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キャッチコピー
・韓国語版:searching…
・日本語版:何があっても、守り抜け!

 "染路"は続くよ、どこまでも。

三文あらすじ:ソウルでファンド・マネージャーとして働くソグ(コン・ユ)は、別居中の妻に会いに行くと言ってきかない幼い一人娘のスアン(キム・スアン)を送り届けるため、プサン行きの高速鉄道KTXに乗車する。ソウル駅周辺での不審な騒動に戸惑いながらもKTX101号に無事乗車したソグとスアンだったが、その車内には、謎のウイルスに感染した一人の女が紛れ込んでいた。次々と感染者が発生する高速鉄道で、乗客たちの生き残りをかけた戦いが始まる・・・


~*~*~*~


 日本では日付変わって昨日9月1日のファースト・デイから公開が始まった本作『新感染 ファイナル・エクスプレス』は、韓国発のゾンビ・パニック映画だ。まず、この邦題…!ダジャレである。そして、お決まりの"ファイナル"である。つまり、マトモな映画ファンなら見向きもしないような、いわゆるB級感全開の邦題なのである。でも、我々のような"ゾンビ映画ファン"にとっては、そのなんとも言い様のない"ダサさ"が心地よい。ちなみに、オリジナルのタイトルは『釜山まで』とか『釜山行き』という意味になるだろう。英語で言うと『Train to Busan』。ちゃんとした題名である。

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 ところで、一ゾンビ映画ファンとして筆者が激怒しているのは、本作の宣伝展開についてである。本作は、世界中のゾンビ映画ファンから注目され、賞賛されている"正統派ゾンビ映画"にも関わらず、日本版の予告編では「心暖まるラストに、あなたは涙する…」みたいなアピールがされている。それどころか、試写を観たたくさんの女子高生に「感動した!」だの「愛に溢れていました!」だのという直筆のフリップを掲げさせているのである。…なんたる…!

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 ゾンビ映画って、そういうことじゃないよ?死人が歩き回る世界で、何の罪もない愚か者たちが必死で頑張り、はらわたを引きずり出され、目玉をえぐりとられ、挙げ句の果てには誰も助からない…。そういうジャンルだよ?まぁまぁ、とは言うものの、その点については百歩譲ろう。確かに本作は、いわゆる"ゾンビ映画の伝統"からすれば、かなり甘めでウェットな作品だ。なんとかして客に入ってほしい宣伝担当が"愛"や"感動"を全面に押し出したくなる気持ちも分からないではない。

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 しかし、しかしである。劇場の壁一面を覆うでっかいポスターに映画館が貼り付けていた追加の文言は、絶対に許せない。ひときわ目を引くイエローのステッカーには、なんと「注)これは、ただのゾンビ映画ではありません。」なんて書かれているのである。おい!おぉい、MOVIXあまがさき!あるいは、松竹さんよ…ふざけるな!!

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 こういう宣伝文句ってけっこうあるんだよ。"これは、ただのホラー映画ではない…"とかさ。いやいやいやいや、普通のやつ観せてよ。俺たちは、普通のホラー映画であり、普通のゾンビ映画が観たいんだけど。日本代表がワールドカップ行きを決めた試合を観て「いや~、これはもうただのサッカーじゃないですねぇ」って言うか?つまりどういうことか言ってやる。"ただのゾンビ映画ではない"という謳い文句の裏には、"(皆様が思っていらっしゃる通り)ただのゾンビ映画はくだらないものですけれど"という極めて的外れな決めつけが隠れているということだ。

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 もちろん、世の多くの人たちは、ゾンビ映画に無関心なのかもしれない。数年前に公開された大作ゾンビ映画『ワールド・ウォーZ』でも、極力"ゾンビ"というワードを使用しない宣伝がされていた。でも、お願いだから、そんなことしないでくれ。確かに"ゾンビ"というギミックは、高尚な代物じゃない。アカデミー賞で誉め称えられるような優等生じゃない。それでも、今や"ゾンビ"は、揺るぎないエンターテイメントじゃないか。毎年どれだけの人が、アホみたいにコスプレしてUSJに殺到する?『ウォーキング・デッド』は、今シーズンなんぼまでいってる?

