[No.54] アビス(The Abyss) <85点>





キャッチコピー:『There's Everything You've Ever Known About Adventure…』

 ダイバー悶絶必至!未知との遭遇を巡る大海洋アドベンチャー!

三文あらすじ:米海軍の原子力潜水艦が何者かに襲われ沈没したため、海底油田採掘用試作品住居“ディープコア”が救助活動の基地に選ばれる。バッド・ブリッグマン(エド・ハリス)を始めとする9人のクルーのもとに派遣されたのは、コフィ大尉(マイケル・ビーン)が指揮する海軍のダイバー・チームと、ディープコアの設計者であり離婚間近のバッドの妻でもあるリンジー・ブリッグマン(メアリー・エリザベス・マストラントニオ)。折しも直撃した台風によって洋上の基地と隔離されてしまったバッドらは、深い海溝(Abyss)の中で未知の存在に遭遇する・・・


~*~*~*~

 
 本作の監督は、ジェームズ・キャメロン。『タイタニック』で映画史上の興行成績を塗り替え、もはや誰も越えることがないだろうと言われたその興行収入を自身が監督した『アバター』で更新した最強の巨匠。まるで、イギリスのメロディ・メーカー誌上で30週に渡り1位を独占した『プリーズ・プリーズ・ミー』を31週目にして自身のセカンド・アルバム『ウィズ・ザ・ビートルズ』で引きずり下ろしたビートルズがごとき所業である。また、続編=駄作という方程式が常識となっている映画界において”前作を超えた続編”は『エイリアン2』、『ターミネーター2』、『ゴッドファーザーPart2』(邦画も含めるなら『ガメラ2』も。)だと筆者は考えているのだが、このうちの実に2作(エイリアンとターミネーター)が彼の監督作である。この監督は、本当にスゴイ。

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 そんな彼が『エイリアン2』と『ターミネーター2』の間に作ったのが、本作『アビス』である。エイリアンとターミネーターという映画史上の超有名キャラクターに挟まれているため、本作はどうしてもパンチが効いていないように思えてしまうが、実は大変良く出来たSF海洋アドベンチャーだ。

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 まず、ディープコアのクルーがみな陽気で良い感じ。本作の舞台となる“ディープコア”は、”海底油田採掘用試作品住居”という長々しい肩書を持っているが、“油田採掘”と言うからには、そこで作業するクルーは当然”石油採掘人”である。石油採掘人が活躍する映画と聞いて我々が思い出すべきは、やはり『アルマゲドン』だろう。同作におけるハリー・スタンパーらも非常に陽気で気持ちのいい連中であった。特に、スペースシャトル打ち上げ前、A.J.が口ずさみ始めた『Leaving On A Jet Plane 』が、最後にはメンバー全員での大合唱に発展するシーンが印象的。その中でもベアーによる重低音の「リービン♪」とロックハウンドによる意外と美声な「リ~ビン♪」は、いつ聞いても良い。最後に「あんな連中が地球を救うのか?」というトルーマンの粋なセリフがこのシーンの名シーン度をぐっと引き上げているのだが、この話はまた同作のレビューで書くことにする。

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 本作における石油採掘人6名、バッド、キャットフィッシュ、ヒッピー、ジャマー、ソニー、ワンナイトらもハリーらに勝るとも劣らない気持ちのいい連中たち。船外活動用の潜水艇に持ち込んだラジカセから流れるリンダ・ロンシュタット『Willin'』をワンナイトが口ずさみ、オペレータールームのバッドらもつられて熱唱し始めるシーンは、『アルマゲドン』同様陽気で軽快な名シーンである。

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 そんな陽気な面々が遭遇するのは、深海を舞台とした”息詰まる”スペクタクルである。”息詰まる”とは決して比喩ではなく、押し寄せる大量の水と水圧がバッドらの最大の敵。特に、バッドとリンジーが潜水艇に取り残されるシーンと終盤でバッドが6,000mもの深海へダイブしていくシーンは、観ている方も呼吸困難になってしまう。

