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キャッチコピー
・英語版:Christmas Gets Ugry
・日本語版:unknown

 気を付けろ。
 泣いたってダメだ。
 機嫌を損ねてもムダ。
 なぜかって?

 "サイコパス"が町にやってくるからさ。

三文あらすじ:子守をしながら留守番するなんて簡単なこと。高校生の少女アシュリー(オリヴィア・デヨング)はそう思っていた。だが、家に何者かが侵入したことで状況は一変し、クリスマスの夜は常軌を逸した悪夢と化す・・・

※以下、ネタバレあり。


~*~*~*~


 2017年の秋にアメリカで公開された本作『ベター・ウォッチ・アウト』は、Rotten Tomatoesで批評家から87%の好評価を得ているクリスマス・ホラー・ムービーの佳作である。一年で最もハッピーハッピーな祭事であるクリスマスは、その表裏としてホラーの舞台になりがちだ。最近だと、アレクサンドル・アジャが製作と脚本を務めた『P2』なんてのがあった。ブロンド美女が緊縛されているビジュアルは両作に共通で、本作も『P2』同様、幸せなはずのクリスマスが変態ストーカーおっさんによって陵辱される物語なのだと推測できる。また、クリスマスの少年を描いたコメディの代表作といえば『ホーム・アローン』だが、それとの共通点も予感できる。さしずめ、ベビーシッターと少年が恐怖のサンタクロース相手に七転八倒する"ホラー版『ホーム・アローン』"。そんな風に予想して鑑賞を始めた筆者のような愚か者も多かろう。

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 本作がまずおもしろいのは、そんな合理的推測を覆す中盤でのツイストである。物音とか、無言電話とか、往年のホラー映画、または『スクリーム』なんかで見たベタな予兆があり、しかし、それらはルーク少年(リーヴァイ・ミラー)とその友人ギャレット(エド・オクセンボウルド)がベビーシッターであるアシュリー嬢を恐がらせるために仕組んだドッキリだと判明する。5歳年上のアシュリーに恋するルークが、「女を落とすにはホラー映画だ!」とギャレットと話していた冒頭が上手くフリとして効いているわけだが、まぁここまでは、まだ我々の予想の範疇。はいはい、ドッキリ…と思いきや、マジの殺人鬼が登場するのでしょう? ある意味でそれは正解だが、しかして、厳密には大きく外れている。ドッキリ作戦がバレて逆上したルーク。この"子供"こそが、実は恐怖の殺人鬼なのである。

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 確かに、"子供性の恐怖"を描いたホラーはたくさんある。例えば、子供たちがある日突然大人を襲い始める『ザ・チャイルド』とか、実の息子がお母さんを緊縛し拷問を仕掛ける『グッドナイト・マミー』とか。しかし、それらの作品は、子供は無垢がゆえ、一歩間違えば"純粋悪"にも転じ得る、という視点で描かれているように思う。一方、本作のルークは、より年齢が高い12歳。無垢がゆえ人を傷付けることの悪性を認識していない、なんて歳ではない。ちょうど思春期に片足を突っ込んだくらいの、ある意味では最も人間らしいお年頃だ。しかし、本作のルークは、やはり成長できていない男の子なのである。背伸びしているように見えても、胎内音を聞かないと眠れない赤子。共感能力がポッカリと欠如した幼児。そんな実年齢に比して精神が著しく未熟な、我々が一般に"サイコパス"と呼ぶ人種である。

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 ここで本作が新鮮なのは、ルークの悪性を明かした後も彼に殺人鬼らしい神秘性を付与しないという点である。"ナメてた相手が実は狂ってましたもの"では、往々にして、その狂人の本性は圧倒的な知力と実行力を伴った"超人"として立ち現れる。しかし、本作のルークは、アシュリーを緊縛した後も引き続き"思春期に片足を突っ込んだガキ"のままだ。当初の計画が狂ってからの見事な立て直しや実にスマートな証拠隠滅の手際の一方で、彼は「カーペットを汚したらママにしかられる!」とパニくったり、ギャレットとしょーもないことで口喧嘩を始めたり、アシュリーのおっぱいを触って勃起し、それをギャレットに茶化されると露骨に赤面して激昂したりする。このバランスは、中々に空恐ろしい。我々の世界と、より具体的には、我々が考える"思春期の子供"という概念と地続きの"悪"。元来、サイコパスとは、そのような存在なのであろう。

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 しかし、その反面、子供の未熟さは、ある意味で恐怖とは表裏のものでもある。未熟の本質はまだ熟す余地があるという部分にあり、したがって、ルークもまだ完全に"あっち側"に行ってしまったわけではない、とも思えるからだ。つまり、なんとか説得すればアシュリーは助かるのではないか…という希望があるということ。それゆえ、アシュリーが緊縛されてからしばらくは、割と退屈とも評し得る。ここは、ヘラヘラと大人の余裕で上から言いくるめようとするアシュリーの足とかをいきなり「ドンッ!」とルークが銃で撃ち抜き、蛇のような冷たい目で「黙れ。」と言い放つ、くらいのシーンがあっても良かったようには思う。ただ、善の性質をまだ色濃く残したギャレットの存在と対比すれば、ルークが有する既に成熟した狂気は自ずと明らか。この辺りのキャラ配置は、非常に上手いと思う。

