[No.412] ジェイソン・ボーン(Jason Bourne) <62点>





キャッチコピー:『≪新章≫始動』

 Bourne was born to be BACK.

三文あらすじ:世間から姿を消して静かに生活していたジェイソン・ボーン(マット・デイモン)のもとに、CIAの元同僚ニッキー・パーソンズ(ジュリア・スタイルズ)が現れる。彼女は、CIAが世界を監視・操作するための極秘プログラムを始動させたことと、ボーンにまつわるある驚きの真実を告げる。一方、CIAエージェントのヘザー・リー(アリシア・ヴィキャンデル)は、再び動き始めたボーンを組織に取り込むことを画策するのだが・・・


~*~*~*~


 アメリカでは2016年7月29日から、日本では昨日10月7日から公開されている本作。遡ること14年前に公開された第一作『ボーン・アイデンティティー』、その2年後の『ボーン・スプレマシー』、そして、そのさらに3年後の『ボーン・アルティメイタム』からなる一連のシリーズは、マット・デイモンという実力派俳優をアクション・スターにのし上げ、第二作から監督を務めたポール・グリーングラスを人気アクション映画監督の座に導き、ジェイソン・ボーンという一人のスパイの名を世界中に知らしめた。その後、2012年に主演及び監督を挿げ替えた『ボーン・レガシー』なる“番外編”が製作されたのだが、これは今や無かったことにされている。そんな紆余曲折の末、いったんの終幕をみた第三作から実に9年もの幕間を経て公開されたのが、本作、その名も『ジェンソン・ボーン』である。

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 先行して公開されていた他国での評価は、概ねまぁ…普通…って感じみたい。もちろん、マット・デイモン及びポール・グリーングラス揃っての復活に期待し過ぎたファン心理はあるだろう。でも、やっぱり個人的に、今回はさすがに蛇足が過ぎたのだと思う。過去作のレビューでも筆者は度々言ってきたが、このボーン・シリーズは、第一作でストーリー的に完結している。自分の“アイデンティティー”は過去の事実だけじゃない、というテーマは、『ボーン・アイデンティティー』で綺麗に描き切られていた。トレッド・ストーンの全容は?とか、ボーンは具体的にどういう経緯で暗殺者になったの?とか、ボーンの本名は?といった疑問は、当然湧いてくる。でも、それは裏設定としてあれば良い。後から設定集なりファンブックなりで補完されれば良い。ただ、そこをガッツリやった『スプレマシー』『アルティメイタム』の続編2作が大々的にウケたという事実もある。まぁいずれにせよ、ジェイソン・ボーンという忘れん坊のスパイについての物語は、既に旧3部作で骨の髄まで語り尽くされていたというわけである。

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 ところが、本作では、第三作から9年も経ってまたぞろボーンの過去をほじくり返した。既に全てが明らかになっていたはずの彼の秘められた過去とは、ずばり父親にまつわるエトセトラ。実は父親こそがトレッド・ストーンの発案者だった、とか、実はボーンは最初から計画の対象として監視されていた、とか、でも実は父親は結局計画に反対してCIAに暗殺された、とか、そういったこもごもの事実を探求するため、ボーンは奔走する。まぁ、リアルな一人の人間として考えるなら、自分の父親に関する真相を知ろうとするバイタリティも分からないではないが、一本の映画作品として、そして、既にきっちり終了した人気シリーズの久しぶりの続編として語るのであれば、それは後付けやろ…という感じが否めない。

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 したがって、父親にまつわるエトセトラだけでは、本作独自の意義として満足ではないのである。では、本作はボーンの個人的な問題に加えてより広く何を描こうとしているか。それはおそらく、公開前にマット・デイモンやポール・グリーングラスが度々言及していたスノーデン後の世界なんだろう。エドワード・ジョセフ・スノーデン。2004年のアメリカ軍除隊後、NSA及びCIAの職員として情報収集活動に従事するも、2013年、NSAの検閲システム“プリズム”による世界的なネット傍受の事実を暴露した男。つまり、ある意味でリアル版ジェイソン・ボーンである。マット・デイモンのインタビューをちらっと読んだ感じでは、「ジェイソン・ボーンは、スノーデン後の世界を冒険するんだ。」なんて得意げに語られていたが、ジェイソン・ボーンがやってきたことをリアル世界でやられてしまっては、その事実を念頭に置いた作品作りが必要になってくることは当然であろう。

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 ただ、個人的にはこの“スノーデン後”感がよく分からなかった。まぁ、そもそもスノーデンという人物や彼の実績、その波及効果などをほとんど知らないという筆者自身の無知・不勉強はある。多分にある。でも、それにしたってやっぱりよく分からない。本作では、前作まででのボーンの暴露によって敵に捕まり2年間も拷問を受けたCIA工作員(ヴァン・サン・カッセル)が、私怨ムンムンでボーンを狙うという展開が登場する。したがって、筆者は、ははぁ、“真実の暴露”は必ずしも“正義”なのか、というテーマを描いていくのかしら?なんて思ったりもしたのだが、最後まで観ると別にそんなこともなかった。