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 まず、前者。バッドとリンジーは、故障して推進力を失った潜水艇内に閉じ込められ、おまけにディープコアとの通信は不能、着々と船内への浸水が進んでいるという状況に陥ってしまう。一着しかない潜水機材をリンジーに装着させようとするバッドにリンジーがする提案がスゴイ。彼女曰く、一旦リンジーを溺れさせ、泳ぎの上手いバッドが彼女を引っ張ってディープコアに戻る、水温は0℃に近いから溺れても仮死状態になり、数分後の蘇生処置で助かる、というのだ。そんなアホな。言うは安し、行うは難し。自分で溺れるなんて恐くて出来るわけがない。いかにも映画的な力業のプランだなぁ、と思っていたら、ジェームズ・キャメロンは溺れる寸前恐怖に駆られ錯乱するリンジーの様子を克明に描写する。かたや愛する女がパニクりながら溺れる様を間近で見守るバッド。水中で苦しむリンジーを動かなくなるまでバッドが抱きしめる。妻が微動だにしなくなったのを確認し、彼があげる絶望の雄叫び。このシーンの閉塞感、絶望感は本当にスゴイ。潜水艦ものなどでは、よく登場人物が閉じ込められ溺死するシーンが描かれるが、筆者が今まで観た溺死シーンの中でも、本作のこのシーンの持つ圧倒的なパワーは群を抜いている。

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 次に、後者。深海の圧力と閉塞感で精神に異常を来したコフィ大尉は、ソ連への強迫観念から任務をはき違え、原潜で回収した核爆弾を爆発するよう再プログラムし、原潜が沈んでいる深海にセットし直そうとする。これを止めるためにコフィと潜水艇バトルを繰り広げた結果が、先ほど述べたバッドとリンジーの閉じ込めシーンである。バトルの末、コフィは潜水艇もろとも暗い深海へ葬り去られるのだが、核爆弾もまた深度6,000mの深海へ。これを起爆しないようにするため、バッドは単身深い“アビス”に潜行していくのだが、このシーンの水圧描写がまた非常に克明。圧力障害を極力軽減させるため、潜水機材のヘルメットはエヴァンゲリオンのLCLのような液体で満たされ、バッドはディープコアからの音声は聞こえるものの自ら発声することができない、という状況にある。そこで左腕に装着されたキーボードで文字を入力し、それがディープコアのディスプレイに表示されるという意思疎通方法が採られる。この設定が上手く演出に結びついており、始めの内は軽いジョークを打ち込んでいたバッドも深度が2,000、3,000と深まって行くにつれ、こちらが呼びかけても何も応答がなかったり、やっと返ってきた文章も圧力障害による手の震えからほとんど意味をなしていなかったりして、非常にコワイ。筆者などは、一応ダイビングを嗜む者なので、このシークエンスは本当に身につまされる思いで鑑賞した。

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 このように、本作は深海ものとしても一級品だが、実は一応エイリアンが登場するSFものだったりする。”一応”としたのは、本作におけるエイリアンはあくまで”反戦”というテーマを伝えるための添え物的な扱いを受けているからだ。とはいえ、実はエイリアンはきっちりオープニングから登場する。深海を航行中の米海軍原子力潜水艦。突然ソナーが謎の物体を感知する。ざわつく艦内。物体の大きさ、進行方向などを艦長に伝えるソナー担当。「速度は…」ここで驚き顔。

 「80ノット…です…。」

 こんなシーンは、エイリアン侵略もののオープニングとして100点満点の出来に違いない。

 問題は、本作のエイリアンが映画史上まれに見る平和主義者だということ。彼らは劇中ちょろちょろとディープコア・クルーの眼前に現れるのだが、彼らに対して敵意を見せることは無く、しばらく人間を観察しては深海に逃げ帰ってしまう。『エイリアン2』を期待した当時の観客は、え~…もっとこう、リプリーしか太刀打ちできないぐらいの凶暴さとどう猛さが欲しいなぁ!と落胆したことだろう。もっとも、エイリアンが操る海水が大蛇のようにディープコア内をウネウネと進んでいき、その先端がコロコロとクルーの顔に変化するシーンは、CG技術を駆使した映画表現の“はしり”と言って良い。これがあったから、液体金属T-1000が生まれたというわけだ。

