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キャッチコピー
・英語版:unknown
・日本語版:私を作った奴らに私を止めることはできない

 世の中に不満があるなら自分を変えろ。それが嫌なら、耳と目を閉じ、口をつぐんで孤独に暮らせ。

 それも嫌なら…

三文あらすじ:企業のネットが星を被い、電子や光が駆け巡っても、国家や民族がなくなる程、情報化されていない近未来。全身義体のサイボーグ、"少佐"ことミラ・キリアン(スカーレット・ヨハンソン)率いる独立攻勢の犯罪捜査機関"公安9課"、通称"攻殻機動隊"は、サイバー犯罪やテロ行為を取り締まるべく、日夜任務を遂行していた。そんな中、ハンカ・ロボティックス社のサイバー技術を破壊しようともくろむテロ組織を阻止すべく、少佐は同僚のバトー(ピルー・アスベック)らと共に捜査にあたるが、事件を調べていくにつれ、自分の記憶が何者かによって操作されていたことに気付き、やがて驚くべき過去と向き合うことになる・・・


~*~*~*~


 今やSFファンならずとも誰しもが知っている傑作コンテンツ『攻殻機動隊』。1989年から連載された同名コミックで士郎正宗が生み出したその世界は、1995年に押井守が『Ghost In The Shell』として手掛けた劇場アニメ版、2003年~2005年まで2シーズンに渡って"S.A.C."こと『Stand Alone Complex』として放映された神山健治のTVアニメ版、その間に『Ghost~』の続編として押井が再び監督した『イノセンス』、そして、2013年から2014年にかけてエピソード0の『ARISE』としてリブートされた黄瀬和哉、冲方丁 他の劇場公開アニメ・シリーズ、及びその劇場用長編アニメ作品『攻殻機動隊 新劇場版』という風に、形を変えて幾度も世に送り出されてきた。その合間合間にも、例えば、『マトリックス』の元ネタになったらしい!と世界を沸かせたり、"リプベル5号機"という流行語をも生む名機(迷機)としてスロッターたちを楽しませたりと、ムーブメントは止まることがなかった。そんな『攻殻機動隊』に唯一残された難攻不落の牙城、それが"実写版"である。

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 我々日本国の国民は、こういった人気コンテンツの実写化に際して、これまで何度も煮え湯を飲まされてきた。『ストリート・ファイター』『北斗の拳』、筆者の記憶にも新しい『DORAGON BALL』。我々の愛して止まないコンテンツを、海の向こうのメリケンたちが我が物顔で弄ぶ。そんな様を嫌と言うほど見てきた。とはいえ、話は国内でもほぼ同様である。特に近年立て続けに実写化された作品たち、『進撃の巨人』や『テラフォーマーズ』、または『鋼の錬金術師』なんかは、決して原作ファンたちを熱狂に駆り立てるような出来ではなかった(『るろ剣』や『銀魂』は良かったみたいだが。)。だから、ずいぶん昔から度々囁かれていた本作の製作がいざ現実のものとして動き出したとき、全ての『攻殻』ファンたちは、期待より遥かに巨大な不安に苛まれたことだろう。筆者だって、末席とはいえ一応『攻殻』のビッグ・ファンである。原作コミックも所有しているし、押井版以降のアニメ化作品も毎回目を皿にして鑑賞してきた(筆者の魂のバイブルは『S.A.C.』。)。あぁ、スロットだって打ち込んだよ。

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 そんな我々がまず知ったのは、特A級のハッカーにして世界有数の義体使いでもある公安9課のリーダー草薙素子を、今や"MCU"の漆黒の暗殺者"ブラック・ウィドウ"としてお馴染み、スカーレット・ヨハンソンが演じるというニュースだった。瞬く間にネットの海を駆け巡ったこのキャスティングに対し、過剰な拒否反応を見せたのは、実はメリケンの同志たちである。彼らが口を揃えて言ったのは"漂白"という言葉。つまり、日本原産のコンテンツであるにも関わらず、主演を白人にしてしまうとは何事か!というわけだ。これが思いの外大きなうねりとなり、公開前から方々でクソミソにけなされた結果、実際の興業収入もてんでボロボロになってしまった。ただ…実を言うと、日本のファンはこの"漂白"についてあんまり怒っていないんだと思う。少なくとも、筆者がかいつまんで感想を読んだり見たりした評論家やファンたちは、別に憤ってなんかいなかった。要するに、我々は、ハナから草薙素子が"日本人"だとは思っていなかったのである。

