[No.411] 高慢と偏見とゾンビ(Pride and Prejudice and Zombies) <59点>





キャッチコピー:『不朽の名作、感染。』

 高慢と偏見と、いや、今はただ生存を。

三文あらすじ:謎の疫病が蔓延し、死者が生ける屍となって人々を襲う18世紀末のイギリス、田舎町ロングボーンに暮らすベネット家の五人姉妹は、少林拳の手ほどきを受け、立派な戦士となるべく日々修行に余念がない。そんなある日、近所に資産家のビングリー(ダグラス・ブース)が越してきて、その友人のフィッツウィリアム・ダーシー(サム・ライリー)が訪問してくる。姉妹きっての優秀な戦士である次女エリザベス(リリー・ジェームズ)は、ダーシーの高慢な態度にはじめ憤概していたのだが・・・


~*~*~*~


 日本では本日9月30日より公開の本作『高慢と偏見とゾンビ』。イギリスの古典的名作小説『高慢と偏見』のパロディ小説を原作とするこの異色の作品は、ゾンビ映画ファンにとって2016年秋の最注目作と言って良いだろう。実際、筆者が先ほど鑑賞を終えてきたレイトショーでも、何やら“不健全”そうな、何やら一癖も二癖もありそうな観客が、そこそこ入っていた。まぁ、あくまでも“そこそこ”であるが。そもそも、公開初日にも関わらず、TOHOシネマズ梅田では別館のシアター10でしか上映していないという不遇ぶり。とはいえ、いわゆるジャンル映画なんてのは、そんなもんである。どーせ大して客は入らないだろうという劇場サイドの偏見は、もちろん的を射ている。

prideandprejudiceandzombies1.jpg


 逆に言えば、ゾンビ映画ファンは誰に気兼ねすることもなく堂々と本作を楽しめば良いというわけで、筆者なども当然ずいぶん前からワクワクを募らせていた。まず、本作の日本版予告編。これは素晴らしいな!この本当に『高慢と偏見』という時代映画の予告が始まったかのような構成。ジョークですぐ怒る日本でもこういう粋なことができるんじゃないか。あたかも『英国王のスピーチ』のようなナレーションをあてているのも大変グッド(たぶん違う人だけど。)。当然、個人的に本年のヨコデミー賞候補である。

prideandprejudiceandzombies2_2016100301133592e.jpg


 で、肝心の本編なのだが、これはまぁ…言ってしまえば、まぁまぁといったところ。完膚なきまでに最悪というほどではないが、良作とは言い難いし、口が裂けても名作とは言えない。もちろん、良いところもいっぱいある。元ネタの小説を読む暇と気力が無かったため、筆者は2005年の映画版『プライドと偏見』を予習として鑑賞したのだが、同作との比較がまず楽しい。あ、全く同じやり取りだ!とか、お、ここはそう変えてくるのか!とか、そんな感じで楽しめる。筆者の好きだった「ベネット嬢とベネット嬢と…ベネット嬢です。」のギャグもしっかりそのまま登場する。

prideandprejudiceandzombies3_20161003011337cd5.jpg


 また、拳で語り合うという描写は本作独自の評価ポイントだろう。エリザベスが姉妹たちと男について意見を交わすところとか、ダーシーがエリザベスに求婚するところとかで、彼女らは互いに戦いながら会話する。『高慢と偏見』の映画化である『プライドと偏見』ではこんなことは決してできないわけだし、会話と動きで二重の意味合いを同時に表現するという点は、非常に映画的で素晴らしい趣向だ。もっとも、論戦で勝利した者が体術でも相手を圧倒する、あるいは、会話では優位に立っている側が体術では負けることでその秘めた本心が象徴されるというような効果的な演出にはなっていなかった気もするが。

prideandprejudiceandzombies4.jpg


 それから、ビジュアル的な話をすると、姉妹が舞踏会の身支度をするシーンなんかは非常に良かった。『プライドと偏見』では当然、髪をコテコテに作り込んだり、リボンがどうのこうのという話になるのだが、本作では予告編にも出ているように、ナイフ等で武装する様が外連味たっぷりに描かれる。ここは演出のテンポも良かったし、ゾンビが蔓延した世界での身支度というSF的なガジェット感と、結婚相手を見つけるための舞踏会は女にとってまさに“戦場”なのだという当時の時代性が見事に合致した素晴らしい演出だと感じた。あと、舞踏会場にゾンビが襲来した際、スローモーションで姉妹の戦闘を描くシーン。これも非常にカッコいい。

prideandprejudiceandzombies5.jpg


 そんなわけで、本作には良いところが随所に垣間見えるのだが、総じて悪いところが散見されるのもまた事実である。まぁ、これは鑑賞後第一報だから、それこそ映画ファンとしての高慢やゾンビ好きとしての偏見が介在しているかもしれないが(そして、筆者の場合、大抵は第一報で終わってしまうのだが)、実際、日本に先んじて公開されている他国での評価は、そんなに芳しくない。Rotten Tomatoesなんかだと、批評家の評価が42%、一般観客の評価が46%で、お世辞にも好評とは言えないのである。

