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29
2016

[No.397] ハッピー・ボイス・キラー(The Voices) <68点>

CATEGORYドラマ




キャッチコピー:『キュートでポップで首チョンパ!』

 鬼の居ぬ間にハッピー・ソング!

三文あらすじ:アメリカの片田舎ミルトン、犬のボスコ(声:ライアン・レイノルズ)、猫のMr.ウィスカーズ(声:ライアン・レイノルズ)と平凡な生活を送る青年ジェリー(ライアン・レイノルズ)には、他人には聞こえない“声(The Voices)”が聞こえるという秘密があった。日々犬と猫と会話して過ごす孤独な彼は、ある日、自身が働く工場の経理係フィオナ(ジェマ・アータートン)を中華料理デートに誘うも、車の道中、ふとしたことで彼女を刺し殺してしまう。慌てふためいたジェリーは、家に持ち帰ったフィオナの死体を隠ぺいのため切り刻むのだが、冷蔵庫にしまい込んだ生首すらもしゃべり始め、彼は次第に正気を失っていく・・・


~*~*~*~


 2015年に公開されたサンスペンス、いや、ホラー…じゃなくて、コメディ…でもなくて、なんなんだろう?この映画は、ジャンル分けが非常に難しい。一人の男が次々と女性を殺していく作品だから、一見してサスペンスやホラーにも思える。しかし、その男の恐怖を主眼に置いて描いているわけではない。キャッチコピーの通り、全体としてはキュートでポップな雰囲気もあるし、主人公が飼い犬とか飼い猫とか飼い生首とかとペチャクチャおしゃべりするので、どことなくコメディな感じもする。まぁ、ジャンルなんて各々が勝手に決めればいいのだけれど、筆者は個人的に本作を“ドラマ”にカテゴライズしたいと思う。

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 本作は、一人の連続殺人鬼を描いたヒューマン・ドラマである。殺人鬼が主人公の映画というのは実はけっこうあるもので、当ブログで既に感想を書いたもので言えば、例えば『アメリカン・サイコ』なんかがそうだろう。しかし、殺人を心底楽しむ一人の狂人の恐怖を中心的に描写した同作とは異なり、本作は、主人公の心の機微とか葛藤とかを重点的に扱っている。

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 『アメリカン・サイコ』の主人公ベイトマンと同様、本作の主人公ジェリーも、言ってしまえば“狂人”である。遺伝性の幻聴・幻覚を患っており、現実と虚構の境目もあやふやだ。要は、ジェリーという男は“精神異常者”なのである。そして、これは同時に、ありがちな“連続殺人鬼像”である。現代社会における人間の暮らしの中で、人を2人も3人も殺すなんてことは、普通ならあり得ない。それは、我々の暮らす社会が、殺人を手段とした目的の存在しないコミュニティとして構築されているからである。もちろん、突発的な怒りであったり、積年の恨みであったり、または過失であったり、はたまた邪魔者を殺害することが例外的に目的達成の近道になっていたりするために人を殺す者はいるだろうが、2人も3人も連続で殺すとなると、そんなことをする奴はもう殺人を目的とした殺人犯なのであって、マジョリティを“普通”とするなら“異常”と形容されることになる。そして、一般的な連続殺人鬼というのは、たいていこれに当てはまる。定期的に社会を騒がすシリアル・キラーは、みな何かしらの精神疾患を有しているものだ。

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 つまり、本作は、ベタな連続殺人事件の枠組みの中で主人公にする人物に工夫を凝らした作品、ということになる。こういう、従来の“加害者”を“主人公”にしてみる、という趣向は、飽和状態になった人気ジャンルで度々見ることができる。ゾンビ映画というジャンルで数年前に流行っていた“ゾンビが主人公”という作品たちは、その好例だ。したがって、本作に対する感想としては、あぁ、ニュースでは憎むべき“敵”として報道されている連続殺人鬼にもこんなドラマがあるのだなぁ…というしみじみとした感慨こそが、一義的には正しいということになるだろう。

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 しかし、筆者はこう思った。“やりきれない…”、と。母から精神の異常を受け継ぎ、父からは執拗に虐げられ、おそらくはその後の人生の大半を“異常者”というレッテルの下で過ごしてきたであろうジェリー。思いを寄せる同僚に真っ当なアプローチをかけ、完全なる過失によって彼女を刺してしまったこの男には、十分すぎるほど情状酌量の余地があるだろう。でも、このやりきれなさはどうしたらいい?フィオナの親は、リサ(アナ・ケンドリック)の兄弟は、アリソン(エラ・スミス)の友人は、親しい者を失った怒りと悲しみをどう処理したらいい?

