[No.395] ゾンビーバー(Zombeavers) <80点>





キャッチコピー:『人間いじめるのちょ~楽し~!』

 “ホラー映画”ってちょ~楽し~!

三文あらすじ:ある日、トラックで輸送中の汚染廃棄物がビーバーの住む湖に落下。その近くで週末を過ごすためやってきた女子大生のジェン(レクシー・アトキンズ)、メアリー(レイチェル・メルヴィン)、ゾーイ(コートニー・パーム)の三人組がバカンスを楽しんでいると、それぞれの恋人や元彼らの男性たちが乱入し、一行は能天気に浮かれ騒ぐ。そんな中、浴室に現れた凶暴なビーバーを彼らは殴り殺すが、翌日、捨てたはずの死体が見当たらず、それどころかそこから逃げたような足跡が残っており…


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 本国アメリカでは2014年に公開され絶賛されたという異色のゾンビ映画。日本では2015年7月から一部の劇場で公開されていたようである。今や星の数ほどの組み合わせがある“ゾンビ映画”においては、当然既に“ゾンビ×動物”という作品が存在しているが、そんな中、本作は、なぜか“ゾンビ×ビーバー”という謎の組み合わせに特化した珍作だ。

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 しかし、この奇妙でふざけた組み合わせが抜群におもしろい!本作は紛うことなき“バカ映画”であるのだが、しかして、映画好きが本気で作ったことが伺える中々の傑作なのである。食べ物でもそうなんだけれど、いわゆる“グルメ”という人種の行きつく先は、猿の脳みそだったりセイウチの睾丸だったりといった“ゲテモノ”である。映画だってこれといっしょ。映画を愛する者が行きつくのは、“バカ映画”という“ゲテモノ”なのであり、逆に言えば、“バカ映画好き”という人種は、実は“映画愛”に溢れた真の"映画通"であることが多い。

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 本作のクリエーターもおそらくはこの人種。彼らは、ゾンビ映画とかモンスター・パニック映画とかを含んだ広い意味でのホラー映画の構造をつぶさに観察し、それを巧みに操っているように思える。例えば、ヒロインであるジェンがゾンビになってしまうという展開。これはオチで無常を演出するためのギミックではない。主人公であったはずの彼女は、クライマックスを待たずして“ゾンビーバー”になってしまうのである。この展開は、通常のホラー映画の枠組みを逸脱しており、映画ファンがビックリするポイントであろう。

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 また、ジェンがゾンビとなって襲ってくる際の演出にも注目だ。ジェンの(元)彼氏であるサム(ハッチ・ダーノ)との浮気を告白したメアリーが一人寝室で寝ていると、目の座ったジェンが入ってくる。歩みを進める彼女はそのままメアリーに覆いかぶさり、メアリーの「あなたのことは好きだけど、恋愛感情は無いのよ…」というセリフによって、我々おっさんホラー映画ファンは、すわ!レズ展開か!と色めき立つ。しかし、その刹那、ジェンはバキバキと“ゾンビーバー”に変身し、メアリーに襲い掛かるのである。

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 しかしながら、ここでおっさんホラー映画ファンは慌てふためいたりしない。レズ展開の不発に落胆はしているものの、我々はしっかり分かっている。これは、“メアリーの夢”だと。一人で寝ているメアリーは、自責の念からジェンが“ゾンビーバー”となって自分に襲い掛かる“夢”を見ているんだ。こういう展開は、ホラー映画における真っ当なベタ。今まで何回も観てきた展開である。しかし、落胆から立ち直って得意げなホラー映画ファンは、ここで驚愕する。ジェンの“ゾンビーバー”化は、夢なんかじゃない。主人公であるはずのジェンは、本当に“ゾンビーバー”になってしまったのである。これはおもしろい脚本だと思った。

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 もう一つ、定番を外してきているのは、ジェン死亡後、ゾーイが主人公になっていく、という展開。ホラー映画においては、絶対にやってはいけないことがいくつかある。詳しくは『キャビン』という映画で語られていたが、その内の一つが“破廉恥な行い”。傑作モンスター・パニック『ジョーズ』の冒頭で破廉恥にも男と砂浜を走り回り、挙句の果てには全裸水泳を敢行した女性が巨大鮫に食べられてしまったように、広い意味でのホラー映画においてちょっとでもエロを解放した者の末路は、死と相場が決まっている。