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 大丈夫だから!って言ってあげたい。きっと映画館のスタッフの中にも、ゾンビ映画好きはいっぱいいるはずだ。俺たちがそうであるように。でも、業界に通底する"ゾンビ映画は当たらない"という常識が、彼らの正義を邪魔している。大丈夫だよ。"これはゾンビ映画です!"って胸張って行こう!それで、ゾンビを小バカにする野郎共の度肝を引きずり出してやろうぜ!

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 さて、前置きがすごく独善的かつ長尺になってしまったが、ここからは本作の感想を述べる。結論から言うと、おもしろかった!筆者が格別に気に入ったのは、物語の導入部である。ゾンビ映画の導入部で一番大切なことは何か。それはもちろん、違和感の表現である。あれ…何か今日は救急車よう走ってんなぁ。あれ…なんか変な人歩いてんなぁ。そんな、日常のワン・シーンとして無視し得るささいな違和感。それこそが肝だ。これはなぜかと言うと、ゾンビっていうのが、数の論理でこそ恐怖の対象となるモンスターだからである。ゾンビと言っても所詮は人だ。一体だけなら簡単に駆逐できる。ゾンビ映画のパニックが成立するのは、ゾンビが大群で襲ってくるからに他ならない。ということは、ゾンビ映画の冒頭は、必然的に生者が事なかれ主義を貫いている隙に死者が勢力を伸ばしていく、というものでなければならないのである。

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 この点、本作の導入部はバッチグーだ。まずは、アヴァンでの“鹿蘇生”がちょうど良い感じ。あらゆるホラー映画がこんなアヴァンになれば良いのに、とすら思わせる。その後、ソグとスアンが列車に乗るまでの道中と列車が発車するまでの間。ここにはいくつもの違和感が仕込まれている。かつ、その全てが絶妙のタイミング、すなわち、え…?あれ、何…?まぁ、いいか。くらいのタイミングで次のカットに行くのがナイス。ザック・スナイダーが当ジャンルの金字塔『ゾンビ』をリメイクした『ドーン・オブ・ザ・デッド』でもそうだったのだが、非日常が日常にゆっくり侵入してくる様子っていうのは、本当にゾクゾクする。ソグとスアンが家を出る時間帯が明け方というのも地味に良い。まさに“ドーン・オブ・ザ・デッド”である。

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 その他、良かった点で特筆すべきは、やはり男の中の男、サンファ(マ・ドンソク)の雄姿であろう。まぁ、本作を観た感想で彼に触れないのはありえないだろうな。それくらい、サンファは外さない。コワモテの外見にも関わらず、妊娠中の妻にペコペコしている初登場時。ははぁ、結局ありがちなフェミニストなのね、この映画の作り手は。という我々の邪推など愚か以外の何ものでもない。いざ臨戦態勢に入ってからの彼の"漢"たるや!男気はもちろんのこと、物理的戦闘力、ケレン味、カリスマ性、そして、ゾンビ映画には欠かせない"俺は噛まれた!お前らは生きろ!"という100点満点の自己犠牲。個人的には、今のところ"ベストいぶし銀男子2017"のNo.1である。

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 他にもざっと良いところを挙げると、例えば、ゾンビのバキッ…バキバキ!っていう動きのビジュアルが結構スタイリッシュでカッコいいとか、ラストでの「あぁ!これはまさか『ナイト・オブ・ザ・リビングデッド』(あるいは、『ザ・チャイルド』になってしまうんじゃ…!」という不安を上手に伏線回収してハッピー・エンドに持っていったところとか、色々ある。総じて、韓国のゾンビ映画と言えばコレ!という感じで、末永く映画史に残っていくことは間違いないだろう。

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 ただまぁ、不満に思ったところが無いと言えばウソになる。例えば、ゾンビの性質が説明不足とか。ゾンビと一口に言っても、実は作品ごとにその性質は様々だ。死んだ人間が生き返る、噛まれたり引っかかれたりすると感染する、人肉を欲してさまよい歩くといった基本ルールは、ジョージ・A・ロメロが『ナイト・オブ・ザ・リビングデッド』で提唱したものからほとんど変わっていないのだが、『バタリアン』なんかだと、ゾンビが走ったり、言葉を話したり、人肉ではなく脳ミソを欲していたりといった独自の趣向が施されていたりする。だから、ゾンビ映画を作るなら、一応その作品のゾンビがどこまでオリジナル・ルールを踏襲していて、どの辺でそれを崩しているのか、という説明を入れておかなければならないと筆者は思うのである。この点、本作では、噛まれたら感染するというゾンビの性質をたぶん作中で説明しなかったと思う。ちょっと怠慢だな、これは。まぁ、そんなこたぁ、当然知ってるだろう?と言われれば、確かにそうだね、と答えるしかないのだが、そうは言っても少し不親切ではあるだろう。

