09
2012

[No.71] しんぼる <40点>

CATEGORYコメディ
しんぼる



キャッチコピー:『想像もつかない“何か”が起こる…』

 人志松本の出られない話。

三文あらすじ:派手な水玉模様のパジャマを着た男(松本人志)が、一面真っ白な見知らぬ部屋で目覚める。壁一面に点在する男性の”しんぼる”を押すと、盆栽、箸、台車、寿司などの品々がランダムに出現するその部屋に戸惑いながらも、なんとか脱出を試みるパジャマの男。一方、その頃メキシコでは、しがないプロレスラー”エスカルゴマン(デヴィッド・キンテーロ)”が、自分より若く強い”テキーラ・ジョー”との対戦に臨もうとしていた・・・


~*~*~*~

 
 前作『大日本人』が完全な”コント”だったのに対して、本作は一応ちゃんと”映画”になっており喜ばしい。前作のような禁じ手であるメタフィクション的演出の使用はギリギリ最小限に留められている。本作における一番の問題点は”スベっている”ということだろう。

しんぼる1


 まず”目覚めると見知らぬ部屋に閉じ込められていた男の脱出劇”というプロット。完全にスベっている。『キューブ』で華々しく世に送り出され、『SAW』で確固たる一ジャンルにまで昇格したこの設定は、”ソリッド・シチュエーション・スリラー”という肩書きに甘えた有象無象の駄作に溢れかえる昨今の映画界において、何の目新しさもない。つまり、舞台設定として、まず“スベっている”のである。

しんぼる2


 本作の”ソリッド・シチュエーション”で一応少し新しいのは”天使のチンコを押すと様々な物品が飛び出す”という点。しかし、このギミックによって本作が画期的におもしろくなっているかと言えば、答えはノーだ。始めの内こそ、今度は何が飛び出すかというワクワクを感じさせてくれるが、それも保ってせいぜい2、30分。出現した無数の品々を上手く組み合わせ”脱出ゲーム”のように出口を目指すという後半の展開にも、観客をあっ!と驚かせるような仕掛けは無い。パジャマの男が閃くアイデアは、だいたい観客が既に思いついたものである。

しんぼる3


 また、エスカルゴマンが試合に臨むまでを描くメキシコパート。この存在意義がすこぶる微妙だ。結論から言うと、このパートは、第2の部屋である”実践”の部屋に配置された”しんぼる”が外界に干渉する力を持っている、ということを示すための1シークエンスでしかない。エスカルゴマンが伸びた首で格上の対戦相手をのしてしまう展開は、人体消失マジックに失敗するマジシャンを始めとするその他のシークエンスと全く同列の出来事。これをいかにも何か意味あり気に序盤から並列で描写していく必然性は無い。また、映画上の演出だとしても、子供のために頑張る中年ダメプロレスラー”エスカルゴマン”のドラマが薄く、相手をのしてしまう展開のカタルシスが不発に終わっている。そもそも、エスカルゴマンってかなり強いレスラーちゃうかったんか。いっつもダイナマイト四国に勝ってるのに。

しんぼる4


 さらに、結局”神”という安易で危ういテーマに流れてしまったのもいただけない。我々は、本作の監督松本人志が”芸人”であるということを良く知っている。いくら芸能界で天下を獲ったとはいえ、映画監督としてはほぼ素人の彼がそのような壮大なテーマをを描くことは、多くの観客、特に映画ファンにとって極めて分不相応な、まさに”神をも恐れぬ”行為に映るだろう。また、我々映画ファンは、才能の無い監督がこの”神”というテーマに安易に走り、目も当てられない駄作を作り上げてしまう様を今まで幾度も目にしてきた。そういった前提の下、本作を観た映画ファンがまず抱く感想は「あー、そっち行ってもーたかぁ…。」ではないだろうか。観客によるこんな侮りを払拭する唯一の方法は、作品の圧倒的な完成度で彼らの度肝を抜くことしか無いのだが、当然本作の出来は傑作と言うにはほど遠い。終盤、パジャマ男が”神”へと変貌していく際にカットインされる映像の数々もかなり陳腐。舞台、ギミックだけではなく、選んだテーマも“スベっている”と言わざるを得ない。

しんぼる5


 そして、何よりも“スベっている”のは、松本人志演じるパジャマの男自身。彼のとる過剰にオーバーなリアクションが一々寒い。困難にぶち当たる度、パジャマの男は絶叫するのだが、その演技が一辺倒ですぐ飽きてしまい、後半はしつこく感じる。

