[No.62] テルマ&ルイーズ(Thelma & Louise) <92点>

Thelma  Louise



キャッチコピー:『Somebody said get a life…So they did.』

 良質のロードムービーは、いつだって砂漠が舞台だ。

三文あらすじ:テルマ(ジーナ・デイヴィス)とルイーズ(スーザン・サランドン)(Thelma & Louise)の親友2人は、週末を山荘で過ごすため車の旅に出る。しかし、道中立ち寄ったバーで出会った男性ハーラン(ティモシー・カーハート)がテルマをレイプしようとし、これを助けるためにルイーズはハーランを銃殺してしまう。ハル・スローコム警部(ハーヴェイ・カイテル)らの捜査の手を逃れるためメキシコを目指す2人は、逃避行の中で本当の自分を見つけていく・・・


~*~*~*~

 
 英語版キャッチコピーの”get a life”とは”いい加減にしろ”とか”しっかりしろ”といった意味のイディオム。これを文字通り”人生を掴む”という風に捉え、”so they did.”で受けているのだと思われる。掛詞で本作のテーマをオシャレに端的に表現した名キャッチコピー。

 監督のリドリー・スコット『エイリアン』や『ブレードランナー』といったカルトSFのマスターピースを世に送り出した巨匠であると同時に、アカデミー賞に輝いた『グラディエーター』などの重厚な人間ドラマもがっつり描ける素晴らしい映画人である。本作『テルマ&ルイーズ』も2人の女性のドラマを美しく勇敢に描ききった良質のロードムービーだ。

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 本作のテーマは、”女性の男性からの解放”である。まず、テルマは、さだまさし顔負けの亭主関白な夫ダリル(クリストファー・マクドナルド)に束縛される日々を送っている。一方のルイーズは、詳細こそ劇中では語られないものの、どうやらテキサスで男性にレイプされた過去を持っており、それが心に深い傷を残している。2人はそれぞれ”男”という呪縛に囚われた人生を送っているのである。

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 とはいえ、2人のキャラはとても対照的。ふりふりドレスのような服を着て髪もばっちりセットした世間知らずのお嬢様風のテルマと、露出の少ない服を好みタバコを吸いハキハキ話し行動する男勝りなルイーズ。本作のトラブルは、だいたい脳天気なテルマの挙動によって引き起こされている。

 まず、2人が逃避行する原因となるハーラン殺害は、レイプされそうになったテルマを助けようとしたルイーズが発砲したため起こったことなのだが、ルイーズの忠告も聞かずスケコマシのハーランとチャラチャラ仲良くしていたのは他でもないテルマ。”誘った女も悪い”などと前時代的なことを言うつもりは毛頭ないが、単にそんなテルマを助けるためだけにルイーズが殺人を犯してしまうというのでは、物語上バランスが悪い。

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 しかし、アカデミー賞で脚本賞を受賞しているだけあって、本作は本当に脚本がきめ細やかで素晴らしい。ルイーズは、ハーランに銃を突きつけるだけでテルマ救出を達成する。ところが、それでも卑猥な言葉を吐き続けるハーランに業を煮やし発砲してしまうのである。ここには、ルイーズの過去のトラウマが介在している。したがって、逃避行の原因はテルマにもルイーズにもあると言えるし、何よりもはや正当防衛とは言えない殺害行為が2人の逃避行のしっかりした動機になっている。

 また、中盤登場するハンサムボーイ、J.D.(ブラッド・ピット)。徐々に本当の自分を解放し始めたテルマは、若くてイケメンな彼にもすぐ心を許してしまう。あんなことがあったばっかりやのに…。昼下がりの団地妻か!しかも、目を離した隙にルイーズから預けられた全財産を盗られてしまうという体たらく。やっぱり人を殺してしまったルイーズとトントンぐらいテルマも悪い!ナイス・バランスである。

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 ちなみに、今やハリウッドの大スターにしてイケメンの代名詞ともなったブラッド・ピットは、本作がデビュー作。初作品にして、ただイケメンというだけではない味のある演技で楽しませてくれる。

 しかし、我等がテルマは、単なる淫乱熟女ではない。ブラピとの一夜で初めてセックスの楽しさを知った彼女は、ここから本格的に覚醒する。頼みの綱である現金を全て失い、柄にもなく泣きじゃくるルイーズ。そんな彼女を普段とは逆に叱咤激励するテルマ。この転換がおもしろい。そして、テルマは、強盗の前科があるJ.D.に聞いた通りの方法でグロッサリーストアーの強盗を成功させるのである。テルマ格好いいぞ!

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 2人の逃避行、砂漠にオープンカーとくれば、強盗をしないのはウソだ。おまけにこの一件でテルマが指名手配され、なし崩し的に始まった逃避行にも真実みが帯びてくる。

 このように自分を解放していくテルマに対して、ルイーズの解放は”過去のトラウマとの決別”である。つまりそれは、レイプされた過去を乗り越え、本当に愛する男性を見つけるということ。この男性として登場するのが、筆者のフェイバリットアクター、マイケル・マドセンだ。

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 彼が演じるジミーはルイーズの恋人で彼女にぞっこん。理由を聞かず現金を貸してちょうだい、という彼女の頼みを聞いてあげるナイス・ガイである。逃避行の途中、ルイーズに会いに来るジミー。彼は、そこで彼女にプロポーズする。始めの内こそ頑なに別れを主張していたルイーズも、やはり”ナイス・ガイ・ジミー"への本当の愛を再確認することに。彼女が別れ際、指輪を受け取ったと言うことは、そういうことだと信じたい。

