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峰不二子の嘘


キャッチコピー
・英語版:unknown
・日本語版:ヤバいぜ、不二子。

 悪魔(おんな)が来たりて喇叭を鳴らす。

三文あらすじ:峰不二子(声:沢城みゆき)は逃げていた、5億ドルのカギを握る少年ジーン(声:半場友恵)とともに。二人はジーンの父親・ランディを襲った殺し屋ビンカム(声:宮野真守)から一度は逃げ延びるが、遂に拘束されてしまう。ビンカムの鋭利な爪が今、不二子に襲い掛かる・・・


~*~*~*~


 2012年の『峰不二子という女』、2014年の『次元大介の墓標』、2017年の『血煙の石川五ェ門』に続く新生『ルパン三世』シリーズ第4弾。『ルパン三世』TV第一シリーズの放送開始から数えて40周年を記念しスタートしたスピンオフ、いわゆる"LUPIN THE ⅢRD"シリーズは、これまでルパン以外のファミリーを順に取り扱ってきた。だから、本作の噂を聞いたとき、筆者は始めビックリしたのである。待ちわびていたんだ。俺は。『vs 複製人間』のリメイクを。そして、不二子、次元、五ェ門と来たのだから、いよいよ次はルパンのターンだと思っていたんだ。しかし、不二子アゲイン。え?! 不二子はもうやったやん! なんて思ったが、実際に本作を観てみると、案の定ぶちのめされた。

峰不二子の嘘1


 『~という女』は、峰不二子のルーツに迫る誕生譚。『ミスター・ガラス』のイライジャ風に言うと"オリジン・ストーリー"だった。まぁ、厳密には、それは"偽りの誕生譚"であり、またその点こそが素晴らしい作品であった。強いて言うなら、筆者の大好きな"アイデンティティー奪還譚"だったわけである。一方、劇場版として再度、峰不二子にスポットを当てた本作は、一度全てを失った彼女が本当の自分を確認して立ち上がる。…みたいな話ではもちろんない。一見本来の不二子らしからぬ展開をひっくり返すことで逆に彼女のアイデンティティーを浮き彫りにするという手法は同じだが、本作が描くのは、不二子の全盛期。一切の迷いなく、微塵の慈悲もなく、"女"としての圧倒的完璧性を見せつける"不二子完全体"の物語である。

峰不二子の嘘2


 まぁ、コレが凄まじい。キャッチコピーの"ヤバいぜ"は、伊達じゃない。本作の不二子に比べりゃ、雨の午後なんてヤバくもなんともない。まずは、多額の金銭を持ち逃げした会計士の家政婦として登場するという"いつもの不二子感"。お宝がただの金銭というのが、良いよな。リトル・コメットだの、侍としての忠義だの、賢者の石だの、そんなのは、男どもがガキっぽく夢中になっていれば良い。荒野の一軒家は襲撃され、不二子とジーンの逃避行が始まる。『カリ城』以降、ルパンがガキんちょの子守りをする展開はよく見るが(『バイバイ・リバティー危機一髪!』とか。)、不二子のそれは、あまりお目にかからない。では、今回は、そんな設定を通して不二子の"母性"にフォーカスするのか? そんなわけはない。

峰不二子の嘘3


 不二子の嘘、すなわち、彼女の武器である魔性や誘惑や、もっと言えば"女であることそのもの"が、子供であるジーンには通用しない。一方、モーテルの主人と殺し屋ビンカム。この二人の成人男性には、バッチリと効く。つまり、本作は、峰不二子は母親ではなく女だ、と言っており、それすなわち、母親は女ではない、と言っている。ここは、まぁ、一般的な女性観客が激怒すべきポイントであろう。しかしながら、こと『ルパン三世』においては、ご容赦いただきたい。亡きモンキー・パンチ氏が描いたのは、あくまで"男のロマン"だ。女性の"リアル"を描くなら、もちろんジーンとの交流の中で不二子の母性へのフォーカスは必須だろう。しかし、俺たちの"理想の女"は、母親らしく振る舞わない。頭では、そんな女など存在しない、峰不二子という"理想の女"自体がなんだと思いながら、それでも、俺たちは騙される。

峰不二子の嘘4


 かといって、本作はなにも男にとって都合が良いだけの女を描かない。"デビルズ・トランペット"同様、綺麗な花には、毒がある。それは、ちょっと冷たくされる、とか、ちょっと奢らされる、とか、そんな欺瞞的な刺激ではない。常に命の危険を覚悟しながら真剣に相対すべき、劇毒だ。注目は、何と言ってもビンカムとのクライマックス・バトル。呪いのトリックを見破る悪魔的知性。そして、通常のアニメ作品なら俗な欲とは無関係であるべき改造人間キャラすら勃起させる、手加減なきセックス・アピール。一応、不二子は"愛と言う名の媚薬"なんてメイクアップした表現を吐き捨てて去ったが、俺たち男にとって、愛と性欲は必要十分。完全に等価の関係にある。これは、男と女のクラシック『勝手にしやがれ』でムッシュ・パビュレスコが言及していた通りである。

