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キャッチコピー
・英語版:Just Because You're Invited, Doesn't Mean You're Welcome.
・日本語版:何かがおかしい

 Hey, 行こうぜBrother!

三文あらすじ:ニューヨークに暮らすアフリカ系アメリカ人の写真家クリス・ワシントン(ダニエル・カルーヤ)は、ある週末に白人の彼女ローズ・アーミテージ(アリソン・ウィリアムズ)の実家へ招待される。若干の不安とは裏腹に、過剰な歓迎を受けるクリス。しかし、その家で働く黒人の使用人に彼は妙な違和感を覚える・・・

※以下、ネタバレあり。


~*~*~*~


 本作『ゲット・アウト』は、映画ファンでなくとも当然ご存知、前回の第90回アカデミー賞において、作品賞、監督賞、主演男優賞、脚本賞、という主要な4部門にノミネートされ、見事脚本賞を受賞した傑作ホラーである。監督、脚本、共同製作を務めたジョーダン・ピールは、確かにアメリカでは有名なコメディアンで、一応2016年に『キアヌ』というコメディ映画の脚本、主演を担当していたりはする。とはいえ、やはり順当に考えるなら、アカデミー賞の舞台に立つようなキャリアの映画人ではない。しかも、作品自体がいかにも"低予算ホラー映画"、いかにも"ジャンル映画"といったものだったから、あらゆる映画好きがそのノミネート及び受賞に驚いたわけだ。

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 さて、そんな本作をギミック面から端的に表現すれば、"高品質の逆『スケルトン・キー』、仕組みは『マルコヴィッチの穴』"となる。…とならないかもしれないが、少なくとも筆者はそのように感じた。つまり、『スケルトン・キー』というのは、ケイト・ハドソンが主演した2005年の"どんでん返し系ホラー"。その"どんでん返し"とは、他人の余命を奪おうとする邪悪な白人ばばぁ&弁護士が、実は他人と自分の体を入れ替えながら何十年も生き続けている黒人呪術師夫婦だった、というものであった。この黒人の使用人が隷属から逃れるために白人の体を奪うという展開は、キ◯ガイどもが"黒人憧れ"から黒人の体を乗っ取ろうとする本作とは逆の構図と言い得るだろう。

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 ただ、ではどうやって体の乗っ取りを行うのかというその仕組みの部分は、両作でやや異なる。『スケルトン・キー』では、一見非科学的な呪術というまやかしを"信じる者には現実の効果を有する一種の催眠術"として扱い、儀式によって二者間の精神が入れ替わるという理屈が用いられていた。言ってみれば、ギニュー隊長の「チエエエェェンジ!」である。一方の本作は、同じく催眠術を核としているものの、両者の精神が入れ替わるわけではない。催眠術によって対象の精神を心の奥底に押し込めた上で、外科手術により他者の精神を移植するのである。よって、元の体の持ち主からすれば他人によって自分の体を侵略されるというわけ。この点を示唆したタイトルが『Get Out(出ていけ)』というわけだ。

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 この仕組みは、スパイク・ジョーンズが監督した1999年の『マルコヴィッチの穴』と同種のものだ。同作では、催眠術とか外科手術みたいな科学的落とし込みは無く、マルコヴィッチの精神に侵入できるドアがあるというファンタジックな理屈が用いられていたが、乗っ取り後の体に依然元の持ち主の精神が残存するという点は、本作と同様である。話がややそれるが、他にも他作品を彷彿とさせる展開やギミックが、本作にはいくつか見られる。例えば、田舎の家行ったらそこの住人がなんか"不気味"。これは、『悪魔のいけにえ』みたいに「あかん!直ちに殺られる!ヤヴァイ!」という恐怖とは違う。もっとやんわりとした「なにコイツら……きっしょ…。」という気味の悪さである。ここでホラー映画ファンが思い出すのは、シャマランの『ヴィジット』であろう。

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 『ヴィジット』での不気味主体は、キ◯ガイばばぁ&じじぃ。本作では、黒人使用人も含めたアーミテージ一家。特に黒人使用人の不気味さは『ヴィジット』のB&Jに勝るとも劣らない切れ味である。まず、女性使用人のジョージナ(ベティ・ガブリエル)。これはもう顔。こんなにも不気味な顔面の人物がいたのか…!と驚愕してしまうほど、彼女がただ笑っただけで一気に異様な空気が漂う。それから、もう一人の使用人ウォルター(マーカス・ヘンダーソン)。この屈強な黒人男性の見せ場は、何と言ってもタバコを吸うため深夜に庭に出てきたクリス目掛けて猛然とダッシュしてくるシーンであろう。これは、『ヴィジット』におけるばばぁとの床下チェイスと非常に似通った恐怖。走ってくるのが殺人鬼とかモンスターなら、まだ割り切れるんだよ。でも、現段階では、まだ普通の人間なんだ。え?!これ何?!どっち?!逃げるべき?!え、どっち?!っていう、クリスだけでなく我々にも突き付けられる"今そこにある恐怖"である。

