[No.65] キル・ビル Vol.2 ザ・ラブ・ストーリー(Kill Bill Vol.2) <98点>

Kill Bill Vol.2



キャッチコピー:『Kill Is Love』

 人間が復讐心から解放されること、これがわたしにとって最高の希望への橋であり、長期の悪天候のあとの虹である。

三文あらすじ:トゥー・パインズ教会の惨殺から生還し、お腹の赤ちゃんもろとも自分を殺そうとした暗殺集団デッドリー・バイパースのメンバー及びそのボスであるビル(デビッド・キャラダイン)を殺す(Kill Bill)ため、復讐の旅路を行く元同暗殺集団メンバー”ブラック・マンバ”、”ザ・ブライド”ことベアトリクス・キドー(ユマ・サーマン)。舞台をテキサスに移した彼女は、”サイドワインダー”バド(マイケル・マドセン)、そして”カリフォルニア・マウンテン・スネーク”エル・ドライバー(ダリル・ハンナ)と対峙する。困難を乗り越え遂に宿敵ビルの下へと辿り着くキドーだったが、そこで我が娘が生きているという衝撃の事実を知ることに・・・


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 まずは、日本の宣伝スタンスがやや不満。サブタイトルに“ザ・ラブストーリー”なんていうトンチンカンなフレーズをくっ付けたりして、全面的に“恋愛映画感”を強調している。任侠映画やカンフー映画の色が強かった前作のイメージから女性客が敬遠することを恐れたのかもしれないが、本作はいわゆる恋愛映画とはちょっと違う。親子愛という意味での”Love”であれば、まだ得心がいくのだが。

 さて、まずは、オープニング。ビルの下へ車を走らせるキドーの一人語りで物語は幕を開ける。一通り前作で復讐してきたことを喋り、最後に、

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「I Am Gonna Kill…Bill.」


 画面いっぱいにせり上がってくる「Vol.2」とのタイトル。素晴らしく格好いいオープニングだ。どこか『ジョーズ』っぽい不協和音仕立ての音楽もグッド。『Kill Bill』という表記は登場しない。本作は、あくまでも前作と併せて一つの作品だからなのだろうか。あるいは、何かのオマージュだった気もするな。

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 とはいえ、Vol.1とVol.2では作品のテイストが随分違う。前作が任侠映画・カンフー映画テイストだったのに対して、本作のテイストは”西部劇”だ。物語の舞台は、日本からテキサスへ。『トレマーズ』しかり『テルマ&ルイーズ』しかり、テキサスの砂漠が舞台の映画は良作が多い。そんなテキサスの中でも本作で描かれるのは、おなじみ”エル・パソ”

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 この”エル・パソ”という土地は『フロム・ダスク・ティル・ドーン』におけるフラー一家の目的地であり、『トゥルー・ロマンス』で真実の恋が辿り着く場所。確か『プラネット・テラー』で人類最後の砦となる場所もエル・パソだったはずだ。この3作はタランティーノが監督したものではないのだが、『フロム・ダスク~』と『プラネット~』は、タランティーノと互いに”兄弟”と呼び合うほどの盟友ロバート・ロドリゲスが監督し、タランティーノ自身も両作に出演している。また、『トゥルー・ロマンス』はタランティーノが脚本を書いており、とかくタランティーノがらみの作品には、エル・パソがよく登場する。本作以外のタランティーノ作品にも会話の中でよく登場する頻出の地名だ。なんでも、タランティーノが自身のお気に入り映画と公言する『ローリング・サンダー』の劇中にこのエル・パソが登場するらしい。筆者も是非一度鑑賞してみようと思う。

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 ちなみに、タランティーノが設立した配給会社は上記作品にちなんで「ローリング・サンダー・ピクチャーズ」という。さらにちなみに、前作Vol.1でキドーに唾を吐きかけられるテキサスレンジャー、アール・マクグロー(マイケル・パークス)は『プラネット・テラー』及び『フロム・ダスク・ティル・ドーン』にも登場しており、前者では活躍するものの、後者ではタランティーノ演じるリッチー・ゲッコーによってアヴァンタイトルで殺されてしまう。

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 さて、本作で描かれる最初のチャプターは”第6章 『トゥー・パインズ教会の惨殺』”。雰囲気ある砂漠の教会での大人の恋の会話が白黒映像で綴られる。ここで特筆すべきは、やはり我らがサミュエル・L・ジャクソンのカメオ出演だろう。ほとんど顔が映らず、台詞も少ないオルガン奏者役ながら、いつも通り極めて粋で渋い存在感。結婚式には『ラブ・ミー・テンダー』を流そうと思わせてくれる。

