04
2012

[No.50] インサイド・マン(Inside Man) <77点>

CATEGORY銀行強盗
Inside Man



キャッチコピー:『それは、一見誰が見ても完璧な銀行強盗に思われた・・・。』

 暴かれる、銀行と人間の”内面”。

三文あらすじ:物語は、ある小さな部屋の中にいる男(Inside Man)の独白から幕を開ける。その男ダルトン・ラッセル(クライブ・オーウェン)率いる銀行強盗チームが、マンハッタン信託銀行を襲撃、50人の人質をとって立て籠もる。通報を受け、NY市警のキース・フレイジャー(デンゼル・ワシントン)が現場へ急行する一方、事件発生を知り極端に狼狽する信託銀行会長アーサー・ケイス(クリストファー・プラマー)は、敏腕弁護士マデリーン・ホワイト(ジョディ・フォスター)を呼び出し、ある貸金庫の中身を保護するという密命を与え現場へ送り出す・・・

※以下、ネタバレ有り。


~*~*~*~

 
 ポスターが非常にオシャレ。日本版キャッチコピーは、ちょっとだけズレている。本作の銀行強盗は、一応完璧に遂行された。

 銀行強盗において最も重要な課題は”如何にして警察から逃げるか”という点にある。犯人側が犯行場所を任意に選択できる殺人などとは違って、銀行強盗は犯人側が銀行に赴かなければならないから、地の利は確実に銀行・警察などの防犯側にある。したがって”警察に包囲される前に逃げる”、より具体的には”警報機を押させない”というのが、銀行強盗を成功させるための基本的な必須条件となる。

 しかし、この点、本作の銀行強盗はかなりユニーク。彼らは、包囲されることを前提に計画を立てた。
 まず、何十人もの人質を自分たちと全く同じジャンプスーツ&覆面姿に着替えさせる。そして、警察の突入寸前で、一斉に人質を解放し、自分たちもそれに紛れて脱出するのである。もちろん警察は出てきた者を全員拘束し取り調べるのだが、銀行内で犯人達は終始覆面をしていたから、皆誰が犯人か証言できない。後は、犯人自身も知らん顔で取調べをやり過ごし、まんまと解放されるという訳だ。
 しかし、当然これだけでは銀行から何も持ち出せない。本作で、犯人一味はダイヤとある書類を盗むのだが、こんな物を持っていてはせっかく人質に紛れて脱出しても取調べですぐバレてしまう。そこで、銀行の倉庫内に小部屋を作り、リーダーであるダルトン・ラッセルが事件後1週間そこで過ごすことになる。1週間も経てば、銀行は通常営業に戻っているから、盗んだ荷物をバッグに詰めてそ知らぬ顔で正面玄関から出て行くことができるのだ。
 銀行内に立て籠もるだけでなく、小部屋の中で1週間過ごす銀行強盗。そういう意味で”インサイド・マン”なのである。

 これは非常に合理的で鮮やかな計画だが、一つ難点を挙げるとすると、倉庫の奥行きが変わったらさすがに行員が気付くのではないか。
 ダルトンが身を潜めるのは、ドアがある面以外の三面に事務用ラックが置かれた、それほど広くない普通の倉庫。そのドアの正面側の壁の手前約80cmの位置に張りぼての壁を作り、ダルトンはその小さな空間で1週間を過ごす。しかし、そんなことをすれば、部屋の奥行きも変わるし、左右の壁のラックが短くなる分、ラックに置かれた物のレイアウトも多少変更され、日々そこを利用する行員の誰かが違和感を覚えてもおかしくない。まぁ、この点が映画全体の出来を阻害するほど引っかかるわけでもないから、広い心で見逃すべきではあろうが。

 とにかく、以上のように本作では銀行強盗史上希に見るトリッキーなトリックが用いられるが、実はこれが本作の肝ではない。本作で真におもしろいのは、事件を取り巻く人間模様である。

 まず、ダルトン率いる銀行強盗チームは、銀行内の現金目的で犯行に至ったのではない。彼らが狙うのは、貸金庫392に封印されたダイヤと書類である。これは、マンハッタン信託銀行グループ会長アーサー・ケイスの黒い遺産だ。彼らは、ダイヤを盗むだけでなく、ケイスの過去をも暴こうとする正義感溢れる銀行強盗なのである。結局、ダルトンは、フレイジャーの手腕を認め、手がかりとなるカルティエの指輪を貸金庫に残すことで、ケイスの過去暴きをフレイジャーに託すことになる。