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 あとは、劇中でも台詞で出てきた通り、何やら変態的な集団の中にフラッと入っていった男が取り返しの付かない事態に巻き込まれていくという感じは、キューブリックの『アイズ・ワイド・シャット』っぽい。そもそも『アイズ・ワイド・シャット』というタイトルは、英語の言い回し"Eyes Wide Open(目を大きく見開いて)"をもじって逆の意味を与えたものだ。この"見る・見ない"という概念は、本作にも共通している。それと、キューブリックで言えば、本作のタイトル色。なんか"ダサい水色"って感じの色だが、作中でも一応、囚われのクリスが見せられるVTRのテロップと同色ということで理屈は通っている。しかし、思い出して欲しいのは、キューブリックの『シャイニング』。このタイトル色が本作のそれと全く同じなのである。どちらも"子"が"親"に追い回される話であるとか、両作の共通点は探せばたくさんありそうだ。

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 あとは、まぁ、一見幸せを絵に書いたような"模範的白人一家"が、実は狂信的なカルト集団の一員で、その家の地下室では悪魔がごとき"人体実験"が行われていた…という設定から、残虐ホラー好きのあなたは『マーターズ』という2008年のフランス・カナダ合作の一本を想起すべきだろう。もちろん、ありゃあただただ女の子を拷問して壊してしまうだけの"超変態的AV"だったわけで、本作の素晴らしさとは比べ物にならない。ラストの展開だって、同作のただ悪趣味なそれとは異なり、本作では、主人公が見事に悪の権化を打倒し忌まわしき家が燃え尽きるという"純正統的"なものが採用されている。ちなみに、この"家が燃えて終わる"ってのは、実はとっても重要。宇多丸師匠が高橋ヨシキ氏をゲストに迎えてお送りした"タマフル"の『映画の終わり方についてネタバレも辞さず考える特集』でも言及されていた通り、"一軒家にヤバい奴おった系ホラー"のラストは、その舞台たる家屋の火災・崩壊であってしかるべきだ。

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 とはいえ、実は本作のラストは、厳密には火災発生後も少しだけ続く。すなわち、追跡してきた主人公の恋人ローズ(もう明らかに"元"だけど。)が、写真家であるクリスのフラッシュ攻撃によって一瞬だけ本来の人格を取り戻したウォルターの銃弾に倒れ、クリスは駆け付けた最高の"兄弟"ロッド・ウィリアムス(リル・レル・ハウリー)と共に去っていく、というくだりである。先ほどの"家屋全焼エンド理論"からすればこれは蛇足にも思えるが、しかし、本作においてはやはり重要にして必要。クリスが道端で血を流すローズを見捨てて去っていくことは、彼のトラウマの克服を意味しているからだ。幼き頃、母親が轢き逃げされて路上で一人孤独に死んでいったというクリスのドラマに、本作はラストできっちりと落とし前をつけたわけだ。

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 更にこの展開は、次のような妄想を可能にする。すなわち、母親の死というトラウマを克服したことで、クリスは、同時に今回の一件でローズの母親ミッシー(キャサリン・キーナー)にかけられた催眠術をもまた克服できたのではないか?という妄想である。催眠術の詳細な仕組みを筆者は知らないが、まぁイメージからしてきっと対象の深層心理に訴えかけるのであろう。であれば、各々のトラウマと連動している可能性は大いにある。まずこれが一つ。もう一つ、映画的な観点から理由になりそうなのは、催眠状態のビジュアルである。「カシュー…ン、カシュー…ン」とティーカップをスプーンでかき混ぜる音が引き金となり、ドーンッ!と一気に"体の奥底"へ沈んでしまうクリス。意識はあるのに体は動かない。いわゆる"ロックド・イン・シンドローム(閉じ込め症候群)"が人為的に引き起こされているわけだ。この症状の苦しみは、2007年のフランス映画『潜水服は蝶の夢を見る』を観ればよく分かる。

