[No.67] イングロリアス・バスターズ(Inglourious Basterds) <89点>

Inglourious Basterds



キャッチコピー:『悪名こそ、彼らの名誉<グロリアス>。』

 映画は“正義”だ。

三文あらすじ:1941年、ナチス・ドイツ占領下のフランス、”ユダヤ・ハンター”ことハンス・ランダ親衛隊大佐( クリストフ・ヴァルツ)に家族を惨殺されたショシャナ・ドレフュス(メラニー・ロラン)は、なんとか逃げ延びたものの独り身になってしまう。正体を隠し映画館主として暮らす彼女は、数年後のある日、ヒトラーを含めたナチス高官が一同に出席するナチス宣伝映画のプレミア上映会が自身の映画館で開催されることを知り、復讐のため出席者もろとも映画館を燃やすことを決意する。同じ頃、アルド・レイン中尉(ブラッド・ピット)を隊長としてナチス兵を次々に狩る特殊部隊”イングロリアス・バスターズ(Inglourious Basterds)”もまた、ナチス高官を亡き者にするため、上映会場を爆破する”プレミア作戦”を計画していた・・・


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 予告編、かっこいいね!キャッチコピーもまぁまぁ悪くない。ポスターはキャラクターごとに存在するが、ここは本作の真のヒロイン、エマニュエル・ミミューことショシャナ・ドレフュスを演じるメラニー・ロランのものをチョイス。可愛い!

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 さて、本作は、タランティーノが『キル・ビル』撮影前からスクリプトを制作し始めていた作品であり、彼曰く”自身の最高傑作”らしい。劇中でも、ラストでブラピ演じるアルド・レイン中尉が「これは、俺の最高傑作だぜ。」と発言する。もっとも、”最高傑作”とは幾分多義的な言葉であるから、本作がタランティーノ作品中、どのような意味における最高傑作であるかは観る者によって評価が異なるだろう。筆者としては、単純に”おもしろい”という意味での彼の最高傑作は、やはり『パルプ・フィション』、”集大成”という意味での彼の最高傑作は、やはりVol.1Vol.2を合わせての『キル・ビル』だと考えている。

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 もっとも、本作もまたタランティーノの"最高傑作"と銘打つべき作品。まぁ、つまるところ彼のファンにとっては全ての作品が"最高傑作"なのだが(そして、そんな監督は極めて希有だということをあえて付言しておく。)、個人的に本作に関しては、クエンティン・タランティーノという"世界一有名な映画オタク"がその使命を全うした、という意味において、彼のベスト・ワークだと思う。

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 彼は、かつてインタビューでこんなことを言っていた。「ユダヤ人は、ナチスが彼らにした非道な行いについて、もっと怒るべきだ。」ナチスの残虐性やホロコーストの悲惨さを描く映画の多くは、残虐性や悲惨さの伝達に終始する。その手のジャンルで最も有名であろう『シンドラーのリスト』も、一部ではこんなに心暖まる話がありました、よかったね、ってなもんだ。しかし、タランティーノは、それを許さない。

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 やられたらやり返す、それがタランティーノの流儀だ。もちろん、現実の私生活において、彼がすぐさま他人に襲いかかるなんてことはない。白人至上主義者の団体にテロをしかけることもないだろう。しかし、映画の中でなら、復讐は立派な正義として成立する。彼が大好きなブラック・エクスプロイテーション映画や日本の任侠映画、あるいは、カンフー映画なんかには、"リベンジもの"という定型のプロットが存在している。

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 だから彼は、それをナチスに対してやってやったんだ。現在現実に起こっているテロや色んな争いの場には、実際に戦っている人たちがいる。でも、既に"歴史"となってしまったナチスの悪行に対して、ユダヤ人はどうやって復讐すればいい?タイムマシンが発明されていない現状、そんなことは不可能に思える。過去の亡霊と戦うための武器を我々は持っていないじゃないか。……本当にそうだろうか?武器はここにある。そう、"映画"だ。

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 ちゃんちゃら!と嘲笑されるかもしれない。当たり前じゃんか!フィクションならなんだってできるさ!と。でもな、それは映画の力を、物語の力を軽視した意見だ。もちろん、映画で歴史がくつがえるわけじゃないし、世界が変わるわけでもない。そんなこと、タランティーノは望んでもいないだろう。映画は所詮ただの"エンターテイメント"だ。ほんのわずかな時間だけ人々を楽しませ、ほんのたまに人々の心に残る。でも、タランティーノは、映画を信じている。人類が産み出した最高の発明の一つのであり、人々の夢を実現する唯一の装置であり、己の血肉であり魂であると、心の底から信じている。そんな人にとって、映画は紛れもない正義であり、武力なんだ。

