのなら、“希望”を持って鑑賞を続けられる。しかし、本作では、なんと主人公たるウォレスが中盤辺りで早々とセイウチにされてしまうのである。そして、あとはもう、絶望しかない。でもまぁ…素人の手術でセイウチにされたのだから、ひょっとしたら最終的には医療機関の再手術である程度もとに戻るのでは?そんな浅はかな希望など微塵も沸いてこない。無理なんだ。本作でキ○ガイじじいが作り上げた“セイウチ”は、いくら頑張ってもとに戻しても、もはや“人間”にはならない。作中、じじいは、「本当は、人間はセイウチなんだ…。」みたいな発言をするが、“人間はセイウチである。”という命題の逆は決して真ではない、ということをありありと実感できる醜悪なビジュアル。これはある意味で、極めて良くできたクリーチャー造形ともいえるだろう。

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 加えて、筆者の心を深くえぐってきたのが、主人公の恋人と親友が浮気している、という展開。これは、まぁ、よく考えれば、本作鑑賞時の筆者のホルモンバランスが崩れていただけかもしれないのだが、一応理由づけを試みるなら、大きく二つ挙げられる。

 まず一つは、恋人と親友が不釣り合いという点。恋人であるアリーをジェネシス・ロドリゲスという女優が、親友であるテディをあのハーレイ・ジョエル・オスメントくんが演じているのだが、両者は全然釣り合っていない。ジェネシス・ロドリゲスは、本当に可愛い。というか、本当に筆者のタイプだ。これに対し、オスメントくんは、みなさんご承知の通り、『シックス・センス』の面影などどこへやら、ただの無精ひげのデブに成り下がっている。これはいけない。以前『タッカー&デイル』の感想でもちらっと書いたけれど、当ブログは、見た目的に分不相応な男女の色恋沙汰を応援しない。なぜかは上手く説明できないが、要は、なんだよ!そんなのズルいよ!って思っちゃうのである。

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 浮気展開に筆者が落ち込んだ二つ目の理由は、主人公の罪と罰が不釣り合いという点である。物語というのは、大抵の場合、“因果応報”という規律によって成り立っている。欲をかいて大きいつづらを選ぶから、魑魅魍魎に殺される。日ごろウソばかりついているから、いざオオカミが襲ってきたとき信じてもらえない。悪いことをしたからそのしっぺ返しをくらう、というのが、ストーリーテリングにおける基本中の基本なのである。そして、この命題では、大抵の場合、その裏が成立する。つまり、悪いことをしていない奴には罰を与えてはいけない、ということだ。では、本作の主人公ウォレスは、恋人に浮気などされる覚えのない聖人君子なのかと言えば、実は、そうではない。

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 最近上り調子のポッドキャスターである彼は、調子に乗って女遊びをしまくっているというキャラクター。で、あるのなら、ウォレスの恋人がデブと浮気することも、もっともな“因果応報”ではないか、と思える。しかし、問題は、ウォレスのチャラさをセリフでしか伝えない、というところにある。アリーはホットだが結婚する気はない、だとか、カナダにはファンが多いから浮気し放題だ、だとか、セリフではウォレスの破廉恥さを表現しているが、彼が実際にアリー以外の女を抱いている描写は、皆無である。その一方で、カナダ出発前にアリーといちゃいちゃしているシーンはちゃんとある。しかも、ここは、筆者的な観点から言うのなら、なかなか真剣に彼女の相手をしてあげているではないか、という印象を持つような立て付けになっていたので、やっぱりウォレスがいけてないデブに可愛い彼女を寝取られるほど悪い奴だとは、どうしても思えなかったのである。

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 まぁ、この浮気展開も、以上で筆者が簡単に書いたようなものではなく、本当は、愛だったり人間性だったりを浮き彫りにするための前フリになっているのだとは思うのだが。それに、まぁ、アリーというキャラクターは、別にテディに惚れているというわけではないのだろうけど(「あなたといると自分がまだ美しいって思える」というセリフとか、「歯を磨いてベッドに来て」とかいうセリフの端々で表現されているように思う。)。でも、どうしても納得できないんだよな。

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 なお、本作において不釣り合いなのは、何も色恋沙汰に限ったことではない。主人公がセイウチにされてしまうという罰とこれに対応する罪も、個人的には均整がとれていないと感じた。本作で描かれる主人公の罪は、“キル・ビル少年を笑いものにした”という事実である。ユマ・サーマンの真似をして本物の刀をうれしそうに振り回していた少年が、うっかり自身の右足を切り落としてしまうという動画。主人公はこれをネットにアップし、ポッドキャストで盛大にいじり倒した。結果、主人公のポッドキャストは大うけし、少年はネット上で大注目されるようになる。主人公の理屈からすれば、人気者になれて良かったじゃないかってなもんだろうが、少年は思い悩み、主人公に取材されまた笑いものにされる前に自ら命を絶った。作中多くは語られないが、まぁ、こんな顛末だろう。確かに、主人公は、物理的に手を下してはいないにしろ、結果的に一人の少年の命を奪ったとも言い得る。人ひとり殺すような悪い奴なのだから、そりゃあ、セイウチにされても文句は言えんだろう、という意見も、当然あり得るだろう。

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 でもなぁ…。あくまでも筆者の個人的な見解だが、これ、そこまで主人公が悪いか?キル・ビル少年の苦悩も想像はできる。右足を失うという絶望のどん底で、どこぞのいきった野郎が世間を巻き込んでやいのやいのと囃し立ててくるのだから。でも、少年。右足は、“自分で”切り落としてしまったのだろう?これが主人公のせいで切断に至ったのであれば、筆者も共に憤り、セイウチ化した主人公の鼻にでっかいブヨブヨを貼り付けてトドにしてやるところなのだが、事実として自分でやってしまったのであれば、その事実を他人からどう評価されたいか、それは、お前のプライドの問題だ。

