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キャッチコピー
・英語版:unknown
・日本語版:キミとなら、強くなれる。

 さぁ、未来へのStarting Over。

三文あらすじ:ある日、バケモノ界の荒くれ者 熊徹(声:役所広司)と出会った少年 蓮(声:宮崎あおい)は、強さを求め、彼らの住む"渋天街"へ行くことを決意する。熊徹の弟子となった蓮は、九太という新しい名前を授けられる。当初はことあるごとにぶつかり合う二人だったが、奇妙な共同生活と修行の日々を重ねることで互いに成長し、いつしかまるで本当の親子のような絆が芽生え始める・・・


~*~*~*~


 今週末から最新作『未来のミライ』が公開されるアニメ監督 細田守。デジモンの短編アニメーションをいくつか撮った後、2005年の『ONE PIECE THE MOVIE オマツリ男爵と秘密の島』で長編デビュー、その後、2006年の『時をかける少女』、2009年の『サマーウォーズ』、このツーコンボで日本中を虜にした(少なくとも、筆者はこの二作にノックアウトされた。)。それから、2012年の『おおかみこどもの雨と雪』、2015年の本作『バケモノの子』と続くわけだ。確か、『SW』の頃には既に"ポスト宮崎駿"なんて世間から持て囃されていて、でも、『おおかみ』と『バケモノ』で「あ…ちょっと違う…。」と世間が察知した。そんな感じですよね? まぁ、迂闊に文句を言うと映画ファンとしての品位を疑われるという雰囲気もあるのだが、やはり筆者は、本作を鑑賞して、「あ…これ好きじゃない…。」と思ってしまった。

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 もちろん、作画はおよそ考え得る限り超一級品。アクションは新鮮で世界観は魅力的。ぽっと出の新人がこれを作ったら「なんじゃコイツ?!」とみんな度肝を抜かれることだろう。大まかなテーマや伝えようとするメッセージも、本当に本当に正しい。筆者もここは手放しで乗れた。つまり、"家族"とは何か? 本作に限ってもっと具体的に言えば、"親"になる覚悟、"子"になる覚悟といったところだろうか。"家族"や"親子"なんていう曖昧な既成事実にあぐらをかいちゃいけない。主人公である九太と同じくバケモノに育てられた人間の一郎彦(声:黒木華)は、なぜ心の闇に飲まれたのか。逆に、九太は、なぜ闇を制御できたのか。その分水嶺は、"相手と真剣に向き合ったかどうか"である。一郎彦の父親である猪王山(声:山路和弘)は、息子がバケモノでないことを隠して育てた。「なぜ私には牙が生えないのですか?」と問う一郎彦に、彼は「そのうち生えるよ。大丈夫。」なんて"優しい言葉"をかける。バカなんだ、コイツは。みなさんご承知の通り、それは優しさなんかじゃない。子供を舐めてんだよ。"子供"という既成事実に、あぐらをかいているんだ。

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 対する九太の師匠にして"父親"でもある熊徹は、常に対等に接してきた。もちろん、これは熊徹自身がまだまだ未熟な"子供"だから、"父親"としての"正しい振る舞い"ができなかったからでもある。だけどさ、"正しい親"ってなんだよ? そんなもんにハナから正解があるのか? あると思ってんだよな。どうやら多くの人間は。でも、そりゃあ、てんで馬鹿げた勘違いだ。てめーら夫婦の間に生まれたから、あるいは、てめーが拾ってきたから、それだけで"親子"になれるわけじゃない。子供を恐れろ。舐めるな。媚びるな。侮るな。大人びた嘘で誤魔化すなんて、言語道断だ。対等な"個"と"個"で向き合い、日々の真剣勝負の中で、てめーらは初めて"親子"になるんだよ。これを子供側から念押ししたのが、九太が実の父親との夕食を拒絶するシーン。最低でも9年の断絶があるのに、九太の父親は、当たり前のように同居を決めつけた。ふざけんなよ。俺のことなんか、何も知らないくせに…! ここできちんと"親子"とは何かを考え、最終的に自らの運命を選び取ったから、九太は一郎彦に打ち勝てたのである。

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 このメッセージを更に補完するのが、ヒロインである楓ちゃん(声:広瀬すず)の存在。彼女は、九太や一郎彦とは違い、恵まれた環境の中で真っ当な"ニンゲンの子"として育っている。でも、彼女も、彼女の親もまた、一郎彦やその親と同様、"親子"という概念への思考を停止させた愚者なんだ。それでも彼女が最終的には"正ヒロイン"になれたのは、子供は親の理想を体現するものという家庭内の"常識"に抗って、きちんと自らの運命を選び取ったからである。具体的には、公衆電話からの九太のコールを受けてコッソリ家を飛び出した、あの瞬間。だから、あのシーンで閉まるドアの音は、「もっと静かに閉めないと親にバレちゃうよ!」というくらい、しっかり「バタンッ!」と鳴るのである。ちなみに、この楓ちゃん、巷では評判が悪いらしい。なんでや。めっさ可愛いやん。彼女の境遇も、筆者は自らの過去と重ね合わせて痛いくらい共感できたし、ラストでしれっと渋天街にやってきた際の「えへへ、お呼ばれしちゃった♪」は、もう本当にグー。みんなどこが気に入らないんだ。分からん。