峰不二子の嘘5


 本作は、峰不二子という女を描く上で、しっかりと欺瞞なくエロを強調できているから素晴らしい。確かに、往年の作品のような彼女が全裸になるシーンはない。しかし、今思えば、『死の翼アルバトロス』の全裸着座シーンすら、欺瞞に思える。「あれま。ほ~ぼスッポンポン!」ってルパンは言っていたが(「ほ~ぼスッポンポンのポンっと!」だったかな。)、実は、スッポンポンそれ自体はエロくない。細田守監督は、本来動かないはずの絵が動くということこそ、アニメの原初的な快感だ、と言っていた。その意味で、本作には射精必至の激エロシーンが、物語的にもこれ以上なく適切な場面で二ヶ所登場する。そう、モーテルの主人を誘惑する際のおっぱいのフルフル感。そして、ビンカムにトドメを刺す直前、彼に鷲掴みにされたお尻のムニムニ感である。

峰不二子の嘘6


 もちろん、ビンカムによって絶妙な形に切り刻まれた衣服からチラ見えする乳首にも、我々は興奮する。不二子が転ぶ度、舞う度、「やってる?」って感じでヒラヒラするあのカッティングは、大発明であろう。しかし、より重要なのは、峰不二子という架空の女の実在感であり、肉感だ。触れたい、舐めたい、抱きたい。そう思わせるエロさ。本作は、アニメーションという表現方法を最大限活用することでフルフルやムニムニを強調し、不二子のエロさに説得力を与えている。だからこそ、俗世間と無縁であるべき呪術キャラさえ勃起させてしまうという不二子の"能力"が、説得的になる。そして、我々は、騙される。そんな女なんて現実にはいないのに、彼女に触れたいと心から願う。"嘘"が、実在を得る。

峰不二子の嘘7


 また、不二子とビンカムの戦闘。このときの不二子の攻撃にも注目だ。女特有のしなやかな体技。女特有の美しい舞い。それは、説得的か? 不二子は、ビンカムを刺し殺す。彼にひっつかまれ、普通の物語的アクション・シーンなら行動を掌握され翻弄されるという"てい"の体勢でも、その美しき手で、普通の物語的アクション・シーンなら到底刺す対象部位にはならない頭部を、何度も何度も刺す。不二子は、ビンカムを刺し殺す。普通の物語的大団円なら、殺人マシーンの孤独な魂を救ってやるべき場面で、深く、静かに、その心の臓を貫く。このラスト・スタブは、先述のお尻ムニムニが本当に効いている。刹那的で鮮烈な肉感は、俺たちをもまたビンカムにしてしまう。抱きたい……抱ける! 次の瞬間、そんな愚かな俺たちの純心は、シクシクと鮮血を流している。

峰不二子の嘘8


 全体的な物語構成として特筆すべきは、ルパン三世の無能っぷりであろう。筆者は、中盤辺りまででこう予想していた。大人の男は手玉にとれても、男の子のことは理解できない"女"、峰不二子。しかし、ジーンが父の復讐に固執するのは、彼がガキだからというわけではない。実は、それこそが、"男"であることの象徴だ。できるかは分からない。むしろ、たぶん不可能だ。でも、それでも、俺はやるんだよ。これが"男のロマン"。パイロット・フィルムで言及される通り、峰不二子は"女"である。よって、復讐に固執する小さな"男"を救うのは、彼女ではなく、もう一人の"男"。ジーンからビンカムの殺害を依頼されたにも関わらず一度失敗し、「あ、仕事のできないおじさん。」などと呼ばれた我らがルパン三世は、最後に呪術師を打倒し、"女"と"未来の男"に、"男の生き様"を見せつける…。

峰不二子の嘘9


 もちろん、これだけだともはや不二子の話ではなくなってしまうから、なんか上手いことそこに不二子が絡んでくるのだと思っていた。ルパンが"男の生き様"を体現し、その表裏として"真の女"を提示するのだろう、と。これだから、日がな映画鑑賞とゲームにばかり現(うつつ)を抜かしているボンクラは、ガキなのである。歴戦王ネルギガンテも終わったのだから、外に出て世界を見ろ。もはや、女を語る上で男の存在は不要だ。少なくとも、男のあわせ鏡としての女性像など、古くさい。峰不二子は、必要としない。彼女は、男の存在によって初めて規定されるわけではない。かつて男の世界とされたロマンさえ、もはや彼女の理解の一部だ。巧妙な嘘で大金をせしめ、自身のアイデンティティーを堂々と知らしめる。その上で男の生き様まで体現してみせるのだから。

