[No.428] ライフ(Life) <85点>





キャッチコピー:『人類の夢も未来も砕かれる』

 "生命(いのち)"を…なめるなよ…!

三文あらすじ:国際宇宙ステーションISSのクルーは火星探査機の回収に成功した。探査機が持ち帰ったサンプルを分析した結果、地球外生命体の存在を示すものであることが判明する。喜びに沸くも束の間、実験の過程で急速に進化したサンプルによってISSに閉じ込められたクルーは、地球を守るために孤立無援の状況下で戦うことになるのだが・・・

※以下、ネタバレあり。


~*~*~*~


 アメリカだと今年の3月から、日本だと7月末から公開されている本作『ライフ』。多くの人々にとって、そして、もしかしたら多くの映画ファンにとっても“所詮は有象無象のモンスターパニックの一本”くらいの感じで扱われていそうな本作だが、遅ればせながら先日鑑賞してきた筆者の感想を言うと、極めて優秀な良作ということになる。

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 余談だが、本作公開前、こんなニュースがまことしやかに映画ファン界隈を駆け巡っていた。すなわち、『ライフ』は『ヴェノム』のプリクエルである、という噂である。発端は確か、アメリカかどっかの映画ファンが本作の予告編を一コマ一コマ詳細に見ていった結果、サム・ライミ版の『スパイダーマン3』からワン・カット流用されている、という事実を発見したことにあったのだったと思う。たぶん群衆が空を見上げるシーンだったと思うのだが、これをソニピが現在企画を進行させている『スパイダーマン』のスピンオフ作品『ヴェノム』と結びつけたという訳だ。つまり、本作に登場する火星生まれのモンスター"カルビン"は、実は液状生命体"シンビオート"であり、本作ですったもんだあった挙げ句に地球へと降り立ったそれが地上の人間に寄生し(あるいは、本作のクルーに寄生したまま地球に降り立ち)、まだ見ぬ『ヴェノム』の冒頭へと繋がっていく…と。これはおもしろい。いわゆる"シネマティック・ユニバース"が当たり前になった昨今、スレた観客を驚かす次の一手として"全く関係が無いと思われていた作品が実は繋がっている"というアイデアは、素晴らしいものに思える。実際、こないだ公開されたシャマラン最新作『スプリット』では、まさに同様の趣向のオチが用意されていて、シャマランファンは驚愕と興奮のただ中に叩き落とされたではないか。

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 とはいえ、残念ながら、本作を最後まで鑑賞してみると、以上のブリリアントなアイデアがただの妄想でしかなかったということが分かる。まぁ、あのオチならまだ希望があるかもしれないが、まず無いだろう。観たいけどな、ジェイク・ギレンホール主演の『ヴェノム』。でも、まぁ無理だろう。では、本作の肝はどこにあるか。答えは、丁寧で秀逸な脚本B級映画賛歌だ。

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 この2点は実は前フリとオチの関係になっている。まず、本作は、序盤から極めて丁寧に"人間賛歌"を描いていく。少なくとも、スレた映画ファンはそう思うだろう。『ゼロ・グラビティ』に酷似した舞台設定や長回しのテクニック。この手のジャンルものにしてはやけに丁寧にクルーのパーソナルな部分を掘り下げていくことも、実は前フリだ。特にジェイク・ギレンホール演じるデビッド・ジョーダン医師のキャラ設定は、抜群に上手い。かつて軍医として戦地に病院を建て、日々人々を救おうとしていたジョーダン。そんな彼の志は、無情な空爆によって一瞬の内に消え去ってしまう。人類の宇宙滞在期間の新記録を更新中のジョーダンは、「宇宙は静かだ…。だから、俺はここが好きだ。」と悲しげに、しかし、確固たる意思を持って語る。

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 だから、我々はだまされる。クライマックス、中破し、地球降下軌道に乗ってしまうISS。残った2つのポッドで脱出だ、というベタな展開。そして、なぜか責任者であるミランダ検疫官(レベッカ・ファーガソン)ではなく、ジョーダンがカルビンを連れて深宇宙へ去るという女尊男卑のベタなプラン。陳腐でありがちだ。しかし、ジョーダンのこの一言が、我々高慢な映画好きを心底納得させる。

 「80億のバカがいる地球には、戻りたくないんだ。」

 脱出する2つのポッド。カルビンの触手に邪魔されながら、ジョーダンは懸命に操縦桿を引き、地球脱出軌道に乗せようとする。そこで無情に衝突するISSの破片。しかし、ジョーダンは負けない。かつて戦地で人命を救えなかった彼は今、"80億のバカたち"を救うため、最後の気合いを振り絞る。

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 地球の衛星軌道から離れていくポッド。無事に重力の中へと帰還したもう1機は、東南アジアっぽい海に着水する。なんだなんだと訝しげに小舟を寄せる現地の漁師。彼がポッドの小窓を覗くと……ジョーダン!ミランダではなく、そこには更なる進化・変体を遂げ、エイリアン・ハイブのような形状になったカルビンとジョーダンの姿が!では、ミランダは?無情にもISSの破片が衝突したポッドは、絶望の雄叫びをあげパニックを起こす彼女を乗せたまま、深宇宙への終わりなき旅の途上にある。そんなことは露知らず、降下してきた哀れな宇宙飛行士を助けようとポッドの扉に手をかける漁師たち。ジョーダンの必死の制止は、彼らに伝わらない。忌まわしきモンスターが解放されたであろうポッドと周囲に広がる海原を俯瞰で捉え、この悲劇の物語は、いったんその幕を閉じようとしている。ポッドには、これまたそんな忌まわしき存在など露ほども知らない他の漁師たちの船が、一隻、また一隻と集まってくるのだった…。

