[No.437] セント・オブ・ウーマン/夢の香り(Scent of a Woman) <88点>

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キャッチコピー:『心で見る! こわれた夢のかけらを抱いて 男は小さな旅に出た…』

 Dance Must Go On.

三文あらすじ:ボストンの名門男子校に通う高校生チャーリー・シムズ(クリス・オドネル)は、感謝祭休暇中にある老人の面倒をみるというアルバイトに応募する。その老人フランク・スレード中佐(アル・パチーノ)は、かつてアメリカ陸軍の英雄でありながら、戦地での受傷により今では視力を失っていた。とてつもなく気難しく、毒舌家でエキセントリックなフランクに戸惑いながらも、チャーリーは徐々に彼との絆を深めていく・・・


~*~*~*~


 本作『セント・オブ・ウーマン/夢の香り』は、どう過小に見積もっても"90年代ヒューマンドラマの傑作"と呼ぶべき作品だ。まず、この邦題。上手いね!原題を直訳すれば『女の香り』となるだろう。実際、同じ原作を70年代に映画化したイタリア映画の邦題は『女の香り』だった。でも、このご時世、それじゃあどうにも座りが悪い。"匂い"よりもいささか高尚なニュアンスがあるとは言え("臭い"など論外だ。)、いまだささやかなエロティシズムの雰囲気は、脱臭しきれていない。そこで、『夢の香り』とする。"夢"なんていう抽象的な言葉をまた節操なく使うのか…と落胆するのは早計だ。本作をご覧になれば分かる通り、"朝目覚めたとき、隣で寝ている女の香りを嗅ぐこと"(要は、本当に愛し合える女性を見つけること)こそが、フランク・スレード中佐の"夢"なのだから。きちんと作品と向き合った上で頭を捻った秀逸な邦題である。

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 さて、プロフィールにも記載の通り、筆者はアル・パチーノが大好きである。したがって、第65回アカデミー賞において主演男優賞を受賞するほど彼の魅力が炸裂した本作も、当然大好きな作品ということになる。それでも、今まで感想を書いてこなかったのは、ひとえに心のマスター・ピースに見合うだけの感想を書ける気がしなかったからだ。しかし、この度、コメントにて本作の感想のリクエストをいただき(!)、それなら書かなければと奮い立った次第である。Whoo-ah!

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 まぁ、筆者の話はどうでもいいんだ。前回感想を書いた『ヒットマンズ・ボディガード』と同様、本作も広い意味での"バディ・ムービー"と呼んでいいだろう。とはいえ、本作のフランクとチャーリーは、『ヒットマンズ~』のキンケイドとブライスのような"対等なバディ"ではない。厳密に言えば、本作は、"バディ・ムービー"の中でも"師弟もの"に属する作品である。例えば…『ベスト・キッド』とか。もちろん、本作のチャーリーは半ば拉致にも近い形でニューヨークへ連れていかれただけなのであって、何も改まってフランクに弟子入りを申し込んだわけではない。しかしながら、キャラ設定上は、年齢、社会的地位ともにフランクの方が圧倒的に上なので、基本的には、フランクがチャーリーに"人生"を教えてやるという体裁で物語が進んでいく。

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 この手のジャンルは、師匠と弟子という形式的な上下関係がありながら、最終的には双方向での救済が導かれるという点が肝だ。本作でも、最終的には、チャーリーがフランクに"生きる術"を教えてもらい、逆にフランクはチャーリーに"生きる意味"を教えてもらう。そういったスキームを採用した同種の作品の中で言うなら、本作は、やはりひとつの完成形と言っていいだろう。また、『クリスマス・キャロル』のような"偏屈老人再生もの"として観てもいいし、『レインマン』のような"ロードムービーwith障害者もの"としての要素も、本作は持ち合わせている。

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 そんな本作の中で特筆すべきシーン、これはもう本当にいっぱいあるのだが、筆者が辛抱たまらんというくらいに感動するのは、やはり何回観てもタンゴを踊るシーンである。なんだかカッコよさそうな言い方をするなら、このシーンは、"生"と"死"が併存し、"希望"と"絶望"が同居し、全体として"人生"を象徴している、という、そんなシーンである。

