07
2017

[No.424] オクジャ(Okja) <78点>





キャッチコピー: ―

 豚は尊い。翻訳はもっと尊い。

三文あらすじ:韓国の山奥で祖父と暮らす少女ミジャ(アン・ソヒョン)。突然変異で誕生したスーパーピッグ“オクジャ(Okja)”と彼女は、小さいころから共に育った親友同士。しかし、スーパーピッグの食用化に目を付けた多国籍企業ミランド社やこれを阻止しようとする動物愛護団体ALFの思惑が、2人の運命を弄んでいく・・・


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 2017年6月28日からNETFLIXで配信されている本作『オクジャ』。時代の流れに沿っていよいよ本格的にスタートしたストリーミング配信会社の製作による映画作品であり、韓国の鬼才ポン・ジュノが監督するということでも話題になっていた。また、カンヌ映画祭に正式出品されたものの、パリ国内で何週間か“劇場公開”された作品でないとパルム・ドールは与えられないという規定にNETFLIX側が憤慨したり、といった点でも注目が集まった作品。果たして“映画館不要の時代”がやってくるのか。本作がその試金石の一つになっていることは、間違いないだろう。

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 さて、本作の内容であるが、予告編とかあらすじを見て我々映画ファンが早計に予想するものとは、少し違ったように思う。つまり、予告編なんかを見ると、山奥で暮らす少女には、ある“秘密の友だち”がいた。それは、突然変異によって生まれた世界にたった一匹のスーパーピッグ“オクジャ”。しかし、ほどなくして彼らの平穏な生活は終わりを迎える。食用化するため多国籍企業ミランド社に攫われたオクジャを救うため、少女は今、“大人”や“社会”に真っ向勝負を挑む・・・。というまるで『E.T.』のようなストーリーを想像しないだろうか。少なくとも筆者はそう思っていたんだ。でも、実際は少し違う。

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 どう違うのかというと、ポイントは、オクジャの“所有権”は元々ミランド社にある、という点である。オクジャを始めとする26匹のスーパーピッグは、元々ミランド社が発見(実は遺伝子操作によって創造)し、いわば“里親”として世界中の農家に預けられたものだ。10年経ったらミランド社に返還するという契約で。だから、“大人”の理屈、少なくともミランド社の理屈で言えば、オクジャを奪われたことに対するミジャの憤りは“逆恨み”であり、単に聞き分けの無い子供が騒いでいる、ということになるのである。ちなみに、この場合の“所有権”というのは、まぁ言ってみれば“物語上の所有権”のことである。法律的な意味でのE.T.の所有権がエリオット少年にあったわけではないが、『E.T.』においては、エリオット少年が初めてE.T.と接触し友達になったのだから、後から横入りしてきた大人たちにE.T.を奪われる理由は無かったのである。しかし、本作では、ハナから後日返還の約束でオクジャは貸与されているのだから、それは10年経ったら返すのが当たり前。その契約を知らなかったミジャが悪いのであり、強いて大人側の誰かに帰責するのなら、きちんと説明していなかったミジャのおじいちゃんが悪い、ということになるだろう。

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 とはいえ、確かに子供からすれば、そんなの知ったこっちゃない!となるだろう。契約だ所有権だと言われたって、現実問題として親友が食われそうになっているのだから、助けたいに決まっている。本作では、この“子供の理屈”もちゃんと理解できるように描いているので、ミジャに感情移入しストーリーを追うことが可能だ。すなわち、冒頭部分でミジャとオクジャの仲良さを描くパートがきちんと丁寧に仕上がっているということ。まぁ、こういう系の作品ならそれは必須の最低条件ではあるのだが、巨匠ポン・ジュノは、崖から落ちそうなミジャをオクジャが救うシークエンスを描くことで、"オクジャはミジャの友だち!食べちゃダメ!"という意識をしっかりと我々に植え付ける。ここで上手いのは、オクジャは知性を持った生き物であるという事実を彼の目の動き一発で表現しきっている点。オクジャは、ただ単に"少女になついている動物"ではなく、"状況ごとに最適解を模索できる知的生命体"なのである。我々がさして罪悪感もなく日々豚を食しているのは、彼らが本能でのみ行動しているから(少なくとも、その反証がないから)である。逆に言えば、"思考する生き物は食べてはいけない"、これが普通の人間の普通の感覚であり、この深層の倫理観を最小限のビジュアル表現で喚起する技術は、もはや職人芸と言ってもいいだろう。

