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キャッチコピー
・英語版:unknown
・日本語版:進め。兄弟の絆を懸けて。

 "絶叫"の錬金術師

三文あらすじ:エドワード(山田涼介)とアルフォンス(声、モーションキャプチャー:水石亜飛夢)のエルリック兄弟は、死んでしまった母親を生き返らせようと、錬金術における最大の禁忌"人体錬成"を行い、失敗する。その代償として、エドは右手と左足を失い、体全てを失ったアルは魂を定着させた大きな鎧の姿になってしまう。時が経ち、失った右腕と左脚を"機械鎧(オートメイル)"化して国家錬金術師となったエドは、失ったものを取り戻すため、アルと共に絶大な力を秘めた伝説のアイテム”賢者の石”を探す冒険に出発する・・・


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 前回の『テラフォーマーズ』の感想では"観に行くか迷っている"と書いたが、せっかくのファースト・デイということもあり、結局、本作『鋼の錬金術師』を劇場鑑賞してきた。原作は、2001年から2010年まで月刊少年ガンガンで連載されていた荒川弘による同名漫画。世界観やガジェットのフレッシュさ、ストーリー面での心地よいミステリアスさ、そして、特に女性にとっては、主人公エドワード・エルリックを始めとするイケメン男子たちの共演(彼らのイケメンさを脳内で補完し得る絵柄のシンプルさもデカい。)などなど、様々な要素が見事に混じり合って錬成された同作は、筆者世代のおっさん、おばはんなら学生時代に一度は読んだことのある国民的コミックである。

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 当然、筆者も『ハガレン』を楽しく読んでいたクチである。まぁ、途中で止めてしまって、連載終了後に弟からオチだけ聞いたけどほとんど忘れてしまった。その程度のライト・リーダーではある。そんな筆者が同作に惹かれたポイントは、大きく次の3つ。まずは、やっぱり"兄弟もの"という点。筆者自身も弟と"たった二人の兄弟"なので、エドとアルには必然的に感情移入するわけである。もちろん、『北斗の拳』だって言ってしまえば"兄弟もの"だが、やはり少年である兄弟の冒険譚(しかも、お兄ちゃんが主役!)という部分が、筆者の琴線をピコピコと震わす。

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 それから、"錬金術師"というものを描く上で、きちんと"科学"と"少年漫画"の両方に目配せしたナイス・バランスに落とし込んだという点。つまり、まずは"錬金術"という中世ヨーロッパの"科学"を、ちゃんと"科学"(化学?)として打ち出したのが偉い。しかし、少年漫画(のバトルもの)である以上、アレとコレを調合して…みたいな工程だけではハナがない。そこで、陣(科学式)を描いてフンッと気合いを入れれば物体を錬成できる、とする。少年漫画というスキームを前提にするなら、これはあり得る"科学"の描写として十分に納得の範疇だ。しかも、これを標準とした上で提示される、更に"真理"を見たものは体で輪を作るだけで錬成できる、"賢者の石"を使えばノーモーションで錬成できる、というパワーインフレの構造も非常に説得的(正確には、全編を通してほとんどインフレしないという点が素晴らしい作品だった。)。

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 最後に、登場人物とのドライな距離感。まず、主人公であるエドとアルは、二人ともまだ小学生くらいの年齢であるにも関わらず、子供ならではの未熟さゆえに禁忌である人体錬成に手を出し、錬金術師としての未熟さから異形のクリーチャーを召還してしまい、挙げ句、兄は片手片足を、弟は全身を失ったという極めてシビアなバックボーンを持っている。しかし、作者は、そんな彼らを甘やかさない。もちろん、時折彼らは自身らの"業"に悩み苦しむのだが、湿っぽい展開に耽溺することはない。彼らは常に、子供でありながら酸いも甘いも噛み分けたプロフェッショナルな錬金術師だ。画的な話をすれば、第1巻の一ページ目から相当シビア。「 畜生ォ…持って行かれた…! 」 "持って行かれた"というフレーズのチョイスも含めて、このワン・ラインは非常に秀逸であったと思う。