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 だから、本作では、映画がヒトラーを殺す。それは、この『イングロリアス・バスターズ』という物語内でヒトラーが殺されたという意味においてもそうだし、映画館に閉じ込められたヒトラーが殺されるというより具体的な展開においてもそうだ。ショシャナの映画館のスクリーン背後に山と積まれたフィルムが点火される際、スクリーンいっぱいにショシャナの不敵な笑顔が大写しにされ、館内に彼女の不気味な笑い声が高らかに響き渡るのは、“映画という絶対的な正義”が“ヒトラーという絶対的な悪”を打倒したということの象徴である。

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 ここで大事なのは、やはり映画を絶対的正義として信じている者が本作を作ったという点だと筆者は思う。それは、つまり端的に言ってしまえば、“映画オタク”が監督した、ということだ。上の方でやいのやいのと書いたはいいものの、結局のところ、映画は現実への干渉力を持たない。だから、映画によってナチスへの復讐が完遂されたのだ!なんていう作品を嬉しそうに作ったところで、へぇ…それ何の意味があるん?と言われてしまうだろう。しかし、タランティーノが作ったとなると、話はまた別だ。当たり前のことだが、世間に名を知られている数多の映画監督たちは、みな大なり小なり映画好きである。特に、マーティン・スコセッシなんかはもはや“映画学者”と言ってもいいだろう。でも、そんな監督たちの中でもタランティーノは飛びぬけて特殊。なぜなら、彼は、“映画オタク”だからである。つまり、映画以外には何もできないボンクラ、映画がないと生きていけないマヌケ、映画にしか興味のないトンマ、映画が好きで好きでたまらない無邪気なガキンチョ。我々と同類の、そんな人種である。だから、本作のヒトラー殺害は、心底不謹慎にはならない。誰しもが、あぁ、きっとタランティーノは、映画がナチスに復讐するっていう物語の“意味”を本当に信じているのだろうなぁ、と思えるからだ。おそらく、他のどの監督がやってもここまでの説得力は出せなかっただろう。そういった意味で、やはり筆者は、本作がタランティーノの使命を全うした傑作だと思っているのである。

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 とはいえ、ナチス妥当という事象をいざ映画作品として成立させるとなると、それは並大抵の難業ではない。ただでさえ、“ユダヤ人のためにホロコーストを茶化すなんて、最低のゲス野郎だわ!不謹慎よ!”とがなり立てる輩がいるのだから、それなりの完成度、くらいに収まってしまえば、たちどころに世間の非難が集中するだろう。しかしながら、本作を既にご覧になった方はご承知の通り、タランティーノは、その離れ業をやってのけた。本作は、彼が“最高傑作”と豪語することもさもありなんと思えるほどの圧倒的な完成度を誇っている。

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 まぁ、本作の巧いところというのは無数にあって、かつ、映画知識に乏しい筆者には到底解説し切れるものではないのだが、まず、目を見張るのは、執筆に何年も掛かったという脚本の巧さであろう。大まかなプロットは、ナチスを恨むショシャナ、ハンス・ランダを始めとするナチス勢力、そしてナチスの崩壊を目論むバスターズによる三つどもえの物語。このような三つどもえ四つどもえのストーリーというのは、過去に例えば『ジャッキー・ブラウン』などがあった。しかし、ハナから関係者ばかりが集っていた『ジャッキー~』に比べ、本来交わるはずのない者たちの運命がしがない映画館に集結するという本作のプロットの方が、単純に良く出来ていると思える。

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 特筆すべきは、”一つの見せ場がちゃんと次の見せ場に繋がっている”という脚本の合理性。例えば、バスターズのうち3名とスパイであるドイツ人女優ブリジット・フォン・ハマーシュマルク(ダイアン・クルーガー)が地下のバーで密会するシーン。ドイツ兵は居ないとばかり思っていたところ、仲間の出産祝いで兵隊が宴会をしており、さらに奥から一人で飲んでいた軍の高官が出現する。これは、バスターズの正体がバレるかどうかという極めて緊迫したサスペンス・ギミックでもあり、タランティーノ特有の会話シーンをまるでアクションのように見せる演出が光る素晴らしいシーンでもある。ちなみに、本作ではもう一か所同種のシーンがある。それは、冒頭でランダが農夫の匿うユダヤ人一家を発見せんとするシーン。ここも素晴らしい緊迫感である。要は、これまでの(そして、本作以降の)全てのタランティーノ作品に通底する“しゃべりで勝った者がその場を掌握する”の原理が本作でも機能しているということ。タランティーノ映画で人が死ぬとき、大抵は、その前のおしゃべりの段階で既に運命が決まっているのである。

