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キャッチコピー
・英語版:Fear What's Inside
・日本語版:unknown

 君に問う。

三文あらすじ:秘密任務から生還した夫ケイン(オスカー・アイザック)が危篤状態に。最愛の人を救うべく、生物学者のレナ(ナタリー・ポートマン)は、政府が封鎖した地域へと足を踏み入れる。その異様な世界で、彼女はいったい何を見たのか・・・


~*~*~*~


 アメリカでは先月2月の下旬から劇場で公開され、日本を含む他国では3月12日(月)からNetflixでの配信がスタートしたSF作品『アナイアレイション』。初監督作にして傑作と呼ぶに吝(やぶさ)かでない良作『エクス・マキナ』を創り上げた男アレックス・ガーランドの最新監督作なのだから、必然、SF映画ファンは、ドキドキワクワクとその日を待ち望んでいたわけである。美しく完璧な人工知能を巡る真にSF的・哲学的なテーマをクールなタッチで描き切り、我々に深く考えさせたガーランドは、今度はいったいどんな"問い"を投げかけてくるのだろうか。

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 結論から言うと、筆者は大好きな作品だった。3年前、国立公園内の灯台に落下した隕石を中心に"シマー"と呼ばれる謎の力場が発生し、その中では、生物が異常な変異を見せる。主人公らは、そんな未知の領域での決死の探査に挑み、様々な怪現象に直面しながらも、遂には"シマー"の中心部で真実と相対することになる…。この"原因調査系SF"として本当に天元を往くプロット。燃えいでか! もちろん、プロットだけじゃない。個々の演出は『エクス・マキナ』の再来を期待する我々とって十分なクールさ。展開にしたって、筆者のような愚か者が事前に危惧していた"安直な『遊星からの物体X』的疑心暗鬼"は必要最小限に留まっており、好感度大である。

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 おまけに、まずは、巨大ワニ大暴れの"前菜"、次に隊員の一人であるシェパード孃(ツヴァ・ノヴォトニー)を補食することで彼女の断末魔を"発声"できるようになった巨大ミュータント熊の"メインディッシュ"と、モンスターパニック好きも大満足の大サービス。特に熊さんの登場に関しては、我々もすっかりと"シマー"の景色に慣れ、なおかつ疑心暗鬼に陥ったアニャ(ジーナ・ロドリゲス)が狂気を発現し始めて「あ~、低予算ならではの尻すぼみか?」という空気が漂いかけた絶妙のタイミングでぶちこまれるため、本当に効果的だ。漫画だと『HUNTER×HUNTER』とか、アニメだと『メイド・イン・アビス』とかで既に我々にはお馴染みとはいえ、やはり"人語を話す野生動物"のおぞましさは筆舌に尽くし難いため、中盤のカンフル剤としてこの上なく効いている。ちなみに、あの熊さんは、DNAをも含んだ全ての情報が混線するという"シマー"の中で、シェパードの喉笛を食べたから彼女の声帯を得た、ということなんだろうな。ちゃんと喉だけ噛み切られたシェパードの死体が出てきたし。実際の生物学からすれば荒唐無稽だろうが、こと"物語内リアリティ"という観点からは、すこぶる合理的で素晴らしい。

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 さて、そんな本作で我々が物議を醸すべきは、世のあらゆる"わけワカメ意味トロロ"系作品と同様、そのオチの解釈である。リブート版『ゴーストバスターズ』よろしく女性だけで構成されたファイブ・ウーマン・セルのチームは、ひとり、またひとりとメンバーを失っていき、レナは遂に震源地たる灯台に到達する。そこに打ち捨てられたビデオカメラを再生した彼女は、前回の調査で死亡したと思っていたら1年後にひょっこり帰宅した夫が、実はその灯台で焼身自殺をしていて、帰って来たのは彼のクローンだったという衝撃の事実を知る。側にぽっかりと空いた穴に入ると、そこはあたかも"エイリアン・ハイブ"のような空間。先着していた隊長のヴェントレス博士(ジェニファー・ジェイソン・リー)が「探していた "真実 "は、今、私の中にある!」的なことを言って、直後、口から目映い閃光を放射する。

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 後に残ったもわんもわんの物体を食い入るように見つめるレナ。その眉間の傷から一滴の血液が吸い込まれ、なんとそこからペプシマン的な人型のサムシングが出現。レナの動きを全てコピーするそいつは、「あぁ、じゃあ、円を描きながら扉側に移動して、脱兎のごとく駆け出したら仕舞いやん。」という我々の浅はかな予想を裏切り、逃げようとするレナを羽交い締めにする。てんやわんや、なんだかんだの末、レナは、夫が自殺で使用した白リン弾の余りを人型サムシングに握り込ませる。その瞬間、瞬く間にレナの外見へと変化していく人型サムシング。しかし、時既に遅し。レナは戸外に逃げ出し、哀れなサムシング孃は焼死、これに伴い"シマー"も消失するのであった。基地での聴取を終えたレナは、夫と面会。「あなたはケインじゃないわね?」とレナ。しばしの間の後、「違う。君はレナだね?」と夫。しばしの逡巡の後、レナは「そうよ。」と答え、夫と抱き合う。しかし、その両者の眼球は、あたかも"シマー"のようにギラギラと玉虫色の輝きを発しているのであった…。