prideandprejudiceandzombies6_20161003011338967.jpg


 まず、本作が白眉とすべきポイントとはどういったところだろうか。ゴリゴリの純文学であり、純恋愛小説であり、古典的名作である『高慢と偏見』にゾンビという対極の不純物を混入させるわけだから、最もアピールすべきは、そのギャップであろう。伝統的な英国の淑女が一転して少林拳を扱うというギャップ。ある意味で気取ってすらいる世界観が一瞬にしてバカ映画へと転じるギャップ。本作は、こういったメリハリがちょっと弱い。まぁ、筆者が予告編の秀逸な構成に引っ張られすぎているのかもしれないが、やっぱり、世界には既にゾンビが蔓延していて…という冒頭のナレーションはいらなかったように思う。ナレーションというのは、そもそもキャラクターのセリフや動きだけでは説明不足になる部分を観客に分かりやすく伝えるための“補足”なわけだが、本作に限っては補足なんか無い方が良い。純正統的な18世紀イギリスの時代ものが始まったと見せかけて実はゾンビものだった、という展開の方が、作品の掴みとしては絶対に正しかったと思う。

prideandprejudiceandzombies7.jpg


 あと、オープニングで言うなら、タイトルを出すタイミングがいまいちだった。ダーシーがある屋敷を訪れ、そこで人間に混じったゾンビを見つけ始末するというアヴァンの展開自体は悪くない。いざダーシーがゾンビを駆逐するシーンがゾンビの主観視点なのでグロ的な満足度が皆無という点には、この際目を瞑ろう。しかし、せっかく主観視点にして、ダーシーがゾンビの顔を踏みつけ暗転させるのなら、そこでタイトルを出せばいいじゃない。本作は、その後、もうひとくだりあってからタイトル・バックなのである。これは、流れが悪い。個人的にアヴァン・タイトルというのは、あくまでもタイトル前のひとくだりであるべきだと思う。こと本作のような“バカ映画”なら、冒頭での軽快なテンポで観客のテンションを上げる必要があるはずなんだ。

prideandprejudiceandzombies8.jpg


 それから、やっぱり本作で一番良くないのは、クライマックスが分けわからんというところだと思う。まず、ゾンビ化してもなお人間の脳みそを食べず最低限の尊厳を保っていたゾンビたちに、ダーシーが人間の脳みそを食べさせるという作戦。いや…お前がそんなことしたせいでややこしくなったんじゃないのか…?という謎展開である(本作のゾンビは、人間の脳を食べるとゾンビ化が進行し凶暴性が増すという設定。)。こういうマッチポンプ的見せ場というのは、作品のジャンルを問わずダメなポイント。また、あの死神みたいな四人組の設定もよく分からない。なんなんだ、あいつらは。細かいことを言うなら、リディア(エリー・バンバー)が監禁されている部屋の窓を引っこ抜いた理屈も謎だし(ダーシーは始めからあの部屋にリディアが捉えられていると分かっていたのだろうか。)、橋の爆破後、あんなに意味深に演出したのに結局安全圏側で倒れていた展開も釈然としない。

prideandprejudiceandzombies9.jpg


 逆に、抽象的かつ決定的なことを言ってしまうと、本作は、ゾンビ映画としては温すぎるのである。ゾンビ映画というジャンルに必要とされる要素は、まぁ、個人差はあるだろうが、基本的に“グロ”“終末感”“無常観”の3つ。もちろん、原則として『高慢と偏見』のストーリーをなぞる以上、後者の2つを完璧に盛り込むことは難しいかもしれないけれど、グロさに関しては何とでも演出できたはずだ。そこが決定的にダメなんだよ。あまりにも温い。仮にレイティングの関係上そこまでキツいグロ描写を採用できなかったのなら、逆に日常シーンをもっと荘厳に描くことでギャップを際立たせるべきだった。こんな“バカ映画”なんて、“バカ映画好き”か予告編の前半だけ見て勘違いしたバカ野郎しか観に来ないのだから、突き抜けたバカさ、すなわち、グロ描写は必須と言ってもいいはずなのに。

prideandprejudiceandzombies10.jpg


 まぁ、ゾンビ映画というジャンルの作品は毎年それこそ群れたゾンビのように大挙して製作されるから、その中で生き残っていくためには、本作みたいな設定が魅力的だったのも分かる。最初はエリザベスを演じる予定だったものの、結局スケジュールが折り合わず製作に回ったナタリー・ポートマンも、これならいける!と思ったのだろう。でも、設定がおもしろくたって、原作がベストセラーだって、それだけで名作が生まれるわけではないんだぜ。本作の製作陣は、エリザベスとダーシーのように高慢も偏見も捨て、もっとストイックに作品としての"生存"を考える必要があったのではないだろうか。

点数:59/100点
 企画自体は本当におもしろいし、要所要所で良い!と思えるシーンがあることも事実。とはいえ、全体としては、ゾンビ映画を愚弄しているとも評されかねないユルユルの仕上がりとなっている。一応続編に繋げられそうな幕引きにはなっていたが、これ以上続けても、もはや『高慢と偏見』をなぞれない以上、作るだけ無駄というものだろう。まぁ、もしそれでも無理矢理やってしまうようなことがあれば、逆に製作陣の“生き残るんだ、どんな手段を使っても”という精神に、筆者は一人のバカ映画好きとして感服してしまうかもしれないが。余談だが、本作のゾンビは、人間の脳みそを求めるし、言葉を喋ったり走ったりできるから、分類するなら『バタリアン』タイプということになるだろう。

(鑑賞日[初]:2016.9.30)
(劇場:TOHOシネマズ梅田)

Pride & Prejudice & Zombies [Blu-ray] [Import]

新品価格
¥1,721から
(2016/10/1 02:40時点)


高慢と偏見とゾンビ (二見文庫ロマンス・コレクション)


高慢と偏見〔新装版〕 (河出文庫)

新品価格
¥1,026から
(2016/10/1 02:41時点)


プライドと偏見 [DVD]

新品価格
¥927から
(2016/10/1 02:41時点)


関連記事
スポンサーサイト

Comment

Leave a Reply





管理者にだけ表示を許可する

Trackback