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2012

[No.57] トゥルー・ロマンス(True Romance) <92点>

True Romance



キャッチコピー:『どう猛な愛だけが生き残る』

 Can't Help Falling In Love.

三文あらすじ:コミックショップに勤め、カンフー映画とエルヴィス・プレスリーをこよなく愛すオタク青年クラレンス・ウォリー(クリスチャン・スレーター)は、ある夜、映画館でコールガールのアラバマ・ウィットマン(パトリシア・アークエット)と出会い、情熱的な恋に落ちる。アラバマを自由にするため、クラレンスは、彼女の雇い主であるポン引きのドレクスル・スパイビー(ゲイリー・オールドマン)を銃殺、成り行きで大量のコカインを手にしたことから、その買い主であるブルー・ルー・ファミリーに追われる身となる。デトロイトで生まれた”真実の恋(True Romance)”は、逃避行の末いったいどんな結末を迎えるのか・・・


~*~*~*~

 
 本作の監督は、トニー・スコット。言わずと知れた傑作青春ドッグファイト映画『トップ・ガン』の監督であり、言わずと知れた傑作最凶モンスターパニック映画『エイリアン』の監督リドリー・スコットの弟である。アクション映画を多く撮っている監督で、作品はどれも一定の水準を満たすものばかりという一種職人とも言える人物なのだが、傑作と言うべきものは『トップ・ガン』以降撮れていないような気がする。最近では、『サブウェイ123 激突』や『アンストッパブル』といった列車アクションを相次いで監督したが、両作とも今ひとつ盛り上がりに欠ける惜しい作品だった。今一度、『トップ・ガン』の頃の熱さを思い出して欲しいところである。まぁ、それは筆者の個人的なわがままだが、とにかく、そんな名匠トニー・スコットが本作の監督だ。

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 そして、脚本は我らがクエンティン・タランティーノ。彼がレンタル・ビデオ店“ビデオ・アーカイブス”で働いている時に書いたのが本作の脚本で、それを売った資金で制作したのが『レザボア・ドッグス』である、というのは有名な話だ。なお、実際には、タランティーノが一人ですべてを構想したわけではない。そもそも、本作の脚本は、ビデオ・アーカイブス時代のタランティーノの同僚であり、後に『キリング・ゾーイ』を自ら監督し、タランティーノと共に『パルプ・フィクション』の原案も務める男ロジャー・エイヴァリーとの(ほぼ)共著だ。実際、当初本作の監督として想定されていたビル・ルスティーグも後に本作を正式に監督することになるトニー・スコットも、共に本作の脚本を手直しする際、頑固なタランティーノではなくエイヴァリーに書き直させている(そして、エンディングも含め勝手にリライトしたことが、タランティーノとエイヴァリーの関係性が崩壊する決定的な理由となる。)。

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 まぁ、そんなわけで本作にはエンディング(及び事件の並び)を除いて、おなじみのタランティーノ・イズムがそこかしこに散見される。

 まず、主人公クラレンスは、かなりのカンフー映画マニア。彼がアジア一のカンフースターと豪語するソニー・千葉(千葉真一)は、タランティーノ自身も敬愛しており、『キル・ビル』ではブライドに刀を授ける伝説の刀鍛冶”服部半蔵”として出演していた。また、エルヴィス・フリークかつコミック・フリークといったクラレンスのオタクキャラは、同じくオタクであるタランティーノ自身の投影と言っていい。

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 ストーリーに目を向けてみても、コカインを巡って主人公・ギャング・警察といった勢力が3つどもえ4つどもえの争いを繰り広げるといった点は『ジャッキー・ブラウン』等の群像劇を彷彿とさせる。

 また、これはタランティーノ自身が意図したものではなく、本作を経て関係性が構築されていった者も含まれているが、キャスティングにおいても、タランティーノににゆかりのある俳優が多く起用されている。例えば『パルプ・フィション』において少年ブッチに金時計を託す大佐“クーリッジ”を演じたクリストファー・ウォーケンが、クラレンスの父親クリフォード・ウォリー(デニス・ホッパー)を拷問するブルー・ルー・ファミリーの相談役ヴィンセンツォ・ココッティとして登場したり、『レザボア・ドッグス』において”ナイス・ガイ”エディを演じたクリス・ペンが、コカインを追う刑事ニッキー・ダイムスとして登場したりする。タランティーノ映画の常連俳優我らがサミュエル・L・ジャクソンも冒頭で殺されるもののばっちり登場しており、タランティーノ好きにはうれしいところだ。