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 そういったこだわりの元、筆者は本作を鑑賞してきたわけだが、まず全体としては中々頑張っているのではないかと思った。エドにHey! Say! JUMPの山田くんとか、マスタング大佐にディーン・フジオカとか、ヒューズ中佐に佐藤隆太とか、ラストに松雪泰子とか、グラトニーに内山くんとか、ルックスとネームバリューと実力の絶妙なバランスでチョイスされた配役は、概ねどれも原作のキャラクター・イメージを可及的に具現化できているのではないだろうか(マスタングは及川光博だろ!という根強い意見もあるようだが。)。特に、グラトニーに内山くんを配し、なおかつ決してギャグにはならない見た目に仕上げた手腕は素晴らしい。ただ、配役で言えば、ウィンリィ本田翼はちょっとミス・キャストにも思える。ウィンリィって結構幅広い属性を抱えたキャラクターだよな。エドとアルの幼なじみ(=少女)としての側面、彼らのお姉さんとしての側面、そして、お母さんとしての側面。その点、本田翼は、ちょっとボーイッシュすぎる。シンプルに言ってしまえば、貧乳すぎる。ウィンリィはもっと母性を内包した健康的なムチムチさがないといけない、と筆者は思う。

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 そんな中、筆者が多くの観客同様、完全に度肝を抜かれたのは、アルことアルフォンス・エルリックの"配役"である。もちろん、正確には、"真理"の向こう側に肉体を奪われてしまった悲劇の弟の鎧描写。これは掛け値なしに"ハリウッド級の出来栄え"と言ってもいいと思う。鑑賞者特典として配布される0巻に監督の曽利文彦さんと原作者の荒川さんの対談が載っていて、そこで監督は「 日本映画史の中でハリウッドに追いついたのはアルからだ、と言われるのは間違いない 」と大見栄を切っているが、それもさもありなんという感じ。『ハガレン』を実写化するならアルを"本物"として描けないと意味が無いのだし、逆にこのレベルのCGで実写化できたのなら、それだけでも本作を作った価値はあるんじゃないだろうか。ちなみに、曽利監督は対談の中で「 ハリウッドはモーション・キャプチャーをあんまり使わない。 」と語っているが、これに関しては本当に「???」である。モーキャップまみれだよ、今のハリウッドは。

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 そんな感じで、アルを始めとするキャラクターたちは見どころたっぷりの本作であるが、細かな不満が山積しているのもまた事実。順を追っていくと、まず冒頭。先述の通り、原作ではいきなり片足を失ってもがくエドが登場し、多くの少年少女が一気に引き込まれた。一方の本作は、錬金術で作ったウマの人形(ペガサス、あるいはユニコーンだったのかも。邪推するなら、ホムンクルスの"人間憧れ"に引っかけた『ブレードランナー』オマージュなのかもしれない。)を母親に見せるエドとアルからスタートする。まぁ、これは致し方ないのかな。一応、エドが手足を失うシーンは後々出てくる。山田くんエドが見る夢のシーンとして。つまり、ここは、時制的には過去の話の回想なのだが、山田くんエドが見ている夢の中なので体は山田くんエドという趣向。当然、手足を失ってもがくのも冒頭でエドを演じた子役ではなく、山田くんである。なんかまぁ、やっぱり規制とかあるんだろう。5歳のジョージーが思いっきり腕を食いちぎられてのたうち回るリメイク版『IT』を見倣え!と言いたいけれど、そういうわけにもいくまい。

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 ただ、その点に目をつぶったとしても、冒頭部分は本当に酷いと思う。まずは、子役の演技があまりにも酷い。そして、子役のかつら丸出しの髪の毛も酷い。極めつけは、邦画にありがちな記号的挙動。ウマを見せられたお母さんは「 えらいわねー。すごいわねー。 」と言ってエドとアルを抱き締めるのだが、ウマを見せられてから抱き締めるまでがいくらなんでも早すぎるのである。つまり、愛しの我が子がその天才性を遺憾なく発揮し、丹精を込めて作り上げたウマをほとんど見ていないということ。もちろん、映画的には、エドとアルは錬金術の非凡な才能がある、という事実とお母さんはそんな二人を誇りに思い愛している、という事実のみ伝えられればいい。でも、そこには絶対に実在感が必要だ。例えば、お母さんはウマの出来に驚き、「 えー!すごい!○○の方程式を応用したの? 」なんて兄弟に問う。このワン・ラインがあるだけで、一気に世界観の深みと真実味が出てくるのに…。母に誉められた二人が「 わーい! 」なんて言って"あらぬ方向"に走っていくことも含め、本作冒頭は非常に記号的でげんなりする。

