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2012

[No.85] 127時間(127 Hours) <90点>

CATEGORYドラマ
127 hours



キャッチコピー:『あきらめるな、未来を笑え。』

 Stuck In The Middle With You…

三文あらすじ:アウトドア派の青年、アーロン・ラルストン(ジェームズ・フランコ)は、何でも1人でこなすスーパーマン。2003年4月25日金曜日、彼は、誰にも行き先を告げず、ユタ州キャニオンランズ国立公園へキャニオニング(渓谷を探検したりするスポーツ)に出かける。軽快に谷を散策するものの、突発的な事故で細い渓谷の裂け目に滑落、巨石に右腕を挟まれ身動き出来なくなった彼は、何とか脱出を試みる中で今までの人生をふり返り、水も食料も尽き憔悴しきった127時間(127 hours)後、遂に最後の決断に出る・・・


~*~*~*~

 
 ようやく少し映画を観る時間ができたので、しばらく洋画に立ち返ってみようと思う。今回感想を書きたいのは、1人の男の5日間にも及ぶ死闘、『127時間』。筆者が最近経験した5日間とは比べものにならないくらい、過酷で、孤独で、そして、ドラマチックである。

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 本作の監督は、ダニー・ボイル。サスペンス映画『シャロウ・グレイブ』で長編デビュー、名作『トレイン・スポッティング』を撮るも『ザ・ビーチ』でケチが付き、『28日後…』は良作だったとはいえ『サンシャイン2057』は後半失速、そして2008年、第81回アカデミー賞において作品賞を含む8部門を総なめにした傑作『スラムドッグ$ミリオネア』で華々しく返り咲いた。彼に対する筆者のイメージは、こんな感じである。そんな彼が『スラムドッグ~』の次に撮ったのが本作。登山家アーロン・ラルストンの遭難という実話を基にした映画であり、ダニー・ボイルが4年間温めていた秘蔵の企画である。

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 まず、オープニングが素晴らしい。駅の雑踏、スタジアムの観衆、道行く車の群れなどの映像が、画面を3分割して映し出されていく。音楽が軽快。『スラムドッグ~』でも印象的に使用された、いわゆる民族音楽をアレンジしたような小気味よいサウンドだ。この映像と音楽がきちんとリンクしているのが、あたかもミュージックビデオのようで秀逸。BGMと同じビートで水滴を落とすアーロン宅の水道にセンスが光るし、アーロンがスイス製の万能ナイフではなく中国製の安いナイフを手に取る描写もしっかり後の伏線になっており、名監督ダニー・ボイルの職人芸を存分に堪能することができる。筆者は個人的に、映画における”タイトルの出し方”というものに毎作注目しているのだが、本作では”冒頭でタイトルが出ない”ということにも注目してもらいたい。

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 ここからは、スーパーマン、アーロン・ラルストンの1人舞台。ユタ州の荒野を単身、軽快に駆け抜ける。砂漠好きには必見の、果てしなく雄大で壮大で自由なシークエンスだ。アーロンが道中出会い、束の間行動を共にする2人の女性、クリスティ・ムーア(ケイト・マーラ)とミーガン・マックブライド(アンバー・タンブリン)にも要注目。決して絶世の美女ではないが、殺風景な荒野においては二輪の花。普段は何とも思わないが、寂しいときには可愛く見えたり、ムラムラしているときには抱きたくなったり。そんな絶妙な立ち位置だったりする。これは、別に筆者がゲスな訳ではなく、ある種そういう伏線になっているのである。

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 クリスティらと別れたアーロンは、再び1人、荒野を疾走する。そして、渓谷の裂け目を渡ろうとしたそのとき、不注意から滑落、共に落下した巨石が無情にも彼の右腕を挟み込み、パニックと驚愕と絶望の入り交じった表情で右腕を見るアーロン。ここでタイトル登場!ここから彼の絶望的な127時間が始まるという訳だ。映画冒頭から実に16分40秒後という異例のタイトル登場は、やはりダニー・ボイルという監督が未だ極めて鋭いセンスの持ち主であるということを如実に物語っている。素晴らしい!