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 キャスティングでもう一つ言及したいのは、節目節目でクラレンスを励ます心の友エルヴィス・プレスリーをヴァル・キルマーが演じている点。ヴァル・キルマーと言えば、『トップ・ガン』において主人公マーヴェリックの相棒アイスマンを好演した俳優。もっとも、彼が演じるエルヴィス・プレスリーは、作中ほとんど顔が映らないし、満を持して映るシーンでもリーゼントにサングラスだから、あらかじめ知っていないとヴァル・キルマーが演じているとは分からない。ちなみに彼は、筆者のオールタイムベスト『ヒート』において強盗チームの一人で妻に浮気される男クリス・シヘリスを演じた俳優である。

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 以上のようなタランティーノ・イズムをトニー・スコットは忠実に再現しており、中々好感が持てる。しかし、彼は1点だけ作品の出来を大きく左右するポイントを変更してしまった。それは、映画に限らず物語全般において最も重要と言える”オチ”。タランティーノ(とエイヴァリー)のオリジナル脚本では、ラストでの警察、ブルー・ルー・ファミリー及びコカインの買い手である映画プロデューサー、リー・ドノウィッツ(ソウル・ルビネック)の部下との銃撃戦でクラレンスとアラバマは命を落とすということになっていた。しかし、先述のように当初監督だったビル・ルスティーグが、“商業的な理由”からこっそり脚本をリライト、その後、監督役をバトン・タッチ(というか、乗っ取りというか)したトニー・スコットも、ハッピーエンドを踏襲する(一応、バッドエンドを含めた2パターン撮影はしたらしい。)。また、クラレンスを演じたクリスチャン・スレーターが、タランティーノにわざわざ頼み込んでやっとゴーサインが出た、という噂もある。

 もちろん、本作の結末変更に関しては、ルスティーグにしろスコットにしろ、真っ向から“商業的理由”を肯定しているわけではない。というか、トニー・スコットなんかは明確に否定している。彼が言うには、「僕はあの二人のキャラクターが好きになってしまって、生きていてほしいと思うようになったのさ。僕ほんとはちょっとロマンティストでね。はは。」ということだそうだ。ほんまかいな?って感じだけれど。

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 このエンディングについては『トゥルー・ロマンス』ファンの間でも賛否分かれるところで、タランティーノ・フリークたちは概ね2人が死ぬラストを支持しているといったところだろうか。筆者もタランティーノの一ファンとして、本作のラストは絶対に2人を殺すべきだったと考えている。もちろん、筆者は何もタランティーノのストーリーテリングを盲信しバッドエンドを望んでいる訳ではない。本作における”映画の因果律”は、間違いなく2人が死ぬラストに向かっていたはずだと思うのである。

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 まず、クラレンスについて。ソニー・千葉のカンフー映画3本立てを観終わったクラレンスとアラバマは、パイを食べながら映画の話をする。ここでクラレンスは、自身が敬愛するエルヴィス・プレスリーが”太く短く生きて散っていった”ということを語る。彼は、このことを冒頭で違う女性にも熱く語っていて、同じ話でも愛想を尽かしてしまう冒頭の女性と楽しそうに聞いてくれるアラバマが対比されるシーンでもある。

 クラレンスはエルヴィスの生き様に強く憧れているが、現実では4年もしがないコミックショップ店員に甘んじているというオタク青年。そんな彼は、運命の女性アラバマと出会い、彼女を守るため自らを奮い立たせる。大した生き甲斐の無かった青年が、愛する女を守るため全ての敵に牙を向き、逃避行を繰り広げる。本作は、エルヴィスという“ヒーロー”に憧れるクラレンスが“ヒーロー”になっていく映画なのである。だからこそ、映画のラストでクラレンスは死ななければならない。エルヴィスが”太く短く生きて散っていった”というフリが、クラレンスが生き残るというハッピーエンドでは完全に殺されてしまっている。