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 また、それまで微弱にナメ続けていたがゆえ、ルークが遂に人を殺すシーンは恐ろしい。すなわち、嘘メールで呼びつけたアシュリーの今カレを吹き抜けの玄関スペースに座らせ、二階からロープで吊るしたペンキ缶を彼の顔めがけて振り下ろすという"ゲーム"である。これが恐いんだ。ナイフで刺されるとか、銃で撃たれるとか、そういう既に記号化された殺傷手段ではない。すごく稚拙で、卑近で、それだけに我々もありありとその痛みを想像できる手段。ドンッ!と顔面に命中した缶から真っ黄色のペンキがドバッ!と飛び散るのも最高。これは言わば血の代わりなんだな。不謹慎だろうがなんだろうが、ド派手に飛び散る犠牲者の血液は、この手のジャンルにおけるエンターテイメント・ギミックである。当該シーンは、これを大量のペンキで代用する。ペンキの色をにして、血の赤とのコントラストで皮肉なクリスマス感を演出しても良かっただろう。

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 この殺人シーンを起点に、我々は、遂に"あっち側"へ行っちゃったルークに真の恐怖を覚える。よって、ここから先は、それまでの退屈感などない。すっごく楽しい。呼び出したアシュリーの元カレを絞殺し、ギャレットを銃殺し、アシュリーの首に深くナイフを突き立て絶命させ、全ては元カレの犯行であるかのように偽装するルーク。帰宅し、金切り声を上げながらルークの元へと飛んでくる母親。我々は、ここでルーク少年の"真の目的"を知る。すなわち、この小さなサイコパスは、結局のところ、ただ幼き頃のように母親に添い寝してもらいたかったんだ。"サイコパス診断"でよくある、旦那の葬儀で出会った男性に恋してしまった未亡人は、その後、息子を殺害した。なーんでだ? という問いの答えが、身内の葬儀が行われれば、もう一度その男性に会えるから、っていう、あの感じ。

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 常人であれば、意中の男性にアプローチする上で子供が邪魔だから、と考えるところ、サイコパスたちは、もう一回その人に会うためだけに息子を手にかける。彼ら彼女らにとって、他人の苦しみは、例えそれが実の息子であったとしても、目的達成のためのその他の手段と全く同一の選択肢に過ぎない。本作のルークもそんなサイコパスの一人なのである。もちろん、直接的には、それは結果論だろう。本作の描写を見る限りにおいて、ルークはアシュリーに乱暴した後、記憶を喪失する薬剤を飲ませてこの夜の事件を無かったことにしようとしていた。薬剤の使用が不可能になったのは、アシュリーによる予想外の抵抗があったためだ。とはいえ、ルークが元カレに嘘メールを送信したタイミング。これがその抵抗の前だったのであれば、やはりルークは、再び母の手に抱かれるための手段として4人もの人間を殺害したのだ、と考える余地はあるだろう(それでもなお、ギャレットの死は過失かもしれないが。)。

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 他にも、小ぶりだが丁寧な伏線回収には、本当に心地よさを感じる。意味深にクローズ・アップされる洗濯機は、侵入者(実はギャレットの変装だが)に見つかるか…どうだ…?という絶妙のタイミングで洗濯完了のブザーを鳴らす。ルークがアシュリーのスマホを投げて寄越そうとして水槽に水没させしまう展開。そのときは、ははぁ、ホラー映画にありがちな"むりやり通信手段封じ"ですな?なんて、ただの"あるある"として理解するが、あれはきっとルークがわざとやったんだよな。ルークの思惑に反して一命をとりとめたアシュリーのファック・サインも最高だし、彼女の生存理由が、首の出血をダクト・テープで塞いでいたっていうね。しつこいくらいにテープで口を塞いで、剥がして、また貼って…を繰り返し、更には「ダクト・テープって本当に便利だよ♪」とルークに言わせる前フリ。これが美しいまでに活用されたオチである。

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 というわけで、本作『ベター・ウォッチ・アウト』は、こと"クリスマス・ホラー"というジャンルに限っては、ゆくゆくクラシックの仲間入りを果たしてもおかしくはないと思える、非常に楽しい良作であった。

点数:80/100点
 ちなみに、アシュリーを演じるオリヴィア・デヨングとギャレットを演じるエド・オクセンボウルド、彼女らは、シャマラン復活の"こじんまりホラー"『ヴィジット』で主人公たる姉弟ベッカとタイラーを演じた二人である。そう言えば、一見家族にも等しい"他人"の家を訪れた主人公が、実は狂人だったソイツに苦しめられる、という骨子は、両作に共通だ(ポスター・アートも絶対意識してるよなぁ。)。そういった意味で、本作は、"狂人若返り版『ヴィジット』"とも言えそうだ。とにもかくにも、順調にキャリアを重ねているオリヴィア嬢及びエド氏が、マコーレ・カルキンみたいにならないことを筆者は祈る。加えて、かなり気は早いが、平成最後のクリスマスに"サイコパス"ではなく、ちゃんと"サンタクロース"が町にやってきてくれることも、併せて祈っておこう。

(鑑賞日[初]:2018.8.29)

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Posted byMr.Alan Smithee

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