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 続いては”第7章 『ポーラ・シュルツの寂しき墓』”。ここはなんと言ってもマイケル・マドセンがやはり素晴らしい。暗殺業を引退し、しがないバーの用心棒をしているバドの哀愁と疲労をたたえた、実に味のある演技。この雰囲気は、どこかブルース・ウィリスに近いものがある。

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 バドのキャラクター造形がまた良い。キドーをリンチした4人の殺し屋のうち、そのことを心から悔い、自らの死を覚悟しているのはバド1人。それでいて、ただ死を待つばかりではなく、一時的にとはいえ、最強の暗殺者”ブラック・マンバ”を倒したのもまた彼1人である。さらにそれでいて、金にがめつい姑息な一面も持ち合わせているところが渋い。結局、そのがめつさのせいで彼は命を落とすのだが、4人の殺し屋のうちキドーの手で殺されなかったのもバドただ1人だ。

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 バドに岩塩弾を撃ち込まれ、棺に入れられたまま生き埋めにされてしまうキドーが、恩師パイ・メイとの修行を回想するシークエンス、”第8章 『パイ・メイの猛修行』”。カンフー好きにとっては相当楽しめるシークエンスになっているし、後の展開への伏線が2つも仕込まれた重要なシークエンスだ。ただ、予定通りタランティーノにパイ・メイを演じて欲しかったところではある。

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 回想が終わり、棺の中のキドー。1つ目の伏線がここで披露される。パイ・メイとの猛修行により7cm前の分厚い板を拳で貫通する技を体得していたキドーは、閉所のパニックから立ち直り、慎重に棺の天井を叩きながら砕きやすい箇所を探し始める。あ!7cm前の板砕く技あったんや!筆者が鈍感なだけかもしれないが、パイ・メイのトリッキーなキャラが印象的すぎたため、この段に至って初めて気付いたという人もいるのではないか。いないか。

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「パイ・メイ先生…行きます。(Here I Come.)」


 熱い展開!実はこの時既にパイ・メイはエル・ドライバーによって毒殺されているから、墓に埋められたキドーは、その言葉と裏腹に恩師の下から遠ざかっているのだが、そんな野暮な突っ込みを叩き潰すほどの魂の震えが、このシーンにはある。

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 パイ・メイの教えに助けられ、墓から脱出したキドーは、バドのトレーラーハウスで宿敵エル・ドライバーと対峙する。”第9章『エルと私』”だ。キドーをリンチした4人の殺し屋のうち、エルはバドとは違う意味で”特別”である。キドーはビルの元恋人であり、エルもまたビルの寵愛を受けている様子。すなわち、この戦いはキドーにとって4年前の復讐であると同時に、文字通り”女同士の真剣勝負”でもある。

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 本シリーズにおいては、女同士の戦いがとにかく激しい。対オーレン戦は言うまでもなく大立ち回りだし、対ヴァニータ戦は一軒家のリビングとキッチンで大暴れ。そして、この対エル戦もバドのトレーラーハウス中で所狭しと展開される。対するビルとの戦いは実に静かな決闘だし、バドに至ってはキドーとバトルらしいバトルをしていない。やっぱり女は恐いのである。そんな訳で、キドーVSエルの壮絶なバトルが始まるのだが、エルが敵意むき出しなのとは対照的に、キドーはどこかエルを哀れんでいる様子である。。これは重要なポイント。キドーはビルに対して既に失望しており、そんな男に未だぞっこんなエルに少し見下しにも似た感情を抱いているのかもしれない。このキドーの気持ちが、エルにとどめを刺さなかった原因ではないだろうか。

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 そして、いよいよキドーはビルの下へ。”最終章 『対決』”。ビルを殺すため2作に渡って続いてきたキドーの旅は、遂に目的地へと辿り着く。いったいどんな激しい戦いが展開されるのか。という観客の期待を、タランティーノは本作でも見事に”スカす”。

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 ビルのホテルにキドーが飛び込むと、そこには死んだとばかり思っていた娘の姿が。いっきに「お母さんといっしょ」的なほんわかした時間がスクリーンを包む。娘が寝るまで添い寝して、キドーはビルの待つリビングへ。ここからは、子供を寝かしつけてからの大人のトーク。ビルが言及したとおり、2人は普通の夫婦のようだ。ちなみに、このときリビングのテレビに映っているのは、テレビドラマ版の『シェーン』。この点からも本作のテイストが”西部劇”であることが伺える。ちなみに、このテレビ版『シェーン』で主役を演じたのがビルを演じるデビッド・キャラダインだ。また、ラストで背を向け去っていくシェーンの姿は、背を向け5歩歩いたところで絶命したビルの姿にオーバーラップする。