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 つまり、まずは"女"の完璧さね。フランクがタンゴに誘うドナ(ガブリエル・アンウォー)という女性。まずは、この美貌に圧倒される。彼女の名である"Donna"はイタリア語でそのまま"女"という意味であり、つまりは、『ルパン三世』で言うところの峰不二子同様、"女のイデア"として配置されているキャラクター。そんな彼女が"男"と踊る。彼は、光を持たぬ不完全な存在だ。しかし、彼は、タンゴを踊ることができる。対する"完璧な女"は、初めてのタンゴに戸惑いながら、恐る恐るステップを踏む。タンゴの名曲『ポル・ウナ・カベサ』に乗せて舞う二人の姿は、比類なく美しく、この上もなく"生"に満ち溢れている。フランクが言った通り、そして、本作が全体として標榜している通り、タンゴは人生と同じ。足が絡まっても踊り続ければいいのである。

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 しかしながら、このシーンの根底には、同時に確固たる"死"の香りが漂っている。心の底から楽しそうなフランクとドナに魅了されながら、我々は心の片隅で"フランクはこの後自殺するつもりなんだ…"ということを忘れてはいない。この構成、つまり、フランクの旅の最終目的が自殺であるということを序盤で早々に明かした点が、本作の極めて秀逸な部分であろう。タンゴ・シーンに限らず、フランクがチャーリーに無茶ぶりを繰り返すシーンやフランクが兄の家に押し掛けるシーン、その他あらゆるシーンの根底に"死"が横たわっているからこそ、我々は、儚さだったり、悲しさだったり、愛しさだったりを逐一感じながら、フランクの荒唐無稽な振るまいにのめり込めるのだし、だからこそ、フランクとチャーリーとの絆に説得力が生まれていくのである。

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 あとは、やっぱり名言の多さな。フランクが繰り出す粋で含蓄てんこ盛りなフレーズの数々は、もはや格言の域に達していると言ってよい。例えば、フランクがニューヨーク行きの機内でチャーリーに向かって言う

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「この世で唯一聞く価値のある言葉は"プッシー"だ。」

(There's only two syllables in this whole wide world worth hearing: PUSSY.)


とか。いやぁ、おっしゃる通りなんじゃないか。

 あと、ジャック・ダニエルを"ジョン・ダニエル"と呼ぶカッコよさね。チャーリーから「ジャック・ダニエルのことですか?」と指摘されると、

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「俺くらいの付き合いになると"ジョン"でいいのさ。」

(He may be Jack to you son, but when you've known him as long as I have…)


だって。初鑑賞後、このセリフにシビれまくった筆者は、周りの友達に漏れなく吹聴していた。また、現在にいたるまで筆者のお気に入り銘柄がジャック・ダニエルなのは、嘘偽りなく本作の影響だ。そろそろ"ジャッキー"くらいなら呼んでみてもいいだろうか。

 本作で最も有名な格言は、チャーリーが校内裁判にかけられる際、腐りきった校長(ジェームズ・レブホーン)に向かってフランクがぶつ演説の中のワン・フレーズ、

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「潰れた魂に義足はつけられない。」

(There's no prosthetic for that.)


であろう。さっきの"プッシー"は冗談半分だとしても、こればっかりは真実だと思うんだ。筆者が本作を初めて鑑賞したのは、大学生の頃。同じゼミの先輩が勧めてきたので観てみたのである。あの頃はまだ若く自由だったから、このセリフも"おぉ!めっちゃカッコええやん!"くらいに思っていたのだが、よくよく振り返ってみると、この格言こそが今の筆者を支えている。本当にくだらない、それこそトラスク校長みたいなクソ野郎どもに日々囲まれながら、そして、そんな状況に真っ向からは抗えなくても、己の魂だけは潰させない、そう思って毎日をやり過ごしている。

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 あぁ、筆者の話はどうでもいいんだった。俺たちの師匠スレード中佐は、最後の最後までシビれさせてくれる。校内裁判終了後、声をかけてきた政治学の美熟女教師クリスティーン・ダウンズ先生(フランセス・コンロイ)と言葉を交わし、彼女の香りからフルール・ドゥ・ロカーユという香水の銘柄を当ててみせるフランク。どうして分かったの?と驚く彼女に、フランクは、

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「これで、いつでもあなたを探せます。」

(I'll know where to find you.)