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 というか、ポン・ジュノってたぶんいつもそうだよな。本作のような“友だち怪物奪還もの”において、相対する勢力の双方にしっかり理を持たせるというのは、ポン・ジュノっぽい。まぁ、恥ずかしながら筆者はポン・ジュノ作品を2作(『グエムル』と『スノーピアサー』)しか観ていないからあまり偉そうには言えないが、きっと彼は、明確な(客観的・絶対的な)善悪というものが嫌いなんだろう。少なくとも、『グエムル』と『スノーピアサー』は程度の差こそあれ、ステレオタイプな勧善懲悪を避けるような立て付けになっていた。

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 で、誰も悪くはないのだから、結局は誰も“成長しない”という帰結が導かれることになる。ちょっと語弊があるなら“変わらない”と言ってもいい。姉妹で社長の交代があったものの、ミランド社は以前資本主義の精神に則って豚を売り続けるし(豚売りはやめるんだったかな?まぁでも首がすげ変わっただけで、"金儲け"という理念を維持した企業体としては変わらず存続し続けるのだし)、クレジット後でALFは懲りずにまたテロを企てているし、確かに“資本主義”という大人の理屈を知ったとはいえ、ミジャは相変わらず田舎でのほほんと暮らすのだし。でも、それでいいんだよな。全くそれでいいんだ。誰も悪くない。逆に言えば、誰が良いわけでもない。俺は俺だし、お前はお前だ。これからも、そうやって生きていくんだろ?という考え方。筆者はすごく好きだ。

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 そういった監督のメッセージを表すのが、“翻訳は尊い(Translations Are Sacred)”のくだりなんじゃないかと筆者は思う。オクジャを囮として利用する作戦への同意をミジャに取り付ける際、ALFのメンバーは“No”を“Yes”にウソの翻訳をする。これが判明したとき、ALFのリーダーがブチ切れ、ウソ翻訳したメンバーをボコボコにするのだが、“非暴力・不服従”を強くアピールしていたALFのリーダーがウソ翻訳にこれほど激高し、“翻訳は尊い!”と主張したこのくだりは、きっと“人の意見を捻じ曲げるな”という監督からのメッセージであろう。オクジャが大好きな少女、動物を守りたい団体、資本主義に即して活動する企業。それぞれの思惑はときに衝突し、争いに発展したりもするけれど、どれが正しいわけでも、どれが間違っているわけでもない。この世で唯一“悪”と言い得るのは、人の信念に勝手なテコ入れをすることだ。ハリウッドで一定の成功を収めたポン・ジュノがこの度NETFLIX製作の作品を監督したのは、きっとより規制の緩いネット配信作品において、言い換えれば、製作者や配給会社からの口出しの少ない環境で仕事をしたかったからではないだろうか。

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 個人的にやや釈然としないのは、子豚を連れて帰るというラストのくだりである。まぁ、今のままでも別に不自然なわけではない。ただ、山奥に帰ってしばらくして、オクジャ自身が子を産んだ、とした方が、よりシンプルだったのではないか。結局のところ、屠殺を待つ親豚が子豚だけを逃がし(オクジャに託し)、その他何百匹もの豚たちが天に向かって咆哮するというあのシーンは、『ジュラシック・パーク』で言うところの“Life will find a way.(生命は道を見つける。)”を象徴しているんだと思う。スーパーピッグは人間に創られた存在だが、しかし、自分たちで新しい命を生み、自分たちで新たな道を探していく。そういう象徴としての子豚であろう。だったら、他の親豚から“養豚”を託されるという展開よりも、オクジャ自身の出産シーンを描いた方がより端的かつ効果的だった気がしなくもない。そうすれば、オクジャがアルフォンソにレイプされたあの残酷な展開も、ただのトラウマではなく、希望のラストへと昇華されたのではないだろうか。…まぁいいか。人の意見にあまり口出しするのはやめておこう。

点数:78/100点
 月額1,000円でNETFLIXに加入する価値のある非常にハイ・クオリティな良作。ただ、チェイスシーンのカタルシスが少し物足りなかったように思う。『グエムル』や『スノーピアサー』を見る限り、ポン・ジュノは“横移動シーン”の構成・描写が素晴らしい監督だが(特に『スノーピアサー』における最初の“車両突破シーン”は、本当に盛り上がり方がエグい。)、本作ではやや月並みな印象だった。ってゆーか、作中でもミジャは“ピッグライダー”と形容されているのだから、オクジャを乗り回してニューヨークの街を疾走するクライマックスは必須だったのではないだろうか。ちょっと過剰な期待かもしれないが、その点は少しだけ残念だった。

(鑑賞日[初]:2017/8/6)






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