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キャッチコピー
・英語版:First they made him dangerous. Then they made him mad.
・日本語版:戦ってみる?

 BAD MOTHERF◯CKER!

三文あらすじ:準備はいいか?あなたは今から、エイカン(ダニーラ・コズロフスキー)という奇妙な能力を使うヤツに誘拐されてしまった、妻であり、絶命したあなたの身体をサイボーグ化し蘇生させた一流の研究者である美女エステル(へイリー・ベネット)を取り戻すため、この“クレイジーな世界”に放り込まれるが、変幻自在のジミー(シャールト・コプリー)を道先案内人に、あなたの身体を狙うエイカン率いる傭兵たちを倒し、エステルと“記憶の謎”を取り戻すことが出来れば、あなたの存在する目的と真実を知ることができるかもしれない。幸運を祈る・・・


~*~*~*~


 世界では2016年の4月に公開され、日本では丸々1年後に封切られた本作『ハードコア』。作品の評価は決して高くないが、ある意味で"アクション版『クローバー・フィールド』"と言ってもいいような、極めて挑戦的で革新的な一本である。つまり、本作の肝は、誰の目にも明らかな通り、POV(Point Of View)という手法をアクション映画で全面的に展開した点にある。したがって、まぁ「酔う…!」なんていう三半規管弱者のたわごとは論外として、「…これ、ゲームやん!」という苦情がよく聞かれることになる。

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 確かに、全編主人公の一人称視点で描かれる本作は、洋ゲーに多いFPS(First Person Shooting)と見紛わんばかりの画面構成になっている。しかも、本作は、ロシアのパンク・バンド"Biting Elbows"の『BAD MOTHERFUCKER』という曲のMVが話題になり、よし!じゃあ、フロント・マンのイリヤ・ナイシュラーさん! その手法、いっちょ映画にして自分で監督しちゃいなよ!みたいなノリから生まれた、そんなルーツを持つ作品。ただでさえPOVはもう食傷気味の観客が多い昨今、映画監督という意味に限っては素人同然の男が、自分のバンドの"内輪ネタ"を得意気にお披露目してくるわけだから、そりゃあ、本作に対して否定的な目を向ける人がいるのも当然であろう。



 ところが、本作はめちゃくちゃおもしろい! 確かに、筆者は子供の頃から、ゲームを自分でプレイするよりは友達や弟のプレイを横から見ている方が好きという変わり者だったから、本作の"実況動画"的な手法にすんなり乗っていけたのかもしれない(今でもたまにゲーム実況を見たりする。贔屓にしているのは、"全裸愛好家"のFenixさん。)。でも、筆者は、本作がきちんと映画としてもおもしろい、と感じた。では、ゲームと映画の違いはどこにあるのか。これは難しい問題だ。筆者が大昔に少しだけ先っちょをかじったことのある著作権法で言うと、ゲームだって立派な"映画の著作物"なんだし、それを不特定多数の公衆に向けて配信する実況動画は、あくまで理論的な観点からは著作権侵害に充分なり得る。

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 個人的な考えでは、まずひとつ、視点の受動性が、ゲームと映画を隔てる大きな壁である。もちろん、昨今ではゲーム内でも"ムービー"の挿入が当たり前になっているが、本来的なゲームとは、遊び手によるプレイを必須の要素するものであり、必然、プレイ中の視点は、ある程度遊び手の自由度の中で切り替えることができる。一方の映画では、まぁVR映画がもっとメジャーになればまた話は変わってくるものの、我々は作り手が提供する画角を無条件に受け入れなければならない。しかし、だからこそ、時として我々は、思いも寄らぬ画面構成や演出に痛く感銘を受けるのである。

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 この点、本作では、まさに映画的視点制限に由来したフレッシュな驚きがいくつか散見される。最も顕著なのは、やはり序盤でヘンリーとエステルが研究所から脱出するシーンであろう。記憶を失ったヘンリー同様、いきなり突飛な状況に放り込まれた我々は、次第に彼とシンクロし、追撃者からがむしゃらに逃げる(よりすんなりシンクロさせるため、ヘンリーが発声装置の装着前に襲われるという脚本もニクい。)。一目散に廊下を疾走し、突き当たりのドアを勢いよく解放する"我々"。直前に発されたエステルの制止も空しく、我々の視界は、突如として上も下も右も左も、広大な大空に埋め尽くされるのである。その後、脱出ポッドで研究所を離れる際、我々は実はそこが空に浮かぶ研究船だったことを知るわけだが、このような驚きは、少なくともゲームの"ムービー"ではないプレイ中においては、中々享受しづらい部分だと思う。

