0 Comments
belko_experiment.jpg


キャッチコピー
・英語版:Office Space Meets Battle Royale
・日本語版:オフィスが戦場と化す

 サラリーマンなんか全員ぶっメ木几又してやる!

三文あらすじ:コロンビアのベルコ・インダストリーズにいつも通り出社してきた80人の社員たち。業務が始まった矢先、オフィス内に「8時間後にほぼ全員が死ぬ。30分以内に同僚2人を殺せば生き残る確率が上がる。」という衝撃的なアナウンスが流れ、全ての窓が頑丈なシャッターで閉ざされてしまう。徐々に平静を失っていく社員たちに、無情にもタイムリミットの30分が迫り・・・


~*~*~*~


 2018年も一週間余りが過ぎ、またくだらない"日常"が始まる。屠殺を待つ牛やかつて奴隷船に詰め込まれた黒人のように、我々は今日も過積載の満員電車に揺られる。起き抜けに整えた髪はボサボサになり、今日の占いが上位だったことで高揚していた気持ちがすっかりと憔悴した頃、我々が辿り着くのはオフィスという名の監獄。世の欺瞞をことごとく踏襲すべく組織されたコミュニティは、休みボケの子羊たちへの陵辱を待ってましたとばかりに再開する。理不尽に下る脂ぎった業務命令。人権などとうの昔に超越した激烈なる叱責。有難う御座います、勉強になります、本年も宜しくお願い致します。つい昨日まで自由に飛び跳ねていたトノサマバッタは、実にすんなりとコメツキバッタとしての本性を取り戻す。山積した鬱屈は次第に有形の憎悪と化し、ある日、明確な輪郭を持った殺意へと変貌する。「いい加減にしろ…。こいつら全員…メ木几又してやる…! …というわけで、今回感想を書くのは、世のサラリーマンに捧げる虐殺ものの佳作『サラリーマン・バトル・ロワイアル』

belkoexperiment1.jpg


 まず、この邦題だが、『The Belko Experiment』という原題に対して中々のヘンテコ邦題と見受けられる。まぁ、日本での僅かなヒットの可能性に賭けるなら、端的に"サラリーマン"を押し出したのは正解だろう。また、我が国には実際に"ベルコ"という会社があり、しかも皮肉にも冠婚葬祭を生業としているわけだから、原題は何とかして改変するのが縁起上の得策だ。加えて、本作のプロットは故 深作欣二氏の遺作『バトル・ロワイアル』をベースに構築されたという事実もある。確かに、強大な(謎の)権力によって罪無き一般人が同士討ちを強いられるというのは、両作に共通の筋書き。さしずめ"サラリーマン版『バトル・ロワイアル』"こそが本作と言える。よって、『サラリーマン・バトル・ロワイアル』なるタイトルは確かにヘンテコ邦題だが、考え無しに取って付けた愚邦題でないということは、想像に難くない。

belkoexperiment2.jpg


 では、そんな本作のプロットを構築したのは誰かと言うと、これがなんと俺たちのヒーロー、ジェームズ・ガンなのである。筆者は彼が"バカ映画の殿堂"トロマ社で製作した初監督作品『トロメオ&ジュリエット』を未見なのだが、その他の作品、例えば『スリザー』『スーパー!』や『ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー』シリーズなんかは、みな"理不尽な「システム」の中でボンクラは何を思うか"というテーマに要約可能ではないだろうか。仮にそれが正しければ、『バトル・ロワイアル』を下敷きにした本作は、彼の創作性にガッチリ合致した作品だと言えそうである。また、ガンちゃんは、本作のプロデュースも務めている。よって、本作には、いわゆる"ジェームズ・ガン組"のメンバーがチラホラ。役者で言うと、『GOTG』シリーズでお馴染み、かつガンちゃんの実弟でもあるショーン・ガンが薬中社員を好演していたり、同じく同シリーズでお馴染み、かつ『スリザー』では"イカ野郎"ことグラント氏を演じたマイケル・ルーカーが、いぶし銀な設備管理人(?)として出演している。

belkoexperiment3.jpg


 ただし、実際にメガホンを取ったのはガンちゃんではない。なんでも、当初はガンちゃん自ら監督するつもりだったのだが、ちょうどその頃離婚協議の真っ最中だったため、他人に譲ったということらしい(…と、IMDbに書いているのだが、ガンちゃんの離婚成立は2008年だったはずなので、時期が合わない気もする。10年弱の時を経て映画化されたのか、筆者の英語読解力に難があるか、いずれかであろう。)。その結果、バトンを受け継いだのが、グレッグ・マクリーンという男。当ブログで既に感想を書いたものでは、『マンイーター』において監督と脚本を務めている。他にも筆者は『ダークネス』という彼の監督作を観たことがあるのだが、それらから大掴みに判断すると、どうやら彼は"ベタ職人"だ。『マンイーター』はもう本当にモンスターのテリトリーに赴くスタイルのモンスター・パニックとしては教科書通りの作品だったし、『ダークネス』にしたって"ジェームズ・ワン テイストのホラー"を指向するなら全く捻りの無い作品だった。そして、もちろんのこと、それは本作においても同様である。本作『サラリーマン・バトル・ロワイアル』は、"サラリーマン版『バトル・ロワイアル』"として、そしてまた『CUBE』『SAW』以降の"ソリッド・シチュエーション・スリラー"として、やんごとなきベタさを備えた作品だ。