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 だまされた!!もちろん、筆者は鈍感だ。過去の似たようなオチを失念しているうつけ者かもしれない。しかし、やはり上手い。しかも、このオチは、決して下品で無節操なだけじゃない。『ゼロ・グラビティ』みたいな重厚なスペース・ドラマが観たいか?コンセプトはパクりだが、より直接的・具体的に実体化した"死"と対峙するモンスター・パニックの方が、"人間賛歌"を克明に描写できる?…はぁ?おい…おい!俺たちが大好きなのは"B級映画"だろうがよ!!…こういうオチなんですねぇ。

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 そんなんやっぱり下品で無節操やん、せっかく頑張った人間の尊厳をバカにしてるやん!と思う人もいるだろう。あぁ、それもいいだろう。でも…違うな?本作のタイトルを言ってみろ。そう、『LIFE』だ。そんなことは知っている、と。だから怒っているんだ、と。そう言いたいか?うぬぼれるな!これは、重力に縛られた地球にのさばる一種族のなぐさみ話ではない。この宇宙には、人類よりもっと美しく、もっと崇高で、もっと完璧な生き物がいる。"生命"をなめるなよ。これは、"生命賛歌"の物語だ!…こういう話…なのかもしれませんねぇ。

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 まぁ、その辺りは筆者の妄想かもしれないが、やはり脚本とか構成は丁寧で上手いと思う。終幕後、場違いに流れるノーマン・グリーンバウムの『Spirit In The Sky』も抜群の前フリに裏打ちされた最高にあがる選曲だ。つまり、この前フリっていうのは、もちろん、終盤辺りで生き残りのクルーがチャレンジャー号の爆散事故について語るシークエンス。ここでクルーたちは、レーガン大統領がチャレンジャー号のクルーに捧げる弔辞の中で引用したジョン・ジレスピー・マギー・Jr.の詩『ハイ・フライト』について言及し、「あれは最高の弔辞だったな」としみじみ語らい合う。

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 ならば、本作で死んでいったISSのクルーたちに相応しい"最高の弔辞"とはなんだ?同じように『ハイ・フライト』を引用することで、尊い犠牲に敬意を……違うな?まだ『ゼロ・グラビティ』みたいな生真面目ドラマを引きずっているのか?B級映画は、登場人物が全滅して終わるんだ。終わったらすかさずノリノリのロックだ!イエーイ!『ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー』の1で使われていたから、"ボンクラ映画ファン"なら当然耳馴染みがある曲だし、何より歌詞がピッタリ。

SPIRIT IN THE SKY

死んで埋葬された僕は
素晴らしいところへと向かうんだ
僕が死んで、静かに横たわるときには
精霊に会うために天へと昇っていくのさ

精霊に会うために天へと昇るよ
(Spirit In The Sky)
そこは、死んだらいくところ
(僕が死んだらね)
死んでしまって、埋葬されたあとは
最高に素晴らしいところへと向かうのさ

さあ、準備はできたかい
大事なことだからいっておくけれど
イエス様とは必ず仲よくしておきなよ

それは死んだときによくわかるさ
彼はきみを精霊にしてくれるんだから
(Spirit In The Sky)

彼はきみを天の精霊にしてくれる
そこは、死んだらいくところ
(きみが死んだらね)
死んでしまって、埋葬されたきみは
最高に素晴らしいところにいけるのさ

もちろん僕は罪人ではないし
何ひとつ過ちなんて犯してはいない
なんせ僕はあのイエス様と友だちなんだぜ

僕が死んだら、きみにもわかるさ
彼は僕を天の精霊にするつもり

彼は僕を天の精霊にしてくれるのさ
(Spirit In The Sky)
そこは、死んだらいくところ
(僕が死んだらね)
死んで、埋葬された僕は
その素晴らしいところへと向かうんだ

素晴らしいところ
最高に素晴らしいところへ
そう、僕は天へと昇っていくのさ



 英語のオリジナル歌詞はご自身で調べていただくとして、まぁ見てもらえば一目瞭然。最高にノリノリで、最高にアイロニックで、とにかく最高に最高だ!イエーイ!

点数:85/100点
 とはいえ、やっぱり“傑作”とか“名作”とか、そんな言葉が相応しい作品ではない。なんてったって“B級映画”ですから。あと、言い忘れたけど、アリヨン・バカレが演じた黒人研究者ヒューも良かった。何が良かったって、生まれつき下半身が麻痺している彼が、気が付いたらカルビンに足をバリバリ食われていた、というシーンである。これも非常に秀逸な前フリに支えられた最高の展開。つまり、先天性のいわゆる“障害者”なんて、仮にラストで死ぬとしてもかなりデリケートに扱われるべきキャラクターだ。でも、そうじゃないよな。これはどんな映画だった?そう、B級映画だ。障害者の最もデリケートなまさにその障害の部分がボリボリ食われているなんて、この上なく悪趣味。比類なく皮肉。またこれが終盤でクルーたちが考え出した一見完璧な立てこもり作戦を完膚なきまでに崩壊させたりして、いやはや、本当に上手いのである。

(鑑賞日[初]:2017.8.10)
(劇場:MOVIXあまがさき)






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