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 ポイントは、この際の視覚的表現である。漆黒の空間に沈んでいくクリス。見上げると、自身の目で見ているはずの"外の景色"があたかもテレビ画面のように四角く小さく浮かんでいる。このイメージが、クリスの過去のトラウマ・エピソードと重なるのである。あの雨の日、自宅で母の帰りを待つクリス少年は、ずっとテレビを見ていた。頭の片隅では母親が何かしらのアクシデントに巻き込まれたのではないかと薄々勘づきながら、それでも見て見ぬふりをして、じっとテレビを見続けたのである。だから、クリスは動けない。あの日、母を見捨てたという事実、あるいは、そんな自分自身と向き合わない限り、彼は"テレビ"の前から動けないのである。これは、序盤で鹿を轢いてしまうくだりでも強調されている。

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 しかし、彼は、ラストで母と同じ状況のローズを見捨てた。最愛であったがゆえ今や最も憎むべき対象となった恐怖のキ◯ガイ女の首を締めて息の根を止めようとするも、その手を緩めるクリス。しかし、彼は、(おそらくは)彼女の失血死を確信したまま立ち去るのである。これでもう、クリスは気兼ねなくティータイムを楽しむことができるだろう。もちろん、クリスのトラウマと今回の催眠術は厳密には別問題かもしれないが、映画的論理に従えば呪縛からの脱出を帰結してもいいんじゃないかな。ちなみに、あの「カシュー…ン、カシュー…ン」っていう催眠術のトリガー。本当に耳に残る。その音自体は我々がこれまで幾度となく聞いてきた環境音なのに、丁寧な演出と絶妙の描写によって"マジで催眠状態を誘発し得る説得力"を感じざるを得ない。クリスが本格的に捕まった終盤で再度「カシュー…ン」が鳴った瞬間、咄嗟に「ヤバい!落ちる!」とこちらまでビクッとしてしまうのは、本当にスゴいことだ。

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 他にも、細かいところで言えば、アヴァン・タイトルが最高とか。人気の無い夜の高級住宅街で、後々乗っ取られた状態でアンドリュー・ローガン・キング氏として登場するアンドレ・ヘイワース(キース・スタンフィールド)が、ローズの弟ジェレミー(ケイレブ・ランドリー・ジョーンズ)に拉致されるシーン。トボトボ歩くアンドレをゆっくりつけていくジェレミーの車をワン・カットでじっとりと描くくだりは、非常にサスペンスフル。そして、いざ飛び出したジェレミーに首を絞められ失神したアンドレが、車のトランクに詰められ連れ去られる様を引きの画角で捉える。そこにフワッとクレジットが表示される瞬間。ここが最高に薄ら恐ろしい。クレジットが出た瞬間、いきなり画面上に"手前"と"奥"という概念が生まれ、奥の方でのスッタモンダが"背景"になるのである。ここで、我々は、今まさに日常の平穏な生活圏で真に恐ろしく暴力的な事件が起きているにも関わらず、それを画面奥の遠くで起きていることとしてただ見ているしかないという状況に叩き込まれる。もちろんのこと、これはクリスのトラウマとリンクした演出なのであろう。

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 他には、やっぱり"黒人ナメんな!"が一切の欺瞞なく大爆発するクライマックスのカタルシスが素晴らしい。まず、クリスが緊縛を脱するシーンでは、催眠状態の間無意識にかきむしって破れたソファーから飛び出た綿を耳に詰めたため「カシュー…ン」を回避できた、という最高に説得的な"勝つ理屈"が提示される。ひょっとして、この綿というガジェットは、黒人奴隷の歴史と密接に結び付いた三角貿易時代の綿工業と関係があるのだろうか。まぁ、この辺りは無知な筆者にとって埒外の考察だが、ひょっとしたら、再三強調されていたタバコというガジェットも、三角貿易に関係しているのかもしれない。どうかな。

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 肝心なのは、この後だ。まずは手近な球体のオブジェでジェレミーをボコる! 巨大な鹿の頭部の剥製を引っこ抜いて、その角でローズの父ディーン(ブラッドリー・ウィットフォード)を串刺しに! ミッシーとテーブルを挟んだにらみ合いの末、『ちはやふる』ばりにスパーンッ!とティーカップをふっ飛ばし、ナイフ(レターオープナー)で手の平を突き刺されてもビクともせず、逆に彼女の頭にそれをぶっ刺してやる! 復活のジェレミーが夕食時に自慢していた首閉めをもろともせず、打倒した彼の顔面をグチャグチャに踏み潰す! ここで爆発しているのは、つまり、白人どもが野蛮だと蔑み、利用し、しかし同時に恐れ憧れてきた黒人の圧倒的身体能力(遺伝子の優位性)である。かつて『ID4』が"アメリカ人がそのアメリカ人性で勝利する話"だったように、『シン・ゴジラ』が"日本人がその日本人性で危機に対処する話"だったように、本作のクライマックスは、"黒人がその黒人性で白人どもに復讐をぶちかます"というカタルシスあふれる構図になっているのである。

