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キャッチコピー
・英語版:All you need is one killer track.
・日本版:MUSIC ON, GET MONEY.

 DRIVE BABY, DRIVE.

三文あらすじ:幼少時の事故の後遺症で常時耳鳴りに悩まされる青年ベイビー(アンセル・エルゴート)。耳鳴りを紛らわせるため常にイヤホンで音楽を聴く彼は、かつて暗黒街の大物ドク(ケヴィン・スペイシー)の車を盗んだ代償として、その類稀なきドライビング・テクニックを活かし、ドクが“仕事”ごとに招集する強盗チームの“ゲッタウェイ・ドライバー”を担当していた。ある日、行きつけのダイナーで働くウェイトレス、デボラ(リリー・ジェームズ)と一目で恋に落ちたベイビーは、汚れた仕事から足を洗うことを決意するのだが・・・


~*~*~*~


 公開前から映画ファンを沸かせ、公開されるや否や熱狂に駆り立てた本作『ベイビー・ドライバー』。興業収入という点ではいわゆる"夏のブロックバスター"に遠く及ばないものの、前回感想を書いた『ワンダーウーマン』同様、本作もまた"2017年を代表する作品"と銘打たれるべき一本である。

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 筆者的な言い方で本作の立ち位置を表現するならこうだ。本作は、『ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー』以降の世界的エンターテイメント潮流が一つの完成をみた作品である。ここ最近の感想で度々言っているように、『ガーディアンズ~』以降、世のエンタメ表現、少なくとも映画的エンタメ表現には、ある流行が生まれた。ポイントは、次の3点。

 ①ノリノリの懐メロを流せ。
 ②色使いは派手にしろ。
 ③主要人物のチーム感を大切に。



 権威あるソースを参照したわけではないから、もしかしたらただの筆者の戯言(たわごと)なのかもしれないが、実際に最近の作品やそれらの予告編を観てみると、上記3点を意識して作られているように思える。

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 例えば、2015年を代表する、いやさ、映画史を代表する傑作『マッドマックス/怒りのデス・ロード』なんかは、極めて鮮やかなグラデーションが印象的な作品だった。ここに"ノリノリの懐メロ"や"チーム感"を付与し、現在の流行を決定的にしたのが、2016年の『スーサイド・スクワッド』。特にQUEENの『ボヘミアン・ラプソディ』を全面展開した予告編が大反響を巻き起こし、予告編の制作会社に本編の編集が依頼されるという異例の事態へと発展した。その後、色使いという点を極めたのが、前回のアカデミー賞を惜しくも逃した『ラ・ラ・ランド』。使用される楽曲は既存の懐メロではなかったものの、皆が心底ノリノリになれるキャッチーなものが多用されていた。

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 マイルストーンになりそうな作品だけかいつまんで挙げたが、今日に至るまで、その他無数の作品が上記3つの内の少なくとも一つを強く意識して作られている(リドリー・スコットの『オデッセイ』なんかも挙げるべきだったか。)。またこの傾向は、予告編でより顕著だ。こないだ公開されたトム・クルーズ主演の『ザ・マミー』だって、本編では懐メロなんざ流れないのに、予告編にはローリング・ストーンズの『Paint It Black』が使用されていた。『エイリアン:コヴェナント』の予告編にも『Take Me Home, Country Roads』使用バージョンがあるし、他にも、例えば『ジャスティス・リーグ』の予告編(ビートルズの『Come Together』)とか、『ソー/ラグナロク』の予告編(レッド・ツェッペリンの『Immigrant Song』)とか、『アトミック・ブロンド』の予告編(Queenの『Killer Queen』)とか、果ては『SAW』新章の『ジグソウ』の予告編(ロイ・オービソンの『Running Scared』)までもが、何らかの懐メロを使用している。『ソー』と『アトミック~』については色使いもビビッドだし、『ソー』はチーム感も全面に押し出している。

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 もちろん、そんな趣向がこれまでに無かったわけではない。『ガーディアンズ~』の懐メロ使用だって、スペース・オペラとの組み合わせが発明的だっただけで、単に懐メロのリバイバルという意味では、既にタランティーノがやっている。しかし、昨今の潮流は、これまでのように"俺はこんな懐メロが好きなんだ。どうだ?このシーンにこの音楽。イカすだろ?"という監督からの趣味嗜好の提示を越え、始めから確固たるコンセプトと高度のプログラミングの下で産み出されているように感じる。要は、ハリウッドが本格的に目を付けたってことだな。

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 前置きが長くなったが、本作の話。本作『ベイビー・ドライバー』は、このような潮流の一つの完成形だ。現実感を犠牲にしてまで配置される原色のアイテムたち(特にコインランドリー内の洗濯物とか。)、一見バラバラな強盗団のメンツたちも、本作を"映画"として俯瞰で見るなら立派な"チーム"だ。『レザボア・ドッグス』が好きなら、あのチンピラたちを"チーム"として認識したいだろう?それと一緒さ。しっかりとキャラ立ちした魅力的な登場人物たちの化学反応こそが"チーム映画"の肝なのであり、主義主張や立場の異同は、厳密には"チーム感"を阻害しない。