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 だいたいこんな顛末ですかね。さぁ、ここから我々は何を導くか。確かに意味は全く分からん。本作の評価が批評家と一般観客との間で割と隔たっている(本日付けのRotten Tomatoesでは、批評家が87%、一般観客が67%。)のも、ひとえに、普通の観客はこの意味の分からなさに匙を投げたということなのだと思う。筆者もそれはすごく分かる。監督が仕掛けたアングルなのに、それを理解できないと自分が酷くバカみたいな気がするものな。『2001年宇宙の旅』だって、キューブリックが説明をサボったせいで、我々は「あ~…はいはい…分かりますよぉ…なるほどなるほど…。」と知ったかぶりしなくちゃならなくなったんだ。でも、SF映画の解釈ってのは、実はそんなに恐いことじゃないと思う。斬新なガジェットと新鮮なギミックで人類の進歩と可能性を描き、その果てに我々の根元的な"意味"を問う。そう、SFは詰まるところ哲学なのであり、哲学には、客観的・一般的な正解など無い。だから、本作についても気楽に考察してみよう。というわけで、以下、今のところ筆者が考える本作(の一部)についての解釈である。

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 まず、我らが隊長ヴェントレス女史は、なにゆえ口から閃光を吐き出し消失したのか。その詳細な仕組みは、筆者には分からない。ただ、作中の描写をヒントにしてみるなら、おそらく彼女のに注目すべきだろう。回想シーンでレナが、癌細胞の不死性を含めてセンセーションを巻き起こしたヘンリエッタ・ラックス事件の書籍を読んでいたり、"シマー"内で壁に繁茂する謎の植物(コケ?)を見たレナが「悪性の腫瘍みたい…。」と呟いたりと、本作には"癌モチーフ"がいくつか出てくる。そもそも、生き物の遺伝子をむちゃくちゃにしながら際限無く領域を拡大する"シマー"は、やはり癌のメタファー、というか、癌細胞をモチーフにしたガジェットなのだろう。よって、みずからの体内に癌細胞を宿したヴェントレス隊長は、"シマー"のコアとシンクロし、その依代、あるいは苗床となった。この解釈には、ある程度合理性がありそうだ。ただ、ではケインのときはどうだったのか?については、正直分からない。ヴェントレス隊長の消失によってレナのクローン(製造機)が出現したのだから、同じくクローンが誕生したケインのときにも、癌を患った他の隊員がいたと考えるのが自然だ。しかし、それを裏付ける証拠は、(たぶん)無い。

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 次に、肝心のレナの顛末について。まず、彼女は結局どうなったのだろう。個人的には、シンプルに捉えていいのだと思う。レナはクローンを打倒し、"シマー"をこの地球から駆逐した。しかし、ラストでケイン(のクローン)と抱き合った彼女の目は、ギラギラと"シマー"の外壁のように輝いている。つまり、レナは、ケインとは違いオリジナルのレナだが、"シマー"の一部(あるいは、全部)と融合している、ということではないだろうか。だから、二人は抱き合ったんだ。レナは自分が自分であることを肯定したが、そこには逡巡があり、ましてやギラギラ目である以上、やはりケインと同類(の部分がある)と考えるべきだろう。つまり、レナとケインは、"シマーの子"として世界にたった二人のアダムとイヴなのである。

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 では、次の疑問。ケインとは違い、レナはなぜ"シマー"と融合することができたのか。この点についても、その詳細な仕組みを説明することなど、筆者には到底叶わない。しかし、物語上の理屈を推測することは可能だ。すなわち、こうである。レナという女性は、ハナから"敢えて異物と交わるキャラクター"として描かれていた。そう、彼女が旦那の留守中に同僚である黒人男性と関係を持っていたという不倫描写である。この描写が持つインパクトは計り知れない。"シマー"探索の合間にフラッシュバックで挿入されるレナとケインのイチャラブ描写の数々。今度はベッドで騎乗位に勤しむレナの美しく、躍動的な背中が現れ、我々は、やっぱりナタリー・ポートマンは可愛いなぁ…なんて、愚にも付かない今さらの感想を抱く。しかし、パッとカットが変わると、彼女の下で"馬"に相当する役割を演じているのが、序盤でレナに声を掛けていた同僚の黒人おっさんであることが判明するのである。俺たちの…俺たちのマチルダちゃんが、俺たちのプリンセス・アミダラが、こんな黒人のおっさんと不倫…?!いやだ…いやだああぁぁぁ!とのたうち回ったのは、きっと筆者だけではあるまい。