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 それから、"家族"というテーマ以外にも"細田らしさ"があるとすれば、それはやはり"現実と異世界のシームレス具合"であろう。細田作品では毎作必ず我々の暮らす"現実"と何かしらの"異世界"が交錯するわけだが、その両者は、本当にヌルッと干渉し合う関係にある。『時かけ』なんかは、"現在"と"未来"はその垣根を飛び越えていくほど隔絶しているのではなくて、走って行けるような地続きのものなんだ、というのが、テーマそのものでもあった。『SW』の仮想空間"OZ"は、現実の社会システムだけでなく、我々の肉体すらアバターとしてそこにあり、友情とか人生とか、もしかしたら、魂までもが取り込まれた世界。そんな"異世界"が、終盤に訪れる人工衛星落下の局面で、逆にいとも容易く我々の"現実"を侵食する。本当に恥ずかしながら、筆者は『おおかみ』を未見なのだが、"現実"と"異世界"の関係性は、おそらく同作でも同じだろう。そして、もちろん本作も、である。

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 バケモノ住まう"異世界"は、渋谷の路地裏から入ればすぐそこにある。一応、正確な手順を踏まないと辿り着けないことになっているようだが、例えば渋天街がおそらくモチーフにしたであろう『千と千尋の神隠し』のあの町みたいに、「はい!このトンネル抜けたら異世界!」というはっきりした"境目"は無い。ましてや、九太は、千尋みたいにきっちり冒険を完遂し成長して初めて元の世界に戻るのではなく、物語中盤で本当にあっけなく"現実"に戻ってきて、その後は実に軽々と両方の世界を行き来する。ラストの打ち上げシーンで楓ちゃんがヌルッと現れたのも、"ジブリ的隔絶異世界"に慣れた我々からすれば驚きだ。でも、これはまぁ、良いことだよな。まだ『007』が"観光映画"の役目を担っていた時代なら、見たこともない"異世界"は、"現実"と隔絶した空間足り得たのだろう。しかし、今は違う。海外の秘境も、広大な電脳空間も、もしかしたら未来でさえ、我々のすぐ側にある。よって、本作を始めとする細田作品は、"現代版異世界ファンタジー"として、非常に真っ当で正しいと言えるのである。

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 ただ、本作には、「え…?」という不満点が本当に多い。まずはやっぱりたくさんの鑑賞者が指摘している"駆け足問題"。とかく本作は、そこもっと見せてよ!とか、そこもうちょっと説明してよ!という我々の願いを聞き入れず、トットコトットコ勝手に話を進めてしまう。例えば、熊徹と九太と多々良(声:大泉洋)と百秋坊(声:リリー・フランキー)が、『西遊記』よろしくバケモノ界を旅する場面。各宗師のキャラクターや彼らが統治する街の雰囲気は各々極めて魅力的だし、"砂漠を旅するエピソード"というのは、『ガンダム』シリーズでもお決まりの"おっさんとガキが信頼を深める舞台"に他ならない。だのに、本作は、これをほぼ完全なるダイジェストとしてトットコトットコ飛ばしていく。宗師たちが説くそれぞれの"強さ"が何らかのフリになっていたとも思えないしなぁ…。なってたのかなぁ…。

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 あと、「あれから8年後…」のシーン。ここは逆にシームレス過ぎて戸惑っちゃう。特にアニメにおける"声変わり"は、キャラクターの本質すら揺るがす重大な事件だ。『ルパン三世』が良い例で、山田ボイスじゃないルパンを我々はもはや受け入れられないだろう? だから、成長に伴う声変わりが避けられないとしても、だったらいったん流れをしっかり切って、我々に心の準備をさせてほしい。本作なら例えば、まず、ダイジェストの間にニョキニョキ成長していってヌルッと声変わりするのではなく、いったんきっちり暗転させる。で、17歳の九太が登場するシーンでは、顔は見せずに、成長した彼があの巨大な水瓶をいとも簡単にぶち壊す様を見せる。この描写があればこそ、我々は、九太がもはや"別人"のように大人になったことも自然に受け入れられるのである。ルフィが近海のヌシをぶっ飛ばした、あの感じよ。