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 また、アラバマについてもラストで死ぬべき映画的な必然性がある。クラレンスとベッドを共にしたアラバマは、夜のデトロイトを見ながら一人涙する。実は、彼女はクラレンスが働くビデオ店の店長が女日照りのクラレンスに誕生日プレゼントとして派遣したコールガールだったのである。しかし、クラレンスを本当に愛してしまったアラバマは、涙ながらに訴える。自分は身も心も汚れたコールガールではない。”愛するたった一人の男に100%尽くす女だ”、と。このアラバマのセリフは作中で印象的に2回繰り返され、彼女がクラレンスと一蓮托生、まさに”運命の女”であることを象徴している。そうだとすれば、彼女もやはりクラレンスと共にラストで死ぬべきだろう。クラレンスが死んでアラバマだけ生き残るラストは考えられない。

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 また”映画の美学”としても、2人はやはり死ぬべきだった。本作のような”バディ・ムービー”、とりわけ俗にいう”主人公2人の逃避行もの”には名作が多い。そして、それらの作品を名作たらしめているのは、なんと言っても2人が最後に死亡するラストシーンである。ブッチとサンダンス、ボニーとクライド、テルマとルイーズ、マーチンとルディは、ラストで死んでいくからこそ美しく、作品は名作となった。犯罪者でありながら、太く短く、そして自由に生き、散っていく。まさにエルヴィスの生き様である。クラレンスとアラバマも最後で死んでいれば、以上のような映画史に残るバディに名を連ねたことだろう。

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 おまけに、トニー・スコットの上手くないところは、ハッピー・エンド用に脚本を手直ししていないという点である。ラストをどうしてもハッピーエンドにしたいなら、エルヴィスへの憧れを述べるクラレンスの台詞に続けて、例えば「でも、彼には生きていて欲しかった。」だとか「“真実の恋”はエルヴィスに勝るけどね」といった台詞を挿入するだけで作品全体のまとまりは随分良くなったはずだ。せめてラストの銃撃戦前にエルヴィスが登場するシーンでは、エルヴィスとの決別を何らかの形で描いておくべきだったのではないだろうか。

点数:92/100点
 以上で述べた通り、ラストは絶対にバッド・エンドにすべきだったが、そこは職人トニー・スコット。クラレンスとアラバマの子供の名前を”エルヴィス”にするなど、中々感動的なフォローを入れており(まぁ、この趣向こそをクソだと思っているファンも多いが。)、ハッピー・エンドもそれはそれでありかなと思わせてくれる(ちなみに、この子供はアラバマを演じたパトリシア・アークエットの実の息子エンツォくんである。)。目もくらむほどロマンティックで目を背けたくなるほど暴力的。”真実の恋”とは何たるかを余すところ無く描ききった名作だ。しかし、やはり筆者としては、今では幻となってしまったタランティーノ・バージョンへの焦がれる恋心を止めることができないのである。

(鑑賞日:2012.3.15)










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Tag:バディ・ムービー お酒のお供に ロードムービー 紫煙をくゆらせて 最高のキス サミュエル・L・ジャクソン

2 Comments

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100%のところのアラバマ可愛ぇ~。なんちゅう声だすんや。

白い粉白い羽ビーチサイドが流れる中での銃撃戦。ロマンスってそういうことなのかな。

公開4年後の1997年、クリスチャンスレーターがヘロイン服用、女性の顔面殴打、ロサンゼルス警察に逮捕された。トゥルーバッドエンドだ。

2012/03/24 (Sat) 16:13 | EDIT | REPLY |   

Mr.Alan Smithee  

Re:

クリスチャン・スレーターめ・・・
全部本作で敵がやってたことやんか・・・。

ラッセル・クロウとかならまだ暴れん坊っぽい風貌やからいいけど、
ちょっと可愛い感じのスレーターがそれはキツイなぁ。

ロマンスって難しいよね。

2012/03/28 (Wed) 01:47 | EDIT | REPLY |   

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