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 それにしても、マイケル・マドセンは、砂漠とかモーテルとかトレーラーとか、そんな”テキサス的な”風景が良く似合う。

 さて、順調に自分を解放していくテルマ&ルイーズは、自分たちを束縛する存在を次々と淘汰していく。まず、火ぶたを切って落とすのは、関白亭主ダリルに対し、テルマが電話口で放つ「くたばっちまえ!」。さらに、スピード違反で停車を求めてきた警察官をトランクに閉じ込め、自分たちにゲスで失礼な態度をとるトラック運転手のトラックを大爆発させる。爽快なる女の逆襲。ストーリーもアクセル全開、怒濤のクライマックスへ突入する。

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 ちなみに、警察官を閉じ込めるシークエンスの前、夜道を行くルイーズは砂漠の真ん中で車を停め、寝ているテルマを残して一人降車、明け方の夜空を見上げて不安げな表情を浮かべる。このシーンには特に説明がなく、解釈はそれぞれに分かれるところだろう。筆者としては、少々月並みに、ふと自分たちの将来に不安を感じたルイーズの心境を表したシーンだと解釈している。周囲にそびえ立つ巨大な岩山は、ダリル、警察官、トラック運転手などと同様”男性”のメタファーではないだろうか。

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 そんな2人もついに多数の警察に包囲される。場所は、グランド・キャニオン。前方は崖、後方には無数のパトカーと2人を狙う狙撃手たち、そしてヘリで駆けつけたハル・スローコム警部。警部を演じるハーヴェイ・カイテルもマイケル・マドセン同様砂漠が良く似合う。『フロム・ダスク・ティル・ドーン』という作品も是非チェックしてみて欲しい。

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 絶体絶命の2人。何か策は無いかと必死に考えるルイーズにテルマは言う。それは、目が覚めるほど美しく、心が燃え上がるほどに勇敢で、そして、どこまでも果てしなく自由な“女の決断”である。

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「Let's Keep Going.」
(このまま行って。)


 彼女たちは捕まるわけにはいかない。それは、せっかく獲得した自由の喪失であり、男への敗北だ。ルイーズが戸惑うのは一瞬。恐怖の中にも安堵と勇気をたたえた表情で2人はキスを交わす。2人を救おうとスローコム警部が走り出した刹那、車はエンジンをうならせ走り出す。そして、遙かに続く峡谷へ飛び出す車を捉え、終幕。

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 その後、次々と映し出される2人の旅の回想シーンがまた泣ける。この熱いシーンを盛り上げるハンス・ジマーの音楽がこれまた素晴らしい!…と、このような紆余曲折の末、美しく勇敢なテルマとルイーズの決断は、彼女たちに真の自由をもたらしたのだった…

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 …のか? いや確かに、あの最後の局面においては、2人にとって“死”が男性の呪縛から逃れる唯一の方法だったのかもしれない。しかし、映画的に俯瞰で見てみると、彼女らの死は、もはやこの世界に女性が男性から自由に暮らす術など無いということを表しているように思える。逃避行の果てに死を選ぶことは、勝利ではなく敗北だったのではないだろうか…?

 ラストシークエンスより1つ前のカーチェイスにおいて、2人を追う女性の警察官に注目してほしい。それまで2人を追い詰める者として描かれていたのは、ダリルだったりハーランだったりJ.D.だったりトラック運転手だったり多くの男性警察官だったりと、徹底して“男”であった。しかし、上記カーチェイスシーンでは、テルマとルイーズの“敵”としての女性が登場しているのである。また、思い起こせば、これとは逆に、スローコム警部やジミーのような彼女らの"味方"としての男性も存在している。

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 男 vs 女とか、そんな構図では無かったのではないか。男性とか女性とか、そんなことは関係無かったのではないか。純粋に2人の“人間”として、美しく勇敢な“テルマ&ルイーズ”として、世界と戦っていく術もあったのではないだろうか。

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 そんな風に考えると、2人が逮捕されながらも強く生きていく展開を観てみたかったような気もする。まぁ、とはいえ、格好良さや後味の何とも言えないすがすがしさでは、本作のラストが唯一の正解なのであって、結局筆者は、2人の決断を心から支持している。

点数:92/100点
 以上では触れなかったが、2人が旅する砂漠の風景も本作の見所の一つ。美しく勇敢で壮大、そして限りなく自由な世界は、まるでテルマとルイーズのようだ。いつかルート66を横断してみたい。

(鑑賞日:2012.3.21)

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Comment

  • ピッコロ
  • URL

テーマは男性からの開放なんですね。
なるほど、そう思って振り返ると、トラック野郎との絡みもそのテーマのライン上にありますね。

1度目は「トラック運転手は模範ドライバーなのね」と世間知らずのお嬢様。
2度目はちょっと振り返るけど無視の姿勢。
3度目はタンクに銃弾をぶち込む。
開放というか、大爆発です。

場所が荒野の一本道というのが良いです。いいですよね、ルート66。

  • Mr.Alan Smithee
  • URL
Re:

表現の仕方は種々あると思いますが”男性からの解放”、これです!

ルート66行きましょう♪

  • URL

スゴーイ、造詣が深くていらっしゃるんですねー

  • Mr. Alan Smithee
  • URL
Re: タイトルなし

ありがとうございますv-7

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