 また、先ほども少し言及した通り、彼のとる行動には合理性の無いものが多い。モンスターパニックにしてもスリラーにしてもそうだが、登場人物が危機に陥れられる系の映画でその登場人物が不合理な行動をとることは、絶対にあってはならない。断言しても良い。この点がちゃんとクリア出来ていない映画は、すべからく駄作である。本作においては、例えば、壁際の床に配置された”しんぼる”を押すと反対側の壁の一部が一定時間開くという展開。これに気付いたパジャマ男は、すぐさまいくつかの方法を実践する。”しんぼる”に足をかけてのクラウチングスタート、台車に乗り壁を蹴ってのスタートダッシュ、ハエ叩きを用いた遠距離からのプッシュ。しかし、観客の大半はこのように思いイライラすることだろう。「序盤に出てきた壺早よ使わんかい!」

しんぼる6


 床に配置された小児サイズのチンコを押さえつけるのに最も適した”壺”というアイテムがあり、しかもそれが画面にも映っているにもかかわらず、明らかに徒労に終わる努力を継続するパジャマ男は、かなりスベっている。しかも、壺で失敗したパジャマ男は聞き飽きたあのしつこい絶叫リアクションを披露し、壁際に山積みになったガラクタ郡の中からなんとビニールテープを取り出すのである。それあったんかい!

しんぼる7


 極めつけは、彼の繰り出す”ギャグ”の数々。天使におならをされた際には「はい、くさーーーい!」、思いついた脱出方法に失敗した際にはカメラ目線で「うん、無理やな!」などなど。これが寒い。

 以上のようなパジャマ男のキャラは、もしかしたら、海外受けを狙ってのことなのかもしれない。しつこく大げさな彼の演技はまるで”東洋のMr.ビーン”だし、エディ・マーフィ、ジム・キャリー、ベン・スティラーなどアクのあるしつこいコメディアンが大好きな欧米人には、特に受けそうだ。そう考えれば、分不相応な”神”というテーマや序盤で飛び出す純和風の品々にも得心がいく。

しんぼる8


 まぁ、前作が海外で一定の評価を得たということもあり、制作サイドが松本人志に注文を付けた可能性は大いにある。しかし『おくりびと』のアカデミー賞獲得に日本が沸いている頃、彼はラジオで「“海外で評価されたから良い作品”なのではなくて、“良い作品だから海外で評価された”ということを分かっているのか」と語っており、これにいささか感銘を受けた筆者としては、本作の海外への”擦り寄り”ともとれる趣向は幾分悲しかったのである。

しんぼる9


 本作で特に議論の余地があるのは、そのラストシーン。神に等しい存在となったパジャマ男が辿り着くのは、第3の部屋である”未来”の部屋。そこにはたった一つ巨大な男性の”しんぼる”が鎮座するのみである。しばしその”しんぼる”を見つめていたパジャマ男が手を差し出しながらおもむろに歩みだし、本作は幕を閉じる。さぁ、最後の”しんぼる”を押したとき、いったい何が起こるのか?!

しんぼる10


 この点で非常に興味深いのは、あるラジオ番組でリスナーから投稿された”6巻が出てくる”という案。パーソナリティもこの案を絶賛していた。既に本作を観た人にはお分かりだろうが、これは確かに素晴らしい。このオチにしていれば、筆者が苦言を呈した”分不相応感”もキレイに払拭されるとともに、そこはかとない無情も感じられ、本作は中々の秀作に仕上がっていた可能性がある。二番煎じだが”また醤油が出てくる”というのもありだろう。すかさず突っ込みで終幕である。この場合は、あくまでも”コメディ”という監督の意志が強く反映され、これまた中々の秀作になっていたはずだ。

点数:40/100点
 前作『大日本人』から考えると”映画らしさ”という点で格段の進歩が見られる本作。しかし悲しいかな、”映画”という枠組みがちゃんとした途端、今度は”内容”が粗末な物になってしまった。よって、本作も”駄作”との評価は免れない。芸人としてはスベり知らずの人志松本だが、本作に豚の天使が判子を押してくれることはないだろう。

(鑑賞日[初]:2012.3.26)






しんぼる [DVD]

新品価格
¥2,295から
(2013/3/25 22:46時点)


キッコーマン 特選丸大豆しょうゆ卓上 150ml

新品価格
¥235から
(2013/3/25 22:48時点)



関連記事
スポンサーサイト

Tag:衝撃のラスト! 邦画 ソリッド・シチュエーション・スリラー 駄作

0 Comments

Leave a comment