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予告編:not found

キャッチコピー
・英語版:not found
・日本語版:ビデオに殺されるなんて。

 貞子、現る。

三文あらすじ:姪である大石智子(竹内結子)の不審死をきっかけに"呪いのビデオ"の調査を始めたジャーナリスト浅川玲子(松嶋菜々子)。観た者は一週間後に死ぬというそのビデオには、恐ろしい呪縛が潜んでいた。自らもそのビデオを観てしまった玲子は、元夫で大学の臨時教員でもある高山竜司(真田広之)の助けを借り、呪縛の謎に迫るのだが・・・


~*~*~*~


 もうすぐハロウィンなので『リング』を観てみる。1998年早々に公開された本作は、世紀末の日本を席巻した傑作ホラー。つい先日までの筆者のように、恥ずかしながら実はまだ観たことがないんだ…という人がいたとしても、最強にして最凶の怪異"貞子"を知らぬ者はいないだろう。2002年には海を渡って"サマラ"と改名しナオミ・ワッツをビビらせた彼女は、今やホラー映画界のド定番アイコンとして、世界的な有名人である。また、本作の世界的パンデミックによって、いわゆる"Jホラー表現"がハリウッドでも取り入れられ始め、そして、今ではすっかり定着したという事実も忘れてはならない。筆者などはパチンコやスロットでしか知らなかった貞子や、原作を大胆に改変して映画化を成功させた中田秀夫監督は、本当に偉大なのである。

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 まぁ、"原作を大胆に改変"といっても、筆者は肝心の原作小説を読んだことがないから、あまり偉そうなことは言えない。とはいえ、原作には登場しない"超能力者"として高山竜司を設定したことは、素人目にも冒険だと思える。だって、こんなお化けものに霊感があったりサイコメトリーが使えたりする"超人"が出てきたら、一気にバカバカしくなってもおかしくないんだ。脚本家、監督にしてスクリプト・ドクターでもある三宅隆太さんも、ホラー映画、特にJホラーでは「 "フィクション・ライン "を下げる( "リアル "に近づける)ことが重要」と語っていた。事実、この改変の主たる目的である"謎解きの簡略化"を果たすため、高山が大島のじじぃをサイコメトリーするシーンは、「はぁ…便利ですねぇ…。じゃあ、何でもありじゃない?」というご都合主義感が若干漂う。

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 しかし、肝心要である"呪いのビデオの実在"については、さすがとしか言い様のないきめ細やかさと"正しさ"だと思った。これだって、貞子の過去と同様、高山が「おい…それはマジだ。」って言えば、どうにでも簡単に説明できる。でも、それじゃあ、我々は恐がれない。つまり、観たら7日後に死ぬという荒唐無稽なビデオテープの存在を信じることができない。この点、本作は(原作もかもしれないが)、実に丁寧な段取りの踏襲で見せてくれるのである。まずは、キング・オブ・都市伝説たる"口裂け女"の話なんかも引き合いに出しながら、既に巷に流布された都市伝説として呪いのルールを我々の頭に叩き込んでおく(この都市伝説のくだりに限っては、原作には無いらしい。)。その上で、ビデオを観てしまった玲子が、きっちりその通りの段取りを踏んでいくのである。

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 ビデオ観た、観たら電話かかってくるらしい、そんなバカな…かかってきた…! ここまでで「あら…マジかなマジかな…?」と不安にさせた後、ダメ押しとして繰り出される"心霊写真"が特に素晴らしい。つまり、先行して死亡した高校生4人組同様、玲子もまたその写真の顔部分がグニャッと気持ち悪く歪んでいるというくだり。これも段取りであり、また情報の一致でもある。両者とも、Jホラー表現のメソッドを確立した"小中(こなか)理論"で挙げられた要素であり、本作がいかに基本に忠実で正しいJホラーかが分かる。ちなみに、Jホラーは元々心霊写真研究に端を発したと言われている。要は、バアー!とかガアー!とかモンスターが襲ってくる直接的・身体的な恐怖ではなく、あるはずのものがそこにない、逆に無いはずのものがそこにある、という違和感の気持ち悪さが肝だ。

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 そういった意味でも本作は正しい。心霊写真というギミックの直接利用だけでなく、原作から改変されテレビ局のディレクターとして登場する玲子が、高山と共に呪いのビデオをコマ送りで解析するシーン。ここで我々は気付く。映像だって、元来写真なんだ。玲子らを呪うビデオや、より広くこの『リング』という作品自体も実は心霊写真の連なりでできている。よって、本作には、気味の悪い映り込みが随所に配置される。しかも、極めて緻密な計算の上に。例えば、まずは普通の人間がいきなり映り込むシーン。大島のじじぃとか、智子ちゃんのお母さんとか、彼らは、カットが切り替わるといきなりそこにいる。で、我々はギョッ!とする。いるはずがないと思っていた人物がそこにいたからだ。でも、ここはまだあくまで普通の人間なので、彼らは明るい場所でハッキリと映る。我々は、一瞬ギョッ!とするものの、すぐにホッと胸を撫で下ろす。

