0 Comments
unbreakable.jpg



キャッチコピー
・英語版:Are You Ready For The Truth?
・日本語版:真実を知る覚悟はあるか

 儚くも、決して壊れざる物語。

三文あらすじ:アメリカ、ペンシルバニア州のフィラデルフィアで131名もの乗員・乗客が死亡する未曾有の列車事故が発生するが、その大惨事の中、たった一人だけ無傷で生還した中年男デヴィッド・ダン(ブルース・ウィリス)は、自分だけが生き延びた理由を求めていた。そんなある日、イライジャ・プライス(サミュエル・L・ジャクソン)という謎の男が現れ、デヴィッドこそが不滅の肉体を持つ"ヒーロー"であると告げる。半信半疑ながらも自らの存在意義に気づき始めたデヴィッドは、やがて恐ろしい真実に直面することになる・・・

※以下、ネタバレあり。


~*~*~*~


 前回は、遂に完全復活を遂げた我らがヒーロー、M・ナイト・シャマランの最新作『スプリット』についての感想を書いたので、今回は同作の前編『アンブレイカブル』について若干述べる。一夜にしてシャマランをスター監督の座にのし上げた『シックス・センス』からわずか一年後の2000年に公開された本作は、当時なにかと酷評された。シャマランに"『シックス・センス』の一発屋"というレッテルを貼り付けた元凶であり、その後長らくの低迷が始まる直接の引き金ともなった問題作。シャマランの王座を儚(はかな)くも一夜のものにしてしまった本作は、しかして、彼が頑なに貫き続ける"シャマラニズム"が最も強固に押し出された、揺るぎない傑作である。

unbreakable1.jpg


 まず前提として、本作はなにゆえ世間からの惜しみないブーイングを受けたか。正確な分析はまた他に山盛りあるだろうが、筆者が思う最大の理由は、やはり"露骨な物語性"である。これは同時に"シャマラニズム"の最も重要なファクターでもある。つまり、シャマランという男は、一貫して"物語"、すなわち"ファンタジー"を描き続けてきた監督だ。もちろん、『ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー』だって"ファンタジー"だし、『スーパー!』だって"ファンタジー"である。詰まるところ、映画というのは設定の時間的・場所的相違に関わらず究極的にはどれも作り話なのだが、どんな作品であっても、その世界の中に登場する"最もファンタジーなギミック"に合わせてその他の部分を調律するものだ。『ガーディアンズ~』なら、宇宙人をも含むボンクラチームが浮いてしまわないようその他の世界観を全てファンタジックに固めるのだし、『スーパー!』なら、クリムゾン・ボルトというぶっ飛んだおっさんが浮いてしまわないようその他の人物設定や演出を現実よりややファンタジックな雰囲気でまとめ上げる。しかし、シャマランという男は、このような調律作業をほとんどしない。

unbreakable2.jpg


 彼は、現実に物語を"乗っける"のである。"現実に潜んでいるファンタジー"とか、そんな生易しいもんじゃない。ストーリーの根底はいたって普通の現代劇なのだが、オチに近づくにつれ、どんどん"むき出しの「物語」"が積まれていく。本作で言うなら、コミック的な意味での"ヒーロー"が実在してもいいような世界観をほとんど構築せず、あり得る現実感のまま突き進んでいくのに、ラストでは結局本当に"ヒーロー"が実在してしまう。もちろん、"現実感"と言ったって、それはあくまでも"映画的な現実感"だが、オチの"物語性"と比較すればそれまでの描き方が現実的すぎるため、みんな最後には「え?!結局そっちなん?!」と叫ぶことになるのである("現実"と"物語"の例えは、逆の構造でもいい。一見真っ当な現代劇かのような包装を剥がしていくと、中からおもむろにファンタジーが出現するプレゼント。うん、こっちの方がしっくりくるかな。)。

unbreakable3.jpg


 本作だって、『レディ・イン・ザ・ウォーター』だって、『サイン』だってそうだった。あれ…こんなにリアルっぽい語り口なのに、もしかして"これ"ってマジでやってる感じ…? みんなそんな風に思いながら観ていたでしょう? で、ラストでは「はい!これはマジです!終わります!」という唐突な宣言に目を丸くし、「え?!やっぱそっちなん?!」と叫んだはずだ。『ヴィレッジ』なんかはある意味その逆パターンだな。あれは、ファンタジーの世界をずっと描いていって、ラストで突然に"現実"が乗っけられた。『シックス・センス』は、あれはたまたま現実からの飛躍が小さい"物語"だっただけだ。だから、みんな素直に驚けた。まぁ「はい!死人はマジで見えます!終わり!」とせずにもうひとドンデン返しあったこともデカいとは思うが。