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 とりあえず、巨石除去に奮闘するアーロン。力任せに押してみたり、小さな万能ナイフでコツコツ削ってみたり。深い深い裂け目の中、水と食料はほんの少し。広大な砂漠のただ中で通りすがりの人が彼を発見できる可能性は、限りなくゼロに近い。長い長い5日間の始まりである。

 この絶体絶命の閉塞した状況、似たような映画を思い出さないだろうか。そう、ソリッドシチュエーションスリラーの名を一躍世界に広めた『SAW』である。確かに、アーロンが閉じ込められた峡谷は、あの広めのバスルームとは違う。そこには、ルールとは名ばかりでも一応助かる道が残されていたジグソー的ゲーム感は皆無。敵は悠久の時を経て形成された無慈悲な大渓谷であり、アーロンが対峙しているのは、紛れもなく”神”である。とはいえ、身体の一部を拘束された状況からの脱出劇という点では、両作は共通。そうなれば、やはり気になるのは”アーロンは如何にして脱出するのか”であり、もっと具体的に言うなら”彼は果たして「ゴードンる」のか?!”という点であろう。タランティーノでかなり免疫ができたとはいえ、リアルな身体損壊描写の苦手な筆者は、この点が気になって序盤からハラハラドキドキ、気が気ではなかった。

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 ところが、彼が滑落してから最後の決断に打って出るまでの約1時間は、そんな心配を忘れさせてくれる程、次から次へと色々な演出が飛び出す。ダニー・ボイルは、本当に上手い。彼は、本作を”動かないアクション”と定義づけたらしいが、全くその通り、アーロンは岩に挟まれ微動だに出来ないにもかかわらず、彼の奮闘や回想を描写するカメラワーク、音楽、演出は、実に躍動的でスタイリッシュである。

 この滑落~脱出までの展開の中で、筆者が一番感銘を受けたのは、実は自慰行為のシークエンスである。渓谷への抗いも虚しく孤独な戦いが幾日目かを迎え、彼はビデオカメラの映像を見返す。旅の2日目、荒野に咲く2輪の花、クリスティ&ミーガンと共に、渓谷地下の泉で泳ぐ映像。タンクトップ姿のクリスティのセクシーな胸の谷間が強調され、アーロンは映像を一時停止する。そして、彼の唯一自由な左手が股間へと伸び…。「Don't….」 不屈のスーパーマンは、後一歩で思いとどまった。エロいぞアーロン!でも、偉いぞアーロン!絶望的状況とはいえ、最後まで望みを捨てず、100m全力疾走分の体力を温存した彼の判断は、常人には到底不可能なほど賢明といえる。やはり「諦めたらそこで試合終了」なのだ。

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 こんなことを書いてしまった筆者は、前言撤回、やはりゲスな観客であるが、それとは裏腹に、このシークエンスに象徴されるように、本作では絶対的絶望の中でも”人間のドロドロした部分”がほとんど描かれない。アーロンは、絶望しパニックを起こしたりするものの、常時冷静かつ希望を忘れない姿勢を貫いており、”あきらめるな、未来を笑え。”というキャッチコピーそのままの、非常に清々しい作品に仕上がっていると言える。

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 そして、いよいよ最も注目の脱出シークエンス。結論から言うと、アーロンは”ゴードンってしまう”、すなわち、自身の右腕を肘から下で切り落としてしまうのである。

 これはキツイ。本当にキツイ。その直前のシークエンス、まだ見ぬ我が子の幻を見て、最後の気力を振り絞るアーロン。自分の腕を引きちぎらんばかりの万力で脱出を試みる展開を目の当たりにし、”いよいよか…”と悟った筆者は、ここでイヤホンを両耳からパージ、自室を1周歩いてみてはしばらく鑑賞し、グロさが閾値を超えるとまた周回ということを繰り返していたので、正直ちゃんと鑑賞したとは言えない。よって、以下、間違っていたら訂正してもらいたい。