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 一方、この世ならざるものが突然映り込むシーン。例えば、白い布をスッポリと被ったあのおっさんお化けが玲子の自室に出現するシーンでは、普通の人間のそれとは対照的に、電源の切れた暗いブラウン管の中にボンヤリと映り込む。我々には既にギョッ!ホッ!が刷り込まれているが、ここはギョッ!…ん~…?ギョギョッ!って感じ。これもまた心霊写真の本質なのだろう。パッと見て顔がグニャグニャなんてのも確かに恐いが、夜中にオカルト・サイトをサーフィンしていて心底寝られなくなるのは、"意味が分かると恐い◯◯"系の写真や動画だ。玲子がペンションでビデオを観た直後、ブラウン管の中に貞子を見るシーンも同様。キショク悪いビデオを観てブルーな玲子がふと顔をあげると、おぼろげに映り込む貞子。ん?ん~……ヒェッ! で、その直後に電話が鳴るのだから、泣きっ面にスズメバチである。

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 その他、特筆すべき点は多々あるも、やはり本作のオチは、特に検討に値する。結局、貞子の呪いの仕組みは、呪いのテープをダビングして誰かに見せたらその人にうつるというものだった。よって、玲子は、我が子を救うため、ビデオ・デッキを携えて父が住まう実家に向かうのである。映画はここで終幕するが、きっと彼女は、実家で息子にテープを手取り足取りダビングさせ、父に観せるんだ。死者の無念を晴らしてやれば解決、なんて安易なご都合主義ではない。おそらくは貞子に限らず、有史以来、この人間社会のどこかでうごめき続けてきた終わりなき恐怖の円環。作中、玲子は「全部、私のせいよね…ヨヨヨ」と涙するが、皮肉にも本作のラストは、ある意味で玲子自身が呪いの元凶、すなわち、貞子なのだと示しているようにも思える。そういや、井戸の底で貞子の死体を見つけたシーンも、どこか同情というか、同化というか、そんな雰囲気があった。

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 ただ、筆者には、玲子がした最後の決断が正しいものなのかどうか、あまりよく分からなかった。倫理的、道義的な是非の話ではない。果たして、息子の呪いを解くために更なるダビング&第三者への強制視聴は必要だろうか。本作の描写をサラッと見た限り、筆者は、先述の通り、ダビング+視聴で呪いの移転が起こるのだと理解した。何らかの作為によって呪いを他人にうつすことができるというルールは、最近だと『イット・フォローズ』という傑作ホラーにも継承された仕組みである。でも、だったら、玲子がオリジナルをダビングして高山に観せた時点で呪いは高山にうつっているはずで、その後、玲子の子供が同じダビング・テープを観せられても、子供に呪いはうつらないのではないだろうか。

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 まぁ、こういう場合は、たいてい筆者が致命的な見落としをしているのだが、とにもかくにも、本作が小中理論やJホラー表現といったもののひとつの究極形であることは間違いない。丁寧に違和感や気味の悪さを積み上げ、しかし、最後には画面を飛び出し、直接的・身体的な恐怖として顕在化する貞子。この画面を飛び出してくるっていうのがポイントなんだ。なぜなら、それはまさに小中理論からの逸脱であると同時に、日々安穏と受動的にスクリーンを見つめている我々映画ファンにこそ突き付けられる恐怖だからである。思えば、ビデオをダビングして誰かに観せる、という作為は、VHS時代を経験しているおっさんおばはん映画ファンにとって、至極当たり前の日常だったわけで。諸々ひっくるめ、本作はやはり今なお我々映画ファンが恐れるべき大傑作なのだと思い知った次第である。

点数:89/100点
 本作のオチについて、筆者は、ビデオをダビングして誰かに見せれば呪いがその人にうつる、と解釈したが、それはやはり『イッフォロ』に影響されすぎた考えだったかもしれない。先ほど実弟と話した結果、呪いはうつるのではなくコピーされていくのではないか、との結論に至った。つまり、恐怖のレンタルビデオショップ"SADAYA"から『呪いのビデオ』を一週間レンタルした人物は、そのレンタル期間内にダビングして友達にオススメしなければ、返却期限で命を対価としてビデオの買い取りを迫られる、とそういう仕組みなのだろう。今じゃあビデオをダビングして友人に貸すなんてこともなくなってしまって安堵の一方、寂しい限りだが、いやいや、案外あなたのSDカードに、ハードディスクに、クラウド上に、まだ貞子はいるのかもしれない。

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Posted byMr.Alan Smithee

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