unbreakable4.jpg


 あと、事前の宣伝展開もマズかったように思う。どこもかしこも"あの『シックス・センス』のシャマランが…"とぶち上げたわけだし、予告編も"なぜ彼はただひとり無傷で生還できたのか…。"という一点に絞りすぎていた。当然、当時の観客たちはみな、「ねぇねぇ、なんでブルース・ウィリスだけ生き残ったんやと思う? やっぱり実はもう死んでるとかかなぁ?」「 いや、お前それやったら前といっしょやんけ!」なんてキャピキャピしながら劇場に足を運んだわけだが、いざ提供された解答は、彼は…なんと"ヒーロー"だったのです…!というものだったのだから、そりゃあポカンともするだろう。まぁ、当時の宣伝担当に、『シックス・センス』を度外視せよ!なんて口が裂けても言えないし、シャマラン自身も作中で「このお話はオチであっ!と驚くらしいわよ…。」(イライジャのお母さんが、イライジャに初めてACTIVE COMICSをプレゼントしたときの台詞。)なんてやっちゃってるもんだから、もはや擁護のしようもないのだけれどな。

unbreakable5.jpg


 そんなこんながあったため、本作以降のシャマランは、"トンデモ映画監督"とのレッテルを貼られることになったのである。シャマランが提示する"むき出しの物語"は、真面目に鑑賞してきた理性ある大人たちへの裏切りであり、呆れられてもしょうがない。加えて、その後も次々と同様の手法で客を騙し続けたのだから、大抵の大人たちは、とうの昔にホトホト愛想を尽かしていたのである。しかし、中にはそうは思わない者たちもいた。そう、俺たちのような"シャマラー"だ。世間から見放された"トンデモ映画"を密かに待ちわびる隠れキリシタン。いつの日か訪れる再びのクーデターを虎視眈々と狙うゲリラ。そんな俺たちの決定的なアイデンティティーとは、もちろん"物語の力を信じている"ということである。

unbreakable6.jpg


 『スプリット』の感想でもちょっと書いたけれど、"物語"、"ファンタジー"、"空想"、"作り話"、これらは、現実というくだらない敵と戦うための"武器"である。映画の中で繰り広げられる"ありえない出来事"に希望を見いだすことができるから、俺たち"ボンクラ"は明日も戦っていける。もちろん、それらが荒唐無稽な夢物語であり、絵空事であるということは、我々が一番良く分かっている。そんなことに現(うつつ)を抜かすのは、幼稚なガキんちょだけだ、そんな風に思う大人がたくさんいることも知っている。でも、だからこそ、なんだ。荒唐無稽な戯れ言だから、儚く消える絵空事だから、だからこそ、せめて映画の中では"現実"になって欲しい。1,800円払った2時間くらい、絵空事がエソラになってくれてもいいじゃないか。

unbreakable7.jpg


 こういった多くの"ボンクラ"たちの心の叫びを無邪気なまでに具現化し続けるのが、シャマラン作品に他ならない。ゆえに、彼の作品は"物語の力を信じる者たち"にはウケるのである。事実、"ボンクラ"の王であり、"物語"の信奉者でもあるクエンティン・タランティーノは、『アンブレイカブル』を"大好きな一本"と公言してはばからない。ただ、やっぱりタランティーノ作品なんかだと、全体的に「これは作り物ですよー!」っていう感じに調整されているのに対して、シャマラン作品は「え?マジの話ですよ。マジっすマジっす。マジで…ヒーローいます。」って感じになっていて、それだけに裏切られたと感じる観客が多くなるのだろう。逆に言えば、実はシャマランの方がより無邪気に、そして、率直に"物語"を信じているとも言えそうだが。

unbreakable8.jpg


 そんな"シャマラニズム"が最も完ぺきな形で体現されているのが、本作『アンブレイカブル』。シャマラン自身が自らの監督作の中でも本作をベスト・ワークに挙げていることも頷ける。すなわち、本作の肝っていうのは、当時『シックス・センス』の再来を期待して裏切られた多くの観客の予想、つまりは"どんでん返し"なんかじゃない。RHYMESTERの宇多丸師匠がシャマラン作品全般を指して"世界の真の姿と己の役割を知る物語"と表現した通り、デヴィッド・ダンという冴えないおっさんが、"コミックは現実に存在し得る超人の活躍をデフォルメして描いた神話である"ということを知り、自身のヒーローとしての役割に目覚め、そして、その対極としてのヴィランが生まれる、その美しいまでの"物語的筋書き"を楽しむ作品だ。『シックス・センス』みたいな"どんでん返し"ではなく、言ってみれば"パズルが完成する爽快感"。これこそが、本作の一番の魅力である。

unbreakable9.jpg


 そして、この"ヒーローコミックは現実のデフォルメでしかない"という発想。今でこそ"ヒーローをリアルに描く"という試みは当たり前のものになっているが、本作が公開された2000年は、現在のヒーローブームのパイオニアであるサム・ライミ版『スパイダーマン』が公開されるより2年も前なのだから、これはもうシャマランの先見の明を崇拝するしかないだろう。とはいえ、だからこそ、本作のやり方はいくらなんでも愚直すぎたとも言い得るのだが。"死人が見える"という"物語"はまだしも、やはり"コミックヒーローは実在する"という"物語"を大真面目にやるには、未だ土壌が薄弱だったのではなかろうか。仮に、世間もすっかりヒーローを現実に迎え入れた今やっていれば、本作はもっと端的に好評価を得ていたように思う。