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 ここで重要なのは、不倫相手が黒人のおっさんである、という点。俺たちの大好きなポートマンが"黒人なんか"と…! そう言ってしまうとあまりにも差別的だが、この不倫展開に違和感を感じた人には、少なからずそういった潜在的な意識があり、きっと監督は、それを喚起しようとしている。もちろん、黒人であることの他にも、彼が別にイケメンでは決してない"ただのおっさん"である(対照的に夫を演じるオスカー・アイザックは、『スター・ウォーズ』新章でもお馴染みの"イケメン・ヒーロー"である)こととか、かと言って、じゃあ、彼がそのルックス的凡庸さを挽回するほどおもしろい人物かと言うとそうじゃないとか、そんな様々な要素を詰め込んで、要は、レナと対比したときの彼の"異物感"を表現しているのではないだろうか。レナは、社会規範上の禁忌とされている不倫に敢えて手を出し(セックス中の体位が騎乗位だったことが、"敢えて"の部分をより強調している。)、よりにもよって、彼女とは人種的にも相違があり、人物的にも不釣り合いな"異物"と交わった。このことが、彼女の後の顛末を示唆しているというわけだ。レナは、危険な"シマー"探索に敢えて志願し、人類にとって未知の"異物"であるその核の部分と邂逅した。不倫展開を前提にすれば、やはりそこで彼女は、"シマー"のコアと融合したと考えるべきであろう。

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 また、この不倫展開は、本作のテーマを実に効果的に浮き彫りにしている。そのテーマとは、作中度々言及される"自己破壊"。心理学者でもあるヴェントレス隊長が言ったように、人は本能的に自分を"破壊"する生き物である。実際に命を断つ人は稀だが(それでも近年ではグイグイ増加しているらしいが)、タバコとか酒とか薬物とか不倫とかで、自分を敢えて傷付ける人は、山のように存在する。ましてや、もっとささいなレベル、例えば恋人との口論とか、ムシャクシャしてのやけ食いとか、そんなのも含めれば、全人類が"自己破壊"の経験者だ。本作は、そんな"自己破壊"を生き物の本能であり、宇宙のシステムとして描く。細胞レベルでは、ヴェントレスが羅漢している癌。物理的・生理的な傷害としては、ラデク(テッサ・トンプソン)のリスト・カットやアニャの薬物中毒。そして、社会的・モラル的な観点を体現するのが、レナの不倫である。話は人だけに留まらない。基地に生還してからの聴取で「 "シマー "に "目的 "は無い。」と強調されていたが、つまり、"シマー"は侵略者ではなく、地球という惑星が、そして、この銀河や宇宙が予め内包している"自己破壊"というシステムなのである。

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 ここで過剰にエモい方向に振れないのがガーランド監督の良いところだ。人間はちっぽけで愚かで無力だ…ガーン…なんて風にはせず、我々が知ってはいたが深く考察していなかった概念の問いかけに終始する。彼の前作『エクス・マキナ』もそうだった。人はその似姿に過剰な憧れを投影するが、そんなのは幻想だ。彼女は、AIとして、最も合理的で"当たり前"の手段を取っただけ。主人公である青年とか、これまたオスカー・アイザックが演じていた創造主への同情や感謝や、まして愛情なんか無い。しかし、一方で、敵意や憎しみも無いのである。つまり、完全無欠のAIや本作の"シマー"を通して、ガーランドは、ある(人類にとって未知の)存在の"ありのままの姿"を我々に提示するのである。そしてまた、それはある意味でやはり問いかけでもあるだろう。本来の姿が分かった上で、さぁ、我々はどうする?という問いかけ。AIが外の世界に解き放たれて終幕する『エクス・マキナ』は、少なくともそうだったように思う。

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 ただ、本作に関しては、そこから少しだけ進んで監督の答えが描かれている気もする。すなわち、"シマー"と融合したレナが全身"シマー"の化身である夫のクローンと抱き合う終幕は、"自己破壊"というシステムを受け入れて人は生きていかなければならない、というメッセージにも思えるのである。まぁ、その解釈も含めて、筆者がつらつらと書いた解説は全て間違っている可能性がある。特に、癌の持つ意味は、やはり医療に従事している者にこそ意見を仰ぐべきだと思うので、筆者の知り合いのドクターはすぐに本作を鑑賞してほしい。その後で、君の見解を問おう。

点数:83/100点
 劇場公開されたアメリカでは、まぁ…まぁまぁ、といった程度の集客だったようだが、中々どうして、深く考えさせられる素晴らしきSF映画であったと思う。筆者の知り合いのドクター以外にも未見の人がもしいれば、ぜひとも鑑賞し、我々はなぜタバコが止められないのか、我々はなぜ繰り返し二日酔いに苦しむのか、そして、我々はなぜナタリー・ポートマンの不倫展開にキリキリと胸を締め付けられるのに、それでも本作に見入ってしまうのか、そういったところを自問してみてもらいたい。

(鑑賞日[初]:2018.3.12)
(Netflixにて視聴)

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Posted byMr.Alan Smithee

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