05
2012

[No.51] 狼たちの午後(Dog Day Afternoon) <74点>

CATEGORY銀行強盗
Dog Day Afternoon



キャッチコピー:『In August, 1972, Sonny Wortzik robbed a bank. 250 cops, F.B.I., 8 hostages and 2000 onlookers will never forget what took place.』

 はきだめの”ゲイ”たち。

三文あらすじ:1972年8月22日、盛夏の午後(Dog Day Afternoon)、3人の男がブルックリンの小さな銀行に押し入る。しかし、仲間の1人が怖じ気づいて逃げ出したことを皮切りに、金庫にほとんど金が入っていない、いつの間にか警察に包囲されているなど、当初の計画は次々に破綻していく。8人の人質をとり立て籠もったソニー(アル・パチーノ)とサル(ジョン・カザール)は、警察にジェット機を要求し、アルジェリアに高飛びしようとするのだが・・・


~*~*~*~

 
 原題の”Dog Day”とは「盛夏」のこと。本作で銀行強盗が起きる”盛夏の午後”というのが原題の意味だ。よって”狼たちの午後”という邦題は、格好いいが直訳として間違っている。意訳としても本作の雰囲気と合っておらず、少しミスリーディング。

 さて、これまで当ブログで紹介した銀行強盗たちは、みなプロフェッショナルだった。『ザ・タウン』のダグ・マクレイ、『ヒート』のニール・マッコリー、『パブリック・エネミーズ』のジョン・デリンジャー、『インサイド・マン』のダルトン・ラッセルは、全員明晰な頭脳と抜群の行動力を持った一流の銀行強盗たちである。しかし、本作のソニーとサルは、銀行強盗1回目というド素人。いわば、銀行強盗バージンだ。はじめてには失敗が付きもので、ソニーとサルは序盤からミスや想定外の連続。

 まず、銃を取り出すソニーの手際が悪い。長い銃をプレゼントボックスに入れて持参するのはなかなかスタイリッシュだが、銃を行員に突きつけた後もリボンが銃身に絡まってしまっている。その直後、怖じ気づいて逃げ出す仲間の1人。こんなに締まらない強盗はリアルだが、映画では見たくない。気を取り直して金庫を開けさせると、今度はほとんど金が入っていないというトラブル。しかも、気付いたときにはすでに250人もの警察に取り囲まれているという体たらく。行員に「ちゃんとした計画も立てずに銀行強盗をするなんて!」と説教される様は、もはやコメディである。

 その後は、立て籠もる強盗と交渉する警察というお決まりの構図になるのだが、なんだか斬新なのは”強盗と警察の距離感が近い”という点。
 部長刑事のモレッティと交渉するため、ソニーは何度も丸腰で銀行から出ていくのだが、今時の映画ならここで確実に拘束されるだろう。一応ソニーに何かあれば銀行内のサルが人質を殺すという担保があるとはいえ、やはり当時のユルユル感を感じずにはいられない。『キャッチ・ミー・イフ・ユー・キャン』でも強く感じたが、60年代・70年代は本当にのんびりした時代だったようだ。しかも、この事件の数年前にアティカ刑務所暴動事件が起こっており、警察の非人道性に対する世間の非難が高まっていたから、警察はほぼソニーの言いなり状態。野次馬達も完全にソニーの味方で、彼の「アティカ!アティカ!」という雄叫びに呼応して、銀行前の通りはあたかもライブ会場のような熱気に包まれる。この点にも60~70年代の時代性が表れていると言えるだろう。

 時代性という意味でもう一つ印象的なのは、ゲイに対する差別表現だ。
 中盤、ソニーは警察に対して“妻”を現場に連れてくるよう要求するのだが、やってきたのは性同一性障害を患った男性レオン。取り囲む警察官はみなクスクス笑いをかみ殺し、その後、人質の無事を確認するため銀行内に入るFBI捜査官をソニーがボディーチェックするシーンでは、野次馬達が「ヒューヒュー!」とはやし立てる。おまけに”犯人はゲイである”というテレビ報道に対し、相棒のサルでさえ”俺はゲイじゃない!訂正させろ!”とキレるのだ。今でこそゲイ先進国のアメリカだが、当時はなかなかの差別と偏見が蔓延していたことが感じられる。
 ただ、分かりづらいのは、ソニーの婚姻状況。彼は、レオンと教会で正式に結婚しているのだが、同時にちゃんと女性の妻もいて、2人の子供をもうけている。この辺はどうなっているのだろう。アメリカには重婚罪がないのか、それとも男性との結婚は正式とは言え形だけのものなのか。まぁ、州によって法律は異なるのだろうけれど。