unbreakable10.jpg


 その他、本作で特筆しておきたいディティールやトリビアの類(たぐい)は、前回の『スプリット』で概ね述べたので、今回は割愛する。最後に、これは今思い付いたことだが、本作『アンブレイカブル』、次作『スプリット』、そして、三作目の『ガラス』、これらのタイトルって、たぶん"能力名"だよな。『ガラス』だけならヴィランの名前かとも思うが、『アンブレイカブル』も『スプリット』もキャラクターの愛称ではないし。つまり、絶対に傷をつけることができない不死身のヒーローの能力名が"アンブレイカブル"、いくつもの人格を自在に変化させるヴィランの能力名が"スプリット"という具合だ。つまり、あれよ。『ONE PIECE』の実写化に際してタイトルを"RUBBER"にした、みたいな感じよ。より筆者のイメージに近いのは、大昔マガジンにちょっとだけ連載されていた『トト!』っていう漫画ね。あれに出てきた、例えば、物体を転送する能力が"ジャンプ"って呼ばれていた、あの感じ。

unbreakable11.jpg


 で、そう考えると当然"ガラス"も能力名ということになるのだが、果たして彼の能力とはいったい何だろう。この点、筆者は、実は"Mr.ガラス"の能力は、まだ本作の時点では全て明らかにはなっていないと思うのである。"全て"というのは、本シリーズの能力者には、基本的に2つの能力が宿っているように見受けられるから。すなわち、ヒーローであるデヴィッド・ダンは、"絶対不可侵《アンブレイカブル》"という能力とは別にいわゆる"サイコメトリー"の力を持っている。『スプリット』でヴィランとして覚醒した"ザ・ホード"ことケビン・ウェンデル・クラムは、"変幻自在《スプリット》"という能力とは別に(あるいは、その一部として)"ザ・ビースト"というパワー系の能力を持っている。これに対して、Mr.ガラスは、未だ"ガラス"と呼べる能力を発揮していないと思うのである。

unbreakable12.jpg


 これはやはり次作で大々的にお披露目されるということではないのか? たぶん彼の"もうひとつの能力"の方は、その"知能"の部分であって、既に本作で披露されていると思うのだが、"ガラス"は何だろうな。やっぱりこう…彼の"脆さ"や"儚さ"を象徴する力であってほしい。"Mr.ガラス"はヒーローに倒されるが、彼の意思はまるで粉々になったガラスのように多くの人々に降り注ぎ、感化された彼らが第二、第三の"Mr.ガラス"になっていく…。みたいな。死して初めて発動する真の能力、というわけである。あるいは、攻撃を受けると粉々になった破片が相手に襲いかかるという物理兵器を携えていてもいい。この場合の能力(武器)名は……"硝煙弾雨《ガラス》"だな。いやぁ…中二病楽しー!

点数:94/100点
 というわけで、最後の方は特に"大人気ない"話を展開してしまったが、"物語の力を信じる者"っていうのは、言ってみればつまり"中二病"なのである。人はみな、生まれてから中学生、高校生あたりまでは"物語"の力を信じているのに、大学生や社会人になるとだんだん野球観戦だったり、サッカーの応援だったり、サーフィンだったり、ファッションだったり、株だったりといった"現実"の事柄に興味が移っていく。それは、言い換えれば中二病が治癒したということでもあるだろう。しかし、いつまでたっても大人になりきれず映画ばかり観ている筆者のような現役中二病患者たちも、世の中には少なからず存在している。そして、そのような人物こそが"物語の力を信じる者"なのであり、また大抵の場合、同時に"シャマラー"でもあるのである。そんな我々にとって、M・ナイト・シャマランという男は、希望なんだ。世間から小バカにされながらも、彼はまた懲りずに我々の前に現れる。「中二病患者諸君、もう大丈夫だ。お前たちの大切な"物語"は、誰にも壊させない。」 そんな得意気な顔をして。すなわち、"映画監督《シャマラン》"という能力を有したこの無邪気な"物語信者"こそが、我々"シャマラー"にとっての"ヒーロー"なのである。

(鑑賞日:2017.10.10)

アンブレイカブル [Blu-ray]

新品価格
¥1,606から
(2017/10/15 13:55時点)


アンブレイカブル(字幕版)

新品価格
¥199から
(2017/10/15 13:59時点)


スプリット ブルーレイ DVDセット [Blu-ray]

新品価格
¥3,127から
(2017/10/15 14:00時点)


スプリット (字幕版)

新品価格
¥2,000から
(2017/10/15 14:00時点)


コミック貧困大国アメリカ

新品価格
¥1,296から
(2017/10/15 14:01時点)


中二病超(スーパー)図鑑 ~ファンタジー・軍事・オカルト・化学・神話~

新品価格
¥1,404から
(2017/10/15 14:05時点)


関連記事
スポンサーサイト
Mr.Alan Smithee
Posted byMr.Alan Smithee

Comments 0

There are no comments yet.

Leave a reply