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 もちろん、かと言って積極的に白人を想定していたわけではないが、少なくとも、企業のネットが星を被い、電子や光が駆け巡っても、国家や民族がなくなる程情報化されていない近未来においては、人間の"シェル"の見た目などあまり重要ではない。むしろ、外見に関しては人種も性別も年齢も易々と超越できる状況だからこそ、自身のアイデンティティー、すなわち"ゴースト"が問題となるのである。"ガワ"じゃないんだよ。実は改造される前のミラ・キリアン少佐は、草薙素子という少女だったんだよー。そんな安直な"リップ・サービス"なんか止めてくれ。なんなら、彼女の母親として桃井かおりとか、荒巻大輔としてビートたけしとか、そんなご機嫌伺いの日本人キャスティングもいらない。筆者が『攻殻』の本質をちゃんと理解できているかは非常に怪しいけれど、およそあらゆるコンテンツの"原作ファン"を激怒させるのは、こういう"ガワだけなぞったリップ・サービス"だろう? そういった点で、筆者は本作に痛く落胆した。

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 本作には、原作やこれまでの映像化作品を彷彿とさせるギミックやガジェットが至るところに散見される。『S.A.C.』2nd GIGのボスだったクゼ・ヒデオは、顔面やボディこそ醜悪だがちゃんと銀髪で、"ハブ電脳"よろしく多数の一般人の電脳を繋ぎ合わせていたりする。ミラがナイト・ダイブしているシーンや多脚戦車とのクライマックス・バトル(ご丁寧に"生命の樹"の代わりと言わんばかりに大木がそびえ立っている。)は『Ghost In The Shell』そのままだし、バトーが押井守の飼い犬と同じ種類の犬を脇に置いてビールを飲むシーンは『イノセンス』にもあった。その他、義体の製造工程を描写するオープニング、向こうに街並みを臨む巨大な水溜まりでの光学迷彩バトル、チラッとだけ登場するマテバなどなど、往年のファンであれば、一見して「あぁ!あれあれ!」と思い至るシーンのオンパレードだ。

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 でも、個人的には、それらは全て"ガワ"であり、"リップ・サービス"でしかないと思った。作品全体のテーマとまではいかなくても、筆者がかつて感じた各シーンでの感動の肝をことごとく外している。そんな風に思った。例えばだけど、素子がナイト・ダイブするシーン。『Ghost In The Shell』におけるこのシーンは、シークエンスのラストで人形使いからの囁きが聞こえるという意味でも重要だったわけだが、それを省いたとしても、感じ入るべき要素が凝縮されたアイコニックな名シーンだった。つまり、重要なのは、ウェットスーツが故障したら二度と浮上できない、という描写である。これはまず、(たぶん)数百キロもの重量を誇る義体ならではの描写であり、SF的設定考証のおもしろさを感じるべき部分。そして、何と言っても、素子は"個"を捨て(ネットの)海に溶け込んでしまうかもしれない、という後の展開に向けた示唆である。

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 行き交う情報が遮断された海の底に沈んでしまえば、全身義体の人間は世を捨て、耳と目を閉じ、孤独に機能停止を待つしかない。そして、個人の輪郭を物理的に特定するための"身体"という概念が信用できず、オリジナリティを維持するためには他者とのふれ合いの中で相対的な定義付けを試みるしかない未来社会において、外界との繋がりを捨て海中に没することは、すなわち"個"の放棄を意味している。『Ghost~』の当該シーンでバトーが指摘したように、素子は、そんな危険極まるアクティビティを敢えてやっていたんだ。それは、自身のアイデンティティーに虚しさを感じていた素子が、いっそ"個"を捨ててしまいたい、というある種の"自殺願望"を抱いていたことの表れだったのかもしれない。その前提があるからこそ、我々は、「"個"を捨ててネットの海と同化しようぜ!」という人形使いの誘いにハラハラし、結局彼と共に旅立ってしまった素子に哀愁を感じる。しかし、よくよく考えてみれば、彼女が向かったネットの海は他者と隔絶した海底ではなく、同じ"個"の喪失にしても逆にあらゆる情報と一体になる、という"進化"であり"希望"だったんだなぁ、なんて妄想もできたのである。

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 これ以上の説明は過多だろうが、本作のナイト・ダイブには、この"二度と浮上できないかもしれない"という描写が欠落している。確かに、本作には人形使いが登場しない。しかしながら、その役割はほぼそのままクゼが代替している。なんとか希望の片鱗を見出だして毎回浮上してくる素子も、何かの切っ掛けがあれば広大な海に溶け込んで二度と戻ってこないんじゃないだろうか。そんなオリジナルにはあったある種の危うさは、本作のミラからは微塵も感じられない。したがって、我々は、ターミネーターの出来損ないみたいなハリウッド版クゼ・ヒデオのお誘いにも、人形使いのときのようなハラハラ感を抱くことができないし、「私はこの世界で生きるわ。」というミラの決断にもあまり感慨を抱けないのである。