とほほ笑みかける。尽くす言葉もない。長い映画の歴史の中でも、ここまで粋でダンディな盲人は、かつていなかったであろう。

 もちろん、そんな最高に魅力的なキャラクターに命を吹き込んだこの男を忘れてはならない。身長166㎝というハリウッド・スターらしからぬ小柄さでありながら、ほとばしるエネルギーが見る者全てを圧倒する映画史上の大巨人。ご存知、アル・パチーノである。あらゆる批評家が血眼で論じ尽くしてしまった現代において、今さら筆者などが彼を語るのは笑死だが、個人的なオススメ作品を3本挙げるとすれば、以下の通りである。すなわち、『狼たちの午後』、『スカーフェイス』、そして本作『セント・オブ・ウーマン』(もちろん、『ヒート』『インサイダー』も大好きな作品ではあるのだが。なお、『ゴッドファーザー』は全人類が義務教育として既に観ているはずだから、ここでは割愛する。)。

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 この3作で彼が演じた役どころには、アル・パチーノという役者を見る上での重要な共通点があるように思う。それはすなわち、"虚勢感"だ。ビビりながら初めての強盗に挑戦したソニーも、チンピラから暗黒街の顔役に成り上がっていったトニーも、そして、本作のフランクも、みんな眼光鋭く、狂気走っていて、始終うるさくがなりたてるのだが、それは全て自分を大きく見せたいからに他ならない。ここが、アル・パチーノの魅力なんだと思う。

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 彼の演技は圧倒的だ。作品内で爆発する彼の恫喝は、スクリーンを隔てた我々観客をも萎縮させる。しかし、そこには、確固たる"悲しみ""哀愁"が、常に共存しているのである。そして、ここで意外と重要なのは、彼の身長の低さだ。トム・クルーズは身長の低さをなるべく感じさせないように素晴らしいアクションを展開する俳優だが、同じチビ助でも、アル・パチーノの場合は、その低身長までをもしっかり武器として利用し、キャラクターに深みを与えているように思える。

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 さて、ここまで本作をほぼ手放しで褒めてきたわけだが、個人的な不満が全くないと言えばウソになる。特に、フランクとチャーリーがボストンに帰ってきてからの展開は、やや説得力を欠くと思わなくもない。つまり、先ほどもチラリと言及した校内裁判で、フランクが演説をぶつシーン。彼の演説自体は本当に素晴らしい。チャーリーとの関係性は既にこれ以上ないほどできあがっているし、演説の気迫に校長が気圧されることも至極納得だ。しかし、その他の第三者、つまり、"傍聴席"の生徒たちや、"裁判官"としての先生及び選抜された生徒たちはどうだろう。

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 チャーリーと校長以外の傍観者たちにとって、フランクは、自称"チャーリーの親の代理"である怪しげな盲目の老人にすぎない。そんな彼の演説であんなにも素直に熱狂するのは、少しご都合主義的じゃあないかな。もちろん、ロジックは理解できる。謎の老人が行った魂の演説は、そのカリスマ性で初対面の若者たちを圧倒し、校長の腐った主張への反発を押し留めていた臆病さを霧散させ、最後には大喝采へと駆り立てた。それは理解できるが、描き方が若干甘いように思う。見ず知らずの、しかも、"めくら"のじじいに男子高校生が心を奪われていく様子、要は、始めの内こそ半ばバカして見ていた彼らが、徐々に"え…なんなんあのじじい…ちょっと…カッコええやん…。"となっていく感情のさざ波をもっと露骨に描いても良かったのではないかな。うん、まぁもちろん、そんな筆者の批判はてんでピントを外しているのかもしれないが。今のところ魂に義足は不要だが、"映画魂"につけるメガネがあるなら、ぜひお借りしたいものである。

点数:88/100点
 リクエストに気を良くし、気負って書いてはみたものの、やはり筆の絡まった駄文となってしまった。しかし、それでもなんとか最後まで踊り続けられたのだとしたら、まぁそれで良しとしようか。

(鑑賞日:2017.9.5)










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リクエストにお応えいただきありがとうございました!私にとって、中学生時の初鑑賞から、変わらぬマスターピースとして心の中に在り続ける作品です。「Por Una Cabeza/ポル・ウナ・カベーサ」に至っては、結婚式でも使わせてもらいました(笑)

本作のアルパチーノは、どうしようもない哀しみを抱え人生に絶望しながらも、チャーリーとの交流を通じ再び生きていくことを選択していく姿を、彼でしか表現でき得ない演技で見事に演じていると思います。
しばらく鑑賞していませんが、本記事のおかけで初鑑賞時の喜びを思い出しました。近く、何度目かわかりませんが、再鑑賞したいと思います。

今後も変わらぬ映画愛のもと、素敵な記事を楽しみにしておきます。
ありがとうございました!

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