belkoexperiment4.jpg


 あくまで私見だが、本作が単体としては非常に良くまとまった佳作であるにも関わらず世間から酷評に近い低評価を与えられているのは、このベタさに原因があるのだろう。主人公マイク・ミルチ(ジョン・ギャラガーJr.)は社内に美人の恋人がいる真っ当なサラリーマン「30分以内に各自同僚2名を殺害せよ。さもなくば制裁を加える。」との謎のアナウンスと共にいざ事が動き出した後も、徐々に暴力的な本性を露にする支社長率いる過激派チームとは対照的に、彼はあくまで"殺さず、しかし屈さず"の信念を貫き続ける。それはもうガンジーでも助走をつけてハグしそうなくらいの優等生ぶり。結局、彼一人が生き残り、しかし実はこのバトル・ロワイアルはまだ"エクスペリメント"のファースト・ステージにすぎなかった…というラストも極めてベタ。先頃やっとこさ第3弾の予告編が公開された『メイズ・ランナー』もそんな幕切れだったし、引き続き監視カメラに見られている主人公の描写は『クレイジーズ』のラストとも被る。

belkoexperiment5.jpg


 もちろん、筆者が挙げたそれらの要素は全てプロット上のものであるから、実は脚本を書いたガンちゃんこそが元凶という可能性もあるだろう。離婚調停に辟易したガンちゃんは、折り目正しい型通りの"正義"を書き上げてしまったのかもしれない。実際、マイクの彼女であるレアンドラ・フローレスさん(エイドイア・アージョナ)は、どうやら現夫との離婚調停中という設定のようだし。独善的な推論に則れば、冒頭でマイクがレアンドラさんにあげた食べた後のとうもろこしの芯を使った人形も、実は結婚や離婚のメタファーである。現地のコロンビア人が土産物として売り付けてくるこの人形は、誰かの食べさし=バツイチというガンちゃんの未来の象徴だ。レアンドラさんはこれに嫌悪の感情を露にするが、なんだかんだもらってくれる。これは、ガンちゃんだってまた素敵な出会いがあるかもしれない、そんな希望。あるいは、もっと卑近なレベルで考えれば、例えば履いた後のパンツとかを始めの内はちゃんと受け入れて洗濯してくれていたのに、やがてマジで嫌がり始めるという妻と夫の暗示なのかも。まぁ、それらは度が過ぎる邪推だが。

belkoexperiment6.jpg


 ただ、プロットがベタベタだからと言って、それだけで映画ファンが直ちにそっぽを向いてしまうわけではない。例え陳腐な展開でも、特に本作のようなバリバリノリノリ不謹慎虐殺ものであれば、見せ方の痛快さで観客に拳を上げさせることだってできただろう。しかし、本作は、この点でも非常に丁寧で生ぬるいのである。確かに、無実の社員たちが首筋に埋め込まれた小型爆弾で次々と延髄を爆破されていくし、狂気に駈られた社員たちは同僚の顔面を手近なオフィス機器で叩き潰す。この辺りの描写は、決してお茶を濁したものではない。とはいえ、である。やはり"トロマのガンちゃん"を看板に掲げている以上、多少の血しぶきや身体損壊では観客の満足は得られない。もっとグロく、もっとクールに、もっとロックンロールに。そういうトガったノリノリさがあれば、本作はより多くのガンちゃんファンに受け入れられていたようにも思う。

belkoexperiment7.jpg


 もしくは、個人的に本作はストーカーキモ親父のウェンデル・デュークス氏(ジョン・C・マッギンリー)を主役にしていたら、より素晴らしい作品になっていた気がする。デュークス氏は、レアンドラさんに色目を使っては煙たがられ、しかしその煙たいリアクションを愛情の裏返しだと勘違いしているキモいおっさん。おそらく仕事もろくにできないのであろう。その体躯から推して図るにかつてはアメフトなどでならした可能性もあるが、サラリーマンにフィジカルなマッチョさなど必要ない。脳筋で、かつての栄光が忘れられず、自らの無能を棚にあげてスポットライトを欲するボンクラ中年。つまり、やや誇張はあるにせよ、概ねあらゆるサラリーマンの象徴のようなキャラクターだ。したがって、そんな彼が突如叩き込まれた極限状況の中で覚醒し、持ち前のマッチョさで憎き同僚や上司、ひいては"社会"というものを"虐殺"し始めたなら、筆者を含めた多くのおっさんは、我を忘れて喝采を浴びせかせたことだろう。そして、そんな彼であればこそ、まだ試練は終わっていない…というラストは、絶妙の懺悔と無情を醸し出す。

belkoexperiment8.jpg


 つまり、本来ターゲットであるはずのおっさんサラリーマンたちを度外視し、彼らがさらさら感情移入できぬ"持てる者"を主人公にしてしまったことこそが、本作最大の落ち度なのだと筆者は思うのである。

点数:58/100点
 誤解の無いように言っておくが、本作は目も当てられない駄作などでは決してない。ファンたちが抱いていた事前の期待に対して、なんとも優等生すぎるのである。余談だが、筆者の友人サラリーマンが去る1月5日からメキシコに異動してしまった。意気揚々と旅立った彼には気の毒だが、その先には、きっと血で血を洗う殺し合いが待っているだろう。願わくば、波瀾万丈の人生を歩んできたボンクラサラリーマンの彼が、同僚を全員ぶっ殺して華々しく凱旋せんことを。

(鑑賞日[初]:2018.1.5)

サラリーマン・バトル・ロワイアル 2枚組ブルーレイ&DVD [Blu-ray]

新品価格
¥3,150から
(2018/1/9 19:13時点)


社員ゼロ! 会社は「1人」で経営しなさい (アスカビジネス)

新品価格
¥1,620から
(2018/1/9 19:14時点)


関連記事
スポンサーサイト
Mr.Alan Smithee
Posted byMr.Alan Smithee

Comments 0

There are no comments yet.

Leave a reply