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 とはいえ、いわば"第5の攻殻"として生み出された本作がお手本とすべき過去作は、何も『Ghost~』だけではない。押井らしく素子のアイデンティティーを掘り下げた同作ではなく、より"チームもの"であり、"警察もの"としての要素を押し出した『S.A.C.』シリーズこそを指向していたとしたらどうだろう。答えは至極簡単。…にしたってグズグズ!である。本作の公安9課には、"チーム感"がほとんど感じられない。もちろん、攻殻機動隊という独立攻勢の組織には、"チームプレイ"なんていう都合の良い言い訳は存在しない。あるとすれば、"スタンドプレイ"から生じる"チームワーク"だけである。でも、それだったら、なおさらダメ。『S.A.C.』シリーズではしっかりと強調されていた各メンバーの個性や能力を、本作は全く効果的に描写しないのである。

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 あるいは、本作はエピソード0である『ARISE』をこそ目指したのか。その要素はあるだろう。SF史的には後世に語り継がれるべき傑作だとしても、広く世界の人々が『攻殻機動隊』を知っているかと言えば、答えは当然ノー。であれば、よりエピソード0に近づけた設定を打つことで、一見さんにも敷居の低い作品にする必要がある。実際、改造前は明確にクゼと素子が恋仲だった、という本作の設定は、確かに『S.A.C.』2nd GIGをより露骨に推し進めたとも取れるが、『ARISE』の第3話『Ghost Tears』の雰囲気を取り入れたようにも思える。また、素子が比較的義体化したてでどこか青臭い、というのも、やはり『ARISE』を彷彿とさせる(時代)設定である。

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 しかしながら、筆者はこの点についても気に入らなかった。これはもう筆者の趣味嗜好の領域かもしれないが、こっちはガキのたわごとなんざ見る気はねぇんだぞ、素子おおぉぉぉ!とマシンガン片手に怒鳴り散らしたい。 筆者にとっての草薙素子は、我々と同じスタート地点から問題に取り組む"同級生"ではない。全てを知った上で我々に教えを説く師匠というのも違うが、とりあえずあらかたの概念については一通り考察を終えていて、それに対する客観的・一般的な"正解"は導けていなくても、少なくとも自分自身の"答え"は持っている。そういうキャラクターなんだ。そんな彼女が、広大に広がる電脳社会の"窓口"となり、我々が思いもよらなかった、しかし、現代を生きる我々の側にも既に転がっているような問いを提起する。大学生の頃、『S.A.C.』を観て本当に目から鱗が落ちる思いをした筆者にとっての『攻殻』は、そういう作品だったんだよ。

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 それがどうだい。本作じゃあ、やれ「大量殺人は許せない。」だの、やれ「それが私の "正義 "よ。」だの、素子は本当に青臭い台詞しか吐かない。別にそれ自体はいいよ。大量殺人を意図するテロリストがいるなら、それを止めることは公安9課の職務なんだし、問答無用の実力行使を認められた彼らには、少なくとも自らの信ずる"正義"が必要だ。でも、説得力がないんだよなぁ。本作の素子は、あたかもそれが既に我々の共通認識であるかのように、大量殺人を否定し、"正義"という言葉を口にする。でも、そうじゃないでしょう? 筆者の目から鱗が落ちたのは、彼女らが、決して社会の"常識"の中で"個"を失わず、ちゃんと自分の頭で物事を考えていたからだ。往年の素子なら、きっと軽率に"正義"を口にする前に、まずは"正義"とは何かを云々してくれたに違いない。

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 もちろん、"正義"なんていう概念に一般的・客観的な"正解"は無い。でも、それでいいんだ。ちゃんと自分の頭で考え、最善の答えを出し、後悔のないように生きる。情報が飛び交い、同調圧力が絶え間なくのし掛かるこの社会でも、"個"を失うことなく"スタンドプレイ"を貫けば、その先に他者との"チームワーク"が生まれ得る。それを教えてくれたのは、あなたではないですか。でも、それでも、どんなに"個"を主張したって、社会という巨大なシステムは変わらない。だから、世の中に不満があるなら自分を変えるしかなく、しかし、それが嫌なら、耳と目を閉じ、口をつぐんで孤独に暮らせ。そう教えてくれたのもあなただ。実際、筆者は数年前から、このくだらない社会の中でそうやって生きている。

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 つまり、草薙素子という一人の義体使いは、筆者にとっての"ヒーロー"だったのであり、そんな彼女を"世の中"という海原に埋没させた本作を、筆者は決して許しはしないのである。

点数:40/100点
 なんて不満を吐露してみたところで、敵はあまりにも強大だ。既に耳も目も口も閉ざして生きている筆者に残された道は、ただひとつ。先ごろノミネートが発表された第90回アカデミー賞はもちろんのこと、その前日にノミニーが発表されたゴールデン・ラズベリー賞にすら完璧に無視された本作と共に、広大なムービーの海に深く沈んでいくしかなかろう。

(鑑賞日[初]:2017.4.7)
(劇場:MOVIXあまがさき)

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Posted byMr.Alan Smithee

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