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 奇しくも主人公の名前と同じ姓のマーセルス・ウォレスというギャングが言っていたけれど、プライドなんてのは、傷つくだけで役に立たない無用の長物に他ならない。“ファック・プライド!”だぜ、少年。足は生えてこないけれど、自分の心もちは変えられる。足は無くたって、気の持ちようでまた“立ち直れる”さ。・・・まで言うと言い過ぎだろうか。まぁ、とにかく、主人公の上記“罪”に対する“罰”が、例えば、主人公も同じく片足を失うとかに留まっていれば筆者も納得したのだが、足だけでなく体のそこら中を切り取られたり貼り付けられたりしたあげく、セイウチにされてしまうというのでは、いくらなんでも不釣り合いで救いが無さすぎる、と感じたのである。

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 なんだかしょうもない話ばかり書いてしまったので、最後に本作のキャストを紹介して終わろうと思う。口が裂けても大作などとは呼べないカルト・ホラーであるにも関わらず、本作はキャストが超豪華だ。

 筆者最愛のジェネシス・ロドリゲスとただのデブになってしまったオスメントくんは既に言及したので省略するとして、個人的に何を置いても特筆しておきたいのは、哀れなポッドキャスターをセイウチにしてしまう超変態紳士ハワード・ハウを演じたマイケル・パークスである。

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 何を隠そう、彼は、タランティーノ作品の常連中の常連。もしかしたら、同一キャラクターでの登場という意味では最多出演なのではないかな。そう、テキサスが誇るオトボケ保安官アール・マックグロウである。

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 ロバート・ロドリゲス監督作品も含め、パークスがマックグロウとして出演した作品は、『フロム・ダスク・ティル・ドーン』『キル・ビル vol.1』『キル・ビル vol.2』『プラネット・テラー』『デス・プルーフ』の5作。よく考えれば、これは“シネマティック・ユニバース”のはしりだな。ちなみに、パークスは、『ジャンゴ 繋がれざる者』にも鉱業社の社員としてちらっと登場している。それと、『キル・ビル vol.2』でキドーにビルの居場所を教えてくれる老人エステバンもパークスが演じていた。きっと、本作で主人公がカナダへ行く切っ掛けとなった“キル・ビル少年”は、パークスに引っかけているのだろう。まぁ、パークスの出演ありきで『キル・ビル』に設定したのか、『キル・ビル』ありきでパークスを引っ張ってきたのかは分からないけれど。

 続いて、セイウチにされてしまう哀れな青年ウォレスを演じたのは、ジャスティン・ロング

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 個人的には、もちろんこう呼びたい。世界一不運な不死身の男とパートナーを組み世界を救った上、彼の娘とお付き合いを試みる命知らずなナイス・ガイ、マシュー・ファレル。シリーズ4作目の『ダイ・ハード4.0』でマクレーンとバディを組む、あのオタク青年である。出だしで、“あ、マシューやん”、と思ってしまったがため、筆者は本作の主人公にやけに肩入れしてしまったのかもしれない。

 それから、これは、筆者と趣味を同じくしていなくても注目するであろう驚きのキャスティング。なんと、本作にはジョニー・デップが出演している。

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 演じたのは、長年に渡りハワード・ハウを追い続けてきた元ケベック警察警部ギー・ラポワンテ。なんだかトボケてて、フラフラしているので、じーっと見ていると「あれ?これ、ジョニー・デップじゃない?」と気付くのだが、クレジットにも“ジョニー・デップ”とは出てこない(“ギー・ラポワンテ”名義)ので、観終わっても気付かないままの人だっているのではないだろうか。ちなみに、このギー・ラポワンテという男は、本作の監督ケビン・スミスが本作の次に撮った本年2016年公開の作品『Yoga Hosers』にも出てくるみたいだ。さらに、ちなみに、本作に登場するコンビニ店員のふてこい女子二人組は、ケビン・スミスの娘とジョニー・デップの娘である。彼女らは、『Yoga Hosers』では主役をはっている。

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 最後に、監督自身、ケビン・スミス。監督としてのデビュー作『クラークス』が今でもカルト的人気を誇る人物だが、俳優としての出演作もけっこう多い。中でも筆者が特筆しておきたいのは、これまた『ダイ・ハード4.0』。全米を麻痺させるサイバーテロリストの脅威にも寸分臆することのなかった最強のハッカー、ワーロックを演じていたのが、ケビン・スミスである。

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 ちなみに、本作の原案者は、ケビン・スミス自身。なんでも、あるとき彼が「1日2時間、セイウチの格好をしてくれたら、部屋をタダで貸します。」という奇妙奇天烈な広告を見つけ、自身が運営するポッドキャストでそれをいじっている内に、どんどん発想が膨らんでいったそうで。エンドロールの最後の方で流れるポッドキャストらしき音声は、きっと実際の音源を使っているのだろう。

点数:52/100点
 観る者を憂鬱と後悔のどん底に叩き込む、醜悪で残虐なカルト・ホラー。とはいえ、最近、ゾンビだったりホラーだったり拷問だったりに傾倒していた筆者にとっては、ある意味で、久しぶりに“人間性”を取り戻す良い機会だったのかもしれない。

(鑑賞日[初]:2016.7.10)










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Tag:グロ注意 悪趣味映画 変態紳士

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