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 この後はビルの”スーパーマン談義”が素晴らしい。さらに、このシークエンスで印象的なのは、ビルが戯れに放った銃弾がテーブル上のフルーツを炸裂させ、飛沫がキドーに飛び散るシーン。血みどろになったり泥まみれになったりと、本シリーズを通してとにかくキドーは始終ドロドロに汚れている。加えてこの不必要な果汁まみれのシーン。愛しい者を汚したいというタランティーノの変態趣味だろうか。

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 キドーが妊娠を知った時のエピソードを挟んで、遂に最終対決。庭のテーブルを挟んで2人は向かい合い座っている。しっとりした大人の会話からおもむろに始まる、座ったままのトリッキーな立ち合い、いや、座り合いと言うのか。キドーの刀が飛び、ビルの刀が封じられ、最後の一手は”五点掌爆心拳”!パイ・メイの究極奥義であり、ビルでさえも伝授してもらうことのできなかった”ファイブ・ポイント・パーム・エクスプローディング・ハート・テクニック”を、なんとキドーは授けられていたのである。これが第8章における2つ目の伏線。ベタベタなカンフー映画の展開だが、ベタなだけに胸を熱くする。きちんと襟を正し、落ち着き払って回頭、堂々と5歩歩き絶命するビル。なんと格好いい死に様だろう。ホテルで自慰行為中に死亡したデビッド・キャラダインが演じているとは思えないいぶし銀な最期である。

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 ビルを殺すという目的を達成したキドーは、娘を連れてホテルを後にする。翌朝、モーテルの一室が映し出され、娘はベッドでテレビ鑑賞、キドーはバスルームでライオンのぬいぐるみを抱き”サンキュー”と言いながら涙を流しているというシーン。これはなんだか突拍子もないシーンであり、いささか意味深である。キドーは一体、誰に対して感謝しているのだろう。

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 素直に考えるならに対して、あるいは、かつて愛した男でありながら殺したいほど憎んだビルに対して、ということになるだろうか。感謝の内容は、どちらにしても娘が生きていたということだろう。キドーがライオンのぬいぐるみを抱いており、終幕後”親娘ライオンが出会い、ジャングルに平和が戻った”という趣旨の一説が『ライオンキング』から引用されているので、この点はほぼ間違いないと思われる。

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 やはり問題は、誰に対する感謝かという点。神かビルか。この点に関してヒントになりそうなのは、アニメ番組『ヘッケルとジャッケル』だ。カササギが主人公のこの番組では、特に「カササギは役に立つ鳥です。殺さないように。」等、カササギを褒め称える台詞が繰り返し強調される。カササギは”泥棒”の暗喩として有名な鳥であり、本作においては、お腹の中の子供を連れて逃げたキドーか生まれた子供を隠していたビルのどちらかのメタファーなのではないか。そうすると、キドーの感謝の相手方は、前者なら自らの運命を司る神、後者なら子供をしっかり育ててくれたビルとなりそうだ。

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 バスルームからキドーが出てくるとき、アニメの中のカササギは人間の頭を巨大なハンマーで殴りつけているが、このシーンから判断して、カササギはキドーの頭を撃ったビルであり、彼女が感謝するのもビルが子供を守ってくれたことについてであると筆者は考えている。あれ、じゃあ、本作はやっぱり"恋愛映画"ってことでいいのか。

点数:98/100点
 前作Vol.1に辟易とした人にも是非鑑賞して欲しい大傑作。2014年公開とされているVol.3が今から待ち遠しい。

 余談だが、洋画をパロったタイトルの洋モノAVがビデオ屋の普通の映画コーナーに何食わぬ顔で置かれていることがある。筆者は、かなり昔に本シリーズをパロったもののジャケットを見たことがあるのだが、そのタイトルは『チク・ビル』。もはや単語として何の要領も得なくなっている非常におもしろいタイトルだ。これを始め、ディカプリオ主演『ザ・ビーチ』のパロディ『ザ・ビーチク』など、乳首をテーマにしたパロディ・タイトルには秀作が多い。

(鑑賞日:2012.3.24)

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