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 やっぱ色々詰め込みすぎてるんだよな。個人的には、いっそテレビアニメ・シリーズでやれば良かったのに…なんて思ったりする。4シーズン、50話くらいで。筆者の魂のバイブル『天元突破グレンラガン』で例えれば、冒頭から熊徹との修行までが"立志編"~"風雲編"、大人になって現世に戻ってからの"受験勉強パート"が"怒涛編"、で、そこからラストまでが"回天編"ってな感じ。余談だが、本作って、本当に『グレンラガン』っぽい話だよな。才能はあるのにナヨナヨした少年が成長して、男気溢るる"漢"になる。彼が憧れ目標とすべき"漢"は、(ある意味で)死んでしまうものの、最終的には「だけど!俺の背中に!この胸に!」状態になる。獣が二足歩行しているバケモノたち、ありゃあ見るからに"獣人"だよな。そんな獣人は持っておらず、人間だけが生来的に有している"闇"という自滅すら招きかねないパワーは、モロに"螺旋力"だし。宇多丸師匠はチコ(声:諸星すみれ)の存在にやや苦言を呈していたが、アイツは"ブータ"ポジで必要なんです。九太が大人になったのにチコは大きくなっていない? えぇ、個体成長エネルギーを種の進化エネルギーに変換するため今は温存していますから、当然ですよね。

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 …という無益なこじつけはこのくらいにして、もうひとつ筆者が気に入らなかったのは、クライマックス・バトルである。まず、熊徹と猪王山の宗師決定戦。ここもね、全体的にやはり駆け足で不完全燃焼。加えて、ダウンした熊徹が九太の呼び掛けで復活するという熱血シーンも、審判が8カウントでいったんストップしてしまうというのが、マジでダメ。じゃあ、本当は熊徹は負けてたってことじゃないか。全然乗れん。その後、暴走した一郎彦との現実世界でのバトルも微妙。もうちょっと渋谷での破壊を描かないと九太のヒーロー感が出ないし、目を疑うほど唐突に繰り出される"渋谷の爆発が渋天街にも影響する"という設定には、開いた口が塞がらない。一郎彦に食って掛かる楓ちゃんのどなりも展開的に意味のない"無益な口上"になっているし(『グレンラガン』ならそれは必須なんだけどさ…。)、せっかく前フリ通り熊徹が"付喪神"として刀剣に転生したのなら、九太はそれで戦おうぜ…。結局、謎の"ビーム対決"になっちゃって、肝心の決着では、一体全体何が起こったか皆目分からない(「跳躍の瞬間だけ実体化してる…。」っていう理屈はまぁ良かったけど。)

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 ただ、クライマックス・バトルで一郎彦の闇が具現化した"スタンド"が"鯨(クジラ)"ってのは、すごく良かったと思う。えぇ!でも、一郎彦の闇の源は、家族がみんな猪タイプの獣人の中で自分だけが人間っていうコンプレックスだったのだから、そこはのスタンドの方が良かったやん!という意見も分かる。しかし、まずは、丁寧に前フリされていたメルヴィルの『白鯨』とのシンクロが良い。「白鯨はエイハブ船長自身の鏡像でもあって、結局彼は自分自身と戦っているとも言えるんじゃないかな。」という楓ちゃんの解説にもあった通り、九太は、まさに自身と鏡像関係にある一郎彦との戦いを通し、自らの闇とも決着を付けるのである。あと、自身の"父親"を一郎彦に殺されかけた九太を、自身の足をモビー・ディックに食われたエイハブ船長と重ねてみてもおもしろい。片足無きまま決闘に挑んだエイハブは白鯨に敗れたが、一方の九太は、その胸に熊徹を取り込むことで欠損した部分を補ったから勝てたんだ。そういう意味では、先ほど文句を言った"熊徹吸収展開"もそう悪くはないと思える。

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 更に、鯨という生き物は、"仲間外れ"の象徴でもあると筆者は思う。マジな話、いわゆる"就活"をしていたとき、とある企業の最終面接で過去に「あなたを漢字一文字で表すと何ですか?」という質問が出たという情報を得た筆者は、"鯨"という答えを用意していたんだ。で、「私はある事情から普通の就活生よりモラトリアムを長く経験しており、そういった意味で、哺乳類であるにも関わらず水中で暮らす鯨と同じ"仲間外れ"なんです。」と説明しようと思っていた(他にも"おおらかな性格で~"とか、"だからこそ俯瞰で~"とか、色々言い訳があったのだが、結局そんな質問はされなかった。)。よって、一郎彦のスタンドを見たとき、筆者は「おぉ!細田氏もそう思ってたか!」と手を打ったわけである。それに、一郎彦が発現したマッコウクジラは、彼が猪を羨ましがって言っていた"長い鼻"と"立派な牙"も持っていることだし、やっぱり中々良いスタンド・チョイスだと思う。

点数:69/100点
 というわけで、本作『バケモノの子』は、良いところもあるものの、全体としては全くピンと来ない作品だった。確かに、Rotten Tomatoesを見るとめちゃくちゃ評価が高いんだけど、バテレン共は本作を"アクション版『千と千尋』"くらいにしか考えていない可能性もあるから、無闇に信用するのは危険だ。やっぱちょっと、制作体制がワンマンなんじゃないですかね。知らんけど。周囲からのアドバイスも満足でない中、いくつもの選択肢と可能性に囲まれた細田さんは、探してた、望んでたものがぼやけていったのではないだろうか。まぁ、それでも、何かが生まれ、また何かが死んでいくんだ。本作のことは忘れて、『未来のミライ』に期待を持とう。

(鑑賞日[初]:2018.7.17)

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Posted byMr.Alan Smithee

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