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 それから、コーネロ教主(石丸謙二郎)とのバトル・シークエンス。ここは、映像的に見応えがある。しかしながら、筆者が気に食わなかったのは、「 降りて来いよド三流。格の違いってやつを見せてやる!! 」という原作序盤での随一の決め台詞が全然決まっていないという点。筆者が思うに原因は大きく二点。まず、エドが石獣に苦戦しすぎ。むちゃくちゃデカくて強そうな化け物とチビ助なエドをしっかり対比した上で、ハラハラする観客の気持ちをも一撃で吹き飛ばしてみせる。これがないと「格の違い」が映えない。また、見るからに三流なキャストも良くない。ここもエドとのギャップが重要で、教主は一見威厳に満ちていてめちゃくちゃ強そう、でも、エドとのやり取りの中で徐々に"格の違い"が露呈されていき、最終的には「ド三流」に見える。こうじゃないと締まらない。周囲の風景にしても、イタリアロケを敢行したというだけあって街並みは美しいが(ところどころ、これは…たぶんその辺のアウトレットモールですよね…?というカットもあるが。)、どう多目に見ても"現実世界の中世"に留まっており、我々が暮らす現実とは異なる"ハガレンの世界"という説得力までは出せていないように思った。

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 ちょっと飛ばして、クライマックス・バトル。全体的にはまぁ悪くない。大泉洋のショウ・タッカーも中々魅力的(中盤の「 ニーナとアレクサンダー…どこいった? 」は決め度がいまいち低かったが。とはいえ、やはり実際の音声として聞かされる「 あそぼうよ…。 」の精神破壊力はヤバい。)。問題は、展開が散っていてカタルシスが弱めという点。まず、あのひとつ目ゾンビ軍団はいっそいらなかったんじゃないかな。あいつらのビジュアルはよろしい。でも、"世界を統べることができる最強の軍隊"という前フリの割には、全然強くない。れっきとした雑魚。まぁ、ホークアイさんの見せ場を作るためと考えれば無駄ではなかろうが、パキパキと場面転換させず、やはりラスト、エンヴィー、グラトニーというキャラ立ちした三人のボスとの三局面に絞った展開の方が良かったように思う。

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 また、クライマックス・バトルが結局なんだかマスタング大佐の独壇場みたいになっているのもよろしくない。満を持して助けに来たエドも、大きな石の壁を錬成して敵の攻撃を防ぐ、くらいのことしかしてくれない。加えて、更に満を持して助けに来るアル。ここも、うおー!来てくれたぜー!って感じがない。なぜなら、アルはひとつ目ゾンビと戦っていたのだが、あいつらが雑魚なのはもう分かっているので、うん…もうちょっと早く片付いたんじゃない?なんて思ってしまうからだ。やっぱり、クライマックスは当然、エドとアルの連携プレーによる大錬金術バトルであってしかるべきだろう。せっかく"兄弟の絆"をぐい押しした宣伝を打ち、その結果まんまと劇場に足を運んだ筆者のような映画ファンもいるのだから、いっそベタベタに「 兄さん!○○作戦だ! 」(幼い頃の二人だけの遊びっていう設定ね。)くらいやってくれてもよかったのに…。