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 さて、そんな平和主義のエイリアンは、なんと終盤のアクションシーンに一切登場しない。バッド/リンジーペアが潜水艇でコフィとバトルを繰り広げるシーンにも出てこないし、なかなか蘇生しないリンジーをE.T.よろしく治癒したりもしない。彼らはただ深海で静かに暮らしたいのである。とはいえ、平穏を害されることをただ黙って見ているわけでもない。原潜沈没を機に地上では第2のキューバ危機とも言える緊迫した状況が生まれているのだが、これを見かねたエイリアンは世界中で大津波を発生させる。しかし、エイリアンたちは、人間観察を通してコフィに代表されるような人間の醜い面を見る一方、片道切符を覚悟の上で核爆弾解体に挑み、最後に今まで疎遠だった妻に対し「LOVE YOU WIFE」との愛のメッセージを送ったバッドに感銘を受け、津波が大地を直撃する前に収束させる。つまり、こういうことでる。彼らは、深い海溝(Abyss)の中でコフィの”憎しみ”や、バッドとリンジーの亀裂(Abyss)の入った夫婦関係を目の当たりにするが、結局はそんな亀裂をも修復する”愛”という人間の深淵(Abyss)に感銘を受けた、というわけだ。

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 また、そんな上質の海洋アドベンチャーをよりいっそう盛り上げるのが、筆者の中でハンス・ジマーと双璧を成すフェイバリット・コンポーザー、アラン・シルヴェストリが放つ名ナンバーの数々である。映画作曲家というのは、ともすればチェックを怠ってしまいかねないポイントだ。アラン・シルヴェストリに関しても、そのあまりにも偉大な功績とは裏腹に、日頃映画をそんなに観ない者にとってはほとんど馴染みのない名前かもしれない。しかしながら、彼のこの曲を知らないという者は、おそらくただの1人もいないだろう。筆者が映画音楽史上最高のナンバーだと確信して疑わない名曲『バック・トゥ・ザ・フューチャー メインテーマ』である。これは本当にいつ聞いてもいいなぁ。そんな彼が放つ楽曲の数々は、本作でも絶好調。宇宙人とバッドらがコンタクトするシーンでは『E.T.』を彷彿とさせる軽快でワクワクするメロディ、ラストで巨大宇宙船が浮上するシーンでは大団円に相応しい壮大で壮麗なメロディ。やっぱりいい作曲家だ。

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 本作の難点を1つ挙げるなら、タイトルを出すタイミング。本作も多くのハリウッド映画同様、冒頭でいきなりタイトルが登場するパターンなのだが、個人的には納得しかねる。せっかく前述のような素晴らしいオープニング・シークエンスがあるのだから、原潜沈没→暗転→『THE ABYSS』にすれば最高だったのにと悔やまれる。

点数:85/100点
 ジェームズ・キャメロンの華々しい業績の中でややもすると隠れてしまいがちだが、以上で述べたように、本作は大変素晴らしいSF海洋アドベンチャーだ。ただ、めちゃくちゃに長い。公開版でも140分、完全版は171分にも及ぶ超大作である。事前にしっかり睡眠を取り、きっちりトイレに行った上で、大きく深呼吸をしてから鑑賞に望んで欲しい。

(鑑賞日:2012.3.10)

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パワーケーブルを辿ると、その先には海中で油断採掘をするディープ・コア&数種の作業艇。
単純にそれだけでわくわく出来た。
特にディープコア内にある帰還ルームの「プール」。あっこから海へ繰り出す感じが好きだー。
そしてなによりmr.alanが言ってる通り、本当に息苦しかった。
酸素無し、高圧力、光も届かないそんな限界の世界に、バッドが落ちていくシーンは、思わず助けてと声が漏れそうになる。すごくインパクトがある。
ただ、若干理由が後追いしている感じがちょっと残念に思えた。
光る生物を見ただけ→「地球外の知的生命体よ!私を信じて!」→実際宇宙人らしい。
最後ディープブルーが宇宙船と共に浮上→あれ?圧力変化で死ぬんじゃね?→「急浮上したのに死んでない!これもかれらの力か!」

しばらくドロップオフは怖くていけないな。

  • Mr.Alan Smithee
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Re:

確かに、なんでリンジーが頑なに宇宙人やと信じてたんかは謎やったし、最後の減圧無用シーンはズッコケタなぁ。
でもそれも許せる範囲の小気味よいB級感。

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