峰不二子の嘘10


 とはいえ、やはり最後は、疲れ果てた女が男の肩で眠る。この一見、我々オールド・スクールおっさんの溜飲が下りそうな展開までも、実は必ずしもそうとは言えない。「ちょっと…眠ってもいいかしら…。」「あぁ、ゆっくりお休み。」なんつって、満天の荒野で目を閉じるいぶし銀な"男"と"女"。目を覚ましたルパンは、不二子の不在を知る。これは別に良い。なぜかめちゃくちゃスピードの早いエンドロール後、不二子が去った地平を見つめて、ルパンが一言。「まだまだ、忘れられそうにないぜ…。」(うろ覚えです。すいません。) これも良い。まだまだ、"男"の粋、役割、または、存在理由は、消えちゃいない。

峰不二子の嘘11


 我々愚かな男性の存在理由がグラつくのは、この後。暗転したスクリーンに、このようなメッセージが表情される。

モンキー・パンチ先生 ありがとう
ルパン三世よ 永遠に



 誠に胸を打つメッセージである。筆者などは、ルパン三世ファンということに加え、先生と誕生日が同じ(もちろん、年は違うが。)ということでも、非常に感慨深い。しかし、先述のシーンの直後にこのメッセージが出ることで、追悼という概念が遡及される。つまり、ルパンの「ゆっくりお休み。」「忘れられそうにないぜ。」は、故モンキー・パンチ先生へのメタな追悼の役割を担った台詞なのではないか、ということである。そして、そうすると、当該シーンのルパンは、必ずしも"女"と対比した"男"としてそこにいたわけではない、ということになる。少なくとも、100%男が女を救っただけのシーンとは言い切れない、と解釈せざるを得ない。

峰不二子の嘘12


 だからと言って、俺たちはふてくされるのか? 違うな。劇場を後にし、先生の現代では早すぎる死を思い出してもう一度目頭を熱くしたら、全霊を以てうち震えろ。峰不二子という完璧な生命体の誕生に戦慄せよ。それは、神か、それとも悪魔か。彼女はいつか再び我らの眼前に降り立ち、誘惑のラッパを吹くだろう。抗いは無益だ。俺たちは、いつもそうだった。その調べが悪魔の囁きだと知りながら、しかし、ハーメルンに誘われる稚児のように、我が無垢で哀れな魂をギンギンにそそり立ててしまうのである。

点数:89/100点
 まぁ、「あの花が呪いの理屈なんやったら、あの木の実は何よ、木の実は。」なんて突っ込みどころもありますが…。とにかく、いまだかつて、これほどまでに峰不二子の完璧性を打ち出した作品はなかったと思う。しかし、これはむしろ、ルパン三世のアイデンティティー奪還譚をやるためのお膳立て、とは言えないかな? ルパンが体現し続けてきた"男の生き様"は、本作において何の役にも立たなかった。やはり、"映え"こそ正義の現代社会では、男の存在理由など無くなってしまったのだろうか。いいや、見せてくれよ。深層心理を洗われてなお"とっちゃん坊や"を圧倒した、あの生き様を。そしたら、俺たちはキンタマをにぎにぎし、自前の短小なラッパをパフパフ鳴らして応援するからさ。

<おまけ>
 鑑賞特典としてもらえるドレスアップ不二子のポストカード。サングラスに煙草。これはやっぱりモア・メンソールなのかな。クールである。

峰不二子の嘘13


 そういや、本作でルパンは、ジタン・カポラルではなくKOOLを吸っていたよな。なぜだろう。ま、それはいいとして、本当に『vs 複製人間』のリメイク、やってくれないかなぁ。ヤエル奥崎は左手をメカメカしい義手に改造していたから、前々作の彼と同一人物なんだと思うけど、ホークの腕は健在じゃなかった? ここはちょっと見間違いの可能性も高いが、もしそうだったとしたら、あれじゃない? クローンじゃない? まぁ、あと一本、銭形の物語を挟んでもいいけどさ。キャッチコピー的にも、"さらば、次元""未熟なり、五ェ門""ヤバいぜ、不二子"と来て、満を持しての"俺の名は、ルパン三世"。これでしょう! チャンネル…もとい、キャッチコピーは、決まったぜ!

(鑑賞日[初]:2019.5.31)
(劇場:梅田ブルク7)

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Posted byMr.Alan Smithee

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