 以上のような時代性も本作の見所の一つだが、最大の見所は、やはりソニーを演じるアル・パチーノとサルを演じるジョン・カザールの演技だろう。

 まず、アル・パチーノは、彼お得意の威勢良くまくし立てる演説が圧倒的。特に圧巻なのは、先ほども述べた「アティカ!アティカ!」と叫ぶシーンだ。便宜上「アティカ!アティカ!」と表記してきたが、実際は「アティカ!アティカ!アティカ!アティカ!アティカ!アティカ!アティカ!アティカ!アティカ!アティカ!・・・」と10回以上は叫んでいる。アル・パチーノはかなり背の低い俳優だが、そんな彼が通りをうろちょろしながらあの眼力を以て絶叫する様は、すさまじい気迫とオーラを発散していて、彼がこの役でアカデミー主演男優賞にノミネートされたのも頷けよう。
 ちなみに、同賞の受賞自体は、『カッコーの巣の上で』でジャック・ニコルソンが披露した伝説的演技に持って行かれたのだが、ジャック・ニコルソンと言えば押しも押されぬ名優だし、『カッコー~』は史上3作しかない“主要5部門全てを受賞した名作”のうちの一本だから、これは仕方ないだろう。

 そんな派手なアル・パチーノの演技に隠れがちだが、サルを演じるジョン・カザールが披露するのも実に素晴らしい演技。サルは寡黙なキャラクターだから表情の変化は少ないものの、圧倒的な存在感と良い味を醸し出している。パチーノがいわば”動”の演技なのに対して、カザールは”静”の演技だ。
 彼もまたこの役でアカデミー助演男優賞にノミネートされたが、惜しくも受賞は『サンシャイン・ボーイズ』のジョージ・バーンズにさらわれた。パチーノは対抗馬がジャック・ニコルソンだから受賞を逃したのも頷ける。しかし、カザールについては、なかなかの名優であるにもかかわらず生涯一度もアカデミー賞を受賞しておらず、本来なら本作で受賞してしかるべきだったと言えるだろう。CUTのアカデミー賞特集でもこの点を憂いていて、「アカデミーの頭がまともに機能していたらよかったのだが。」とコメントしている。

 このように、本作は数々の見所がある名作なのだが、実はなかなか退屈な作品だったりもする。強盗が立て籠もった銀行というワンシュチュエーションで観せていくという点では、以前紹介した『インサイド・マン』と共通しているが、『インサイド~』が途中で容疑者の取調べシーンを挿入することで展開の弛緩を防いでいたのに対して、本作にはそのような工夫が無い。もちろん、本作の監督シドニー・ルメットは、あの傑作『十二人の怒れる男』を生み出した監督なのでワンシチュエーションには強く、アクションらしいアクションもなく2時間以上を観せきる手腕は素晴らしいの一言に尽きる。それでも、レオンの独白シーンやソニーの遺書作成シーンなどはかなり退屈。そもそも銀行強盗映画なのに、何時間も立て籠もってその間発砲が威嚇の一発のみというのがどうしても寂しい。まぁ、史実の映画化なのでその辺は仕方ないところなのだが。やはり、事実は映画ほど盛り上がらない。

点数:74/100点
 本作は、社会派監督シドニー・ルメットならではの、可笑しくもシリアスで少し悲哀も含んだ上質のヒューマンドラマに仕上がっている。しかし、プロの銀行強盗を愛好する筆者のような者からすれば、ソニーとサルは完全に銀行強盗失格と言わざるを得ない。せめてブッチとサンダンスのように華々しく散ってくれていれば(もちろん、彼らは死んでいないという意見もあるだろうが)、彼らも映画史に残る名銀行強盗コンビとなり、本作は希代の傑作になっていただろう。悲しいかな、彼らは狼になり損ねたのだ。

(鑑賞日[初]:2012.3.4)










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Tag:アカデミー賞 バディ・ムービー ヘンテコ邦題

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