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 かつて、病や災害によって愛する者を理不尽に奪われた人々は、“鬼”という概念を創り出した。それは、加害者無き喪失に伴うやりきれなさを克服するための“人工の加害者”と言っていいだろう。それが極めて生産性の希薄な営為だということは、分かっている。死んだ者は戻らない、なんていう陳腐な訓戒は、何百年前から周知だったはずだ。でもさ、やっぱり必要なんだよ。直接的な非難や復讐まではできなくても、せめて愛する者を失った“理由”は必要なんだ。

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 連続殺人鬼であるジェリーを主人公に据え、彼の悩みや葛藤や孤独をまるで“殺人の免罪符”のように描き、あまつさえ、最終的にはある種の“ハッピー・エンド”にまとめ上げた本作は、被害者の近親者から加害者を奪い取ったようなものである。もちろん、病や災害とは異なり、本作の殺人鬼には人としての実体がある。しかし、抽象的な意味での“加害者”は、やはり被害者サイドと一線を画した存在でなければならない。殺人鬼はあくまでも“鬼”でなければならず、“人間”側に入ってきてはならないのである。

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 したがって、本作のラスト、すなわち、死したジェリーが今わの際に見た妄想、というか、ジェリーの魂が天国に召されるシーンは、なんだか観ていてやりきれない。もちろん、死んでしまったジェリーを可哀想に思っているのではない。殺害した3人の女性、母親、父親、そして、なんだかコスプレっぽいイエス・キリストと一緒にオージェイズの名曲『Sing a Happy Song』を歌い踊るジェリーを見ていると、ふざけるなよ…!という気持ちになってくる。辛い精神疾患とか、悲しいトラウマとか、日々の葛藤とかで散々“言い訳”し、その上、その加害者は、「ヘイ、ガールズ!殺しちゃってゴメンね♪」なんて言いながら楽しそうに浮かれている。やるせない、やりきれない、この怒り、やり場がない。

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 まぁ、本作の監督マルジャン・サトラピは、観た者にそういった違和感を覚えさせ、精神疾患による連続殺人にある種の“問題提起”を行うため、あえてそのような描写を入れているのかもしれないが。あるいは、一見して“悪”である殺人犯にだって我々と同様の葛藤や彼特有の悩みがあるのだから、ステレオタイプな“善悪”に縛られるべきではない、と素直に納得しておく方が賢明なのかもしれない。はたまた、従来の“加害者”を主人公に配置転換した目の付けどころと、そんな作品が“不謹慎”にならないよう絶妙なテイストでまとめ上げた監督の手腕を、正直に誉めておいた方がいいような気もするな。

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 さて、今回は随分と独断的な極論を述べてしまったので、最後に連続殺人鬼を演じた俳優について一言。本作で孤独な愛犬猫家ジェリーを演じたのは、ライアン・レイノルズ。1990年代からコンスタントに活動している俳優だが、筆者の中では、『グリーン・ランタン』でずっこけた俳優でしょう?というイメージが強かった。まぁ、世間も似たり寄ったりだっただろう、今年の年初めくらいまでは。彼が主演を張り2016年2月に全米で公開された『デッドプール』が世界中で爆発的にヒットしたため、今や彼もすっかりスターの仲間入りだ。同作では、確か製作を渋っていた20世紀フォックスに業を煮やしたレイノルズが、自らの手でスクリプトだったかテスト映像だったかをネットにリークし、アメコミ・ファンの心に火をつけて彼らの嘆願を得た、という製作経緯があったのではなかったかな(もしかしたら、監督自身がリークしたのだったかもしれない。)。本作でも、彼は自ら監督に「犬と猫の声はジェリーの心の声なのだから、両方とも俺が演じる!」と直談判したらしい。すごい役者魂だ。さしずめ彼は“演技の鬼”といったところであろう。

点数:68/100点
 全体として非常に秀逸な佳作であることは、誤解の無いよう言っておきたい。個人的にあまりにも切なくなってしまったため、思わず文句をぶちまけてしまった。なお、これも誤解の無いように一応言っておくが、筆者は、猟奇殺人事件の裁判において“心神耗弱”や“心神喪失”を主張する弁護士を決して非難しない。検察側と弁護側が互いに全力で相対する主張をぶつけ、その上で裁判官が最も妥当な決断を下すというのが裁判制度なのであるから、弁護士たちは自身の職務を全うしているだけだ。頑張れ、弁護士!

(鑑賞日[初]:2016.8.20)










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