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 そして、決定的に筆者がげんなりしたのは、ご多分に漏れず、主人公の絶叫。こないだ感想を書いた『GODZILLA 怪獣惑星』のハルオくんもそうだったのだが、邦画の主人公というのは、どうしてああも始終ギャーギャーわめき散らすのだろうか。叫ぶのは、ここ一番の熱血シーンだけ!悲しいシーンで叫ぶなんてのは、あまりにも説明過多で、観客を舐めた過保護な優しさだ。もし、どうしても叫ばせたいなら、声はオフって雨の音をかぶせるとか、もっと効果的に悲しみを伝える方法は山のようにあるだろうに。万歩譲って叫ぶとしても、もっと腹から声を出せ!喉を潰さんばかりのあのギャーギャーを繰り返し聞かされると、こっちの扁桃腺が調子を崩す。一体全体、お前は何の錬金術師なんだよ?! …どうしてこうなっちゃうんでしょうね。やっぱり、日本人が日頃"大きな声"で話せていないからなんですかね…。

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 最後に、とても細かいところなのだが、個人的に痛く感動した点。それは、マスタングとヒューズが緑道で会話するシーンの台詞回しである。確かタッカーと話すエドから場面が切り替わって彼らのシーンが始まったと記憶しているのだが、場面転換直後、ヒューズはこのように発言する。「 俺がこの街に来た本当の理由? 」 これ、めちゃくちゃげんなりだよな。これもまた邦画の悪しき風習である"観客に説明する台詞"である。分かりやすく言うと、電話しているキャラクターが「 なにぃ?○○が△△にさらわれた?! 」って言うみたいなやつ。え?お前もしかして俺にしゃべってる?って思っちゃう、極めて説明過多でくだらない脚本である。

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 先述の通り、ヒューズの台詞はこの悪しき風習に合致している。しかし、本作は、続けてマスタングのこの台詞を入れることで、実に華麗にフォローしているのである。

 「 率直に言えば、そうなる。 」

 これはグッジョブですよ。このワン・ラインだけで、もうすっかり腑に落ちる。つまり、マスタングがなにか迂遠な言い回しでヒューズに問いかけ、ヒューズはその真意のみをシンプルに聞き返した…と。実に自然なやり取りじゃないか。これこそが、キャラクターの実在感。ほんの小さな要素を適切に錬り混み、立派な実在を成立させるなんて、このシーンだけに限って言えば、本作のクリエーターは真の"錬金術師"に違いない。

点数:55/100点
 細かな不満は本当にたくさんある。しかし、さすが『タイタニック』にCGスタッフとして参加していた曽利氏の監督作だけあって、映像面は中々に素晴らしい。いけるんじゃないか、ハリウッドにバカにされない"ヒーロー譚"。元ネタとなるべき漫画はまだまだそれこそ金の鉱脈がごとく転がっているのだから、技術や環境が伴えば傑作を錬成できるはずなんだ。したがって、日本産の漫画実写化に期待し、ゆくゆくはハリウッド同様の"ユニバース化"までをも望む筆者のような身の程知らずの子羊たちは、本作でのアルを始めとするビジュアル面での完成度に歓喜の雄叫びを……上げず、その他ストーリー部分の稚拙さに対する怒りの慟哭を……我慢して、じっと静かに、我が国の"錬金術師たち"を信じ続けるべきなのである。

<おまけ>
 鑑賞者特典で配布される"0(ゼロ)巻"。中身は、先述の通り、監督と原作者の対談。そして、エドが国家錬金術師の試験に受かって、兄弟二人が旅立つところまでの書き下ろし漫画である。マニアからすればお宝なのかもしれないが、筆者のような"軽読の錬金術師"からすれば、そんな大した内容じゃなかったな…という代物。まぁ、本作にインスピレーションを受けて書き下ろしたというだけあって、"ショウ・タッカー エピソード0"が中々不気味で良い感じ。国家錬金術師試験にまたもや落ちてしまった当時のタッカーさんが、「 なんでも言ってね!力になるから! 」という妻の声かけと、「 おとーさんげんきだして! 」という娘の励ましに対し、「 なんでも…? …そうだね、私には君たちがいた…。 」と言うシーンがオチになっているのだが、その後の展開を知っていればこそ、身震いを禁じ得ないおぞましい仕上がりになっている。

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(鑑賞日:2017.12.1)
(劇場:MOVIXあまがさき)

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Posted byMr.Alan Smithee

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