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 それから、もうひとつ、ゲームと映画の分水嶺となり得るのは、シンプルな話、ストーリーの連続性ではないだろうか。もちろん、ゲームにだって、しっかりしたストーリー・ラインは存在する。筆者世代のおっさん、おばはんであれば、『FF10』で号泣したなんて人も多かろう(結果、『ブレードランナー2049』『最後のジェダイ』と同じく"一般人ナメんなもの"だった本作は、FFで言うならむしろ7に近いか。)。しかし、そのストーリーは、ゲームである以上、プレイ中は止まっているということが多い。アイテムの取得や敵の殲滅によって、確かにストーリーを進めるための土台は構築されていくのだが、登場人物の心の機微やそれを表現するための演出等、見せ方をも含めた"ストーリー"は、次回のムービーまでお預けである。その点、映画は、人類の叡智を結集して、熱く、ときに儚く、効果的な"ストーリー"の伝達に特化した媒体だ。我々は、開幕から連綿と積み上げられてきた主人公の物語に没入し、魂を燃焼させる。

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 ここで注目すべきは、やはりジミーの秘密基地からの脱出シークエンスだろうか。我々は既にヘンリーが置かれた残酷な状況を理解していて、その補完としてのジミーのドラマも熟知している。すなわち、エイカンの元でヘンリーのような人造兵士の研究に従事させられた挙げ句、サイコキネシスを用いた彼の"エクストリーム体罰"によって半身不随となったジミーが、復讐に燃え、自身のクローンに意識を転送する技術を開発して自由な肉体を手に入れるも、エイカンに居場所がバレて傭兵が雪崩れ込んでくる、技術の没収と再びの幽閉を悟ったジミーは「こんな不自由な体で生きるのは嫌だ!ヘンリー!俺を殺してくれ!」と懇願するが、ヘンリーは無言の内にも「ダメだ。"俺たち "は諦めちゃダメなんだ!」とこれを拒否、似た者同士の"操り人形"が"漢"として真の共闘を見せる…。というストーリー。

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 その後、ヘンリーとジミーが傭兵を蹴散らしながら脱出を図るシークエンスは、このストーリーを見事に、端的に、そして実に"映画的に"見せてくれる。特に、締めとばかりに、階上のジミーが階段を上ってきた傭兵を蹴り飛ばし、宙を飛ぶ無防備なそいつをヘンリーが蜂の巣にするシーンは、文字でも台詞でもなく、ちゃんと"ムーブ"で彼らの共闘を象徴した名場面だ。もちろん、そんなことは昨今のゲームでも当たり前に行われてはいるが、それはやはりインサートされる"ムービー"内での出来事。読んで字のごとく、まさに"映画"の為せる技なのである、と筆者は思いたい。

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 あとは、役者の演技というのも、現時点ではゲームよりも映画にこそ期待すべきポイントではないだろうか。これまた当然のことながら、昨今では有名な映画スターが直々にモーション・キャプチャーを担当し、ゲーム内に登場することがよくある。しかし、それはあくまでもフルCGの彼であり彼女である。この点、実写である映画は、より端的に、フィジカルで原初的な"演じる技"としての体技で、我々を魅了する。

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 本作で大注目なのは、もちろんみんな大好きシャールト・コプリーの大立ち回りであろう。ニール・ブロムカンプの傑作SF『第9地区』で彗星のごとく現れ、その後、同監督の『エリジウム』や『チャッピー』などで抜群の存在感を発揮し続ける怪優(こないだ感想を書いた『フリー・ファイヤー』にも良い役で出てた。)。本作で車椅子サイエンティストのジミーとそのいくつものクローンを演じた彼の七変化は、自身も「今までのキャリアで最も挑戦的な仕事だった。」と語っている通り、本当にチャレンジングだ。中でも、明確にストーリーを停滞させてまで繰り広げられる"ミュージカル・シーン"。歌って踊るクローンがバタッと倒れるとすかさず次のクローンが登場する、というこのくだりは、コプリーの名演はもちろんのこと、きちんとアナログ技術(ひとりの顔が隠れた瞬間に次のクローンの登場カットを繋いでいるのだろう。)をベースにした"生の特撮"を感じさせてくれる。これもまた、ゲームでは中々表現しづらい映画ならではの醍醐味ではなかろうか。