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 つまり、ゾーイというキャラクターは、とんでもなく破廉恥なのである。冒頭から生娘が耳をふさぐべき下ネタを連発し、湖ではトップレスで泳ぎ回り、男子禁制のはずだった別荘に彼氏たちを呼びつけてセックスに溺れる。通常のホラー作品であれば、こんな女が主人公になることはない。しかし、本作終盤の展開では、この淫乱女がシガニー・ウィーバーも顔負けというくらいの頑張りで以て、凶悪なビーバー軍団と死闘を繰り広げていくのである。確かに、以前感想を書いた『MAMA』というホラー映画でも、最初はロックンロール調でややビッチ感のあった女性が、最終的にはしっかりした“母親”として悪霊と闘っていたので、そういう例が無いわけではないのだが、それにしてもこの手のジャンルの定石を外すおもしろい趣向だと筆者は思った。

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 さらに、本作がおもしろいのは、結局ゾーイが死んでしまうというオチである。仲間を全員失い、ボロボロドロドロでなんとか逃げのびたゾーイ。しかし、アヴァン・タイトルでよそ見運転の末に鹿を轢いてしまい、その衝撃で積み荷の薬剤を湖に落としてしまうという失態を演じた本作の元凶たる運転手が再び登場し、これまたよそ見運転の結果、ゾーイをひき殺してしまう。健全な映画鑑賞者からすれば、少しぶっ飛んだシニカルであり、ある意味で悪趣味なオチかもしれないが、バカ映画好きからすれば手を叩いて大笑いすべき大変ステキな“大団円”である。

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 しかしながら、このオチをよく考えてみれば、実は理に適っているということに気付く。いくつかの定石をあえて外してきた本作だが、最終的にはホラー映画のルールに則った締め方がなされているというわけだ。

 そもそも、本作の主要メンバーには、前半の主人公として“だし”に使われたジェン以外、ホラー映画で生き残るべき人物が一人もいない。先述の通り、メアリーとサムは友情を顧みず浮気に走った罪深き男女だし、ゾーイの彼氏であるバック(ピーター・ギルロイ)はセックスのことしか話さない破廉恥野郎。メアリーの彼氏であるトミー(ジェイク・ウィアリー)は一見何も悪いことをしていないように思うが、こいつはアメフト選手が着ていそうなブルゾンを着用しているのである。少なくとも筆者は、ホラー映画においてアメフト選手が着ていそうなブルゾンのキャラクターが生き残った例を、すぐには思い出せない。

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 ここでポイントなのは、後半の主人公たるゾーイですらその例外ではない、ということ。彼女は元々“歩く破廉恥”と言っても過言ではないくらいの淫乱女であった。したがって、後半でゾーイが主人公のごとく七転八倒する展開は、実はただ単に定石を逸脱させただけではなく、ホラー映画の構造とファンの勘繰りを巧みに操った秀逸な遊びだと個人的には思うのである。ちょっと大げさに言うなら、キチ○イが主張する世界の終焉が実は真実だった『10クローバーフィールド・レーン』だとか、キチ○イが主張するジャージー・デビルが実は実在した『デビルズ・フォレスト』と同様の趣向であろう。

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 もちろん、このような“定石外し”は、大枠としてちゃんとベタを描けているからこそ成立している。丁寧なプロットや脚本は言うに及ばず、この手のジャンルにおけるロング・セラーなモンスターの出生理由“薬剤による突然変異”もそうなら、往年のホラー映画を彷彿とさせる古き良きBGMもそうだ。また、CGには出せない生の質感を大切にしたアニマトロニクスによるモンスター造形も我々の郷愁を掻き立ててやまない。総じて、やっぱりホラー映画って超楽しいな、ということを再認識させてくれる傑作ゾンビ映画である。

点数:80/100点
 しっかりベタを理解した“バカ映画好き”による“バカ映画好き”のための“バカ映画”。前回感想を書いた『ゾンビワールドへようこそ』とは対照的に“女の友情の脆さ”を痛感できる作品でもある。そろそろ夏も終わりに近づいているが、ビーバーにかみ殺されないようにくれぐれも破廉恥な行動は慎もう。

(鑑賞日[初]:2016.8.15)

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