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 ってゆーか、本作のオチ。2015年公開(日本では2016年公開)の『エクス・マキナ』で大々的に注目された新星アリシア・ヴィキャンデル演じるCIA局員のヘザー・リーさんが、実は“悪い人”だったということを示す終幕である。旧3部作でいうところのパメラ・ランディ的ポジションだった彼女のある種“裏切り”、そして、そんな裏切りをも既に見抜いていたボーンのスゴさをバシッと伝える中々切れのいい終わり方だったと思う。まぁ、本作も含めてこれまでのボーン・シリーズでは、一貫してCIAの“旧態”が悪いんだと見えかねない描写がなされてきた。じじいが悪いことして、良心ある女性に助けられながらボーンが頑張って、じじいを打倒する。でも、次作ではまた新たなるじじいが登場して、またボーンが頑張って…。この繰り返しだった。その点、本作のオチでは、そんなことないよ、若い子だって悪いんだし、女だって悪いんだよ、と言っているように見える。え、ってことは、結局、CIAは救いようの無いダメ組織ってことやん!と筆者などは衝撃を受けたのだが、ある意味でこれがスノーデン後に本作を作る意義だったのかな。つまり、スノーデンによって全てが浄化されたわけではないぜ、各々が自らの頭で考え、全てを懐疑的に考察する姿勢こそが大事なんだぜ、というメッセージ…なのだろうか。

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 その他、嗚呼…遂にニッキーが捨て駒にされる日がきてしまった…というもの悲しさや、結局ボーン親子は自分で周りを乗せたくせに自分で周りを敵視するマッチ・ポンプ野郎どもではないか!という憤りなんかもある。とはいえ、あんまりギャーギャー言ってもしょうがないので、以下、鑑賞後第一報として気付いたことを2点ほど。まず、冒頭でニッキーがクラッキングするところ。具体的に何の施設かは分からないのだが、なんだかジャンキーな、あるいはナードな野郎どもが集まるたまり場って感じのシーンである。ここでクラッキングに気付いたCIAが建物の電源を落とすのだが、モブたちがざわめく中で「停電だよー」というセリフが聞こえる。これは本当にそのまま日本語のセリフなのである。あの建物は様々な人種が交流する場所でもあるのだろうか。

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 それから、もはやシリーズお決まりとなっているジェイソン・ボーンの宮本武蔵流バトル。つまり、その場にある日用品を使って刺客と戦うという見せ場だが、本作ではクライマックスの殺し屋とのバトルシーンでお鍋(フライパン?)を使っていた。ちなみに、第一作では青色のボールペン、第三作では本を使用して最強の刺客を圧倒するボーンの雄姿を拝むことができる(第二作は何だったかな。忘れてしまった。)。

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 あと、予告編で極めて印象的に使用されていたボーンのストリート・ファイトのシーン。ストリート・ファイトって言っていいか分からないけれど、まぁ言ってみれば『ファイト・クラブ』みたいな感じでボーンがアマチュアの猛者と賭け試合を行うのである。ここは、冒頭でボーンの強さを端的に示すと共に、ボーンは隠居したがやはりその"殺し屋"としての本性を持て余しているのか?という前フリにもなっているパート。そして、ここで重要なのは、“一撃!”という見せ方であった。これはカッコいい。何よりボーン・シリーズの持ち味であった“テキパキさ”が端的に伝わってくる。で、このシーンは当然本編中にも存在するのだが、なんと本編中では、予告編のようにボーンの正面からのショットではなく、敵に向かっていくボーンの背中側からのカットが使用されているのである。これにはちょっと驚いた。確かに、本編を前提として翻って考えれば、良くできた予告編だなぁと賞賛を送ることができるが、個人的には、やっぱりボーンの一撃を正面からしっかり見せて欲しかった。それと、歩き去るボーンのこちら側をバンが通り過ぎるとボーンが消えているというシーンも本編では違っていたように思う。バンが通り過ぎてもボーンはそのまま歩いていた。全体的にボーンのヒロイックさやキャラクター性をそぎ落とす編集が最終的になされたのかもしれないな。

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 良かったところとしては、CIAがちゃんと有能という点とボーンはそれよりも有能という点をきちんと描けていたということ。これは、旧3部作、特に第二作と第三作の魅力であり持ち味であった。第四作の番外編ではこの点が非常にグズグズになっており筆者は酷く落胆していたのだが、本作ではしっかり復活していてとっても良かった。顔認証とかSNSとか、今の時代性も意識されている(SNSに関しては、ボーン追跡にどう役立ったのかをもうちょっとちゃんと見せては欲しかったが。)。まぁ、それも大枠として結局は旧作と同じことをやっているだけの話ではあるのだが。あと、テキパキさの表裏ではあるのだが、カット割りを細かく細かく、カメラはできるだけ動かす動かす、というポール・グリーングラス演出。これにはやっぱり疲れた。ボーン同様、筆者も年を取ってしまったのだろうな。

点数:62/100点
 アクション面、あるいは、ビジュアル面においては、ボーン・シリーズ最新作として何の遜色もない良質な作品。ただし、お話部分は、第二作、第三作に輪をかけて“蛇足”となっている。筆者が鑑賞した回の終了後、隣に座っていた若い兄ちゃん2人が「こんなん絶対続編あるやんw」と笑い合っていたが、いくらなんでももうこれ以上は無理なんじゃないか。いや、まだお母さんの秘密が残っているか。それに期待しよう。

(鑑賞日[初]:2016.10.7)
(劇場:TOHOシネマズ梅田)

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