 黒い過去を持つ男、アーサー・ケイスは、第二次大戦時、ナチスに協力し多くのユダヤ人が殺害される中で巨万の富を築いた。この過程で得たのが貸金庫に保管されているダイヤとカルティエの指輪であり、書類はナチスとケイスとの関係についての証拠となる。そこで、ケイスは秘密裏にそれらを奪還するため、腕利き弁護士マデリーン・ホワイトを派遣する。ケイスは、何が何でも自分の黒い過去を暴かれたくないから、ホワイトに破格の報酬を払うことも厭わない。

 このホワイトがまたくせ者弁護士。彼女は、現場に潜入するため市長のコネを使うが、これも本作以前に握った市長の弱みをいつまでも引っ張っている感じがありありと伝わってくる。「私は敵よりも友達を多く作ってここまで来たのよ。」というのがまたイヤらしい。ケイスの過去を知ったホワイトは、ラストでケイスを責めるが、ちゃんと報酬は受け取り「これからもよろしく。」的な捨て台詞を残す。ケイスもまた市長と同じ意味での”友達”になってしまったのだ。そんな彼女は、ケイスの過去が暴かれるのを防ぐため、フレイジャーが犯人と疑われている横領事件に手を回して解決したり、彼を急に昇進させたりという餌を与える。

 そして、事件を担当するキース・フレイジャー。彼もまた単なる切れ者刑事ではない。事件発生時、彼は14万ドルの小切手を着服した疑いにより署内で干されている。そんな彼に、名誉挽回のチャンスと上司から銀行立て籠もり事件が振られるのだ。
 フレイジャーは極めて上昇志向が強い。この事件をきっかけに出世街道をばく進しようと、事件解決に躍起になる。もっとも、悪人という訳でもなく、貸金庫に残されたカルティエの指輪からケイスの過去を暴いていこうという意欲も見せる。とはいえ、やはり完全に良い奴という訳でもない。フレイジャーは、事件から1週間後、銀行の入り口でダルトンとすれ違う。当然フレイジャーは、それがダルトンだと気付かないが、ダルトンはフレイジャーとのすれ違いざま、彼とぶつかり、万引きの逆の要領で彼のポケットに小粒のダイヤを滑り込ませる。自宅に帰り、ダイヤに気付くフレイジャー。映画はここで終わるのでその後どうなったかは分からないが、あのフレイジャーのリアクションからして彼はダイヤをありがたく頂くだろう。刑事にもかかわらず、盗品をもらってしまうところがフレイジャーらしいし、このことで実は彼が本当に小切手を着服していたのではないかという疑いを観客は抱くことになる。

 このように、本作は、ダルトン率いる銀行強盗チーム、ケイスとその依頼を受けたホワイト、そして刑事フレイジャーという3者が見事に噛み合って構成されている。結局、フレイジャーは、ケイスの過去を捜査することでホワイトからうまい汁を吸い、ホワイトは、フレイジャーの捜査を阻止しようとすることでケイスから報酬を得、その弱みを握ることができる。そして、書類を銀行強盗が持って行ったことでケイスはひとまず安心だし、強盗側は、これ以上事件を荒立てたくないケイスの圧力によって楽々逃げることができる。3者の誰も損をせず、それでいて良い人ばかりのハッピーエンドという訳でもない。絶妙なバランス。

 本作の監督スパイク・リーは『ドゥ・ザ・ライト・シング』や『マルコムX』などで見られるように、人間関係を器用に描く監督だ。本作のようなエンターテイメントムービーを撮らせても、やはり単なるクライムアクションには留まらない緻密な作品に仕上がっており、大変素晴らしい。

点数:77/100点
 以上で述べたことは、あくまで筆者の解釈にすぎない。本作はけっこう行間の多い作品で、観る者によって様々な解釈が成り立つだろう。違う言い方をすると説明不足ということなので、お気楽クライムムービーだと思って観始めるとなかなかついて行けないかもしれない。あと、極めて個人的な苦情を言わせてもらうと、ダルトンのように正義感を露わにする銀行強盗というのはちょっといただけない。銀行強盗というものは、偽善などに目もくれず、あくまでもロマンと現金のみを追い求めるプロフェッショナルであってほしいものだ。

(鑑賞日:2012.3.3)










インサイド・マン [DVD]

新品価格
¥1,000から
(2013/3/24 23:25時点)


インサイド・マン [Blu-ray]

新品価格
¥1,318から
(2013/3/24 23:25時点)


小さな部屋でセンスよく暮らす パリのインテリア

新品価格
¥1,620から
(2015/2/27 00:18時点)


だれもが偽善者になる本当の理由

新品価格
¥2,700から
(2015/2/27 00:22時点)



関連記事
スポンサーサイト

Tag:アイ・ラブ・ニューヨーク

0 Comments

Leave a comment