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 まず、万力での引っ張りによって、アーロンの右腕が骨折。もう既に貧血ものである。続いて、肘上の位置をチューブで強烈に縛り止血。個人的にはこれも無理だ。何しろ、筆者は”血管圧迫恐怖症”を患っており、血圧測定の際の締め付けですら意識が朦朧とするほど。測定の度、毎回貧血を起こしそうになっているので、正確な値など一度も出ていないのではないかと不安な日々を送っている。しかし、この止血シーンなどほんの序の口。出会いがあれば別れがあるように、恋をすれば失恋するように、夜の終わりに朝日が昇るように、止血をすればその先は切り落とされる運命にある。案の定、自身の右腕に万能ナイフを突き立てるアーロン。しかも切れ味の悪い中国製。もはや直視どころか間接的な視聴すら不可能。

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 正直、リアルな分映画史に残るグロシーンとも言えるこのシークエンス直後、筆者の本作に対する評価は、60点代後半~70点代前半といったところであった。いくら実話とはいえ、今やグロい映画の代名詞ともなった『SAW』でさえ、ノコギリの刃を足に突き立ててからはカットされていたのに、本作は、アーロンが腕を切り落とすまでを中々克明に描写する。これでは到底、当ブログ上で80点オーバーの点数を与える訳にはいかない。

 ところが!アーロンが裂け目を脱出してからラストまでが、もうどうしようもなく素晴らしい!フラフラになりながらも外界へと到達し、汚い水の溜まった水たまりの水を天からの恵みとばかり豪快に飲む。残り少ない体力で助けを求め荒野を歩く彼の遙か上空を、滑落以来毎朝8時17分に飛んできていたワタリガラスがたった1羽で飛んでいく。もはや意識も混濁し、力尽きそうになるアーロン。ワタリガラスは、1羽から2羽、2羽から3羽へ。アーロンもカラス同様、もう一度会いたい人々に会うために、限界を超えて歩き出す。朦朧とした視界の中、散策する親子連れを発見し、彼がそのかすれる声を振り絞り叫ぶ「HELP!」

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 駆け寄る家族。与えられる水。歩き出し、膝を着くアーロン。駆け寄るもう1組の他人。彼らからも与えられる水。5日間、いや、その人生を通して他人を寄せ付けず、たった1人で生きてきた、しかし、そのことを後悔する5日間を過ごしたアーロンを助けようと、見も知らぬ他人が次々に手を貸す。ワタリガラスがそうであったように、彼もまた決して1人ではない。そして、レンジャーを乗せた救助ヘリが彼の前に降り立つのであった。

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 完璧!これ以上なく素晴らしい!何と言っても良いのが、この最高のシークエンスを彩るBGM。筆者にもう少し資力があれば、とるものもとりあえずサントラ購入に走っているところである。

 さらに、この後のエピローグ!これも泣ける!オープニング以来、再び挿入される雑踏の風景。たくさんの人の中でも孤独だったアーロンが、孤立無援の峡谷の中、今までの人生を悔い、もう一度会いたい人に会うために奮闘するという本作のテーマを象徴している。片腕で泳ぐ彼がプールから上がると、そこには幻で見た彼のもう一度会いたい人々が。彼はもう、人生という名の海原を1人で泳いではいない。挿入されるテロップ。

彼が見たものは現実となった

3年後、ジェシカと出会い結婚

2010年2月、長男のレオが誕生


 
 このレオは、アーロンが渓谷の中、幻で見たまだ見ぬ我が子。ソファに仲むつまじく腰掛ける夫婦は、アーロン・ラルストン本人による出演だろうか。そして…

彼は今も登山と渓谷歩きを続けている。

行き先の書いたメモを必ず残して…



 感無量。思い出してまた涙が止まらない。こんな一件があっても彼は登山と渓谷歩きを止めない。彼が間違っていたと実感したのは、そこではないからだ。大事なのは、自分が1人ではないと気づき、周りの大切な人に心を開いたこと。

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 旅に出るときは行き先を伝えてから。”バカンスにならない”などと宣い、毎回勝手にどこかへ行ってしまう我らがカリスマスパイ、イーサン・ハントにも本作を観せてやりたいものである。

点数:90/100点
 閉所の絶望あり、グロ描写ありで、その辺が無理という人にはお勧めできないが、そんな人にも筆者のような臨機応変な対応を試みた上で是非観てもらいたい大傑作。特に筆者同様ダイバーの皆さんは、決して人ごとではないので必見である。

(鑑賞日[初]:2012.5.22)










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Tag:砂漠 涙腺爆発 グロ注意

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