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 そして、なんと言っても音楽。おそらく今後しばらくはどうやったって“『ベビドラ』のパクり”になってしまうのではないかというくらい、本作の"ノリノリ懐メロ使用"は、この種の極に達している。まぁ、なんせシーンの構成や俳優の動きに合わせて懐メロを引っ張ってきたのではなく、懐メロに合わせてシーンを組み立て、懐メロに合わせて撮影したというのだから、それもある意味では当然。俳優たちのインタビューによれば、台本と一緒に各シーンで使用される楽曲が予め送られてきたらしい。

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 で、筆者は何が言いたいかというと、それ、めっちゃ最高!!ってこと。ほとんど全編を音楽に合わせて組み立て、挙げ句の果てには銃撃戦時の銃声まで楽曲の一部かのようにプログラムされた本作は、まぁ悪く言えば"ミュージック・ビデオ"とか"テレビCM"と同列に扱われるべきであって、映画として観るならあんまりノれない、という人もいるだろう。しかし、筆者は言いたい。俺は、これが好きなんだ。

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 よくあるじゃない、ここぞ!っていう盛り上がりをハズしたり、いけー!っていう高まりが持続しなかったりする映画。個人的にはガッカリなんだよな。もっと仰々しく、もっと大袈裟に、もっと作り物っぽく。"映画"なんだ。それでいいんだ。俺たちは、少なくとも筆者は、"作られた物語"を観るために劇場へ足を運んでいる。もちろん、いまだに"これは…実話を元にした物語…"なんていう宣伝文句が多用されているところを見ると、人は"映画のウソ"に潔癖なようだが、そんな文句を見るたびに筆者は"てやんでぃ、実話なんざ俺たちでも体験できるやい。"と思っている。なお、前述した"盛り上がりをハズす"というのは、タランティーノ作品でよくある"スカし"ではない。彼のは、ストーリー構成というもっと大きなフェイズをハズしているのであって、筆者が言いたいのは、より具体的な演出の話である。

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 では、本作は筆者のような"作り物中毒者"にのみウケる作品なのであって、やはりただの"ミュージック・ビデオ"なのだろうか。そんなことはない、と筆者は思う。映画とミュージック・ビデオとの決定的な違いは、"物語の整合性"だ。まぁ、初のミュージック・ビデオが『スリラー』であったように、80年代を代表する"ザ・ムービー"が『トップガン』であるように、実は両者の概念はかなり近接しているのだが、基本的に登場人物のバックボーンや時間的・空間的な移動に無頓着なのがミュージック・ビデオである。そして、逆に言えば、そういったもろもろの設定とか辻褄とかをしっかりと考え、登場人物の実在感を重視するのが、映画なのである。

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 この筆者の独断的な定義に則って論ずるなら、本作は、紛れもなく"映画"だ。主人公であるベイビーの実在感。ヒロインであるデボラの実在感。当然、ここで言う"実在感"とは、現実の社会にこんな人っているかしら?なんていうトンチンカンな概念ではない。この物語の中で、この『ベイビー・ドライバー』という映画作品の中で、我々が彼らの存在を信じられるか、という話だ。

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 取り分け素晴らしいのは、やはりベイビーとデボラが初めて会話するシークエンスであろう。ここの説得力!二人がダイナーで出会うまでの間にベイビーにとって音楽がいかに大切か、そして、彼がいつもどうやって音楽を聴いているかをギッチリ描けているから、自分と同じようにヘッドホンで音楽を聴きながらノリノリで歩くデボラを見たベイビーの一目惚れに、圧倒的な説得力がある。ほんで、その後の会話がまぁ最高。音楽に疎い筆者でも、あ、この二人は恋に落ちるな、と完璧に得心できる。なんか適当なギミックで誤魔化して恋人たちの実在感を蔑ろにするそこの日本人監督!これでっせ、"映画"っていうのは!

点数:92/100点
 確かに、クライマックス後はけっこうバタバタと“ご都合主義的”に展開が転がっていく気がしなくはない。しかし、もうそこまでの段階で我々はベイビーという男を心底気に入ってしまっているのだから、彼のハッピーエンドに異論などあろうはずもない。その他も、バディが最終的にラスボスとなる前フリとして、彼とベイビーが親密になるシークエンスがあるのだが、ここの上手さも光っている。すなわち、同じイヤホンで同じ曲を聴くというシーンだが、これは、いわば“音楽的フード理論”だ(フード理論については福田里香先生の書籍を参考のこと。)。あ、あとやっぱり『陽気なギャングが地球を回す』ファンとしては、本作の強盗チームが常にフォー・マン・セルであるという事実に、「この映画、分かってるやん。」という感動を覚えるな。製作段階でなんとなく本作の情報を聞きかじったときには、“なんじゃそりゃ、『Drive』の丸パクリやんけ。”と思っていたのだが、愚かだった。かねてより凄腕監督との評価を与えられていたエドガー・ライトが、昨今の潮流を適確に操って放つ傑作クライム・アクション(あるいは、“新たなるミュージカル”とカテゴライズしてもおもしろそう。)。今のところ、筆者の中では『ガーディアンズ2』に次ぐ本年度No.2の傑作である。

(鑑賞日[初]:2017.8.26)
(劇場:MOVIXあまがさき)

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Mr.Alan Smithee
Posted byMr.Alan Smithee

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