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 さて、指で表示する”3”のやり方を間違えたことで結局正体がバレてしまうバスターズの3名。ここからは、怒濤の銃撃戦。白熱した実弾のアクションで楽しませてくれる。これだけでも十分このシークエンスには価値があるのだが、その真の価値は”ドイツ語を喋ることのできるバスターズが全滅してしまう”ということ。これによって、ドイツ語が全く喋れないアルド中尉ら残りのバスターズがプレミア会場に赴かなければならなくなり、切れ者親衛隊大佐ハンス・ランダとの冷や汗ものの会話シーンという次の見せ場が生まれるのである。しかも、まず、ちゃんとドイツ語を話すことができる真っ当なスパイと切れ者ドイツ軍将校とのハイ・レベルな会話の駆け引きをじっくりと見せ、その後でドイツ語なんてさらさら話せないアルド中尉と先ほどのドイツ軍将校以上の圧倒的な切れ者具合を冒頭で見せ付けたランダ大尉の二人を全く同じ会話の駆け引きで対決させるというのは、なかなか大胆かつ巧い構成ではないだろうか。つまり、え、さっきのあいつらでさえバレたんやから、絶対バレるやん。どーすんの?!という引きが生まれるというわけである。

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 さらに、もう一つ、本作を圧倒的完成度にまで引き上げている大きな要因が、クリストフ・ヴァルツの発見であろう。彼の演技は本当に素晴らしい。先ほど言及したように、彼は映画冒頭から登場。過剰に仰々しく、卓越した切れ者のハンス。彼が心優しい農夫のおじさんを徐々に徐々にネチネチと追い詰めていく様は、手に汗握る名シーンだ。その他のシーンでもクリストフ・ヴァルツは、英語、ドイツ語、フランス語、果てはイタリア語まで披露する大活躍。本当にスゴイ。そんな彼の名演は当然のことながら世界中で評価され、第82回アカデミー賞、第62回カンヌ国際映画祭、ゴールデングローブ賞、英国アカデミー賞などなど、名だたる賞で助演男優賞を総なめにした。こんなにいい俳優が本作までほとんど無名だったなんて、ショウビズ界とは厳しいところである。

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 その他、キャスト面で素晴らしいのは、ヒロイン、ショシャナ・ドレフュスを演じるメラニー・ロラン。これはもう”巧い”とかそんなんじゃない。ただただ可愛い!本当に可愛い!!上映会用に身支度をするシーンは、演出のかっこよさも相まった珠玉の名シーンであろう。速いテンポの音楽に乗せ化粧を施してく様は、もうメイクアップではなく、さながら”戦闘準備”といった趣。チークを両頬に真一文字に引くところなどは、まるでランボーのようだ。甘く美しい復讐の衣を纏うショシャナ。ドロドロになりながらなりふり構わず血の復讐に邁進していたベアトリクス・キドーとはまた違うパターンの”復讐に燃える女”の姿である。ちなみに、一説によると、タランティーノとメラニー・ロランは本作撮影時に交際していたらしい。おい、タランティーノよ…俺たちと同種の"ボンクラ"だと思っていたのに…。ファッッック!!!

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 それと、実はナレーションを我らがサミュエル・L・ジャクソンが担当している。恥ずかしながら、初鑑賞時、これには気付かなかった。また、アルド・レインの上司であるアメリカ司令部の無線の声をMr.ホワイトやMr.ウルフのハーヴェイ・カイテルが担当している。これもまた気付けなかった。不覚である。

点数:89/100点
 以上で述べたように、本作は、映画の力を信じる者ほど熱くなれる最高の“リベンジ・ムービー”である。悪しき歴史に映画で鉄槌を下すというアイデア(タランティーノは次作の『ジャンゴ』でも同じことをやった。)とクリストフ・ヴァルツという最高の俳優。この2つを“発明”したという点においても、やはり偉大な“最高傑作”だと筆者は思う。

(鑑賞日:2012.3.29)

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