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 それから、割と決定的に筆者が気にくわなかったのは、本稿の最初の方で少し言及した通り、ややウェット過ぎるという点である。親子愛をテーマとして押し出すことには何の問題も無い。ただ、本作の感動シーンは、特に終盤で畳みかけてくるそれは、非常に冗長なのである。音楽も通り一辺倒のピアノ伴奏で、しかもそれが2回、3回とほぼ間髪を入れず繰り返される。んんん、別に良いっちゃあ良いんだけどさ。今どきのゾンビ映画に無常感ばかり求めてもそれは時代遅れというものだろうし。

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 とはいえ、作中繰り返し登場する倫理観の押しつけは、また別問題だ。主人公のソグは、ファンドマネージャーを生業としており、極めて自己中心的なキャラクターという設定。ファンドマネージャー=自己中心的という程度の前フリしか無いことも若干問題なのだが、娘が彼のジコチューを非難するところが特に納得いかない。確かに、ソグはファンドマネージャーの立場を利用して軍人とこっそり連絡を取り、他の乗客には内緒で別路を取ろうとした。しかし、それはあくまでも娘を助けたいという行動原理であるし、別に別路を知らぬ乗客たちだって、あの時点での情報ではただ隔離されるだけで、そっちの道に行ったら必ず死ぬというわけではなかった。それなのに、スアンがものすごい勢いでソグを責めるんだよな。お父さんはいつも自分のことしか考えない!って。そうですかねぇ…。筆者もソグの立場ならソグと同じ行動を取りますけどねぇ…。とかく本作が提示する倫理観は“おせっかいな押しつけ”、あるいは、“定式化された陳腐な善行”の域を出ておらず、逆に言えば、ソグの自己中心性に説得力を持たせられるほど脚本を詰め切れていない、と筆者は思うのである。

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 あぁ、もう一つあった。グロさね。これは全くダメ。およそゾンビ映画というジャンルに必要とされるグロ・レベルに、本作は全く達していない。カブッ!ブシュッ!その程度。あのね、真っ当なゾンビ映画っていうのは、はらわた引きずり出しシーンが必須なんだよ。中には『ゾンビワールドへようこそ』みたいに、はらわたシーンが無い代わりに下ネタで補うみたいな作品もあるけれど、本作はそういうのじゃないでしょう?特に、あそこまで振り切ったクソ野郎として描かれたヨンソク(キム・ウィソン)は、『死霊のえじき』のローズ大尉みたいに、はらわたというはらわたを引きずり出されて死ぬべきだったんじゃないか?彼にも守るべきものがあったんだ的な落とし方はもちろん納得の余地もないではないが、だったらあのピュアな高校生たちを犠牲にする描写は、えげつなすぎてノイズにしかならないぞ。逆に言えば、ヨンソクの極悪非道ぶりはかなり振り切っていて魅力的だったのだから、その“悪”に見合うだけのカタルシスをきっちり描けていれば、本作はより高みの傑作となっていた気がして少し残念だ。

点数:75/100点
 いくつか不満を書いたものの、ゾンビ映画ここに在りスムニダ!と宣言し得る大変な良作。とはいえ、アジアン・ゾンビ映画で言えば、個人的には圧倒的に『アイ アム ア ヒーロー』の方が良くできていたと思うのだが。あぁ、あと“韓国版『ワールド・ウォーZ』”と形容する人もいるみたいだが、それはさすがに買いかぶりだな。おそらく予告編にも出ている“群れ描写”を見てそう言っているのだろうけれど、本作に登場するその描写は、ほぼ予告編で登場する二か所だけだ。それでも、近年立て続けに排出されたこれらの作品を観ると、アジアン・ゾンビ映画のレールはまだまだこの先の未来へどこまでも続いていると思え、極東のゾンビ・ファンとしては本当にうれしい。

(鑑賞日[初]:2017.9.1)
(劇場:MOVIXあまがさき)

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Mr.Alan Smithee
Posted byMr.Alan Smithee

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