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 それから、役者の魅力という意味では、"俺たちの悪女"ことへイリー・ベネットの妖艶が最高だ。起き抜けのヘンリー=我々に「私とあなたは夫婦なのよ。」と優しく語りかけるエステルことベネット嬢。ヘンリーの原動力が"妻への愛"という一点に簡略化された本作において(そしてまた、その動機はアクション映画のそれとして実に正統的だ。)、世のあらゆる男が「こんな嫁がいい!」と思える彼女のセクシーさは、実に重要かつ適切なファクターである。一方、『ガール・オン・ザ・トレイン』でも顕著だった彼女のファム・ファタールぶりも絶品。悪女ぶりを端的に見せつけるため『ガール~』でもやっていた"指舐め"の再登場に、我々の"ハードコア"がアクセル全開で目を覚ます。

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 そんな興奮状態の中、でも…"あのヘイリー・ベネット"やから怪しいぞ…という合理的な予想を巡らし、しかし、できるだけ考えまいと奮闘してきた我々は、ラスト付近で"予定調和の驚愕"に直面する。明かされるのは、実は彼女はエイカンの妻であり、ただ"動機"をインプットするため、妻を演じていた、しかも人造兵士全部の、という残酷な事実。ここにきて、すっかりとヘンリーに"同化"し、麗しきエロ妻のヒーローとしての自覚をバリバリに芽生えさせていた我々は、くそー!やっぱりか!マザーファッカー!と地団駄を踏むことになる。なんとも、これ以上ない素晴らしきキャスティングである。

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 とまぁ、なんとかして本作がゲームではなく映画なんだ、とうそぶいてきたが、やはりパッと見のビジュアルとか"システム"の部分とかは、どうしたってゲームを意識させる。特に、クライマックス、エイカンの会社の屋上でヘンリーが管理室に立て籠り、押し寄せるゾンビさながらの人造兵士たちをショットガンで撃っていくシーンは、筆者もかつて購入した名作ゾンビ・シューティング・ゲー『Left 4 Dead』を彷彿とさせる画ヅラ。おそらくこれは意図して構成された展開なのだろう。序盤でヘンリーがホテル(マンション?)の一室に潜入した際、壁に無数に貼られたポスターの中に、『L4D』のものが確認できる。ちなみに、ここには、同じくゲームから『PayDay2』のポスターがあったり、POVを大々的に使用した始めての映画作品と言われている『湖中の女(Lady In The Lake)』や、先述した『第9地区』のポスターも貼られているのでチェックしてみてほしい。

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 というわけで、ゲーム的な手法を全面に取り入れつつ、この展開シビれるー!だったり、この動きカッケー!だったり、この見せ方サイコー!だったり(あと、この痛々しいアクション、『レイド』っぽいー!だったり、このテキパキした銃撃スタイル、『ジョン・ウィック』っぽいー!だったり)といった真に原初的な"アクション映画の醍醐味"を味わわせてくれる本作。大前提を書き忘れてしまったが、そもそもGo Proを装着した特殊なヘルメット、通称"アドベンチャー・マスク"による主観視点での撮影は本当にスゴイし、各種スタントもキレキレだ。特に筆者がビックリしたのは、監督自身も「一番大変なシーンだった。」と語っているエスカレーターの場面。ここで滑り降りるヘンリーと敵に巻き込まれたエキストラのおばさんは、なんと立ち位置を間違えたため予定外に転倒したというから驚きだ。だから、あんな何とも言えないリアルな表情だったんだな。

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 そんなこんなをひっくるめて、逆説的に肯定のニュアンスを帯びるスラングの用途に従えば、本当に"Bad Motherfucker!"な良作。それが、本作『ハードコア』なのであった。

点数:78/100点
 付け加えるなら、本作は、ぜひ映画館でこそ鑑賞すべき作品、という意味でも、やはり真っ当な"映画"なんだと思う。愚かにも筆者は劇場鑑賞を逃してしまったのだが、大スクリーンでより高次の没入感を体験していれば、評価はもっと上がっていただろう。また、仮に本作の登場でゲーム原作映画の未来が広がったと考えるなら、やはり価値ある作品なのかもしれない。話題に上ってはその度立ち消えになる人気FPSゲーム『HALO』なんか、本作の手法でやれないかな。

(鑑賞日[初]:2018.1.20)

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Mr.Alan Smithee
Posted byMr.Alan Smithee

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