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 もちろん、"黒人の黒人性"とは、フィジカルな強さだけではない。クリスが緊縛を脱せたのは、咄嗟に綿を耳に詰めるという機転、すなわち、頭の良さゆえだった。最終的に空港警察のパトカーで駆け付けてくれたのは、彼の"兄弟"たるロッド、すなわち、黒人の"友情"の結晶だった。黒人=劣等人種という差別意識が前提にあり、でも…フィジカルは優秀よね♪というなんだか片寄ったフォローなんかがあり、しかし、それら全部を一笑にふして「ちげーよ!お前らしょーもない白人より、俺らは全てにおいて勝ってんだよ!バーカ!」と宣言するかのような堂々たる"黒人讃歌"。もちろん、筆者などは日頃人種問題に無関心な愚か者だ。だから、あたかも"黒人側"の人間であるかのように盛り上がるのは、いささか欺瞞的ではあるだろう。それでも、少なくともそういう無関心な者も思わず拳をあげてしまうほどのエンターテイメント性は、素直に賞賛していいのだと思う。

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 あとまぁ、思うことはいっぱいあります。一言で言えば"黒人讃歌"とはいえ、ロッドが"クリス性奴隷説"を説いて黒人の刑事に嘲笑されるシーンなんかがあり、黒人といえども黒人というだけで直ちに与(くみ)するバカではないということがちゃんと描かれていたり。あるいは、黒人vs白人という"矮小"な話ってわけでもないんだよ、という意図なのかな。他にも、本作を観た誰もが好きになるであろうロッドの一挙手一投足一言動が本当に最高とか。無事に生還したとはいえ、クリスは"人生の支え"に裏切られたわけだ。それでもなんとか"ハッピーエンド"と思えるのは、間違いなくクリスの真の"兄弟"であり"女房役"であるロッドのおかげであろう。あと、パトカーが駆け付けるラストで「あ!これはもしかして "『ナイト・オブ・ザ・リビングデッド』オチ" なのか?!」と肝を冷やすも、その予想をスカすところが気が利いているとか。そんなのもありますね。

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 とにもかくにも傑作だ。昨年は、確か2月に本作が公開されて、9月にリメイク版『IT』がホラー映画の新記録を樹立して、今年に入って本作がアカデミー賞を賑わせて、春頃にもうすぐ日本でも公開される『クワイエット・プレイス』が絶賛され大ヒットし、つい今週末も『死霊館』のスピンオフ『死霊館のシスター』がバカあたりしてホラー映画史上リメイク版『IT』に次ぐ二番目のオープニング成績を打ち立てたり。第何次かは知らないが、確実に今"ホラー映画ブーム"が巻き起こっている。最高だな、おい! 黒人については"にわかファン"の筆者も、ホラー映画についてならまだ比較的堂々と拳をあげてもよかろう。同じくホラー映画好きな"兄弟"たち。そして、これから好きになる未来の"兄弟"たち。行こうぜ! 俺たちの時代だ!

点数:92/100点
 点数はもっと高くてもいいと思う。例えばRotten Tomatoesなんかだと、一般観客が86%の大興奮、批評家に至ってはなんと99%という驚愕の大絶賛だ。筆者が92点くらいに置いたのは、ひとえに既に『スケルトン・キー』を鑑賞していたため、割と序盤でアーミテージ家の思惑が分かってしまったという点にある。もちろん、同作を観ていなくても、『マルコヴィッチの穴』とか、『DRAGON BALL』とか、ヒントになる過去作はあるのだけれど、怪しげな民家とか、なにかしらの"術"とか、本作と『スケルトン』には共通点が多いんだ。まぁ、なにもどんでん返しだけがホラー映画の醍醐味ではなかろうが、それでも、仮に『スケルトン』以前に本作を観ていたら、おったまげの99点をつけていたかも。どうだい? 同じように思った"兄弟"は、いるかな。

(鑑賞日[初]:2018.9.5)

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Mr.Alan Smithee
Posted byMr.Alan Smithee

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